馬鈴薯。品種は「男爵」。6月10日収穫。大きさは中粒のものを供試した。
試験区 照射時期 照射前の 線 量
記 号 保存温度 (krad)
1 収穫直後 室 温 0
2 〃 〃 10
3 〃 〃 20
4 収穫後 3カ月 室 温 0
5 〃 〃 10
6 〃 〃 20
7 収穫後 3カ月 低温(4±2℃) 0
8 〃 〃 10
9 〃 〃 20
収穫直後(約10日後)および3カ月保存後とした。3カ月保存は、室温保存および4±2℃の低温保存とした。照射後試料は室温および15℃で貯蔵した。
線源は大阪府立放射線中央研究所第2照射室のコバルト60、7358 Ci、線量率 2×10・E(4)rad/hr。照射線量は10kradおよび20krad。供試馬鈴薯は約4.5kgずつ網かご(30×20×10cm)に入れ、厚紙でフタをし、線源より同心円周上60cmの位置に直立させガンマ線照射した。
1区6カゴとし、1カゴ45個体約4.5kg。発芽状態は芽の長さが1mm以上のもので、1つでも出ているものは発芽個体とした。重量変化は経時的に1カ月おきに計量し、結果は6連の平均値で示す。
塊茎全体の炭酸ガス排出量の測定は、塊茎10個ずつを用い、通気法により室温で赤外線分析計を用いて炭酸ガス濃度を測定した。
結果は mg CO2/kg/hrとして表示した。塊茎組茎組織切片の呼吸の測定は各試験区から2個体をとり無作為に直径8mmのコルクボーラで打ち抜き、1mm厚の切片をとる。外皮から5mmまでを皮膚部とし、中心部を髄部とした。切片は脱塩水に2時間浸漬し、10枚の切片をワールブルグ容器にとり、1/10 MKH2PO4 2mlを加え、ワールブルグ検圧計で呼吸商を測定した。各区2連の値を平均した。
照射後室温で貯蔵した試料についての結果は表1−(1)および 図1−(1)、1−(2)、1−(3)に示す。非照射の試験区はいずれも10月30日(収穫後約4.5カ月)100%の発芽をみた。一方、ガンマ線照射した区では照射前3カ月室温保存の区を除いて、10および20kradの両照射区とも、2月末日(収穫後約9カ月)まで発芽はなかった。照射前3カ月室温保存の区では、照射時すでに一部発芽していたが、10および20kradの両照射区ともガンマ線照射後は新しく発芽することはなかった。
重量変化では、各照射区とも試験期間中漸減を続けたが、非照射区では10月30日から重量減少が著しくなった。また、試験終了時の重量減少量は収穫時の重量に比べて、各照射区とも5〜7%であったが、非照射区では15〜20%となった。
収穫直後に、10および20kradを照射した試料を、照射後15℃で貯蔵しても全く発芽しなかった。収穫後3カ月室温貯蔵後に照射して、15℃で貯蔵した場合には照射後2カ月で10krad区では12.2%、20krad区では11.9%の発芽がみられた。
処 理 区 * * |
照 射 時 期 |
照 射 前 保 存 温 度 |
照 射 線 量k r a d |
重 量 減 少 (%) |
||||||||||||||||
6/19 |
7/29 |
8/29 |
9/28 |
10/30 |
11/30 |
12/27 |
1/30 |
3/28 |
||||||||||||
1 2 3 |
− 6/24 6/24 |
室 温 〃 〃 |
0 10 20 |
100.0 100.0 100.0 |
97.7 ±0.3 97.8 ±0.3 97.4 ±0.2 |
96.4 ±0.4 96.8 ±0.4 96.0 ±0.4 |
96.0 ±0.3 96.6 ±0.4 96.6 ±0.4 |
95.3 ±0.3 95.8 ±0.4 95.1 ±0.3 |
94.5 ±0.3 95.5 ±0.3 95.0 ±0.3 |
93.2 ±0.4 95.4 ±0.3 94.8 ±0.4 |
91.1 ±0.4 94.9 ±0.4 94.5 ±0.4 |
85.6 ±0.7 94.4 ±0.5 93.9 ±0.4 |
||||||||
4 5 6 |
− 9/9 9/9 |
〃 〃 〃 |
0 10 20 |
100.0 100.0 100.0 |
97.5 ±0.3 97.9 ±0.2 97.9 ±0.4 |
96.4 ±0.3 96.8 ±0.2 96.6 ±0.5 |
96.1 ±0.3 96.4 ±0.2 96.4 ±0.4 |
95.1 ±0.4 95.1 ±0.4 94.9 ±0.5 |
94.0 ±0.3 94.2 ±0.3 94.7 ±0.6 |
92.7 ±0.3 94.2 ±0.3 94.2 ±0.7 |
90.4 ±0.2 93.4 ±0.2 93.6 ±0.7 |
84.3 ±0.3 92.9 ±0.2 92.9 ±0.8 |
||||||||
7 8 9 |
− 9/9 9/9 |
低 温 〃 〃 |
0 10 20 |
100.0 100.0 100.0 |
97.8 ±0.6 97.7 ±1.1 97.5 ±0.2 |
96.5 ±0.5 96.2 ±1.2 96.0 ±0.3 |
96.0 ±0.9 95.5 ±1.1 95.7 ±0.4 |
94.2 ±1.0 94.2 ±1.2 94.4 ±0.6 |
93.0 ±1.03 94.1 ±1.1 94.3 ±0.6 |
90.7 ±1.0 93.9 ±1.3 94.2 ±0.6 |
87.8 ±1.1 93.4 ±1.1 93.8 ±0.8 |
81.7 ±2.7 93.0 ±1.2 93.2 ±0.4 |
||||||||
** 処理区 |
照射時期 |
照射前 保存温度 |
照射線量 krad |
発 芽 率 *** (%) |
||||||||||||||||
9/7 |
9/28 |
10/30 |
11/30 |
12/27 |
1/30 |
|||||||||||||||
1 2 3 |
− 6/24 6/24 |
室温 〃 〃 |
0 10 20 |
7.4 0 0 |
83.0 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
|||||||||||
4 5 6 |
− 9/ 9 9/ 9 |
〃 〃 〃 |
0 10 20 |
12.2 12.2 10.7 |
88.9 12.2 11.9 |
100.0 12.2 11.9 |
100.0 12.2 11.9 |
100.0 12.2 11.9 |
100.0 12.2 11.9 |
|||||||||||
7 8 9 |
− 9/ 9 9/ 9 |
低温 〃 〃 |
0 10 20 |
0 0 0 |
9.3 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
100.0 0 0 |
* 収穫6/10 ** 一区6カゴとし1カゴ45個体約4.5kg *** 芽の長さが1mm 以上のもので、1でも出ている個体を発芽個体とした |
a) 塊茎全体の炭酸ガス発生量の変化は、収穫直後照射区では、照射後3〜5時間してから炭酸ガス発生量が増大しはじめ、20〜30時間後には非照射区の約10倍に達した。しかし、その発生量は続く2日間に急速に減少し、照射後3日目には非照射区の3〜4倍にまで減少し、その後は徐々に低下して約1カ月半後には非照射区とほぼ同じ量になった。
8月末、非照射区の発芽初期にみられる炭酸ガス発生量のわずかな増大は照射区においてもあらわれた。また、非照射区では11月頃より芽が伸長しはじめるが、それとともに炭酸ガス発生量は増大し、重量減少および萎縮が著しくなった。それに対し照射区では発生せずその炭酸ガス発生量もほとんど変化しなかった。
次に、収穫後3カ月室温保存後照射した区では、非照射区に比べ照射1日後で、炭酸ガス発生量は8倍強となったが、22日後には1.5倍程度にまで低下した。11月からは非照射区では炭酸ガス発生量は増大するにもかかわらず照射区ではほとんど変化はなかった。
さらに、3カ月低温保存後照射した区では(低温より室温に戻してから3日目に照射)非照射区に比べて、照射1日後で炭酸ガス発生量は6〜8倍となったが、22日後には同程度となった。11月以降の変化は前二者と同様であった。
b) 塊茎組織切片の呼吸量の変化
収穫直後に照射した区では、非照射に比べて、皮膚部、髄部とも酸素呼吸量が増大するが、特に皮膚部において著しく、照射線量が大きいほど酸素呼吸量が大となった。呼吸商は非照射、照射区とも皮膚部において低下する傾向がみられた。
収穫後3カ月室温保存後照射した区では、非照射区に比べて、酸素呼吸量が増大し、特に皮膚部において著しかった。その後3カ月でほとんど差異がなくなった。この傾向は上記と同様であった。ここで注目すべきことは収穫後3カ月室温保存すると、非照射区の皮膚部において、その呼吸商は約0.85に低下しているが、照射区ではガンマ線照射によって約1.0にまで高まることである。さらに照射後3カ月で、非照射区では呼吸商が漸増し、照射区では逆に漸減していった。髄部の呼吸商はほぼ1.0でいずれの試験区とも変動がなかった。
次に、収穫後3カ月低温保存後照射した区でも、前記二者と同様の傾向がみられた。
以上の結果、各試験区ともガンマ線照射によって一時的な酸素吸収量の増大がみられたが、皮膚部における増大の方が髄部におけるものより大であると思われる。
東京都産の馬鈴薯「男爵」を用いた。その産地、栽培、収穫時期、照射時期は表1−(2)に示す。
産 地 |
土 壌 |
栽 培 |
収穫月日 |
収穫直後照射月日 |
収穫3カ月後照射月日 |
日野市(万願寺) 日野市(七 生) 立川市(都農試) 秋 多 町 八王子市(田木) |
沖積土 洪積土 洪積土 洪積土 洪積土 |
水田裏作 畑 作 畑 作 畑 作 畑 作 |
6.25 7.10 7.11 7. 7 7.14 |
7. 9 7.19 7.19 7.19 7.19 |
9.11 9.11 9.11 9.11 9.11 |
照射は東京都立アイソトープ総合研究所の2.500 Ciのコバルト60線源を用い、線量率は10krad/hr および20krad/hr とした。収穫後3カ月後に照射した区では、照射までの貯蔵は、室温貯蔵のものは都立アイソトープ総合研究所で、低温貯蔵のものは東京都農業試験場の球根用冷蔵庫(3℃±2℃)で行なわれた。
発芽の観察は健全塊茎数および発芽塊茎数を調べ、全個数に対する百分率を求めた。発芽の程度に応じ、+++、++、+、±の区分をうけた。[+++芽の生育、生長が認められるもの、++豆粒のような芽がふくらんだもの(1〜5mmぐらい)、+芽のふくらみの認められるもの(〜1mm、 ケシ粒大)、±芽の分化が外観上認められるもの]
馬鈴薯中の糖分含量は、90%エタノール抽出分画をアンスロン法(全糖)およびソモジ、ネルソ法(還元糖)によって定量した。
試験区全体について、照射の効果をみると、収穫後約8カ月でも、照射したものでは相当数の健全塊茎があった。
照射時期による照射の効果のあらわれ方、および9月照射においては、照射までの貯蔵温度の影響を調べてみると、収穫直後の照射であれば、10kradの照射で+++程度の発芽はほとんど安全に抑制される。しかし、9月まで室温貯蔵した場合は、10kradでは照射効果は極めて不十分で、20kradの照射でも収穫直後、10kradの照射よりも発芽抑制効果は劣る。照射前冷蔵した場合は、両者の中間の成績が得られる。9月照射のものの結果が良くないのは、照射前に+37%、±36%の芽の動きがすでにあったためで、休眠期を既に経過しているためである。冷蔵したものは室温貯蔵のものより発芽は抑制されているが、糖含量が増加しており、照射効果はあったとしても、加工適正その他で問題になろう。
栽培形態の影響をみると、日野市の畑作や八王子市の畑作の馬鈴薯は、日野市の水田裏作の馬鈴薯よりすぐれた発芽抑制効果がみられるが、立川市や秋多町産の馬鈴薯は畑作であっても、日野市の水田裏作よりすぐれた効果があるとはいえない。このように、栽培形態よりも、
以上の結果から、馬鈴薯の発芽を放射線によって抑制し貯蔵しようとする場合、照射時期は収穫後になるべく早い時期に行なうこと、馬鈴薯の休眠を維持させるために冷蔵して照射可能期間を延長させることは効果があるが、いも中の糖分増加が問題となること、馬鈴薯の栽培形態、条件などによっては、画一的な照射条件、貯蔵条件を適用することにはなお検討の余地があることがわかった。
日野市産の水田裏作および立川市産の「男爵」を供試した。その収穫時期および照射時期、また、照射の方法、条件、あるいは貯蔵の条件などは、表1−1−(3)(一般試験、馬鈴薯の発芽率)のとおりである。こられ馬鈴薯から任意に数個を選び試料とした。
ビタミンCの定量は表2−(1)のようにして行なった。ビタミンCの含量はmg% で表わした。試料の一部は70℃、100mm Hgにおき、5時間ごとに秤量して、水分含量を求めた。
馬鈴薯のビタミンCの測定結果を図2−(1)に示す。図では収穫時期を原点にとった。照射によってビタミンCの含量は低下するが、線量との比例関係は特に認められず、10あるいは20kradの線量では問題になるようなビタミンC含量の減少はなかった。
全般的に水田裏作のものでは、畑作の場合よりビタミンC含量は高く、また、昨年度の北海道産の畑作のもの(0krad 19.2mg、 10krad 12.2mg)よりも両者ともビタミンC含量が高かった。
照射後の貯蔵におけるビタミンCの減耗は、水田裏作の方が畑作より少なかった。いずれにしても、照射後 1〜2カ月ごろのビタミンCの減少は著しいが、それ以後は緩徐である。一つは室温であるといっても、夏から秋にかけての気温の変化も原因と考えられる。図示した期間以後塊茎ではいちじるしい発芽があったため、塊茎部分にはビタミンCが殆ど認められなかったが、照射して発芽の抑制されたものについては、以後もその減少がきわめて緩やかであった。
馬鈴薯
収穫直後および3カ月保存(室温および4℃)した後、10krad および20krad のコバルト−60 γ線照射を行なった(線量率 20.0krad/hr)。照射試料はそれぞれ照射10日後および3カ月貯蔵(室温)後、柔組織と皮膚部(表皮を含む)について冷却下でアセトン粉末を作り、それを phosphate buffer で抽出、 S ephadex G−25 カラム を通したものを酵素液としてアミラーゼ活性を測定した。アミラーゼ活性は、基質として可溶性デンプンを用いてヨードデンプン反応にαーアミラーゼを測定した。
収穫直後照射を行ない、照射後10日後に測定した試料の柔組織においてαーアミラーゼ活性にわずかな増加が認められたが、他の試料に関してはほとんど差が認められなかった。
βアミラーゼ活性は非常に弱かったので比較は行なわなかった。