食品照射を実施する国が増加し、多くの照射食品が広域に流通するようになると、食品を適切に照射し、適正に照射された食品のみを流通させるための国際的なシステムを作り出すことが非常に重要になる。IAEAの食品保蔵課(Food Preservation Section)の現在の主な活動は、食品照射の国際的な管理システムの確立にある。食品照射の実用化や照射食品の貿易に伴う問題を解決するための今後の活動を検討するために、1988年12月にスイスのジュネーブでIAEA、FAO、WHO、国際貿易センター(ITC−UNCTAD/GATT)の共催による「照射食品の受容、管理、貿易に関する国際会議」が開催された。この会議の結論として、食品照射の管理システムの確立、照射食品の消費者による受容の促進、照射食品の検知技術の開発等の必要性が指摘された。IAEAの今後の活動の目的を食品照射の管理システムの確立にすることは、この会議を通じて、国際的に認知されたことになり、以下の事業が実施されている。
1)食品照射工程管理スクール
食品照射は新しく、かつ高度な技術であるので、適切な食品照射を実施するには、照射プラントの作業者や現場の監督者に食品照射の運営管理について正しい知識を与える必要がある。また、食品照射プラントを立ち入り検査する当局の検査官も食品照射工程について正しい知識を持っていることが重要である。そこで、IAEAは食品の照射施設の監督者やオペレータ及び当局の検査官を対象にした食品照射工程管理スクール(FIPCOS)を設立して1989年より活動を開始している。このスクールは1989年にはカナダのラバルにあるカナダ照射センター(CIC)とオランダのワーゲニンゲンにある食品照射技術施設(IFFIT)において開催された。その後各地域で食品照射工程管理スクールが開かれている。さらに、FIPCOSの監修のもとで、照射施設の監督者やオペレータ用のトレーニングマニュアルと食品管理担当者用のトレーニングマニュアルが現在作成中である。
2)ガイドラインの作成
IAEAは国際的に統一した食品照射を実施するために以下のガイドラインを作成した。
(1)害虫防除を目的とした穀類の照射に関するガイドライン
(2)害虫防除を目的とした生鮮果実の植物防疫手段としての照射に関するガイドライン
(3)成熟遅延による貯蔵期間の延長を目的としたバナナ、マンゴー、パパイアの照射に関するガイドライン
(4)発芽抑制を目的とした根茎菜類の照射に関するガイドライン
(5)殺菌を目的とした香辛料の照射に関するガイドライン
(6)殺菌を目的とした生あるいは冷凍の畜肉や家禽肉の照射に関するガイドライン
(7)殺菌を目的とした冷蔵の生魚及び冷凍のカエル脚やエビの照射に関するガイドライン
(8)殺虫を目的とした乾燥魚及び塩蔵魚の照射に関するガイドライン
3)食品照射施設の国際登録制度
各国が個別に外国の食品照射施設に関する情報を得ることは困難であるので、国際機関が世界各国の食品照射施設に関する情報を整理しておくことは、食品業界、監督官庁の両方にとって有益である。そこで、ICGFIは、各国の食品照射施設について、線源の種類と量、管理の方法、照射品目、施設の許可の内容等に関する情報を登録する「食品照射施設の国際登録制度(IRFIF)」を設けることを計画している。
4)食品の照射処理の検出法に関する研究プログラム
食品が照射されたものか否か知ることは、照射食品の流通過程での管理にとって重要である。そこで、IAEA/FAOは、照射食品の検知技術を国際的に協力して開発するために「食品の照射処理の検出法に関する研究プログラム(ADMIT)」を1989年12月から5年の予定で開始した(第43項参照)。
(参考)「照射食品の受容、管理、貿易に関する国際会議」の結論と勧告
結論
・食品照射は、食品、特に固体食品の病原菌汚染を低減させて食品由来の病気を減少させる可能性を秘めている。
・食品照射は、農産物のポストハーベストロスを減少させて消費者に多くの多様な食品を提供することを可能にする。さらに、食品照射はある種の農産物の植物貿易手段として有効であり、農産物の貿易を促進する。
・「照射食品に関する国際一般規格」及び「食品照射実施に関する国際規範」に従った、政府当局による規制・管理の実施が食品照射の導入の前提となる。食品照射はGMP(適正製造規範)の代替として使用すべきでない。
・食品照射の管理のための各国の規制を、国際的に認められた規格に基づいて整合化することにより、照射食品の貿易が促進されるであろう。
・消費者の受容が食品照射の成功にとって重要な因子であり、そのためには情報の提供が必要である。
勧告
・食品照射を適用することが有効であると思われる食品に対しては、国民の健康のために食品照射技術の利用を考慮すべきである。
・食品照射が農産物のポストハーベストロスの減少や植物防疫の手段として有効である場合には、食品照射の利用を考慮すべきである。
・食品照射及び照射食品の販売の前提条件として、各国政府は食品の照射及び照射食品の販売を管理するための規制を策定すべきである。とくに照射施設の登録、許可、管理、検査、照射食品に関する記録と表示、監督官のトレーニング、GMPの導入等に関する事項を、これから策定する規制に盛り込むべきである。
・食品照射を管理するための規制を策定する時には、その規制が「照射食品に関する国際一般規格」及び「食品照射実施に関する国際規範」に盛り込まれた国際的に同意された原則と一致するようにすべきである。食品照射の実施中は、各国および国際的な規格で定められた線量測定を行って、正当な食品照射が実施されていることを示す証拠とすべきである。
・各国政府は、市場においても行政による照射食品の管理が行えるように、照射食品の検知技術の開発のための研究を推進すべきである。このことにより、照射食品の国際間貿易が促進され、消費者が照射食品の管理システム全体に対して信頼するようになる。
・国際貿易に供される照射食品の表示は、食品規格委員会により採択された原則と一致したものでなければならない。
・各国政府は、食品照射施設の設計および運転が、人間の健康と安全及び環境の保護のために国際的に合意された基準に合致した規制に従うようにすべきである。
・各国政府、とくに食品照射を許可しようとしている政府は、食品照射について明瞭で適切な情報を提供するようにすべきである。その際、消費者団体を含むあらゆる関心を有している団体の参加を得るようにすべきである。
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