馬鈴薯の品種、収穫日、産地、照射時期、試料重量、線量、貯蔵条件を第1表に示す。
42年産”男爵”は、収穫直後および1カ月、3カ月の現地貯蔵を行なった試料を用いる予定であったが、輸送途中に室蘭本線の事故のため滞貨し、照射時期は予定よりはるかに遅れてしまった。
43年産”島原”は、収穫後15日および45日目の現地貯蔵を行なった試料を用いた。
43年産”男爵”は収穫後45日のものと、到着後室温貯蔵を行ない、収穫後116日の0.5〜1cm程度発芽したものを試料とした。
品種 |
収 穫 日 |
産 地 |
照射時期 |
全重量(kg) |
線 量(krad) |
貯蔵温度 |
男爵 |
昭和42.9.15 |
北 海 道 千歳郡恵庭町 |
収穫後 40日 〃 90日 〃 130日 |
1200 〃 〃 |
0、7、15、30 〃 〃 |
1℃、5℃ 室温 〃 〃 |
昭和43.9.25 |
北 海 道 倶知安町 |
収穫後 45日 〃 116日 |
240 〃 |
0、7、15 〃 |
5℃ 室温 〃 |
|
島原 |
昭和43.6.23 |
長 崎 県 南高来郡 |
収穫後 15日 〃 45日 |
120 〃 |
0、7、15 〃 |
5℃ 室温 〃 |
試料の照射処理は、日本原子力研究所高崎研究所のコバルト−60ガンマ線照射施設を利用した。
試料は、照射前に腐敗試料を除き、健全粒を選んで用いた。43年産”男爵”は、巾17×26×26cmアルミ製照射箱に試料を入れ、コンベアにつりさげて連続照射処理を行なった。線量はコバルトー60線源の増減とコンベア−速度を変えることにより調製した。
43年産”島原”の照射は、巾16.5×28×25.5cmのダンボール箱に、また”男爵”の照射には前記のアルミ製照射箱に試料を入れ固定照射を行なった。線量率は7×10・E(4)R/hrで、両面からの反転照射によって平均線量が7および15kradになるようにした。またいずれの場合も照射時の温度は特に調製せず、室温で照射した。
照射試料のうち”男爵”はクラフト紙袋に約20kgを入れ、”島原”は照射時に用いたダンボール箱のまま貯蔵を行なった。こうして43年産”島原”は収穫7カ月後における重量減少率を、一方43年産”島原”および”男爵”は、それぞれ収穫後9カ月間および収穫後8カ月間の貯蔵中における重量減少率を調べた。重量測定のさいに腐敗個体があれば除去したのちに測定した。
重量減少率を測定する際、同時に発芽率についても調べた。42年産”男爵”の発芽状態は、芽の重量の占める割合で表わした。一方、43年産”島原”および”男爵”は、前者は70〜90個体、後者は100個体を用いて、貯蔵期間中の発芽粒数を発芽率として表わした。ただし非照射区の発芽は真の発芽であるが、照射区の発芽は真の発芽ではなく幼葉とよばれるものである。
43年産”男爵”を用い、0.5〜1cm程度の発芽時期に照射処理を行ない、芽の生長抑制効果および新しい発芽の抑制効果を調べた。
42年産”男爵”の収穫後40日に照射処理を行なったものを、5℃および常温に6カ月間貯蔵して試料とした。
官能検査は試料を電子レンジで20分間加熱し、12名のパネルで9点法によって採点した。
テキスチュロメーター用の試料は、電子レンジで10分間加熱し、家庭用ポテトマッシャーでマッシュしたのち、直径20mm、厚さ7mmに整形して入力0.5Vで測定した。
第2表は照射後5℃および常温貯蔵を行ない、収穫7カ月後の重量減少率および発芽について調べた結果である。5℃貯蔵区の重量減少率は、非照射と照射試料との間にほとんど差が認められなかったが、常温貯蔵区では非照射試料の発芽が著しく、その結果重量減少率も照射試料よりも大きい。しかし常温に長期間貯蔵すると、馬鈴薯水分の蒸散のために萎縮し表面にシワが多くなる。常温貯蔵区では照射時期が異なると重量減少率も変わり、照射時期が遅くなるに従い重量減少率は増加する。非照射試料は全個体が発芽しており、とくに常温貯蔵区の試料では芽の重量率は12〜14%を示し、商品価値が失われた。発芽抑制効果は照射時期の違いにより多少異なり、常温貯蔵区で完全に発芽を防止するために収穫40日後照射では15krad、90日後照射では30kradが必要である。
しかし前者の7krad,後者の15krad照射試料の全個体の芽もわずかに芽を出したという程度であり、またその後の芽の伸長も押さえられている。この程度の発芽では商品価値をそこなうようなことはない。収穫130日後の試料には、全個体にではないが1〜2mm程度の発芽が見られ、この状態で照射を行っても7krad、15kradで発芽抑制効果があり、また芽の伸長を抑さえることができる。つまり実際的には収穫130日後くらいまで、若干芽を出した程度までの間に7〜15krad照射することによって”男爵”の発芽抑制は充分抑制することができる。
貯蔵条件の相違を見ると、1℃貯蔵区では照射、非照射を問わず発芽は完全に抑えられていたが、低温傷害をうけ変色および出庫後の腐敗が激しく、馬鈴薯の貯蔵条件としては不適当であった。また5℃貯蔵区では非照射試料の発芽を遅らせることはできるが、カビによる汚染が多くみられた。
第3表は収穫40日後照射処理を行ない、常温および5℃貯蔵をし収穫7カ月後の試料について官能検査およびテキスチュロメーターで物理的特性を調べた結果である。官能検査の結果は、常温貯蔵区のものは非照射より照射のほうが明らかにスコアーはよく、5℃貯蔵の場合は30krad照射区が他の試料よりも悪かった。テキスチュロメーターによる物理的特性、とくに固さについてみると、常温貯蔵区では試料間に差が認められなかったが、5℃貯蔵区のものは、照射線量の増加にともなって固さは低下していた。
(収穫 7カ月後) |
照 射 時 期 貯 蔵 条 件 |
照 射 線 量 (krad) |
|
0 7 15 30 |
||
40日後 |
常 温 5 ℃ |
12.5***(12.7) 6.5 7.0 6.0 3.5** 3.0 4.0 2.0 |
90日後 |
常 温 5 ℃ |
18.5***(13.5) 12.0* 13.5* 12.0 6.5** 6.0 2.0 2.5 |
120日後 |
常 温 5 ℃ |
21.0***(14.0) 12.0* 15.5* 14.0* 6.0** 2.0** 1.0** 5.0** |
注:***:全個体が発芽した **: 〃 がわずかであるが発芽した *:数個体がわずかであるが発芽した ( )内は芽の重量率:芽の重量/全重量×100 |
(収穫 40日後照射し7カ月後のもの) |
|
照 射 線 量 (krad) |
|
0 7 15 30 |
||
官 能 検 査 |
常温貯蔵 5℃貯蔵 |
2.3 3.9** 4.1** 3.3** 4.3 3.2 4.0 3.1** |
テキスチュロ メーター |
常温貯蔵 5℃貯蔵 |
4.7 5.0 5.0 4.5 4.1 3.8 3.5 2.7 |
注 1 電子レンジで20分間加熱、嗜好度を12名のパネルで9点法を用いて採点した。 注 2 電子レンジで10分間加熱、マッシュポテトにして固さを測定。 * 印 5%の危険率で、非照射との間に有意差あり。 **印 1% 〃 |
第4、5、6表は収穫15日後照射試料の重量減少率、常温および5℃貯蔵区の発芽率を調べた結果である。貯蔵中の重量減少率は、5℃貯蔵区では非照射と照射との間に全く差が認められなかったが、常温貯蔵区では非照射の重量減少率は照射よりも明らかに高かった(第4表)。
発芽率は、第5、6表にまとめられている。常温貯蔵区の各試料に腐敗粒がわずかであるが認められたが、5℃貯蔵区のものには全く認められなかった。一方、発芽率は、非照射試料の両貯蔵区ともに長期貯蔵によって100%の発芽率を示したが、照射試料は常温貯蔵区の7krad照射のものがごくわずか発芽したほかは完全に発芽が押えられている。しかしこの7krad照射での発芽もわずかに芽を出したという程度でその後の芽の伸長もなく、実際には問題がないといえる。
第7、8、9表は収穫45日後照射試料について前記と同様に調べた結果である。”島原”は休眠期間の短い品種であり、収穫後45日を経たものは発芽直前のものといえる。事実発芽といえないまでも試料のなかにはわずかに白い芽がふくらみ始めた状態(1〜2mm)程度のものも少なくなかった。重量減少率は5℃貯蔵区、常温貯蔵区ともに照射線量が高くなるに従い低下していた(第7表)。一方、発芽率は両貯蔵区とも7kradの照射で約40%を示したが、芽の長さはごく短く(2mm程度、幼葉)、その後の伸長も押さえることができる(第8、9表)。以上より収穫45日後までに照射する場合、7krad照射でも発芽の遅延、芽の伸長の抑制効果がある。実用化に際しては発芽直前までの間に7〜15kradの照射で十分と考えられる。
(%) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
|
36 66 110 134 158 185 240 |
||
常 温 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
3.2 4.4 14.1 19.3 21.4 24.0 27.4 2.7 3.4 6.1 8.8 8.8 13.2 13.3 0.6 3.6 8.6 11.3 12.3 12.5 13.2 |
5 ℃ 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
0.1 0.2 0.6 0.7 2.0 2.2 3.3 0.2 0.6 0.9 1.4 1.6 2.6 3.6 0 0.4 0.6 1.2 2.0 2.8 3.5 |
(常温貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
36 66 110 134 158 185 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
24.3 100 100 100 100 100 100 0 0 1.9 1.9 1.9 1.9 1.9 0 0 0 0 0 0 0 |
(5℃貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
36 66 110 134 158 185 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 0 11.1 30.3 88.1 100 100 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 |
(%) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
|
66 110 134 158 185 240 |
||
常 温 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
1.1 6.0 14.9 15.2 16.8 20.8 2.0 8.7 14.0 14.6 15.0 17.0 0.4 4.0 7.7 8.5 8.5 9.3 |
5 ℃ 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
2.4 3.4 7.0 8.0 8.3 11.7 0 0.3 2.9 2.9 2.9 2.9 0 0 1.0 1.6 1.6 2.2 |
(常温貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
66 110 134 158 185 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 100 100 100 100 100 0 6.7 40.2 40.2 40.2 40.2 0 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 |
(5℃貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
66 110 134 158 185 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 68.6 68.6 96.5 100 100 0 4.2 22.8 34.4 37.5 37.5 0 0 0 4.6 4.6 4.6 |
第10、11、12表は収穫45日後照射試料の重量減少率、常温貯蔵区および5℃貯蔵区の発芽率について調べた結果である。重量減少率は5℃貯蔵区の非照射と照射との間にはっきりした差は認められなかったが、常温貯蔵区の場合は、非照射のほうが照射よりも明らかに高かった(第10表)。腐敗粒は両貯蔵区の各試料ともに認められなかった。
第11、12表に示されたように7kradの照射では発芽を遅らせることはできても完全に発芽抑制することはできないが、芽を出す程度でその後の伸長は抑制できる。以上のことからも”男爵”の場合収穫45日後までに照射し、発芽抑制するには7〜15kradの照射で十分である。
|
収 穫 後 の 日 数 |
|
45 78 110 147 188 240 |
||
常 温 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 2.0 3.3 4.8 7.8 15.0 0 2.6 3.9 4.1 5.1 9.2 0 1.0 3.3 2.8 6.4 8.7 |
5 ℃ 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 0 0.4 1.0 1.5 1.8 0 0 1.0 1.1 1.6 3.1 0 0 0.5 0.9 2.9 2.1 |
(常温貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
45 78 110 147 188 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 100 100 100 100 100 0 0 0 0 0 100 0 0 0 0 0 63.0 |
(5℃貯蔵区) |
|
収 穫 後 の 日 数 |
45 78 110 147 188 240 |
|
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 0 0 0 30 70 0 0 0 0 0 21.0 0 0 0 0 0 0 |
43年産”男爵”を用い、すでに0.1〜1cmくらいの発芽が現れた収穫116日後に照射処理を行なった。第13表は貯蔵中における重量減少率を調べた結果で、常温貯蔵区および5℃貯蔵区ともに非照射試料と照射試料とに差が認められなかった。
非照射試料の芽の伸びは5℃貯蔵により抑制されたが、常温貯蔵区での芽の伸びは著しい。一方、照射試料は、常温および5℃の貯蔵区をとわず照射により芽の組織が損傷を受け腐敗し、芽の伸びは7〜15kradの照射によって完全に阻止された。この芽の腐敗は照射によって組織が軟化し、カビの汚染を受けやすくなったためであるが、芽の部分的な腐敗に止まり馬鈴薯本体のほうは悪影響を受けていない。貯蔵中に新しい発芽が認められたが、芽の伸びはごくわずかで、また線量間を比較すると7kradのほうが15kradよりも芽の伸びは長く、1個体当たりの芽の数も多かった。
以上のことよりすでに発芽し芽の長さが0.5〜1.0cmになっているものでも、7〜15kradの照射によって芽の伸長を抑えかつ新しい発芽を効果的に抑制することができる。
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収 穫 後 の 日 数 |
|
116 147 188 240 |
||
常 温 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 1.3 5.2 11.2 0 2.2 5.7 8.5 0 2.7 5.7 8.5 |
5 ℃ 貯 蔵 区 |
非 照 射 7 krad 15 krad |
0 1.0 2.3 4.5 0 1.2 2.7 3.7 0 1.2 2.7 3.8 |
コバルト60ガンマ線照射による馬鈴薯の発芽防止効果について”島原”および”男爵”を用いて照射時期と発芽率、重量減などを調べた。
1 ”男爵”と”島原”では休眠期間が異なり、収穫後の貯蔵条件によっ
て多少の変動はあるが、前者は約100日、後者は45日ぐらいであ
る。この休眠期間に照射するなら7kradで両品種とも効果的に発
芽を抑制することができる。ただし発芽直前のものは、7kradで
は完全に発芽を抑制することができず長期貯蔵中に芽を出すが、これ
もほとんど伸長しないので実際面では問題にならない。また15kr
ad以上ではほぼ完全に発芽を抑制する。
2 ”男爵””島原”ともに休眠期を過ぎて若干発芽し始めたものでも、
7kradで発芽した芽の伸長を押え、かつ新しい発芽を抑制できる
。発芽した”男爵”の芽の長さが0.5〜1.0cm程度あるもので
も7kradで効果的にその芽の伸長および新しい発芽を押さえるこ
とができる。15kradでは一層強く、とくに新しい発芽を抑制す
るが、実用化を考えた場合7kradと15kradの間にそれほど
大きな差はない。また0.5〜1.0cm発芽した芽は、7〜15k
radの照射で、芽の部分のみが腐敗するが、これは馬鈴薯本体に悪
影響を与えるものではない。
3 照射後の貯蔵温度は1℃では低温傷害を起こすために不適当である。
5℃貯蔵は重量減、発芽率の点で室温貯蔵よりもよい結果を与えてい
るが、冷蔵コストを考慮に入れると実用化に際しては室温貯蔵で十分
目的を達せられる。
4 このほか照射時期による重量減少率の変化、貯蔵温度による腐敗率の
変化、テキスチュロメーターによる物性の変化、官能検査などを調べ
たが、いずれも照射による影響、線量間の差異は問題にならない程度
である。
以上の結果より”男爵””島原”の実用化に即した発芽抑制のためには、目的とする貯蔵期間を収穫後9カ月と設定して、休眠期間中または若干の発芽(0.5〜10cm程度)状態までに照射するなら7〜15kradの照射で十分目的を達することができる。
1)佐藤友太郎:食品工業、8、(20)、71(1965)
2)佐藤友太郎:食品工業、8、(22)、63(1965)
3)食糧研究所:食糧その科学と技術、第10号、27(1967)
4)佐藤友太郎:梅田圭司:ジャパン・フードサイエンス、8、(7)、61
(1969)
(梅田圭司、高野博幸、佐藤友太郎)