放射線照射によるバレイショの発芽防止は、わが国においては、昭和48年から北海道士幌町において実用化されている。
放射線照射によるバレイショの化学成分変化については、多くの研究がなされている(1)。著者らも、遊離アミノ酸及び蛋白質アミノ酸について検討を行なっている(2)。
発芽防止のための放射線照射線量は、我が国においては最大0.15kGyとされている。しかしながら、最近、より低線量での照射も、一つの処理法として考えられている。そこでここでは、低線量照射がバレイショの遊離アミノ酸、糖質およびビタミンCに与える影響を調べた。これらの化学成分が、バレイショにおいて最も感受性が高いとされているからである。
試料:北海道産「男爵」イモを用いた。
照射:コバルト60ガンマ線源(ガンマセル220、9000Ci)を用
いて、0.05、0.10及び0.15kGyのガンマ線照射を行
った。線量率は、7.41kGy/hrであり、Frickeの方
法により測定した。
遊離アミノ酸の測定:試料を75%エタノールで抽出し、アミノ酸自動分
析計(日立835型)により生体成分分析法に従い測定した。
糖質の測定:遊離グルコース量を、75%エタノール抽出物について、酵
素電極法(YSIシュガーアナライザー)により測定した(3)。
でん粉は、グルコアミラーゼで分解した後(4)、グルコース量を
酵素電極法で測定した。
ビタミンCの測定:ジクロロフェノールインドフェノールを用いたヒドラ
ジン法で測定した(5)。
Table 1 に、非照射及び0.05〜0.15kGyの照射を行った試料の遊離アミノ酸含量を示した。
照射により、いずれのアミノ酸も影響を受けるが、中でも酸性アミノ酸の減少が著しかった。すなわち、アスパルギン酸ならびにグルタミン酸の減少が認められた。0.05kGyの照射を行った試料の遊離のグルタミン酸量は、対照の53.8%であった。このグルタミン酸の減少は、前に著者らが報告した(2)結果と一致した。アスパルギン酸およびグルタミン酸の減少に伴い、アスパルギンおよびグルタミンの増加が認められ、遊離酸とアミド態との合計量は、照射しても変化しなかった。このことは、照射により酸性アミノ酸からアミドへの合成が促進されることを示している。
Free amino acid Content (mg/100g) |
Radiation Dose |
|||
Control |
0.05kGy |
0.10kGy |
0.15kGy |
|
Aspartic acid Threonine Serine Glutamic acid Glycine Alanine Valine Methionine Isoleucine Leucine Tyrosine Phenylalanine G−Amino−n−butyric acid Lysine Histidine Arginine ASPNH2(Aspargine) GLUNH2(Glutamine) Cystine |
67.10 15.69 16.20 70.35 2.60 10.40 55.31 21.42 24.92 12.50 29.89 26.43 46.01 31.36 16.59 78.78 461.99 91.77 7.50 |
64.16 15.52 15.12 37.87 3.82 10.88 52.92 20.19 24.12 12.65 38.81 32.48 37.81 28.30 15.40 78.06 499.93 79.54 7.15 |
57.85 16.78 16.04 37.88 4.17 11.98 58.50 24.26 25.30 12.70 37.95 36.00 67.77 31.76 17.13 73.84 472.50 117.39 7.56 |
30.71 18.79 18.78 31.78 3.97 9.88 66.15 24.55 29.87 11.72 42.33 40.55 55.15 36.78 19.66 79.22 579.09 139.19 8.01 |
Total recovery |
1086.81 |
1074.73 |
1127.36 |
1246.18 |
Table 2に、非照射および0.05〜0.15kGyの照射を行った試料の遊離グルコースおよびでん粉量を示した。照射線量が増すに従い、遊離グルコース量が増加することが認められた。バレイショにおける照射による遊離糖の増加は、HAYASHIら(6)によって報告されている。
Experiment |
Radiation Dose |
|||
Control |
0.05kGy |
0.1kGy |
0.15kGy |
|
Sugar content(mg/100gm) Starch content (%) |
0.68 80.0 |
0.96 69.0 |
0.86 82.70 |
1.32 82.21 |
Table 3に、非照射および0.05〜0.15kGyの照射を行った試料のアスコルビン酸およびデヒドロアスコルビン酸量を示した。照射線量が増すに従い、両者とも著しく減少することが認められた。照射によるバレイショのアスコルビン酸の減少は、長期間貯蔵後には、非照射との差がなくなることが知られている(7)。
以上のことから、バレイショに実用線量(0.10〜0.15kGy)以下の低線量(0.05kGy)照射を行っても、バレイショの遊離アミノ酸、糖質、ビタミンC量に、線量に応じた変化が起きることが分かった。
Effect of gamma irradiation on ascorbic acid and dehydroascorbic acid content of potatoes |
Experiment |
Radiation Dose |
|||
Control |
0.05kGy |
0.1kGy |
0.15kGy |
|
Ascorbic acid (mg/100g) Dehydroascorbic acid (mg/100g) Total ascorbic acid (mg/100g) |
14.86 3.75 18.61 |
11.03 3.74 14.77 |
10.18 1.62 11.80 |
9.30 1.25 10.55 |
1)MATSUYAMA, A.and UMEDA,K.:
”Preservation of Food by Ionizing
Radiation,Vol.III,p.159 (CRC
Press)(1983).
2)FUJIMAKI,M.,TAJIMA,M.and MATSUMO−
TO,T.:Agric.Biol.Chem.,32,1228(19
68)
3)「YSIシュガーアナライザー操作マニュアル」(YSI社・オハイオ)
4)貝沼圭二・中村道徳編:「澱粉・関連糖質研究法」.p.12(学会出版
センター・東京)(1986)
5)日本食品工業学会食品分析法編集委員会編:「食品分析法」、p.466
(光琳・東京)
6)HAYASHI,T.and KAWASHIMA,K.:J.Food
Sci.,48,1242(1983)
7)TAJIMA,M.,KID,K.and FUJIMAKI,M.:
Agric.Biol.Chem.,31,935(1967).
(昭和63年8月11日受理)
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