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6.放射線の発芽防止、殺虫、熱度調整、殺菌効果の機構


6.放射線の発芽防止、殺虫、熱度調整、殺菌効果の機構

概要

 放射線は細胞分裂能を阻害しやすく、特に、発芽細胞や生殖細胞は放射線の影響を受けやすい。生物に対する放射線の作用は紫外線と類似しており、遺伝因子であるデオキシリボ核酸(DNA)に作用して細胞分裂能を阻害する。しかし、細胞分裂能が阻害されても細胞は生きているため、馬鈴薯の発芽防止や果実の熟度調整などにより新鮮な状態で保存することができる。また、食品の栄養成分は、放射線に対して比較的安定なため、品質を大きく損なうことなく殺虫、殺菌などが可能となる。

内容

1.放射線を生物や食品に照射するとフリーラジカル(遊離基)と呼ばれる化学反応を起こしやすい活性種(励起状態の分子)が生成される。生体内の遺伝因子であるDNAは最もフリーラジカルの影響を受けやすい。DNAが傷害を受けると細胞分裂能、中でも発芽や生殖に関係している細胞は分裂活動が活発なため、特に放射線の影響を受けやすい。

2.馬鈴薯や玉ネギ、ニンニクなどの発芽抑制の場合、発芽部分の細胞は0.02〜0.15kGyの低線量で傷害を受け発芽能力が失われるが、発芽部以外の細胞は放射線の影響をほとんど受けないため、組織細胞は生きており、微生物の侵入を阻止する力も残っていて、発芽・腐敗することなく新鮮な状態で長期に貯蔵することができる。

3.放射線による害虫防除の場合には、0.2〜0.5kGyの線量で生殖細胞が傷害を受けるため子孫を作る能力が失われ、成虫でも数週間の間に徐々に死滅していく。なお、虫の場合、卵が最も放射線の影響を受けやすく、成虫が最も耐性が強い。

4.微生物は高等生物に比べて著しく放射線耐性があり、1〜30kGyの高線量でないと殺菌効果は期待できない。

5.放射線の生物に対する作用は紫外線と類似しており、両者ともDNAの損傷を起こしやすい。DNAが損傷を受けやすいのは生体成分の中でDNAが最も高分子で、分子鎖が切れやすいためである。しかし、熱処理の場合にも当然、DNA分子の切断は起こっている。放射線などによりDNA分子が損傷を受けても、損傷の量が少ない場合には損傷を修復する機能が生物には備わっている。また、生物細胞中のDNA含量が少ないほど放射線に耐性があり、高等生物に比べて微生物の放射線耐性が 1,000〜10,000倍と高いのはDNA含量が少ないことによって説明できる。




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