食品照射に関する文献検索

食品照射解説(COMMENT)

専門的解説 食品照射解説資料


発表場所 : 放射線と産業, 112 号, pp.36-41
著者名 : 伊藤 均
著者所属機関名 :
元日本原子力研究所高崎研究所
(現 独立行政法人 農業食品産業総合研究機構 食品総合研究所)(〒370-0884 群馬県高崎市八幡町935-6)

発行年月日 : 2006 年

1.はじめに

2.根茎野菜の発芽防止と青果物の熟度調整

3.害虫および寄生虫の殺滅

4.肉類、食鳥肉類、魚介類の消毒殺菌

5.香辛料等の乾燥食品の殺菌

6.照射食品の食味および色調変化と完全殺菌

7.おわりに

文献

 


連載 : なぜ食品照射か—その歴史と有用性【3】食品の照射効果と衛生化

1.はじめに

 照射した馬鈴薯の芽が出ないのは自然の摂理に反すると一部の消費者は考えているようである。しかし、消費者の多くは馬鈴薯が発芽する時にソラニンとチャコニンというアルカロイド系毒素を産生し食中毒の原因になることを御存知ないようである。 このことを考えると、馬鈴薯の照射は貯蔵期間の延長ばかりでなく衛生的にも有効な処理法ということになる。放射線による衛生処理として優れているのは固形食品の病原菌の殺菌と検疫としての殺虫処理であろう。 しかし、放射線処理も万能というわけではなく、食品の種類によっては牛乳のように放射線処理が適さないものもあるし、表-1に示すように処理線量に上限があるものが多い。 例えば、多くの生鮮野菜は0.15kGy以下の発芽防止を目的とした照射処理では効果があるが、0.2〜0.5kGyの殺虫を目的とした処理では褐変化したり腐敗しやすくなるものがある。生鮮果実も0.5kGy前後の殺虫を目的とした処理では品質が変化しないが、1kGy以上の殺菌を目的とした処理では品質低下をもたらすものがある。 穀類も殺虫処理を目的とした放射線処理では有効であるが殺菌処理では粘度低下などの品質低下をもたらすものが多い。肉類や食鳥肉類、魚介類も酸素共存下で照射すれば2kGy以上で異臭発生や味覚低下をもたらすものがある。 しかし、脱酸素した肉類や食鳥肉類、魚介類、または乾燥香辛料や乾燥野菜などは2kGy以上でも品質低下を起こさないものが多い。

 ここでは、野菜の発芽防止や穀類等の殺虫、肉類や魚介類、香辛料等の殺菌効果について述べると共に病原菌などの衛生化について述べることにする。

表-1 食品照射の応用分野
食品照射の応用分野
2.根茎野菜の発芽防止と青果物の熟度調整

 放射線による根茎野菜の発芽抑制の原理は、発芽部の組織が他の組織に比べて放射線で損傷を受けやすく、細胞分裂能が抑制されやすいためである。 根茎野菜類の発芽抑制に必要な線量範囲は馬鈴薯やサツマイモ、ヤマイモで0.06〜0.15kGy、タマネギ、ニンニク、シャロット、コンニヤクイモで 0.02〜0.15kGy、ショウガで0.04〜0.15kGyである。 最高線量が0.15kGyであるのは、それ以上では腐敗しやすくなるためであり、栄養学的な問題ではない。タマネギやニンニクなどでは発芽活動が始まると放射線による発芽抑制効果がなくなるが、馬鈴薯の場合には発芽の初期には発芽抑制効果が認められる。 馬鈴薯の品種によっては照射後の貯蔵中に糖が蓄積され、ポテトチップ製造の際の加熱による褐変化反応の原因になることがある。 ニンニクは現状では−2.5℃で貯蔵して出荷時に常温にもどしているが流通・店頭での期間に腐敗または発芽するため、放射線での芽止めが必要であろう。 発芽防止剤の収穫前の散布が禁止された現在、放射線による発芽防止がタマネギやニンニクなどにも広がることが期待される。

 一般に、果実などの青果物に放射線を照射すると吸収線量によって差があるが、1kGy以上の高線量では複雑な生理的変化や組織の軟化が起こることがある。 しかし、多くの青果物は検疫処理を目的とした害虫の殺虫線量である0.2〜0.5kGyでは放射線による傷害は認められない。たとえば、グレープフルーツなどを照射しても食味の変化は認められず果皮の褐変化も認められない。 リンゴやモモ、サクランボなどでは0.5〜1kGyの照射で熟度が遅延され、 4℃程度で約1.5〜2倍の貯蔵期間延長が可能となる。また、熱帯果実のマンゴーやパパイヤなどでも0.25〜1kGyで熟度遅延が可能である。

3.害虫および寄生虫の殺滅

 害虫の多くは低線量で殺虫できることがわかっているが、薬剤と異なり即時に死ぬことがないため、殺虫線量や不妊化線量の決定には長期間の研究が必要であった。しかし、放射線処理法は薬剤と異なり害虫の卵にも有効である。

 穀類や豆類、香辛料などを長期間貯蔵するとコクゾウムシや、コクガ、シバンムシ、ダニなどの害虫が発生してきて大きな被害を与えることがある。 また、害虫が発生すると食害ばかりでなくカビが発生しやすくなる。 これまで、これらの害虫の防除には臭化メチル薫蒸などの薬剤処理が行われてきた。 しかし、薬剤処理は穀類中の害虫の卵や蛹には効果が不十分であり、定期的に薬剤処理を繰り返す必要があり、薬剤残留の問題もある。 臭化メチルは穀類内部への浸透力が優れているがフロンガスと同様にオゾン層破壊物質として国際的に使用が制限されており、他の薬剤も耐性虫の発生や浸透力が弱いという問題がある。 害虫の発生を防止するには低温で貯蔵したり、炭酸ガス貯蔵する方法もあるが、殺虫効果が不十分なため検疫処理には適用できない。

 放射線の場合には比較的少ない1kGy以下の吸収線量で害虫の卵、幼虫、蛹、成虫の不妊化・殺滅が可能であり、外部からの虫が侵入できない梱包下で貯蔵すれば再度殺虫処理する必要がないという利点がある。 放射線殺虫処理は図-1に示すように照射直後に即死するのではなく、数日かけて徐々に死滅していくのが特徴であり、即死させるためには3〜5kGyの高線量が必要である。 一般に、害虫の卵は少ない量の放射線で殺虫され、蛹、幼虫、成虫の順に耐性となる傾向がある。 不妊化線量は殺虫線量の約1/2である。害虫を薬剤で処理する場合には神経系や呼吸系が傷害を受けやすいが、放射線の場合には遺伝子が主に傷害を受ける。 虫の体内では生殖器や造血器が放射線障害を受けやすく、多くの害虫では0.07〜0.5kGyで不妊化され子孫を残さなくなる。

 害虫の必要殺虫線量は同じ属や類間ではほぼ同じ傾向を示すことが報告されており、ゾウムシ類(コクゾウムシ等)と甲虫類は0.15〜0.25kGyで殺虫される。 ダニ類は0.20〜0.40kGy、ガ類は0.40〜1.0kGyで殺虫される。海外から輸入される生鮮果実などで問題になるミバエ類などは 0.15〜0.25kGy、アブラムシ類は0.25〜0.40kGyで殺虫される。 輸入切り花などで問題になるイモムシ類、ダニ類、アザミウマ類、カイガラムシ類も0.3〜0.4kGyで繁殖を防止することができる。

 原子力特定総合研究では穀類のゾウムシ類やガ類の殺虫を目的としているが0.2〜0.5kGyが殺虫線量であった。 しかも、この線量では夏期貯蔵で非照射玄米でカビ毒を産生する可能性があるカビ類が発生してきたのに対し照射玄米ではカビの発生がなく、非照射玄米では虫の発生によりカビが発生したものと考えられた。 なお、照射玄米では食味の低下はほとんど認められなかったが、照射小麦では製パン性は変化しなかったが、製麺性が若干低下した。 製麺性が低下した原因は照射によって澱粉が若干低分子化したためであろう。

 寄生虫の感染は腹痛などの病気の原因になったり流産の原因となることがある。 また、熱帯地方では寄生虫の感染によって植物人間になったり死亡することがある。 豚肉に寄生している旋毛虫は0.3kGyで感染力が失われ、0.5kGyで殺虫される。 この線量ではサナダムシ、回虫、トキソプラズマ、多くの熱帯性寄生虫なども殺虫される。また、魚に寄生しているジストマも0.5kGyで殺虫される。

図-1 コクゾウ虫の成虫の殺虫効果
コクゾウ虫の成虫の殺虫効果
図-2 病原大腸菌O157:H7・IID959株の牛肉ひき肉中での放射線殺菌効果
病原大腸菌O157:H7・IID959株の牛肉ひき肉中での放射線殺菌効果
4.肉類、食鳥肉類、魚介類の消毒殺菌

 放射線殺菌には貯蔵期間延長を目的とした菌数低減や食中毒菌の殺滅を目的とした消毒殺菌と缶詰と同じ目的の完全殺菌がある。

 原子力特定総合研究では肉類の代表としてウインナソーセージが選ばれ、魚介類の代表として水産練り製品が選ばれた。 ウインナソーセージは3〜5kGyで貯蔵期間が10℃で3〜5倍に延長されたが、酸素存在下の照射では異臭が発生しやすいため窒素ガス置換が必要であった。 水産練り製品のカマボコ等では 3kGyで食中毒菌が殺菌され貯蔵期間も10℃で2倍以上に延長されたが、卵白を加工時に加えると味覚が低下した。 このように、肉類や食鳥肉類、魚介類の消毒殺菌では10℃以下での低温貯蔵との組み合わせが多い。

 食中毒防止対策として最も期待されているのは芽胞形成能のない食品由来の病原性細菌の殺菌である。 わが国でもサルモネラや腸管出血性大腸菌O157: H7、ブドウ球菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ菌などによる食中毒の被害が多発しているが、これらの細菌類は少ない線量で殺菌可能である。 実際の食品中のサルモネラや腸管出血性大腸菌、ブドウ球菌、カンピロバクター、リステリア菌、腸炎ビブリオ菌などの病原性細菌を1g当たり10-6個以下に殺菌するのに必要な線量は非凍結下で1〜3kGy、凍結下で2〜7kGyである。 ことに、腸管出血性大腸菌のO157:H7などやカンピロバクター、腸炎ビブリオ菌などは非凍結下では1kGyでも十分に殺菌可能である。 腸管出血性大腸菌O157:H7の標準株は一般の大腸菌より少ない線量で殺菌でき、牛肉中では図-2に示すように非凍結下で1kGy、凍結下で2kGyで殺菌可能である。 一方、著者らが市販の牛肉および鶏肉から分離した大腸菌 O157:H7は10℃でも増殖可能であるが、D10値は標準株の1/2倍であり1kGy以下でも十分殺菌可能である。

 わが国は夏期に海水温の上昇と共に海水中にビブリオ菌類が増殖しやすくなり、生鮮魚介類への汚染が見られるようになる。 表-2は東南アジアなどから輸入された冷凍エビから検出された病原性ビブリオ菌類の分布を著者らが調べた結果であるが、わが国でも夏期にはこれらのビブリオ菌類で魚介類が汚染されれる可能性がある。 また、低温でも増殖するエロモナス菌は北洋で獲れる魚介類に汚染している可能性がある。 腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemolyticus)やブルニフィカス菌(V. vulunificus)などの病原性ビブリオ菌やエロモナス菌(Aeromonas hydrophila)はサルモネラなど他の食中毒性細菌と比べ少ない線量で殺菌されやすく、非凍結下では0.75〜1.5kGy、凍結下では2〜3kGyで殺菌可能である。

表-2 輸入冷凍エビ100g中での病原ビブリオ菌の検出菌数(各10g、10試料中の陽性数)
表-2 輸入冷凍エビ100g中での病原ビブリオ菌の検出菌数(各10g、10試料中の陽性数)
図-3 電子線とガンマ線による香辛料の殺菌効果の比較。
電子線とガンマ線による香辛料の殺菌効果の比較。
5.香辛料等の乾燥食品の殺菌

 香辛料には微生物汚染が著しいものが多く、104〜108個検出される。 香辛料の汚染細菌は主に耐熱性の有芽胞細菌である枯草菌やバチルス・プミルスなどの腐敗菌で構成されている。 一方、セレウス菌などの食中毒菌による汚染も1g当たり101〜105個検出されると報告されている。 また、枯草菌なども菌株によっては食中毒を起こすことが報告されている。 また、ボツリヌス菌による汚染も考えられる。食品衛生法で食肉や魚介類等の加工に用いる香辛料等の菌数を1g当たり103個以下とするように規定しているのはセレウス菌等の食中毒対策である。 しかし、有芽胞細菌は耐熱性であり、高圧高温水蒸気による気流法による過熱殺菌処理では香気成分が低減し香辛料の色も変化する。 また、エチレンオキサイドによる殺菌は発癌性物質が生成するため使用が認められていないし、香りが低減する。

 わが国での香辛料の放射線殺菌の研究は1970年ころ東京都アイソトープ総合研究所で初歩的研究が行われ、1980年代になると日本原子力研究所と食品総合研究所で本格的な研究が行われた。 放射線による殺菌は香気成分の低減が全くなく、50kGy照射しても色調や抗菌性、抗酸化性が変化しない優れた方法である。 ことに、香辛料の香気成分である精油は照射後も変化せず、品目によっては香りが強くなるものもある。図-3に示すように香辛料中の有芽胞細菌は 7〜10kGyで衛生基準以下に殺菌される。 ターメリックや黒コショウ等の必要殺菌線量はガンマ線に比べ電子線の方が約1.1倍多いが、多くの香辛料は 10kGy以下で殺菌できる。 香辛料の多くは長期貯蔵中に好浸透圧性糸状菌のアスペルギルス属(コウジカビの近縁種)によって変敗する。 乾燥香辛料をポリエチレン袋に入れて夏期の高湿度下で貯蔵すると多くの香辛料は2kGyで糸状菌の増殖が抑制されクラフト紙袋では5kGy必要であろう。 また、香辛料にはアフラトキシン(発癌性物質)やオクラトキシン等のカビ毒を産生する糸状菌も汚染している。 これらの糸状菌は通常の乾燥下では増殖しにくいが、他の食品に混合した場合に増殖する可能性がある。 しかし、これらの糸状菌も2〜5kGyで完全に殺菌できる。食事の時に香辛料を直接振りかける場合に問題になる大腸菌群は多くの香辛料では2kGy程度で殺菌されるが、香辛料によっては10kGy近く照射しないと殺菌されないものもある。

 乾燥野菜や乾燥果実、生薬なども大腸菌群や糸状菌による汚染、有芽胞細菌の汚染が問題になるが、殺菌線量は香辛料と同じであろう。配合飼料等で問題になるサルモネラや大腸菌群も5kGyで殺菌可能である。

6.照射食品の食味および色調変化と完全殺菌

 米国の初期の研究やわが国の原子力特定総合研究で遭遇した照射による異臭の発生は主に動物性食品を過剰に照射する場合に問題になる。 この異臭は照射臭またはケモノ臭とも呼ばれており、主に食肉製品や魚介類を過剰に照射することによって発生し、穀類などでも希に認められることがある。 この照射臭と似た臭いは肉類を日光にさらすときにも発生するもので、主として脂質とタンパク質の放射線分解による揮発性物質である。 牛肉や豚肉などの照射臭の成分は主にメルカプタン類などの硫黄化合物、カルボニル化合物等であると報告されている。 照射臭が殊に発生しやすいのは牛乳と卵であり、室温で1kGy照射しても明確に認められる。 一方、牛肉、豚肉、鶏肉、ソーセージ、生鮮魚介類などは2〜3kGy程度の照射では照射臭はほとんど発生せず、無酸素下で照射すれば5kGyでも照射臭の発生は抑制できる。 また、無酸素下・−20〜−40℃の凍結下で照射すれば50kGyでも照射臭の発生が抑制できると報告されている。 なお、肉類や魚介類を照射する際に用いられる包装材によっても照射臭が発生する。 ことに、ポリエチレンや塩化ビニル製品などでは10kGy程度の照射でカルボニル化合物等による異臭が発生し、それが包装材内の食品に移行して食品そのものの照射臭と誤解されることがある。 照射による異臭発生が少ない材料はナイロンやアルミホイルであろう。 香辛料やコーヒー豆、緑茶などは照射によって好ましい香りが強くなるものが多い。 この理由は照射によって精油成分が抽出されやすくなるためと思われる。 一方、1kGy以下の照射食品の場合には照射による異臭発生や食味変化はほとんど問題にならない。

 卵白や魚介類などを照射すると苦味が認められることがある。 苦味の原因は疎水性ペプチドが生成することによると報告されており、一部のタンパク質が放射線で分解して生成するのであろう。 しかし、食肉や魚介類の多くは1〜2kGy程度の線量では食味の変化が認められないものが多いし、無酸素下や凍結下で照射すれば食味の変化は著しく抑制される。 また、照射による苦味変化対策としてはポリ燐酸塩や香辛料等を添加して苦味をマスキングすることが有効である。 米国などではポリ燐酸塩を0.5%以下の濃度で食肉に添加して凍結下で30〜50kGy照射することにより、宇宙食や軍用食などが製造されている。 もちろん、この保存食は缶詰と同じ目的であり、約70℃で加熱調理して酵素やウイルスを不活性化させ、真空下・−20〜−40℃でボツリヌス菌や他の微生物類を完全に殺菌処理するもので、加熱滅菌された缶詰と比べビタミン類や必須アミノ酸類の分解が少ない栄養的に優れた保存食である。

 食品類の多くは放射線を照射しても急激な色調変化は起こらない。 たとえば、香辛料を50kGy照射しても色調変化は無視できる。 しかし、食肉の場合には照射により赤変、褐変、退色などが起こりやすい。 鶏肉や豚肉を3kGy以上照射すると肉眼でも赤色度が明確に増加する。 一方、牛肉やカツオ、マグロなどでは赤褐食に変化する。 生鮮肉の照射による赤色度増加はタンパク質の一種ミオグロビンと分子状酸素の反応により形成されるオキシミオグロビンが増加するためであり、牛肉などが赤褐食に変化するのはオキシミオグロビンの他にメトミオグロビンが増加するためである。 一方、ウインナソーセージなどを照射すると退色が認められることがある。 食肉や魚肉製品で照射による退色が起こるのはカロチノイドやポルフィリン環が放射線で分解されるためであろう。 しかし、牛肉や鶏肉、ソーセージなどを無酸素下で照射すると照射による色調変化は低減される。

 その他、食味の一つとして重要なテクスチャー(噛みごたえ)も重要であるが、食肉や魚介類の場合には5kGy以下では問題にならない。

7.おわりに

 わが国で1967〜1983年まで行われた原子力特定総合研究で取り上げられた7品目のほとんどは国民生活にかかわる食材であり、現在の時点で見ても実用化可能な品目が多い。 わが国では馬鈴薯だけが許可されているが、発芽防止剤の収穫前散布が禁止となった現在ではタマネギやニンニクなどの根茎野菜類も放射線処理実用化の可能性がある。 また、臭化メチル薫蒸が禁止となったため、米、小麦、大豆、飼料原料などの殺虫処理にも放射線処理が使えるであろう。 肉類や魚介類の食中毒対策としてはウインナソーセージや水産練り製品のデータが使えるであろう。 また、特定総合研究以後に行われた香辛料やグレープフルーツ、冷凍エビ、鶏肉等のデータもある。海外から輸入されてくる生鮮果実の検疫処理も臭化メチル代替法として放射線処理が考えられる。 ここに述べた照射効果についてはページ数の関係で大分割愛したが、詳しくは参考文献などを読んでいただきたい。

 次回は照射食品の安全性を評価した動物試験や放射線分解生成物等について解説する。

文献

1) 緒方邦安、茶珍和雄:放射線照射と果実・そ菜の生体反応−発芽抑制と果実の熟度調整をめぐって−、化学と生物、10、234 - 242(1972)。
2) The Joint FAO/IAEA Division of Nuclear Techniques and Agriculture : Insect Disuifestation of Food and Agricultural Products by Irradiation, STI/PUB/ 895, IAEA, Vienna, 1991.
3) 林 徹:臭化メチルをめぐる国際情勢と放射線照射、食品照射、31、19 - 21(1996)。
4) P. Yutapong, D. Banati and H. Ito : Shelf life extension of chicken meat by γ-irradiation and microflora changes, Food Sci. Technol., Int., 2(4), 242 - 245(1996).
5) 伊藤 均、他:ガンマ線照射したウインナソーセージのミクロフローラに及ぼす包装フィルムの影響、日本農芸化学会誌、51、603 - 608(1977)。
6) 伊藤 均、Harsojo:食肉中での大腸菌O157:H7の放射線殺菌効果、食品照射、33、29 - 31(1998)。
7) H. O. Rashid, H. Ito, et al : Distribution of pathogenic vibrios and other bacteria in imported frozen shrimps and their decontamination by gamma-irradiation, World J. Microbiol. Biochem., 8, 494 - 499(1992).
8) M. L. Juri, H. Ito, et al : Distribution of microorganisms in spices and their decontamination by gamma-irradiation, Agric. Biol. Chem., 50(2), 347 - 355(1986).
9) H. Ito and M. S. Islam : Effect of dose rate on inactivation of microorganisms in spices by electron-beams and gamma-rays irradiation, Radiat. Phys. Chem., 43(6), 545 - 550(1994).
10) 金子信忠、伊藤 均、他:香辛料の精油成分及び脂質に対するγ線照射の影響、日本食品工業学会誌、38(11)、1025 - 1032(1991)。
11) C. Merritt Jr, et al : Chemical changes associated with flavour in irradiated meat, J. Agric. Food Chem., 23(6), 1037 - 1041(1975).
12) K. E. Nanke, et al : Color characteristics of irradiated vacuum-packaged pork, beef and turkey, J. Food Science, 63(8), 1001 - 1006(1990).
13) 伊藤 均:食品照射の基礎と安全性、JAERI−Review2001-029、日本原子力研究所、2001。

関係する論文一覧に戻る

ホームに戻る