大阪府堺市において6月に収穫された馬鈴薯「男爵」。
収穫直後および室温に1カ月、2カ月、3カ月それぞれ貯蔵した試料に大阪府立中央放射線研究所のCO−60 照射装置を用いて10kradのガンマ線照射を行ない[線量率 3×10・E(4)rad/hr]、室温で貯蔵し、非照射のものを対象として黒変の発生状態を観察した。試料の馬鈴薯は縦断し、表1−(1)のような基準に従って黒変の程度を判定した。
黒変度 |
黒 変 状 態 |
0 1 2 3 4 5 |
黒変なし うっすらと黒変したらしい部分が現われる 芽の下部の極小部でも黒変が明らかになったもの 芽の下部から維管部分におよび (全体の1/3以下) 〃 (全体の1/3〜2/3) 〃 (2/3〜全体におよぶ) |
照射後経時的に黒変発生状態を観察した結果、図1−(1)にみられるように、まず、stem end に近い維管束部(a)や芽の基部(b)に発生し、
その後維管束部に沿って進展する。このような黒変状況から表1−(1)のような 0〜5 段階の黒変測定規準を設け観察結果を比較した。
照射直後ではほとんど黒変は認められないが、3日後になると黒変度2のものが出現した。この黒変は3〜15日にかけてさらに進行するが、15日以降ではあまり変わらないようであった。
照射時期と黒変発生との関係について述べると、黒変は収穫後1カ月以内では認められたが(黒変度3以上のもの)、収穫後2カ月のものでは黒変の現れも弱く、ほとんど認められなかった(黒変度3以上 0%)。
黒変度2程度のものでは商品価値が損なわれるようなものではない。
黒変度 |
黒 変 状 態 |
0 1 2 3 4 5 |
黒変なし うっすらと黒変したらしい部分が現われる 芽の下部の極小部でも黒変が明らかになったもの 芽の下部から維管部分におよび (全体の1/3以下) 〃 (全体の1/3〜2/3) 〃 (2/3〜全体におよぶ) |
大阪府堺市において6月に収穫された馬鈴薯 「男爵」
大阪府立放射線中央研究所Co−60 照射装置を用いてガンマ線照射を行なった。線量は、10krad、線量率は 3×10・E(4) rad/hr。
試料馬鈴薯は、30×20×10cm の網かごに入れ、厚紙でふたをし、線源より同心円周上に直立させガンマ線照射をした。なお照射時間の中間に1回網かごの上下、表裏の置きかえをした。
1カ月後の試料では4℃ 3日貯蔵区のみ黒変抑制効果が見られたが、他の照射区のものはすべて黒変した。収穫2、および3カ月目に照射した試料ではすべて黒変現象は見られなかった。ただし収穫3カ月経過した馬鈴薯はすでに発芽を開始していたので、この時期の照射は実用的でない。
以上の結果より前記のような照射後の低温処理は黒変抑制のためには有効ではなく、黒変発生には収穫後の照射を行なう時期が関係することがわかった。黒変現象を回避するためには、馬鈴薯を収穫後2カ月貯蔵した後、照射するのが適当であると考えられる。収穫後3カ月を経過した試料では、すでに発芽を開始していたので、この時期に照射を行なうのは実用的ではない。
馬鈴薯 「男爵」
採集地
産 地 採集地 植え付け日 収穫日
九 州 福岡農試畑作試験場 1月30日 5月26日
〜2月9日
四 国 香川大学農学部農場 3月22日 6月13日
近 畿 大阪府堺市農家 2月25日 6月18日
関 東 東京大学農学部農場 3月12日 7月24日
東 北 東北大学農学部農場 4月16日 7月24日
中 部 長野県伊那市農家 5月1日 8月25、27日
(長野) 〜5月5日
北 海 道 札幌市篠路農協 4月23日 9月20日
大阪府立放射線中央研究所のCoー60ガンマ線照射装置を用い、30 krad/hの線量率で照射を行なった。
表1−(1)と同じく0、1、2、3、4、5の等級で示した。
黒変度 |
黒 変 状 態 |
0 1 2 3 4 5 |
黒変なし うっすらと黒変したらしい部分が現われる 芽の下部の極小部でも黒変が明らかになったもの 芽の下部から維管部分におよび (全体の1/3以下) 〃 (全体の1/3〜2/3) 〃 (2/3〜全体におよぶ) |
黒変発生は栽培条件などによって左右されると考えられるので、同一品種「男爵」について九州から北海道まで7産地を選び、収穫2、5、10週間後にそれぞれ照射し、照射1週間後の黒変発生状態について観察した結果を図4−(1)に示す。黒変発生の程度は収穫2週間後に照射した場合には産地によりかなり差がみられたが、5〜10週間後の照射ではいずれの産地のものについても黒変発生率は減少した。
試料の産地別により黒変発生が異なることの一因として栽培期間の差が考えられるが栽培期間の長短と黒変発生状態との関係を示したものが図4−(2)である。それによれば、栽培期間の長い試料、換言すれば熟度の進んだものの方が黒変しにくい傾向のあることがわかる。
iii 〜 vi の研究結果を総括すると次のようになる。
馬鈴薯を発芽抑制線量で照射した場合に生じる影響を化学的、生化学的、微生物学的な見地から検討した結果、馬鈴薯の品質にはその商品価値を下げるような好ましくない変化は何ら認められなかった。
また、付着微生物にも照射による影響は殆ど認められず、照射により腐敗菌に侵され易くなることもなかった。
なお、条件により試料照射馬鈴薯に観察されることのある維管束部及びその周辺部位の黒(褐)変は、照射によりいくらか促進される傾向が認められるが、これも収穫してから照射するまでの期間を適当にとることによって回避されることが明らかにされた。
(住木諭介、 緒方邦安、 小島 懋、 岡 充、
藤巻正生、 並木満夫、 瓜谷郁三、 白井和雄、
佐藤友太郎、重松友道、 門田 元、 松山 晃)