4.照射の食品成分、食味に対する影響
概要
食品の種類によって、照射による影響は異なる。一般に、肉、魚介類のようなタンパク質や脂質を多く含む食品を照射すると、異味・異臭を発生しやすいが、冷凍して照射することで低減できる。食品や農産物を照射しても商品寿命や貯蔵性が損なわれることはない。むしろ、照射馬鈴薯に見られるように、照射農産物に適した条件で取り扱い、貯蔵することによって、商品寿命や貯蔵性は向上する。
内容
1.照射食品の味や香りに影響する反応は、タンパク質を構成しているフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、シスチン、システイン、メチオニンなどのアミノ酸および脂質を構成している脂肪酸の酸化である。
これらの反応は、真空パックおよび凍結の条件下で食品を照射することにより防ぐことができることが多い。例えば、海外では食鳥肉、エビなどは冷凍して照射されている。
2.生鮮果実や野菜を照射すると、細胞壁や細胞膜が損傷して柔らかくなる。このような変化は照射後に微生物による汚染を受けると腐敗を促進させることがあり、士幌町農業協同組合では馬鈴薯の照射前に工夫をしている。照射馬鈴薯は傷の治癒力が低下するため、収穫後2〜3週間保管して、収穫時の傷を完全に治癒してからγ線照射を行っている。また、照射馬鈴薯は呼吸が活発になるために、貯蔵時には呼吸に伴う酸素欠乏や湿気を防ぐために十分な換気が必要である。
3.馬鈴薯や玉ネギを照射すると腐敗が著しく、商品価値がなくなるのではないかという指摘があるが、放射線照射は発芽抑制技術として有効なものであり、照射馬鈴薯は市場で高い評価を得ている。
照射した馬鈴薯や玉ネギが腐敗しやすいという意見は以下のような誤解に基づいている。「放射線照射による玉ネギの発芽防止に関する研究成果報告書」(1972年(昭和47年))のデータでは、照射玉ネギの方が非照射玉ネギよりも腐敗率が高くなっている。これは発芽した試料を除外した後に腐敗した試料を計数したためである。発芽した玉ネギはほとんど腐ってしまうので、発芽した試料も対象とすると、照射試料よりも非照射試料の方が腐敗率がはるかに高くなる。
4.1992年から照射食品の実用販売を行っている米国のスーパーマーケットでの玉ネギの例では、非照射の場合は腐敗などによるロスが20〜25%であり、小売り値段は1ドル10セント/sであるが、照射の場合はロスが2%程度で、小売り値段は94セント/sとしている。
5.食品や農産物は、照射すると微生物や害虫が減少したり発芽などが抑制されるので、適正線量を照射して適正な条件下で貯蔵・流通させる限り、商品寿命や貯蔵期間は、非照射のものよりも長くなる。
6.グレープフルーツなどの果実は照射直後は異味が発生するが、1週間ほど貯蔵している間に非照射のものと同じ味に回復する。
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