農林省食糧研究所および日本原子力研究所より、本試験研究に使用した馬鈴薯試料の調整並びに各実施場所への発送を表1ー(1)のように行なった。
品 種 |
「男 爵」 |
産 地 |
北 海 道 |
入 荷 日 (高 崎 研 究 所 着) |
昭和42年10月19日 |
照 射 |
昭和42年10月23日、25日 |
照 射 装 置 |
Co−60 γ線 照射装置 |
線 量 |
0 および 15 krad |
第 1 回 発 送 (照 射 直 後 分) (高崎研、食糧研究所より) |
昭和42年10月26日 |
第 2 回 発 送 (照射後3カ月貯蔵分) (食 糧 研 究 所 よ り) |
昭和43年2月3日 〜 9日 |
照射直後および室温に3カ月間貯蔵した試料について、化学的試験として糖分、アミノ酸の定量ならびにアミノ酸のパターン変化を測定した。
1kg の馬鈴薯を約0.5cm 角に細切りし、よくかきまぜて、このうちから20gをとり200ml のエタノールを加えてプレンダーでホモジナイズし100℃で抽出を行ない、残渣は200mlのエタノールで同様に再び抽出した。これら抽出液をあわせて50℃で減圧濃縮して50mlとした。糖の定量は Somogyi−Nelson 氏法により、濃縮液より直接還元糖を測定し、それを1NーHCl中で60℃10分間加水分解したものについて全糖を測定した。
照射直後及び3カ月貯蔵の糖含量、非照射の糖含量の定量の結果は表2ー1ー(1)のとおりで、数値的には若干の差があるように見えるが、これと平行して行なった知見からは、有意な差とは考えられない。しかし、照射・非照射に関係なく糖含量は増加する。
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直 後 |
照 射 後 3 カ 月 |
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全 糖 |
還 元 糖 |
全 糖 |
還 元 糖 |
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非 照 射 照 射(15krad) |
223 mg/100g 343 |
117 mg/100g 94 |
385 mg/100g 388 |
368 mg/100g 209 |
水分及び窒素量は、常法により定量し、遊離アミノ酸は試料を75%エタノールで加熱抽出し、アミノ酸自動分析計で比色定量した。
水分及び窒素量については、照射による変化は見られなかったが、遊離アミノ酸個々の含量については、照射による変化がみられた。すなわち鎖状アミノ酸、プロリンおよびアスパラギン酸の増加、塩基性アミノ酸およびグルタミン酸の減少が見られた[表2−2−(1)]。
(μmoles/g) |
ア ミ ノ 酸 |
線 量 (krad) |
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0 |
15 |
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Lys His NH3 Arg Asp AspNH2 GluNH2 Glu Pro Gly Ala Cys Val Met Ileu Leu Tyr Phe Total |
1.48 1.16 2.08 2.19 2.77 33.1 3.93 0.985 0.489 0.754 0.063 3.50 0.792 1.38 0.674 2.34 1.73 59.417 |
1.32 1.07 2.04 2.00 4.29 34.8 2.17 1.46 0.689 1.09 0.034 3.89 0.881 1.69 1.14 2.28 1.91 62.874 |
Total N Extractable N Moisture (%) |
260.9 151.9 79.8 |
238.1 144.5 79.7 |
非照射のものはすべて発芽し、貯蔵前と比べ塊茎中の遊離アミノ酸は減少した。15krad照射のものは発芽せず、その遊離アミノ酸組成は、貯蔵しない非照射のものの組成と類似したものとなった[表2−2−(2)]。以上、馬鈴薯にγ線を照射すると、その遊離アミノ酸組成に変動を生ずるが、貯蔵によりその変動は部分的に回復するという結果が得られた。
(μmoles/g) |
ア ミ ノ 酸 |
線 量 (krad) |
|
0 |
15 |
|
Lys His NH3 Arg Asp AspNH2 GluNH2 Glu Pro Gly Ala Cys Val Met Ileu Leu Tyr Phe Total |
0.756 0.801 1.76 1.24 3.31 24.5 3.90 1.32 0.400 0.668 0.032 3.50 0.885 1.13 0.483 2.27 1.41 48.395 |
0.880 0.988 1.46 1.46 4.23 27.1 3.75 1.89 0.528 0.708 0.023 3.89 0.885 1.38 0.719 2.73 1.82 54.470 |
Total N Extractable N Moisture (%) |
262.5 112.3 77.8 |
251.2 124.6 79.0 |
馬鈴薯の搾汁を100℃に加熱し、香気成分を窒素気流で追い出し、コールド・トラップあるいは誘導体として捕集し、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、UV、IR等で香気成分を同定し、定量はガスクロマトグラムのピーク面積および誘導体の収量によった。
非照射および15krad照射の馬鈴薯より得たガスクロマトグラムおよび誘導体の収量より計算した各香気成分の定量値を表2−3−(1)に示す。この実験で同定定量された香気成分は、エタナール、プロパナール、アクロレイン、アセトン、ブタナール、イソブタナール、イソペンタナール、硫化水素およびメテルメルカプタンである。この表に示されるように、非照射と15krad照射のものとでは、その香気成分の総量及び各香気成分の定量値に大きな変化は見られなかった。
(mg/kg) |
成 分 |
線 量 (krad) |
|
0 |
15 |
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Ethanal Propanal Acrolein Acetone Isobutanal Butanal Isopentanal Hydrogen sulfide Methyl mercaptan Total |
0.074 0.023 0.008 0.013 0.285 0.027 0.272 0.17 0.073 0.945 |
0.058 0.024 0.008 0.011 0.273 0.024 0.277 0.17 0.081 0.926 |
3カ月貯蔵後の馬鈴薯の加熱香気成分の定量値を表2−3−(2)に示す。この場合においても、非照射と15krad照射のものの香気成分の定量値の間には、大きな差は認められなかった。
成 分 |
線 量 (krad) |
|
0 |
15 |
|
Ethanal Propanal Acrolein Acetone Isobutanal Butanal Isopentanal Hydrogen sulfide Methyl mercaptan Total |
0.118 0.059 0.015 0.024 0.304 0.033 0.224 0.17 0.087 1.043 |
0.071 0.032 0.009 0.013 0.324 0.014 0.313 0.19 0.083 1.049 |
化学的試験に供したものと同一の照射ならびに貯蔵を行なった試料について、以下の各試験を行なった。
試料到着後包装を同封し、室温下に一日放置後測定を開始した。塊茎全体の呼吸量は通気式呼吸測定により、組織切片の呼吸量はワールブルグ検圧計を用いて測定した。測定部位は、皮膚部と髄質部組織とした。
塊茎全体の呼吸量は、照射直後、15krad区のCO2排出量は増加し、非照射区のそれより約2.3倍となった。照射後3カ月貯蔵では両方とも呼吸量はかなり低下したが、15krad区は非照射区よりやや高い値を示した[表3−1−(1)]。組織切片の呼吸量は照射直後では皮膚部、髄質部とも15krad区の方がO2吸収量、CO2排出量ともに高い値を示したが、照射後3カ月貯蔵では15krad区は非照射区よりやや低い値を示した[表3−1−(2)]。
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照 射 直 後 CO2 mg/kg/h |
3 カ 月 貯 蔵 CO2 mg/kg/h |
非 照 射 区 15 krad 区 |
3.3 7.5 |
1.1 2.5 |
測 定 温 度 |
19.0 ℃ |
8.0 ℃ |
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皮 膚 部 |
髄 質 部 |
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照 射 直 後 |
3 カ 月 貯 蔵 |
照 射 直 後 |
3 カ 月 貯 蔵 |
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O2 非 照 射 区 CO2 RQ |
80.2* 78.6 0.98 |
120.6 121.4 1.01 |
46.1 47.2 1.02 |
93.3 92.7 0.99 |
O2 15 krad CO2 RQ |
114.1 122.7 1.07 |
105.9 116.0 1.10 |
64.9 69.1 1.06 |
70.3 66.1 0.74 |
* μl/fr.wt.g/h,数値は3回または4回反復の平均値 |
馬鈴薯は、収穫後約1カ月後にγ線照射を行い、照射後に第1回の分析を行なった。他の試料は、室温で貯蔵し照射後3カ月後に第2回の分析を行なった。酵素活性は基質としてコーヒー酸を用い酸素電極法により、馬鈴薯の皮膚部(表皮を含む)と柔組織について測定した。
いずれの場合も柔組織に比べて皮膚部における酵素活性がかなり高いことが判明したが、照射による顕著な変化は見られなかった。以上の結果より15krad程度の線量ではポリフェノールオキシダーゼに関して何ら影響を及ぼさないものと結論される。
堺市近郊で収穫した馬鈴薯(品種:男爵)
収穫直後または3カ月間大阪府立放射線中央研究所において貯蔵した試料をγ線照射した。貯蔵は風通しのよい屋外または低温(4℃±2℃)で行ない、10kradまたは20kradで照射した後に、さらに4カ月間室温(14〜24℃)および低温(5℃)で貯蔵し、貯蔵中における生菌数の変動を調べた。なお照射試料は紙袋に入れて貯蔵した。
細菌および糸状菌の生菌数の計数は前年度の方法に準じ、試料馬鈴薯を直径2cm のコルクボーラーで打ち抜き、表層3mm の厚さに切ったもの15個に対し滅菌水150mlを加えてホモジナイズし、そのホモジネートを寒天培地に接種、平板培養して生菌数を求めた。用いた培地の組成は次の通りである。
細菌計数用培地: 牛肉エキス、 5 g
ペプトン、 5 g/l
pH 7.2
糸状菌計数用培地: NaNO3 1 g
K2HPO4 1 g
グルコース 10 g
rose bengal 70 mg
土壌エキス 100 ml
蒸留水 900 ml
pH 6.0
収穫直後の馬鈴薯を室温および低温で貯蔵し貯蔵中における生菌数の変動を調べた。
屋外で貯蔵した期間は6月〜9月の夏期3カ月間であったが、貯蔵場所は通風のよい日陰であり温度はさほど高くないと思われた。室内で貯蔵した期間は6月〜翌1月の7カ月間で各月の平均気温は6月21.9℃、7月24.2℃、8月23.9℃、9月21.4℃、10月17.1℃、11月14.6℃、12月16.3℃、1月14.3℃であった。
細菌、糸状菌とも、その生菌数は、貯蔵温度によってさほど影響をうけなかった。細菌では7カ月間の貯蔵後にも生菌数の増加はほとんど見られなかったが、そのミクロフローラは貯蔵中にかなり変化し、収穫直後のものでは桿菌(有胞子)と球菌(白色、黄色コロニー)がほぼ同じ割合で見い出されたが、3カ月の貯蔵後には室温の場合も低温の場合も桿菌が7〜8割を占めるようになり、7カ月の貯蔵後にはほとんどすべてが桿菌となった。
糸状菌では7カ月間の貯蔵中にその生菌数が約10倍に増加した。その間におけるミクロフローラの変化はみられず、どの時期にも Penicillium と Cladosporium が多数を占め、他の糸状菌はほとんど見られなかった。
収穫直後の試料では、非照射区に較べて照射区の方が生菌数が少なくなっている。
20krad照射では10krad照射よりも生菌数が減る傾向がみられたが、いずれにしてもこの程度の線量では殺菌効果はなかった。
照射した馬鈴薯を4カ月間室温または低温で貯蔵し、その期間中に生菌数がどのように変動するかを調べたが、貯蔵による生菌数の増加はほとんど見られなかった。また貯蔵温度による差もほとんど認められず、ミクロフローラは細菌の場合は貯蔵中に桿菌の割合が増え球菌はほとんど見られなくなったが、糸状菌では貯蔵による変化はほとんどなかった。以上の結果は、線量および照射前後の貯蔵条件(とくに温度)によって腐敗細菌に対する感受性が変動しないことを示している。