1.食品保存と殺菌技術
概要
農畜水産物には、生態系に生存する種々の微生物が共存しており、その中には病原微生物や、農畜水産物を損耗させる微生物が常に存在している。食品の保存および殺菌は、それら微生物の制御を目的とするものであり、食品加工あるいは調理の原点の一つである。
内容
1.地球上に現存している植物30万種、動物 100万種のうち、食用に適する動植物の数には限りがある。食料とそれを素材とする食品は全て生物由来のものであり、自然環境の中で多くの生物と共存して生育した動植物には、収穫後にも種々の環境の微生物(カビ、酵母、細菌)などが残存している。微生物は肉眼では認識することはできないが、付着していることが生鮮素材の通常の状態と言える。
2.食品は、貯蔵中にこうした微生物により腐敗したり、昆虫の食害により大きく減損する。また、経口伝染病菌や食中毒菌により、食品由来の疾病が引き起こされることもある。これらを防ぐため、人類は乾燥、塩蔵、缶詰、冷蔵、食品添加物などの保存技術を開発してきた。しかし、これらは、例えば塩蔵は食塩の摂りすぎになり、缶詰では調理方法が限られるといった一長一短がある(図1)。
また、食品によっては、馬鈴薯は貯蔵中に発芽して食べられなくなるように、食品自らの生理によって減損するものもある。
3.1950年代に始まった世界の食品照射に関する基礎的ならびに実用研究の成果の蓄積は膨大な量にのぼる。食品照射の目的の一つに、食品の保存性の向上がある。それは食品本来の性質を失わずに有害微生物、経口伝染病菌、食中毒菌および腐敗性微生物などを制御できるためである。わが国を含め各国での研究結果は、食品化学的あるいは栄養学的な品質低下を招くことのない低い実用線量によっても微生物などの制御が可能な条件を、一つ一つの食品について明らかにしてきた。それらの結果は国連食糧農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)によって構成される照射食品(の健全性)に関する合同専門家委員会(JECFI)などの慎重な討議を経て公表されている。
|