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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

発芽防止(その他)


発表場所 : 食品照射、Vol.2(1),106−112.
著者名 : 渡辺正、戸崎裕子
著者所属機関名 : 大阪市立大学家政部
Co−60照射によるニンニクの発芽抑制とalliin−lyase酵素力の消長
はじめに
実験方法
実験結果
1. 文書
2. 照射ニンニクの全酵素活性
3. 照射後の放置による全酵素活性の変化
4. 照射線量による全酵素活性の変化
5. ニンニクの品種および個体差による全酵素活性の差異
6. 等沈酵素の貯蔵中における酵素活性の変化
7. 等沈酵素と全酵素の活性の比較
8. 照射ニンニクの等沈酵素の活性回収率
9. 照射ニンニクと非照射ニンニクの等沈酵素の活性比
10. 照射ニンニク等沈酵素の酵素学的特性
考  察
結  論



Co−60照射によるニンニクの発芽抑制とalliin−lyase酵素力の消長


Co−60照射によるニンニクの発芽抑制とalliin−lyase酵素力の消長
はじめに

 著者らの研究室において長年にわたりニンニクのalliinlase(以後アリナーゼと略称する)について研究してきた。ニンニクは6〜7月に収穫されその後新ニンニクの出る4月頃までは貯蔵ニンニクに頼らざるを得ず、しかも12〜2月にニンニクの休眠が破れ球茎の内部で発芽が始まるためアリナーゼ力が変化し一定した力価の試料を得ることが困難である。最近タマネギやジャガイモでCo−60照射により発芽を抑制し長期の貯蔵に成功している。

 著者らはこの方法によりニンニクの発芽を抑制して安定した力価の試料を得るためにこの研究を行なった。

実験方法

 試料としたニンニクは前期に白鳳種を後期に長崎赤を用いた。放射線量は100〜4×10・E(3)radの範囲で変化させた。

 試料は5〜20gとり磨砕して純水で適当にうすめ、濾過して遠心したもの1ccをとりこれにメチインmethylallicin 1mg/cc液1ccを添加し37℃で15分間放置し、10%トリクロール酢酸、1ccくわえて酵素反応を止め、生成したピルビン酸量(μg/cc)を清水法で測定して酵素活性とした。また濾過遠心液を1NHClでpH4(等電点)にした時、沈澱してくるタンパク質を遠心した粗酵素(等電点沈澱酵素、以下等沈酵素と略する)液を適当にうすめ、メチイン溶液1ccを加え前と同じように処理して生成したピルビン酸量(μg/cc)を測定して等沈酵素活性とした。

 なお照射による発芽抑制効果を調べるために大型シャーレ(直径30cm)にガラス棒をしきその上にガーゼをのせ水を、ひたひたに入れその上にニンニク球茎の基部を下に押し付け15〜20℃の室温に放置した。この外、湿らせた砂箱にいれ発芽および発根を調べたが、結果はガーゼ試験と同様であったから、後の試験では省略した。

実験結果
1.

 発芽試験は8月〜12月に行なった。その結果はTable 1.に示す。未照射ニンニクについて予備試験を行なった。

 8月22日はまだニンニクは休眠中のためどんな方法を用いても発芽および発根しなかった。しかし10月19日になるとガーゼ法および砂箱法は2つとも100%に近い発芽・発根を示した。

 3×10・E(3)〜6.4×10・E(4)rad照射したニンニクについて3回発芽試験を行なった結果をTable 2.に示す。

 7月〜8月に3×10・E(3)〜6.4×10・E(4)rad照射したものは発芽および発根したものが全然なかった。ところが12月上旬に照射したもの[100〜4×10・E(3)rad]は全部発芽した。

2. 照射ニンニクの全酵素活性

 照射および非照射ニンニクをそのままで、または発芽条件においてその全酵素活性を測定した。その結果をTable 3.に示す。

 照射ニンニクおよび非照射ニンニクはいずれも無処理のものと発芽条件で処理したものを比較すると、発芽条件で処理したものの酵素力が減少していた。


Table 3.
 Total activity of irradiated garlic upon sprouting conditions

        
         Garlic irradiated         
       Garlic−Non−irradiated      
        
        
        
        
        
   Sprouting     
   Not−Treated   
   Sprouting     
   Not−Treated  
 Total  
Pyruvate
 (γ/cc) 
Control 
        
 (γ/cc) 
 Total  
Pyruvate
 (γ/cc) 
Control 
        
 (γ/cc) 
 Total  
Pyruvate
 (γ/cc) 
Control 
        
 (γ/cc) 
 Total  
Pyruvate
 (γ/cc) 
Control
       
 (γ/cc)
        
  4200  
   95   
  5600  
   110  
   440  
  100   
  6560  
   95  
Pyruvate
        
Allicin 
       4105      
                 
       3780      
      5490       
                 
      5060       
      4300       
                 
      3960       
       6450     
                
       5950     


3. 照射後の放置による全酵素活性の変化

 8月下旬に照射した試料について10月31日〜12月21日に至る期間全酵素を測定した。結果はTable 4.に示す。

 非照射ニンニクは時日の経過と共に酵素活性が漸減する傾向をみせるが、照射ニンニクはほとんど変化しない。


Table 4.
 Change of total activity of irradiated garlic storing
 at room temperature

Date of
 test  
            Dose of irradiation (RAD)           
4×10・E(3) 1.6×10・E(4) 6.4×10・E(4) non−irradiated
       
 10.31 
 11.9  
 11.12 
 11.16 
 11.22 
 11.29 
 12.5  
 12.21 
 (γ/cc)     (γ/cc)      (γ/cc)        (γ/cc)    
   −          −           −            5100     
   −         5700         −            6600     
  3200        −         7200           6200     
  5000       4200       6600           6900     
  2100        −         2700           2800     
  1600        −         4200           2500     
  5000       3000       5500           2800     
  4300        −         5000           3100     


4. 照射線量による全酵素活性の変化

 放射線が100〜4×10・E(3)radの場合、全酵素活性に及ぼす影響をみた。その結果をTable 5.に示す。


Table 5.
   Effect of irradiation upon total activity of garlic

       
  No.  
       
                  Dose of irradiation (RAD)              
                                              non−       
  100    500  1×10・E(3)  2×10・E(3)  4×10・E(3)  irradiated
       
       
   1   
   2   
   3   
   4   
   5   
(γ/cc) (γ/cc)  (γ/cc)     (γ/cc)     (γ/cc)      (γ/cc)  
                                                         
 5600   8050    4800       3200       5680        5700   
 4130   6130    5900       2950       6000        5780   
 5480   7010    5400       7850       4500        6000   
 5790     −     5250       3600       5900        6000   
   −      −     4900         −        6100        5350   
Average
 5250   7060    5240       4400       5636        5766   


5. ニンニクの品種および個体差による全酵素活性の差異

 前述のように実験の度に相当の差異があるため、品種および個体差による差異をみた。その結果はTable 6.に示す。

 一般的に白鳳種は長崎赤に比べて酵素活性は低い。照射物と非照射物の差はほとんどない。個体差は相当に大きい。


Table 6.
   Differences of total activities between varieties and bodies

 Varieties 
                      Hakuho               
  Dose of  
irradiation
           
    No.    
   4×10・E(3)rad         non−irradiated     
                                           
                                           
  1     2     3         1      2      3    
 Pyruvate  
     (γ/cc)
           
 Allicin   
     (γ/cc)
 650  1000   555       700    900    600   
                                           
                                           
 600   900   500       650    800    500   
                                           
 Varieties 
                Nagasaki−red               
 Pyruvate  
     (γ/cc)
           
 Allicin   
     (γ/cc)
2050  1850  2350      1320   1650   2200   
                                           
                                           
1900  1700  2200      1200   1500   2000   
                                           


6. 等沈酵素の貯蔵中における酵素活性の変化

 等沈酵素を純水中で冷蔵庫に保存した時の酵素活性の変化を調べた結果をTable 7.に示す。

 等沈酵素は調整直後に若干の酵素活性を失うが、1〜2週間はそのまま活性を保つ。3週間目に相当活性が低下するようである。


Table 7.
   The change of the activities of the I.E.P.enzyme stored
   in ice−box with the laps of time

   
     The Laps of time (days)     
No.
 0     1     4     7    14    20 
 1 
   
 2 
100   90    90    85    80    40 
                                 
100    −    80    78    80    73 


7. 等沈酵素と全酵素の活性の比較

 等沈酵素を5回調整してその都度全酵素活性と比較した。その結果をTable 8.に示す。

 その結果は等沈酵素の活性は全酵素活性の1/5〜1/2程度のいろいろな回収率を示し決して一定でない。


Table 8.
   Recovery of IEP enzyme of non−irradiated garlic

Activity
 of IEP 
 Total  
        
Activity per 1g garlic 
                       
Recovery
        
 enzyme 
  /20g  
activity
  /5g   
 IEP enz.
         
  total enz. 
             
 percent
   (%)  
 (γ/cc) 
        
  1200  
  2400  
  2450  
  2900  
  2400  
 (γ/cc) 
        
  1370  
  1600  
  3200  
  1600  
  1100  
 (γ/cc)  
         
    60   
   120   
   123   
   145   
   120   
   (γ/cc)    
             
    274      
    320      
    640      
    320      
    220      
 (γ/cc) 
        
  21.9  
  37.5  
  19.2  
  45.0  
  54.5  


8. 照射ニンニクの等沈酵素の活性回収率

 2×10・E(3)radと4×10・E(3)rad照射試料について等沈酵素活性と全酵素活性をと比較した結果をTable 9.に示す。

 非照射のものに比べて照射したものは酵素活性の回収率が低いようである。しかしこれだけでは決定的でないため次の実験を行なった。


Table 9.
   Enzymic recovery of the enzyme prepared from irradiated garlic
   by isoelectric precipitation

  Dose of  
irradiation
                      2  ×  10・E(3)rad                                          
                                                                                
           
           
           
           
activity of IEP enzyme/20g
                          
               non−       
irradiated      irradiated
     Totle activity/5g    
                          
              non−        
irradiated      irradiated
  Percent recovery of     
      IEP enzyme          
              non−        
irradiated      irradiated
           
           
Original   
      Juice
           
Per 1 gram 
     Garlic
  (γ/cc)          (γ/cc)  
                          
   1380            2520   
                          
                          
     66.5            12.5 
                          
  (γ/cc)         (γ/cc)   
                          
    320           2220    
                          
                          
    644            442    
                          
   (%)            (%)     
                          
   10.4           28.2    
                          
                          
                          
                          
  Dose of  
irradiation
                      4   ×  10・E(3)rad                                         
                                                                                
Original   
      Juice
           
Per 1 gram 
     Garlic
    900            1750   
                          
                          
     45              87.5 
                          
   2070           1750    
                          
                          
    414            352    
                          
                          
                          
   10.9           25.0    
                          
                          


9. 照射ニンニクと非照射ニンニクの等沈酵素の活性比

 照射試料と非照射試料からの等沈酵素を作り、その活性比を調べた結果はTable 10.の通りである。

 等沈酵素の回収率は前に述べた通りである。照射物と非照射物から得た等沈酵素の活性比は50〜300%となり、したがって照射物は照射によってなんらかの障害を受けたということはできない。照射物の活性が非照射の活性を下回ることが3回、上回ることが3回、同程度のことが2回である。したがって必ずしも照射物の等沈酵素活性が非照射のものに比べて低いとはいえない。


Table 10.
  Activity ratio between the enzymes prepared from irradiated
  and non−irradiated garlic by isoelectric precipitation

Date
 of 
Test
  Dose of     Enzyme activity from       Ratio Percent      
                            non−                    non−    
irradiation  irradiated  irradiated   irradiated  irradiated
    
    
1.5 
1.17
1.3 
2.2 
2.2 
2.7 
2.7 
2.7 
   (rad)       (γ/cc)      (γ/cc)               (%)         
                                                            
  2×10・E(3)      66.5       126                 55          
  4×10・E(3)      45          87.5               52          
  3×10・E(3)    1630         600                270          
    100         300         500                 60          
  1×10・E(3)     570         500                120          
  4×10・E(3)    7000        7850                 90          
  4×10・E(3)    2000        1600                125          
  4×10・E(3)    2480        1600                220          


10. 照射ニンニク等沈酵素の酵素学的特性

 等沈酵素の至適pH曲線、至適温度曲線、その他の酵素学的特性について調べた結果、照射ニンニクから得たものは非照射のものに比べて若干低い傾向を示したが、曲線全体の傾向は同様であった。

考  察

 照射ニンニクの発芽試験を行った結果3〜4×10・E(3)rad程度の照射で発芽および発根が抑制された。しかし休眠が破れた12月上旬に照射したニンニクは同じ程度の線量で発芽を抑制できないことが判明した。

 発芽処理をしたニンニクは照射物と非照射物とを問わず、未処理のものに比べて全酵素活性が低かったが、これは水分を含んだためと思われる。また照射ニンニクを室温に放置した場合、その酵素力に変化は起らないが、非照射物を放置すると全酵素活性が減少することを示した。これはおそらく球茎内部における発芽が開始されたため、酵素活性が減少したものと思われる。100〜4×10・E(3)radの照射を行ったニンニクの全酵素活性は変化しないことを示した。それよりも品種間、個体間の差異の方が著しいことを示す。

 また等沈酵素を作り、その放置による酵素活性の変化を調べた結果1〜2週間程度は変化しないことを示した。

 等沈酵素の酵素活性は全酵素活性に比べて20〜50%であった。すなわちその調整時の条件により非常に差があることを示した。

 照射物等沈酵素と非照射物等沈酵素の全酵素に対する回収率を求めた結果では照射物の方が若干低いようであったが、これについて8回にわたり照射物:非照射物の比を求めた結果、その比は50〜300%の範囲にあるため、実際には回収率が低いということができない。また照射ニンニクから得た等沈酵素の至適pH、至適温度その他の酵素学的特性について試験した結果は若干例において照射酵素の方が低いことを示したが、その全体としての性質は全く同じであることを示した。

結  論

 ニンニクをCo−60で0.1〜6.4kradで照射したものを1〜4カ月室温に貯蔵した。8月までに照射したニンニクにおいては3〜4kradの照射で発芽が抑制された。しかしそれ以後に照射したニンニクは発芽が始まったため抑制効果がなかった。アリナーゼ全酵素活性は照射物と非照射物との間に差異はなかった。しかし等電点沈でん法によって部分的に精製した酵素において照射物から得たものは非照射物から得たものに比べて若干活性が低いようであったが、その酵素学的特性は同様であった。しかし活性が低いことは、実験を反復する間に否定された。おそらくこの程度の照射線量によって酵素が変性しないものと思われる。

 最後にCo−60による照射を担当して戴いた大阪府立商工奨励館放射線技術課の方々に深甚なる謝意を表し厚く感謝致します。




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