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食品照射解説(COMMENT)

専門的解説 食品照射解説資料


発表場所 : 放射線と産業, 115 号, pp. 30-33
著者名 : 林 徹
著者所属機関名 :
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所
(305-8642 茨城県つくば市観音台2-1-12)
発行年月日 : 2007 年

はじめに

1.照射に供する食品

2.照射施設の管理

3.照射食品の表示

4.照射食品の検知技術

5.おわりに

 


食品照射の管理

はじめに

 わが国では馬鈴薯の照射のみが許可、実用化されており、他の食品の放射線照射や照射食品の流通は禁止されている。食品照射は31ヵ国及び台湾で実用化されており、照射食品の流通量は約30万トンと推測されている。照射食品として最も多くの国で実用化されているのが香辛料であり、その照射量は1991年で約3万トン、2000年には約9万トンに増えてきており、2004年には48カ国で許可、29カ国で実用化されている。このように各国で照射されている香辛料が違法にわが国に輸入される可能性は否定できない。また、香辛料などの照射が許可、実用化される場合、それを適切に管理するシステム作りが重要である。いずれにしても、食品を適切に照射し、適正に照射された食品のみを流通させるための国際的なシステムを作り出すことが非常に重要であり、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)の国際機関は食品照射を管理するシステムを構築するための活動を行っている。国際食品規格(コーデックス)委員会の策定した照射食品に関する一般規格(一般規格、表-1)及び食品照射に関する実施規範(実施規範)が食品照射の管理の基本となる。

表-1 コーデックス照射食品に関する一般規格の要点
コーデックス照射食品に関する一般規格の要点

1.照射に供する食品

 食品照射は食品衛生の基準に則って実施すべきであり、この旨は、コーデックスの一般規格及び実施規範に記述されている。一般規格の「4.1一般要求事項」には「食品照射を適正衛生規範(GHP)、適正農業規範(GAP)、適正製造規範(GMP)の代替として利用してはならない。」と記述されている。また、EUのDirectiveなどにおいても「食品照射を食品衛生処理の代替としてはならない。」と記述されている。すなわち、衛生状態の悪いものを清浄化する手段として安易に食品照射を実施することを戒めている。

2.照射施設の管理

 わが国における放射性同位元素及び放射線発生装置による放射線の利用は、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律のほか、労働安全衛生法、医療法、薬事法等によって規制されている。照射施設は、建設する前に政府当局の許可を受け、施設の建設・稼働開始後には安全で適切に運転されていることを保証するために、定期的に立ち入り検査、監査、およびその他の調査を受けなければならない。士幌の馬鈴薯照射施設はこれらの検査以外に所轄保健所の定期的な検査も受けている。

 コーデックス一般規格には、「照射施設、照射の日付、ロットの確認、線量など照射に関する詳細な事柄が確認できる出荷説明書の貼付」、「原則再照射の禁止」が記述されている。また、コーデックス実施規範には、「未照射物と照射物の隔離、カラーインディケータの貼付」及び「照射施設の記録簿への照射処理された食品類及び状態、包装または無包装の状態、出荷状況、放射性線源または加速器の種類、線量測定結果、線量計の種類と校正の詳細、処理の日時の記録保存」の履行が記述されている。

 照射施設の管理で特に重要なものは線量測定と記録の記帳・保管である。後述するように、照射食品の履歴をたどるために不可欠なのが記録である。記録は、照射、流通、加工、販売のすべての段階で記帳、保管されなければならない。

 さらに、IAEAは国際的に統一した適切な食品照射を実施するために、・害虫防除を目的とした穀類の照射に関する適正照射規範、・害虫防除を目的とした生鮮果実の植物防疫手段としての照射に関する適正照射規範、・成熟遅延による貯蔵期間の延長を目的としたバナナ、マンゴー、パパイアの照射に関する適正照射規範、・発芽抑制を目的とした根茎菜類の照射に関する適正照射規範、・殺菌を目的とした香辛料の照射に関する適正照射規範、・殺菌を目的とした生あるいは冷凍の畜肉や食鳥肉の照射に関する適正照射規範、・殺菌を目的とした冷蔵の生魚及び冷凍のカエル脚やエビの照射に関する適正照射規範、・殺虫を目的とした乾燥魚及び塩蔵魚の照射に関する適正照射規範を作成している。

3.照射食品の表示

 多くの国で国際的なロゴマーク(RADURAマーク、図-1)が照射食品の表示に用いられている。しかし、世界中の消費者にこのロゴマークを知らしめるのは不可能であり、ロゴマークだけでの表示では情報提供が不十分であるという認識のもと、言葉での表示が国際的なルールとなっている。

 コーデックス一般規格には、照射食品の表示について、「出荷説明書に照射の事実を記載すること」、「最終消費者に対してバラ積みで販売される食品の場合、食品名ととともにロゴマークと照射されている旨の言葉を食品が入っているコンテナーに表示すること」、また「包装済み照射食品については、コーデックスの包装済み食品の表示に関する一般規格に従うこと」と記述されている。コーデックスの包装済み食品の表示に関する一般規格には、照射食品の表示について以下のように記述されている。
a) 照射食品は、食品名の近くに照射された事実を言葉で表示しなければならない。食品照射のロゴマークは任意で用いてもよいが、その場合には食品名の近くに表示しなければならない。
b) 照射された製品が、他の食品の原材料として使用された場合は、この事実を原材料リストに記述しなければならない。
c) 照射された原材料を用いて調製された単一成分食品については、照射された事実を表示しなければならない。

 このような国際的なルールに従い、ほとんどの国で照射食品は国際的なロゴマーク(図-1)と言葉で表示されている。わが国において、照射馬鈴薯に関する表示は従来ダンボールに対して行われていた(図-2)が、最近、個装にもラベルを貼るようになってきている。照射食品の表示は、包装食品、バラ積み食品のいずれに対しても行うべきものであり、さらに原材料等として利用される場合にも行うべきものである。しかし、「コーデックスの包装済み食品の表示に関する一般規格に従えば含量が5%以下の原材料については表示義務がない。」という誤解がある。それは、コーデックスの包装済み食品の表示に関する一般規格の原材料表示に係る記述“Where a compound ingredient constitutes less than 5% of the food, the ingredients, other than food additives which serve a technological function in the finished product, need not be declared.”の誤解によるものである。この文章は「複数の原料(例:コショウ、ターメリック、セージ、パプリカなど)からなる原材料(例:香辛料)の含量が5%未満の場合には、個々の原料を列記する必要がない。総称(香辛料)を表示すればよい。」という趣旨である。すべての原材料は表示義務があり、少量でも照射香辛料が原材料として使用されている食品は原材料として「照射香辛料」を表示する必要がある。

図-1 国際的に使用されている照射食品のロゴマーク
国際的に使用されている照射食品のロゴマーク


図-2 照射馬鈴薯の表示
照射馬鈴薯の表示

4.照射食品の検知技術

 わが国も参加したFAO/IAEAの照射食品検知のための国際研究プロジェクト(1990-1994)において、電子スピン共鳴(ESR)法、熱ルミネッセンス(TL)法、化学的方法(炭化水素法など)、その他の物理学的方法(粘度測定など)、生物学的方法(微生物数計測など)など多様な検知技術の開発が進められた。EUでの研究プロジェクト(1990-1993)でも、同様に多くの方法が検討され、有望な方法はプロトコールを作成してその妥当性確認試験が実施された。

 これらの成果に基づき、ヨーロッパ標準委員会(CEN)が1996年以降10種類の分析方法を標準分析法として採択している。また、コーデックス委員会は、化学分析法(2−アルキルシクロブタノン法、炭化水素法)、TL法及び光励起発光(PSL)法、骨含有食品、セルロース含有食品、結晶糖含有食品を対象としたESR法3種、DNAコメットアッセイ法、DEFT/APC法(総菌数と生菌数の比を指標とする方法)の9分析法をコーデックス標準分析法として採択している(表-2)。

 わが国では、公的研究機関や大学等において、化学分析法、ESR法、TL法、PSL法、DNAコメットアッセイ法等について研究開発が進められた。また、これらの機関で、TL法やESR法を用いた依頼分析を実施している。また、市場で購入した香辛料には、基準値よりも高いパラメータ値を示すものもあることが明らかになっている。以上のように、実用的な検知技術はすでに確立されており、わが国においても、実用性が認められている検知技術を早急に公定法化する必要がある。

 照射食品の検知技術は適切な表示を実施させるためのものであり、照射の有無を正確に判断することが役割であり、線量推定をする必要はない。照射食品が正確に表示されれば、その履歴等は、トレーサビリティ(照射・流通の記録の記帳と保存により、照射施設や線量がわかるようにすること)のシステムを確立することにより、知ることができる。

表-2 国際的に認知された照射食品の検知技術
国際的に認知された照射食品の検知技術

5.おわりに

 食品照射は照射工程、流通、消費の各段階で適正な管理が行われることが肝要であり、国際機関や国際プロジェクト等を通じて、そのためのシステム、技術が確立されている。わが国にもこれらのシステムや技術が適切に導入されることが望まれる。

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