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Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



31.照射飼料の安全性


<答>

 実験動物は医学、生理学、栄養学の研究及び食品や薬品の安全性試験等に広く使用されている。一般的に実験動物用飼料は素材からペレットへの加工工程で70〜80℃で短時間加熱処理されてはいるが、なお、10・E(3)〜10・E(6)個/gの各種微生物が生残している。このため、信頼できる実験動物を得るためには、遺伝的系統の確保や飼育条件の整備とともに飼料の無菌化が重要な課題である。

 わが国では実験動物用飼料に対する実用的な放射線滅菌処理は既に20年近い歴史を有し、毎年数百トンの実験動物用飼料が放射線照射されている。

 また、特定病原菌フリー(SPF)動物を生産するための親種として放射線滅菌した飼料で飼育した無菌動物を維持しており、平成元年現在の世代数はマウスで40世代(10年間維持)、ラットで20世代(7年間維持)を経過している例もある。英国では10年以上前で既に700トン/年の実験動物用飼料が放射線処理されており、現在では欧米先進国のほとんどでSPF実験動物用飼料の放射線滅菌が実施されている。動物飼料の放射線滅菌は今後処理費用が低減化すればますます増加するものと予想されている。このような20年間の実験動物用飼料の放射線照射の実績は、放射線滅菌した動物飼料の品質や毒性に問題がないことを示している。事実、放射線処理飼料の摂取に起因すると思われる障害や異常が生じて薬品や食品の安全性が確かめられなかったというトラブルは起こったことがない。

1. :照射飼料の栄養価

 実験動物用飼料は家畜・ペット用に比し、所定の実験目的遂行のために飼料中の微生物の存在が問題となる。特に、SPF実験動物では病原性、非病原性を問わず特定の微生物の存在が許されず、この結果、たとえ栄養的価値を損なうことがあっても、なんらかの滅菌処理が施されている。

 飼料の滅菌方法としては、従来から最も多く用いられてきたオートクレーブによる熱処理法と、エチレンオキサイドガス(EOG)による燻蒸法、近年普及してきている放射線処理法がある。このうち、放射線による飼料の滅菌には、20〜50kGyのガンマ線が照射される。また、EOG法は作業環境汚染や残留ガスの毒性の問題を有しており、あまり利用されなくなった。オートクレーブ処理と放射線処理とを比較した場合、アミノ酸及びビタミンいずれに対しても放射線滅菌の方が影響が小さい(表31−1、31−2)。

2.動物に対する照射飼料の影響

 照射した飼料の安全性を調べるための試験は数多く実施されており、照射した飼料を動物に与えても問題のないことが確認されている。例えば、無菌ウイスターラットの繁殖試験において、妊娠率はオートクレーブ法の方が40.9%であるのに対して放射線法の方が70.6%であった(表31−3)。平均産仔数は前者が11.9匹であるのに対して後者は10.7匹とやや低かった。離乳率は前者が90%であるのに対して後者が94.5%であった。そして、生産指数(メス1匹の生涯生産動物数)は前者が17.5であるのに対して後者は28.6と放射線処理飼料を与えた方が繁殖性が高いとの結果が得られている。このようにオートクレーブ処理した飼料よりも照射飼料の方が動物に対する試験結果が優れているのは、放射線照射した飼料の方がビタミン等の栄養価が高いことによるものと思われる。わが国の放射線滅菌飼料に関する研究でも、25kGy照射した飼料のラットでの5年間にわたる繁殖試験、28kGy照射した飼料のラットでの4世代にわたる飼育及び繁殖試験等が行われており、照射による影響は認められなかった。これらのデータも照射食品の安全性を傍証するものである。


表31−1 未滅菌、放射線・オートクレーブ滅菌CL−2飼料100g当りのリジン・アルギニン・バリン・メチオニン量
                   
リ ジ ン
アルギニン
バ リ ン
メチオニン
未 処 理 CL−2飼料       
                   
1.544
     
1.547
     
1.355
     
0.709
     
放射線滅菌 CL−2飼料(10kGy)
1.494
1.494
1.226
0.588
            (20kGy)
1.468
1.515
1.268
0.602
            (30kGy)
1.464
1.504
1.285
0.575
            (40kGy)
1.424
1.473
1.274
0.585
            (50kGy)
1.442
1.447
1.309
0.587
            (60kGy)
1.423
1.454
1.257
0.541
            (70kGy)
1.406
1.467
1.308
0.529
            (80kGy)
1.423
1.459
1.250
0.603
            (90kGy)
                   
1.347
     
1.453
     
1.227
     
0.561
     
オートクレーブ滅菌CL−2飼料    
      (127℃、30分間処理)
1.204
     
1.398
     
1.211
     
0.609
     

(放射線と産業:No.24、放射線照射振興協会、1983)



表31−2 実験動物用飼料中のビタミン含有量の変化
       
       
   未 処 理    
   (対 照)    
  放射線処理  
 (30kGy) 
  放射線処理  
 (60kGy) 
 蒸 気 処 理  
(120℃、20分)
ビタミンB1 
 23.8 μg/g  
 23.0    
 21.0    
  8.8     
ビタミンB2 
 39.7 μg/g  
 39.6    
 39.9    
 36.4     
ビタミンB6 
  8.64μg/g  
  8.04   
  7.08   
  5.20    
ビタミンB12
  0.0107μg/g
  0.00738
  0.00712
  0.00388 
イノシトール 
  0.56mg/g  
  0.56   
  0.54   
  0.44    
葉   酸  
  2.24μg/g  
  2.00   
  2.10   
  1.28    
ビタミンA  
 22   IU/g  
 19      
 18      
 18       
ビタミンE  
340   μg/g  
310      
320      
320       

(放射線と産業:No.24、放射線照射振興協会、1983)



表31−3 無菌ウイスターラットの繁殖試験(第1〜4産仔平均)
     滅 菌 処 理 飼 料     
♀ 数
 妊娠率 
平均産仔数
 離乳率 
生産指数
高圧蒸気滅菌飼料(126℃、30分)   
                     
10匹
   
40.9%
     
11.9匹
     
90.0%
     
17.5
    
放射線滅菌飼料(Co−60γ線50kGy)
10匹
70.6%
10.7匹
94.5%
28.6

(放射線と産業:No.24、放射線照射振興協会、1983)





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