放射線照射による馬鈴薯の栄養成分の変化については、わが国の原子力特定総合研究において詳細に調べられている。この研究においては、0.6kGyまでの照射を行った馬鈴薯のビタミンB1、B2、C、炭水化物を化学的に調べるとともに、ラットを用いた栄養試験を行っている。わが国で行われた試験結果を中心に紹介する。
1.ビタミンB1
照射30日後に測定したビタミンB量は、0.3kGy照射した馬鈴薯が非照射馬鈴薯の90%、0.6kGy照射した馬鈴薯が85%である。貯蔵中に、馬鈴薯のB1量は減少するが、その減少速度は非照射馬鈴薯の方が大きく、照射120日後ではほぼ同じ値となる。
2.ビタミンB2
照射30日後に測定したビタミンB量は、0.3kGyの照射馬鈴薯が非照射馬鈴薯の93%、0.6kGy照射馬鈴薯が83%である。ビタミンB1と同様、貯蔵中に馬鈴薯のビタミンB2量は変化し、120日後では、非照射馬鈴薯と照射馬鈴薯との間に有意の差は認められない。
3.ビタミンC
馬鈴薯を照射とすると生理代謝によりビタミンC量は大きく低下する。照射30日後の測定結果では、非照射馬鈴薯に比較して、0.15kGy照射の馬鈴薯が62%、0.3kGy照射の馬鈴薯が59%、0.6kGy照射の馬鈴薯が53%であった。しかし、馬鈴薯の貯蔵中のビタミンCの低下は、非照射馬鈴薯の方が速く、照射馬鈴薯のビタミンC量は、照射後90日後で非照射馬鈴薯とほぼ同程度、120日後ではむしろ非照射馬鈴薯よりも高い値を示した。
4.炭水化物、タンパク質
照射しても炭水化物やタンパク質はほとんど変化しなかった。
5.幼ラットを用いた栄養試験
幼雄ラットに10%濃度で照射及び非照射馬鈴薯粉末を混合した試料を4週間にわたって与え、飼育試験を行なった。その結果、体重増加率、飼料効率、タンパク質効率(PER)、みかけの消化吸収率、臓器重量、後腹壁脂肪の脂肪酸組成、肝臓成分のいずれも非照射群と照射群(0.07、0.15、0.3kGy)との間に有意の差は認められなかった。
以上を総合すると、馬鈴薯の栄養成分は照射しても問題になるような変化を起こさないか、または多少変化が起こっても貯蔵している間に照射馬鈴薯と非照射馬鈴薯との間に差がなくなるので、栄養的に何ら問題視すべきものはない。
同じくわが国の原子力特定総合研究として実施された試験の結果によれば、タマネギにおいても、馬鈴薯と同様、照射直後にビタミンCの減少が若干観察されるが、貯蔵している間に照射物と非照射物との間で差がなくなる。それ以外の栄養成分は照射してもほとんど変化せず、ラットを用いた栄養試験においても照射の影響は観察されなかった。その他、米、小麦、ウインナーソーセージ、水産練り製品、みかんにおいては、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン等の栄養成分量は照射してもほとんど変化せず、ラットを用いて体重、主要臓器重量、性ホルモン量を調べた結果にも照射の影響は認められなかった。
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