WHOは過去35年間食中毒の程度と原因を調査しており、多くの報告書が作成されている。これらの報告書の多くはジュネーブにあるWHO本部で入手することができる。WHOが現在出版している文献の一覧表が最近出された(28)。さらに食中毒の程度や原因については世界中の多数の出版物の中にも記述されている。疫学調査により食中毒の原因について多くのことが明らかになった。
同時に、WHO等の国際機関、各国政府、食品業界は病原菌から食品が汚染するのを制御したり防止するための技術開発を行った。食中毒を防止するための方策として次の3つがある。
1.病原菌のいない動物の食品製造への利用
食品製造のために病原菌のいない動物を飼育することは原理的に可能であり、実験的にはすでに確立されている。しかし現実として病原菌のいない動物を大規模に飼育することは困難である。土壌、水、鼠、昆虫、鳥等、環境から汚染する可能性が増えているので、病原菌のいない動物を飼育することは近い将来実施できる見込みはない。
2.食品の処理
食中毒を予防するための食品処理として、加熱、冷凍、乾燥、化学薬剤の使用、食品照射がある。
3.情報提供と教育
食中毒の予防のためには、消費者及び食品の流通や加工に携わる人に対する情報提供と教育が重要である。
これらの食中毒予防策のうち、病原菌のいない動物の飼育及び情報提供と教育は現在まで食中毒の減少に役立っていないことを理解しておく必要がある。むしろ、多くの国において過去30〜40年の間食中毒がコンスタントに増えているのが現状であり、さらに、食中毒の原因として Campylobacter や Listeria 等の新しい微生物が見いだされている。このことは病原菌のいない動物の飼育及び情報提供や教育が不必要であるということを意味しているのではなく、安全な食品を作出するためにはあらゆる努力を行うことが重要である。
しかし、消費者を保護するためには食品の処理が重要であることは明かである。乳幼児、子供、免疫力の低下した病人、入院中の患者、老人のように食品の汚染に対して敏感な人にとっては、安全な食品を供給するための食品の処理が特に重要である。食品の処理が食中毒予防に有効なことはすでに明かであり、例えば、オランダでは加熱殺菌した牛乳が市場に出るようになって第二次世界大戦以後、牛乳が原因となった食中毒は発生していない。またスコットランドでは食中毒の18%は牛乳が原因であったが、加熱殺菌が義務づけられてから牛乳が原因の食中毒は減少し、最近ではほとんどない。
家禽肉、生の畜肉ソーセージ、エビ、カエル脚、香辛料等の微生物汚染を起こしやすい食品の殺菌は、食中毒の防止に役立ち、特に、上で述べた食品汚染に敏感な人にとっては有用である。世界で食中毒の大きな原因となっているのが Salmonella と Campylobacter であり、これらは2.5〜5kGyの照射により殺滅することができる。
文献
28.食品の安全性に関する新しいWHO出版物(WHOの非公式の書類),1988
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