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Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



35.放射線照射による栄養成分の変化


<答>

 われわれが食品から摂取する一般栄養素は、水分、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、無機質である。これらの水分と無機質は、照射してもほとんど変化しないし、たとえ変化が起こっても問題となることはない。従って、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンについて照射の影響を明らかにする必要がある。

 炭水化物は実際の食品中で照射による分解が大きくないこと、及び食品中に多く含まれているいわゆる必須栄養素ではないことから、照射食品において炭水化物の分解が問題になることはない。

 タンパク質の構成成分であるアミノ酸については、放射線に対する感受性が高い種類が一部存在する。しかし、乾燥状態のタンパク質は照射してもあまり変化せず(例えば、固体のゼラチンにガンマ線を照射してもアミノ酸の顕著な変化は観察されない)、また、実際の食品を照射した時には、放射線照射により生成したラジカル等が他の食品成分とも反応するために、純粋なタンパク質を照射した時よりも、タンパク質の変化は小さく、タンパク質の分解が問題になるようなことはない。例えば、牛肉を60kGy照射してもアミノ酸組成はほとんど変化しない(表35−1)。

 脂質は放射線により分解されやすいが、通常の脂質の摂取量は多く、照射食品における脂質の変化は栄養学上問題になるものではない。

 ビタミンは、照射食品において最も考慮すべきものである。ビタミンB2、ニコチン酸、ビタミンDのようなビタミンは放射線に対して比較的安定である。ビタミンA、B1、E、Kのようなビタミンは水溶液中では放射線によって比較的容易に分解する(表35−2)が、食品中での分解ははるかに小さい。また、放射線照射が食品中のビタミンに及ぼす影響は食品の種類や照射条件等により異なる。

 例えば、豚肉中のチアミン(B)は、18℃の室温で照射した場合、5kGyの照射で50%低下するが、−20℃の凍結状態で照射すると照射による分解率は、0℃以上の場合の約3分の1に抑えることができる。なお、凍結照射は一般に照射に伴う化学変化を抑制し、畜肉や家禽肉の品質劣化を低減化する。


表35−1 照射した上質牛肉ロイン(腰肉)のアミノ酸組成
ア ミ ノ 酸 
        
        
    加水分解後の総アミノ酸に対する%          
0kGy 
60kGy(+20℃)
60kGy(−196℃)
リジン     
15.6 
   16.6    
   16.8     
ヒスチジン   
 1.3 
    1.2    
    1.1     
アスパラギン酸 
11.5 
   11.4    
   11.4     
トレオニン   
 0.4 
    0.4    
    0.4     
セリン     
 2.4 
    2.4    
    2.3     
グルタミン酸  
19.5 
   18.3    
   19.0     
プロリン    
 4.7 
    4.8    
    4.9     
グリシン    
 9.4 
    9.1    
    9.4     
アラニン    
11.1 
   11.0    
   11.1     
半シスチン   
 1.1 
    1.2    
    0.7     
バリン     
 2.6 
    2.4    
    2.4     
メチオニン   
 2.7 
    2.7    
    2.9     
イソロイシン  
 0.8 
    0.9    
    0.8     
ロイシン    
 8.7 
    8.7    
    8.8     
チロシン    
 3.1a
    4.0a   
    3.8a    
フェニルアラニン
 4.0 
    3.8    
    4.2     
アロイソロイシン
 0.8 
    1.1    
    1.0     

a:9カ月間貯蔵(P.S.Elias and A.J.Cohen ed.
         ;Radiation Chemistry of Major
         Food Components,Elsevier,
         Amsterdam,1977)



表35−2 種々の因子に対するビタミン類の感受性
      ビ タ ミ ン      
   熱   
  酸 素  
   光   
 電離放射線 
水溶性ビタミン類
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
        
アスコルビン酸(C)
   0   
   ++  
   +   
   ++  
チアミン(B1)  
   ++  
0あるいは+ 
0あるいは+ 
   ++  
リボフラビン(B2)
   0   
   0   
   ++  
   0   
ニコチン酸     
   0   
   0   
   0   
0あるいは+ 
パントテン酸    
   +   
   0   
   0   
   0   
ピリドキシン    
   0   
0あるいは+ 
   +   
   +   
ビオチン      
   +   
   0   
   0   
   0   
葉  酸      
   +   
   +   
   +   
   0   
ビタミンB12   
   0   
   +   
   +   
   ++  
コリン       
          
   0   
       
   +   
       
   0   
       
   0   
       
脂溶性ビタミン類
        
        
        
        
        
        
        
        
ビタミンA     
0あるいは+ 
   +   
   +   
   ++  
β−カロチン    
0あるいは+ 
   +   
   +   
   +   
ビタミンD     
   0   
0あるいは+ 
   0   
   0   
ビタミンE     
   0   
   ++  
0あるいは+ 
   ++  
ビタミンK     
   0   
   0   
   +   
+あるいは++

0=安定、+=かなり感受性あり、++=非常に感受性あり
(P.S.Elias and A.J.Cohen ed.
;Radiation Chemistry of Major
Food Components,Elsevier,
Amsterdam,1977)





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