放射線を照射するとカビや細菌、虫を殺せることや植物の種子が発芽しなくなることは、今世紀の前半に知られていたが、放射線源の入手が容易でなかったために当時はこれを利用するには至らなかった。1940年代中頃から電子線加速装置やコバルト60の生産が可能となったことから放射線が容易に利用できるようになり、再度、食品照射への関心が高まり各国で本格的な研究が開始された。
諸外国での研究もわが国と同様、当初は各研究者の自発的なものであったが、1950年代に入ってから米国、ソ連、カナダで国家的プロジェクトとして研究が進められた。さらに1960年代に入ると前記3ヶ国に加えて世界25ヶ国で種々の食品について研究が実施された。
この結果、表38−1の通り、1950年代から1960年代後半までの間に米国、ソ連、カナダ、オランダ、イギリス等8ヶ国で馬鈴薯、タマネギ(発芽防止)、生鮮野菜・果実(殺虫・成熟遅延)、乾燥果実、肉製品、病人食(殺菌)についての照射処理が許可され、さらに1970年代に入ると日本(1972年)の他、新たにフランス、イタリア、フィリピン等10ヶ国で何らかの食品の照射が許可され、1980年代にはノルウェー、韓国、インドネシア、インド、(旧)東ドイツ、フィンランド、デンマーク、中国、ベルギー等20ヶ国が加わって、食品照射を許可している国は合計38ヶ国となっている(1990年5月現在)。このように1980年代に入って新たに食品照射を許可する国が増加しているのは、第一に各国での食品衛生思想が向上したこと(食品由来の病気の防止と有害薬剤の使用からの回避等)、第二に開発途上国等における食糧自給率の向上や輸出資源対策としての食品保存技術の重要性が増したこと、第三にFAO/IAEA/WHO合同の照射食品の健全性に関する専門家委員会(JECFI)が、各国での長年にわたる広範囲な試験・研究結果に基づいて、1980年に「総体平均線量が10kGy以下の照射食品の健全性に問題はない」旨の結論をまとめたこと、及びFAO/WHO食品規格委員会が1983年に食品照射の実施にあたっての技術基準案(照射食品に関する国際一般規格及び食品照射実施に関する国際規範)を加盟各国に勧告したことが大きく影響していると考えられる。
年 代 |
国 名 |
国数 |
1950 〜1960 |
カナダ、ハンガリー、 ソ連、イスラエル、 オランダ、スペイン、 アメリカ、イギリス |
8 |
1970 |
ブルガリア、チリ、日本、 チェコスロバキア、タイ、 フランス、イタリア、 フィリピン、南アフリカ、 ウルグアイ |
10 |
1980 |
アルゼンチン、ベルギー、 バングラデシュ、インド、 デンマーク、(旧)東ドイツ、 インドネシア、ブラジル、 台湾、ベトナム、中国、 ユーゴスラビア、韓国、 ポーランド、ノルウェー、 フィンランド、キューバ、 パキスタン、メキシコ、 シリア |
20 |
(IAEA資料より) |
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