今回はさらに主として二次加工製品原料とされる農林1号について放射線による発芽抑制効果と、これより製造したポテトチップについて放射線処理が製品に与える影響を調べた。
用いた馬鈴薯(農林1号)は43年9月25日北海道で収穫されたもので、収穫後、43日のものと0.5〜1.0cm程度発芽した114日のものに放射線処理を行なった。
試料は各処理区おのおの180kgづつを用いた。
原子力研究所高崎研究所のコバルト60により 17×26×26cmのアルミ製照射箱に試料を入れ、線量率 7×10・E(4)R/hr で、7および15krad固定照射を行なった。その後2等分して、一方は常温に他方は5℃の冷蔵室に貯蔵した。線量が1/2の時、試料箱の位置を半転し、線量が均一になるようにした。照射温度はとくに調整はしてない。
各処理区70〜90個体について発芽率を求め重量減少率は約20kgの健全個体について求めた。
専門メーカーである都内A工場に依頼して、収穫43日後に照射し、約5カ月間常温または5℃に貯蔵した馬鈴薯を用いて各線量区ごとに20kgづつポテトチップスを製造した。
食糧研究所職員20人によりポテトチップスの色、かたさ、揚り具合い、総合につき9点法で採点した。
ポテトチップス製造に用いたジャガイモについて 3 5ージニトロサリチル酸による比色法(2)により還元糖量を測定した。
チップスを粉砕して80メッシュのふるいにかけ、25gを24〜48時間アセトンにひたしたのち油を抽出した。油は濾過濃縮して20mlとし、ロビボンド比色計による色調を測定した。
(7)で脱油したチップス粉末を日立製自記分光光度計EPS−3Tにより反射光を測定し(554mμ)粉末の着色度を比較した。
第1、2表に貯蔵中の発芽率を示した。収穫後1カ月半後に照射して常温貯蔵した場合非照射のものでは収穫後2カ月半で100%が発芽したが、照射区では6カ月以上7kradで完全に発芽が抑えられている。7krad照射のものは常温8カ月後で全個体に発芽が見られたが、芽は非常に短く商品価値を損なうほどではなかった。
一方5℃貯蔵では、非照射のものも照射したものも収穫後6カ月間は完全に発芽が抑えられており、240日後も照射区では発芽するものは10%以下であった。
収穫後約4カ月(114日)常温に貯蔵すると全ての個体に0.5〜1.0cm発芽が見られた。この時期に照射処理を行なうとその後室温または5℃に貯蔵しても7kradの処理で芽の部分は腐敗しその後の伸長は完全に抑えられた。ただし新しい芽の出現防止には15kradを要した。
(常温貯蔵区) |
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収 穫 後 の 日 数 |
43 76 110 145 188 240 |
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非 照 射 7 krad 15 krad |
0 100 100 100 100 100 0 0 0 0 0 100 0 0 0 0 0 36.0 |
(5℃貯蔵区) |
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収 穫 後 の 日 数 |
43 76 110 145 188 240 |
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非 照 射 7 krad 15 krad |
0 0 0 0 0 14.3 0 0 0 0 0 8.7 0 0 0 0 0 5.7 |
次に貯蔵中の試料の重量減をみると(第3表)、収穫後43日に照射した馬鈴薯では、常温貯蔵で収穫後約5カ月までは照射区と非照射区とにはっきりした差は認められなかった。非照射区の馬鈴薯は収穫後約2カ月半で全個体にわずかな発芽が認められ、5カ月後からは急激に伸びだしたので、重量減もそれに従って進んだ。5℃貯蔵区では、全貯蔵期間を通じて重量減にはっきりした差は認められなかった。一方収穫後114日に照射した馬鈴薯では(第4表)、その後約4カ月間常温貯蔵または5℃に貯蔵したが、15krad、5℃貯蔵区以外は、重量減に非照射のものとほとんど差はなかった。
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収 穫 後 の 日 数 |
43 76 110 145 188 240 |
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常 温 貯 蔵 区 非 照 射 7 krad 15 krad 5 ℃ 貯 蔵 区 非 照 射 7 krad 15 krad |
0 1.0 3.4 5.0 8.3 12.2 0 1.0 2.9 2.9 5.9 7.8 0 1.0 4.0 4.5 7.1 10.0 0 0.2 0.7 1.0 1.2 2.0 0 0.8 1.0 1.6 1.8 2.8 0 0.5 0.5 1.2 2.6 3.4 |
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収 穫 後 の 日 数 |
114 145 188 240 |
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常 温 貯 蔵 区 非 照 射 7 krad 15 krad 5 ℃ 貯 蔵 区 非 照 射 7 krad 15 krad |
0 2.6 6.0 10.0 0 2.5 5.7 9.5 0 2.7 6.2 10.0 0 1.0 3.9 3.9 0 1.2 3.5 3.7 0 1.0 1.5 2.5 |
第1、2図に常温貯蔵と5℃貯蔵した馬鈴薯から作ったポテトチップスの官能検査の評点を示した。第1図の各点は(非照射 + 7krad + 15krad)の評点の平均値である。これによれば5℃貯蔵した方が明らかに劣りポテトチップス用馬鈴薯は常温貯蔵の方が好ましい。照射処理間同志の差を見ると色は未処理区の方がより高く、揚り具合い、総合でも同様な傾向が見られたが、これは照射区のポテトチップス表面にこげ具合いのむらが目だったためと思われる。照射された馬鈴薯では還元糖量の分布が不均一で、中心部の濃度は周囲より高いがそれが原因であろう(3)。7kradと15krad処理間には、はっきりした差の傾向は認められなかった。
馬鈴薯の還元糖量が多くなると二次製品に加工する際、褐変現象をおこすので好ましくない(4)。照射により一時的に馬鈴薯の還元糖量および非還元糖は増大するがその後、徐々に減少して、3〜4週間後には非照射のものと差がなくなるかかえって低くなる(5、6)。
今回ポテトチップス製造に供したイモは照射後約5カ月経過しており、常温貯蔵、5℃貯蔵ともに照射区の方が還元糖量は少なかった。(第3図)。5℃貯蔵の方がかなり還元糖量が多いのは低温による澱粉の分解に起因する。低温貯蔵されたイモは二次製品加工に先立ち、21〜22℃に2週間ほどおいて還元糖量を下げるのが普通であるが、今回はそのような処理を行なっていない。
実験方法(7)のように、抽出した油の色調を比較したが、ほとんど肉眼で認められるほどの差はなかった(第5表)。
脱油したチップス粉末について反射光を測定した結果、第4図のごとく常温貯蔵より5℃貯蔵の方が、また照射線量は高いほど、反射光率が下がり着色の進んでいることを示した。この傾向は官能検査の色の評価とよく一致している。還元糖量の少ない常温貯蔵区の馬鈴薯で製造したポテトチップスのほうが5℃貯蔵区に比べチップの着色が少ないのは理解できるが、還元糖量の少ない照射区でチップスの着色がより進んでいるのは着色原因が単に還元糖だけではないことを示していると思われる。
線量(krad) |
常温貯蔵 5℃貯蔵 |
0 7 15 |
R2.0 Y16.0 R1.4 Y13.7 R1.2 Y16.0 R1.4 Y16.0 R1.0 Y16.0 R1.4 Y16.0 |
北海道馬鈴薯農林1号について収穫約1.5カ月後放射線処理を行ない発芽防止効果と放射線処理が二次加工製品に及ぼす影響を調べた。
1 7krad処理により収穫後8カ月以上常温で貯蔵可能であった。5℃に貯蔵した場合、7krad処理で、収穫8カ月後も発芽率は10%以下に抑えられた。また収穫後約4カ月の0.5〜1cm発芽した馬鈴薯は、7krad処理常温貯蔵で芽の伸長を完全に抑えられた。
2 重量減は、5℃貯蔵では、処理区間に差がなく、常温貯蔵では約5カ月後まではほとんど差がみられない。
3 照射処理した馬鈴薯から二次加工製品(ポテトチップス)を製造した。官能検査の評点は、非照射区の方がすぐれていたが、7krad区と15krad区間には、明らかな差異は認められなかった。
また、馬鈴薯は、5℃貯蔵より常温貯蔵するほうがポテトチップスの評価は高かった。
4 生馬鈴薯の還元糖量は、5℃貯蔵のほうが常温貯蔵よりかなり多く、また照射量とともに幾らか減少した。
5 ポテトチップスの油の色を比較したが、照射条件や貯蔵条件による明らかな差は認められなかった。
6 ポテトチップスを脱油後粉末化し、その色調を比較した結果5℃貯蔵の方がより着色し、また線量の高いほど着色が進んでいた。すなわち、還元糖量の多少とポテトチップスの着色度とは必ずしも一致しなかった。
最後に、データーの統計処理にあたり、多々お世話をいただいた農林省食糧研究所、石間技官に厚く感謝の意を表します。
1)梅田圭司・高野博行・佐藤友太郎:食品工誌、16、508(1969)
2)二国二郎編:澱粉化学(朝倉書店)、p.429(1956)
3)未発表
4)J.R.,Wisler,A.H.Free,:
Food Technol.,22,218(1968)
5)W.G.,Burton,T.,Horne,D.B. Powell:
Eur.Potato J.,2,(2),105(1959)
6)K.Ogata,T.Iwata and K.Chachin:
Bull. of the Inst.for Chem. Res.,
37,425(1959)
(梅田圭司・川嶋浩二・高野博幸・佐藤友太郎)