食品中に農薬は極微量しか残留しておらず、一般にppmのオーダーである。食品の汚染物質の問題は、食品加工用機械からの微量の潤滑油の混入、コンテナからの化学物質の食品への移行、PCBのような環境汚染物質の混入等多様である。食品添加物の食品中の濃度も一般に500mg/kg以下と低い。
食品添加物に関しては、最悪のケースを想定してその危険性について検討してみる。すなわち純粋な食品添加物が10kGy照射される場合(食品添加物は実際には食品中に存在し、食品成分による保護作用がある。)、1kgの食品添加物のうち300mgが照射生成物に変換される(18)。食品中の食品添加物の濃度が500mg/kgとすると、食品添加物の照射生成物の量は食品1kg当り0.15mgとなる。しかし、実際には、食品成分の保護作用により照射生成物の濃度はさらに低くなる。
食品添加物の照射生成物の濃度は最悪の場合でもppmのレベルであり、農薬や食品汚染物質の照射生成物の濃度はこれよりも2〜3桁低い。
このような理論的な考察以外に、食品添加物や農薬の放射線化学については多くの実験が行われている。それらによると、10kGy以下の線量を照射した時のこれらの化合物の分解は非常に小さく、現在まで照射生成物として同定されているものから判断するかぎり、毒性学的な問題はない。
多くの植物性食品に存在する天然毒の方がはるかに大きな危険性を有しており、農薬等の照射生成物の毒性の研究のために労力を費やすことは、実験動物の乱用及び毒性試験用試料の浪費になる。非現実的な理論的考察による危険性と現実とを区別することは重要である。現在食品照射が実用化されている食品に対しては、食品添加物はそれ程使用されていない。
文献
18.「照射食品の安全性と健全性」,英国王室 Stationery Office,London 1986,p.17
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