食品照射に関する文献検索

Q&A(QUESTION and ANSWER)

専門的解説 効果と安全性


Q&A集タイトル : 食品照射の効果と安全性
発行機関名 : 日本原子力文化振興財団
発行年月日 : 平成3年3月
<答>



45.食品照射の今後


<答>

1.先進国における食品照射

 先進国においては、各種の食品保存技術、特にコールドチェーンが発達しているので、食品照射が食品の品質保存技術として主要なものになる可能性は小さい。食品照射は、他の食品保存・処理技術では対応不可能な分野で利用されていくものと思われる。すなわち、食品照射は、以下に述べるように他の食品保存または処理技術の安全性に問題がある場合や他の技術で処理しても衛生上の問題が解決できない場合に利用されるであろう。

1)化学薬剤処理の代替

 エチレンオキサイドガス(EOG)、二臭化エチレン(EDB)などの燻蒸剤は、それ自身が発ガン性などの毒性を有していたり、残留するとさらに食品中の成分と反応して有害物質を生ずるので、処理作業者の安全確保と食品衛生の両方の観点から、その使用を禁止する国が増加している。EOG処理による香辛料、乾燥野菜、ハーブ、乾燥血液等の殺菌及びEDBによる果実の殺虫の代替技術としては、放射線照射が最も優れている。香辛料や乾燥野菜の放射線殺菌は、アメリカ、オランダ、ベルギーなど多くの国で実用化されており、今後さらに活発に実施されるものと思われる。

2)病原菌の殺菌

 冷凍エビ等の水産物はコレラ菌、腸炎ビブリオ菌等の汚染により食中毒の原因となる例が多いが、冷凍した食品を殺菌できる技術は放射線照射以外になく、オランダやベルギーで冷凍水産物の放射線殺菌が実施されている。また、家禽肉のサルモネラ菌の放射線殺菌も、品質劣化を起こさずに確実に殺菌できる技術としてフランスやオランダで実用化されている。

3)寄生虫の駆除

 旋毛虫、サナダムシ、ジストマ等の寄生虫による生の畜肉、魚介類の汚染は衛生上深刻な問題である。加熱を要しない技術である放射線照射は、薬剤を使用せずに生のままで畜肉、魚肉の寄生虫駆除のできる唯一の技術であり、今後、この分野の進展が期待される。

2.開発途上国における食品照射

 開発途上国ではコールドチェーン、大量貯蔵施設等の食品の流通、貯蔵技術が発達していないために、農産物の収穫後の損耗や加工食品の腐敗等の問題が未だに解決されていない。特に亜熱帯・熱帯地方では、このような保存技術の未発達と気象条件が重なり合って、食料の損耗が大きな問題となっている。すなわち、腐敗、害虫による食害、カビの発生等によって食料が大量に損耗する。イモやタマネギでは、発芽が重大な問題になる。このような食料の損耗は、開発途上国の食料事情を悪化させているのみならず、主要な外貨獲得源である輸出農産物の損失をも引き起こす。

 これらの問題の解決のために食品照射技術を導入することは、食料事情及び経済状態の改善に貢献するものである。開発途上国において今後実用化される可能性のある照射食品として以下のものが考えられる。

1)穀類、豆類の殺虫

 小麦、米等の穀物や大豆等の豆類の害虫による損耗は激しく、開発途上国の食料事情に重大な影響を及ぼしている。包装した穀類や豆類の放射線殺虫を実施すれば、貯蔵施設の不備な国においても、長期間大量に貯蔵することが可能となる。

2)イモ、タマネギ等の発芽、発根の抑制

 開発途上国、特に亜熱帯、熱帯地域ではイモやタマネギの発芽や発根が激しく、これらの損耗を防止して国民の食料事情を改善するためには、放射線照射が有効である。

3)病原菌の殺菌

 先進国と同様、サルモネラやコレラ等の食中毒の原因となる病原菌の放射線殺菌は衛生上有効である。

4)輸出用食品の処理

 香辛料の殺菌、冷凍水産物の殺菌、果実やナッツの殺虫等、輸出用食品の衛生化処理及び植物防疫処理としての食品照射が経済状態の改善(外貨獲得)に貢献するであろう。

3.消費者の受容に向けて

 このように、食品照射の重要性や将来性は各国の食習慣、食料事情、技術レベルによって異なるが、先進国、開発途上国を問わず、食品照射の実施が好ましい食品があり、食品照射に代わる新しい技術が出てこない限り、このような食品に対しては、放射線照射が最も有望な技術である。照射食品の健全性についてはすでに科学的に問題がないことが明らかにされているが、放射線照射のイメージから、照射食品が正しく理解されず、消費者に受け入れられにくいという現実がある。適切な分野で食品照射を導入して少しでも人類の食料事情や衛生状態の改善に貢献するためには、消費者に食品照射についての正確な情報提供を行うことが重要である。

 現在、国際機関やアメリカ、カナダ、イギリス等の政府は、消費者の疑問に対する見解を発表して、食品照射の有効性と安全性を強調している。

 食品関係者は、このように消費者の理解が得られるよう努力する必要があろう。




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