食品の照射及び照射食品の流通を管理するためには、食品が適切に照射されたものであるか否かを正確に知ることが望ましい。しかし、食品を照射しても、食品が照射されたか否かの検証や吸収線量の測定を可能とするほどの成分の変化は起こらないか、または、例えわずかの変化が起こっても放射線照射に特有なものはほとんどなく、加熱、乾燥等の他の処理によっても起こるものがほとんどである。従って、ある食品が照射されたか否か又は吸収線量を分析等により正確に判定することは非常に困難であるが、今後食品照射の実用化が進展して照射食品の流通が国際的になることが予想されることから、国際的に照射食品の検知技術の開発の必要性が認識されている。
照射食品の検知技術の開発のための研究は1960年代に活発に行われ、照射食品の検知に関するシンポジウムが1970年及び1973年の2回開催されて、それまでの研究成果が検討されたが、その時点では信頼できる技術はないという結論に達した。その後、照射食品の検知技術に関する研究はあまり興味が持たれなくなった。1980年代に入って世界的に食品照射の実用化の機運が高まってきたことから、検知技術の開発の必要性が再び注目されるようになり、1986年11月に西ドイツで国際会議が開催されて、それまでに報告されている全ての照射食品の検知技術が検討、総括された。その結果、その有効性を国際的に検討してみる価値のある技術として、放射線照射による(食品を構成する)分子の励起に伴う蛍光を測定するルミネッセンス法による照射香辛料の検知、電気インピーダンス(交流電気抵抗)測定による照射馬鈴薯の検知、発根の様子の観察による照射タマネギの検知、脂肪酸分解物の定量による照射肉の検知の4つの技術が挙げられた。これらの技術もあらゆる条件のもとで確実に照射試料と非照射試料との識別ができるものではない。その後、わが国ではラジカルの分析や、水素ガス分析による照射香辛料の検知技術、グレープフルーツの種の発芽力を指標にした照射グレープフルーツの検知技術等が研究開発されている。
1988年12月にジュネーブで開催された「照射食品の受容、管理、貿易に関する国際会議」での合意文書において、照射食品の検知技術の開発の必要性が勧告された(第41項参照)。そこで、いままで報告された検知技術(表43−1)のうち有望な技術を確立するため、IAEA/FAOは1989年12月、5ケ年の計画で、照射食品の検知技術の開発のためのプロジェクトである「食品の照射処理の検出法(Analytical Detection Methods of Irradiation Treatment of Food,ADMIT)に関する研究プログラム(Co−ordina
1)照射食品の検知技術は、適正な表示を実施させるために必要な技術であり、政府当局、業界、消費者にとって重要なものである。
2)線量測定、GMP(適正製造規範)、記帳、立ち入り検査等により照射工程は管理できるので、照射食品の検知は、線量推定よりも照射の有無の判定が主な目的となる。
本プロジェクトでは、検知技術を以下の5つのグループにわけて検討することになった。
・ESR(電子スピン共鳴)グループ:
肉魚介類(骨や殻のカルシウム)、香辛料、果実、マッシュルーム
・ルミネッセンス(蛍光測定)グループ:
香辛料、エビ、イチゴ
・化学グループ:
肉(θ−チロシン、脂質分解物の分析)、アルコール飲料
(ブタンジオール)
・物理グループ:
馬鈴薯(インピーダンス測定)、香辛料(粘度測定、近赤外
吸収測定)
・生物グループ:
香辛料(微生物相の変化)、果実(種の発芽率)
このプロジェクトと同様のプロジェクトがEC単独でも行われており、2つのプロジェクトが協力して照射食品の検知技術の開発を行うことになっている。これらのプロジェクトでは、個々の技術を国際的にクロスチェックして、利用できる技術を明らかにする計画である。
今後、照射食品の検知技術が進歩して、ある程度照射の有無の識別が可能な技術が数多く開発されれば、仮に当局による直接的な照射食品の規制には利用できない場合でも、違法な食品照射の実施や不当な照射食品の表示の抑制に貢献するものと思われる。なお、ドイツでは、照射した香辛料の検知法としてルミネッセンス法が公的なものとして認められる。
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照射生成物 |
機器分析 |
生理活性 |
物理的測定 |
微生物相 |
馬 鈴 薯 |
クロロゲン酸の 量、細胞壁の変化 |
ルミネッセンス |
フェニルアラニン アンモニアリアー ゼの活性、コルク 層の観察、発芽や 組織の観察、傷の 活癒能 |
インピーダンス |
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タ マ ネ ギ |
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発根能 |
鱗皮のはく離性 |
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米 及び 小麦 |
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ルミネッセンス |
発芽の観察、発根 の観察 |
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小麦粉 及び コーンスターチ |
マロンアルデヒド 、デオキシ化合物 |
GC/MS、比濁 度、示差熱分析 分光施光分析 |
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肉及び家禽肉 |
ミオグロビンやヘ モグロビンの変 化、DNAやRN Aの変化、SHの 変化、脂質の分解 生成物、脂肪酸の 変化、o−チロシ ン |
薄層ゲル濾過、電 気泳動、焦点電気 泳動、ESR |
パーオキシダーゼ の変化、プロテア ーゼの活性 |
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卵 |
ヘキサナールの 量、ルテインの量 |
IR、分光施光分 析、示差熱分析、 電気泳動 |
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エビ 及び 魚 |
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IR、電気泳動、 サーモルミネッセ ンス、ケミルネッ センス、ESR |
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インピーダンス |
微生物相 |
水産加工品 |
蛍光物質の量 |
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果 実、野 菜 |
アミノ酸量、カル ボニル化合物量、 細胞壁の変化 |
ESR、サーモル ミネッセンス、ケ ミルネッセンス |
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微生物相 |
香 辛 料 |
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ESR、サーモル ミネッセンス、ケ ミルネッセンス、 近赤外 |
種の発芽率 |
粘度 |
微生物相 |
マッシュルーム |
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ESR |
菌糸生成能、色素 生成能 |
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プラスチック 包 装 材 |
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ESR、IR、近 赤外 |
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