食品照射に関する文献検索

Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



34.放射線照射した微生物の突然変異


<答>

 近年、抗生物質の多用により薬剤抵抗性菌が増加してきており、その対策が問題となっていることを参考に将来、放射線抵抗性細菌が増加して放射線殺菌の効力が薄れるのではないかとの指摘がされることがある。薬剤抵抗性については、プラスミッドという核外遺伝子(染色体の10〜100万分の1の分子量)が耐性機構を獲得する場合が多いことが明らかになっている。プラスミッドは、同種または同属の細菌に転移するので薬剤抵抗性は比較的容易に広まることとなる。一方、放射線抵抗性の情報は染色体のDNA中に含まれていることが明らかになりつつあり、プラスミッドの場合ほど容易に放射線抵抗性が増加することはない。

 サルモネラ菌や有芽胞細菌を完全に殺菌しない程度の放射線を10回以上照射すると放射線抵抗性が増加することがあるが、数回植え継ぐと、このような細胞は消滅し、元の抵抗性にもどってしまう。また、サルモネラ菌の場合、100回照射しても血清型が変化することもなく、病原性が変化することはない。

 カビの1種であるアスペルギルス・フラバスの中にはアフラトキシンという強力な発ガン性物質を生産するものがある。アフラトキシン生産地域産のピーナッツやトウモロコシ等はアフラトキシンで汚染されていることが多い。照射あるいは非照射の小麦、トウモロコシ等をオートクレーブで滅菌した後にアスペルギルスを接種すると、非照射物に比べて照射物のアフラトキシン生産量が増加したという実験報告がある*1、2)。これに対して、米国FDAは、穀物をオートクレーブ処理した後にアスペルギルスが自然発生してアフラトキシンの生成が問題になることはなく、照射穀物の場合も同様であるため、上記の実験は照射した穀物におけるアフラトキシン発生の問題とは関係がないと判断している*3)。

 低線量照射したアスペルギルスは非照射のものに比べてアフラトキシン生産能が増加するという報告がある*4、5、6)。しかし、アスペルギルス・パラシテイカスのアフラトキシン生産能は、株(strain)により、照射に伴って増加するものと減少するものとがあるという報告もある*7)。カビのアフラトキシン生産能が低線量照射で増加するのは一時的な代謝異常によるものと考えられている。事実、低線量照射によりアフラトキシン生産能が上昇したカビを植え継ぐとアフラトキシン生産能が低下して元にもどるという結果がわが国で得られている*8)。したがって、照射によってアスペルギルスのアフラトキシン生産能の増加が問題となることはないと考えられる。なお、アフラトキシンは乾燥条件下では放射線に対して安定なため、カビ毒を生産した食品を照射しても毒素を完全になくすことはできない。

 以上をまとめると、放射線を微生物に照射しても、突然変異を起こして放射線抵抗性や毒性が増加する可能性は小さいと言える。

文献

 *1)E.Priyadarshini and P.G.Tulpule;Food Cosmet.Toxicol.,14,293(1976)

 *2)E.Priyadarshini and P.G.Tulpule;Food Cosmet.Toxicol.,17,505(1979)

 *3)Federal Register,51(75),April 18,(1986)

 *4)A.F.Schindler et al.,;J.Food Protec.,43,7(1980)

 *5)L.B.Bullerman et al.,;J.Food Sci.,38,1238(1973)

 *6)K.L.Applegate and J.R.Chipley;J.Appl.Bact.,37,359(1974)

 *7)L.B.Bullerman and T.E.Hartung;J.Milk Food Technol.,37,430(1974)

 *8)伊藤均ら:食品照射研究協議会大会口頭発表(1990)




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