食料の不足や損耗が原因となる健康上及び開発上の問題は、過去40年間WHOとFAOにより調査されており、他の国際機関、技術関係や経済関係の機関、ボランティアグループ等も調査を行っている。食料不足や飢饉は先進工業国よりも開発途上国において問題となる可能性があり、特に熱帯地域の国で最も急速に問題となっており、熱帯地域では高温と高湿により食品の貯蔵が大きな問題となる。例えば、害虫や微生物による汚染が原因となる穀物や豆の損耗は20〜50%になると推定されている。
過去何十年もの間、多くの食品保存技術が開発され膨大な研究が行われたが、これらは一部の地域の食料事情を飛躍的に改善することはあっても、全世界の食料供給を安定化させるには至っていない。このような背景を考えると食品照射が近い将来に果たす役割は本当に小さいが、おそらく食品照射の役割は徐々に大きくなっていくであろう。
政策的には個々の特殊な事情を考察しなければならず、特に世界の最も貧しい地域においてこのようなことが重要である。例えば、非常に貧しい地域では、利用できる資金があれば、照射施設よりも清潔な水の供給を優先させるのが普通である。多くの人にとって非常な貧困が意味していることを理解することは困難である。例えば、非常に貧しい地域では、害虫の侵入を防ぐ袋等の容器がないので、穀物は土の小屋の床の上に置かれて、雨から防ぐことはできても、鼠、害虫、カビの攻撃を防止することはできない。各家庭は一回の収穫により一年分の穀物を蓄える必要があり、5人家族の場合には3トンの穀物を貯蔵する必要がある。たとえ健全な穀物を貯蔵しても、次の収穫の前の3カ月の間に害虫により20〜30%損耗するのが普通である。照射と適切な貯蔵とを組み合わせることによって害虫による損耗を防ぐことができるが、最貧地域においては、おそらく適切な袋を与えることがまず第一に行うべきことであろう。
このように、非常に貧しい地域においては、食品照射は食品の安定のための最初に行うべき手段ではない。食品照射は、経済が一定の発展をしており行政、通信、サービス等の発達した地域において有効に活用できるものである。食品照射は常に高度な技術を必要とするので対応できる行政が必要であり、照射施設は照射用試料の搬入と照射済み試料の搬出を恒常的に安定して行う必要があるので通信が重要であり、さらに、冷蔵、エネルギー、水等のサービスが重要である。世界のかなりの地域でまだこのような基本的な条件が揃っていない。マンゴーやパパイア等の熱帯果実の輸出を助けたり、肉や魚等の蛋白質源シェルフライフを延長したり、害虫による穀物や豆の損耗を防ぐ可能性のある技術として食品照射が有効なのは、社会経済が発達した地域においてのみである。
IOCUのペーパーにおいては、FAOとWHOが飢餓等の問題を緩和するための包括的なプロジェクトを実施するように提言しているが、これらのことこそFAOとWHOが過去40年間実施してきた活動であり、食品照射がこれらの問題解決のための一つの方法(主要なものではないが)であるということをIOCUは知らないように思われる。
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