1〜10kGyの範囲の照射においてのみ照射食品の微生物に係わることは問題となるということを認識しておく必要がある。高線量照射はWHOにより承認されていない。線量が低ければフローラに及ぼす影響が小さい。各国において刑事責任を伴う食品管理のための法律がある理由は、現在の食品保存技術が開発されるはるか昔から食品の供給が不適切に行われてきたことにある。ある食品の処理技術だけが他の技術と比べて不適切に利用されるということはない。
照射食品の検知技術は多くの研究室で研究されており、その開発は見込みがあるように思われる。しかし、照射により引き起こされる生化学的な変化は非常に小さく、加熱等の処理と比べてはるかに小さいので、照射食品の検知技術として万能な技術の開発は困難であろう。このように照射食品の万能な検知技術を開発するのが困難な現状を考えると、食品の安全性に関するその他の多くの問題に長年係わってきた食品管理当局や食品業界に対する国民の信頼を得ることが重要である。
細菌を殺滅しても食品中に毒素が残ることは事実であり、このことは加熱殺菌した牛乳において長い間問題となっている。このような毒素を検出する試験法は開発されており、Staphylococcus aureus の場合には比較的迅速で簡単なサーモヌクレアーゼ試験がある。照射する前の食品の細菌数を不必要に多くしないように注意することが重要であることは明かである。St.aureus をはじめとする毒素生産菌は、冷蔵よりもはるかに高い温度で放置する等の誤った取り扱いにより生育する。
食品の中に存在して人間の健康にとって重要なビールスを検出するための現在の方法はまだ多くの問題がある。ビールスは非常に小さいので、食品照射によっても死滅しにくく変異も起こしにくい。しかし食品によるビールスの感染例として知られるケースは食品照射の対象となっている食品ではなく、さらに、ビールスによる食品の汚染は最終的な調理や配膳の段階で起こっている。細菌毒やビールスは食品照射に関して特に重要ではない。食品照射の主な対象は、毎年多数の病気の原因となっている細菌の栄養細胞である。
適正製造規範のための規格において、処理しようとする食品の微生物基準を定めていることがよくある。WHO1980年に照射する食品の微生物基準を定めるための会議を計画している。1kGy以下の低線量を照射する場合にはこのような微生物基準は必要でない。
照射食品の貯蔵や取り扱いを管理するための記録の保存はすでに多くの国で実施されており、表示の問題以外には、照射食品の管理についての問題は特にない。もしも照射食品に関する記録を保存するシステムのない国があれば、次に述べるトレーニングコースを活用するとよい。
このような目的のためのトレーニングは、オランダの国際食品照射技術施設(IFFIT)で行われている食品照射技術のトレーニングと併行して行われている。しかし次のことは重要である。
・多くの国で既に確立している食品管理システムは容易に照射食品の管理に適用することができる。
・食品照射の出現により現在の健全性の評価技術が時代遅れになったという表現は正しくない。
照射食品の検知技術を除いて、照射食品が他の食品とは異なる分析上の問題をもたらすことはない。
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