放射線照射を受けた青果物における呼吸の増加現象は、一般に認められている。〔1〕その呼吸増加の原因の一つとして、筆者らはバレイショについて、照射に伴う呼吸系の変換について報告した。〔2〕今回はトマト果実について追熟抑制レベルの線量の照射に伴う呼吸活性の変化の原因について調査した。
実験材料はほぼ緑熟段階(Maturegreen,MG)のトマト果実を用い、大阪府立放射線中央研究所において、1.0および2.5kGyのγ線を照射し、照射後は20℃以下で貯蔵した。呼吸の変化は照射後速やかに起こるので、この時点における細胞内物質の移動を推定するために、組織切片からのK+,糖およびアミノ酸の漏出および種々の濃度のシュクロース溶液に組織切片を浮遊させた場合の切片の重量の増加および減少を調べた。呼吸活性の変化に関しては、果実全体の呼吸量(CO2排出量)、組織切片の呼吸に対する(KCN(1mM),Salicylhydroxamic acid(SHAM,5mM),2.4−Dinitrophenol(DNP,1mM)などの呼吸阻害剤の添加の影響をワールブルグ検圧計を用いて調査した。
照射後3〜5時間の果実から作成した組織切片(20mm×5mm×果肉の厚さ)を種々の濃度のシュクロース溶液に浸漬し、その重量変化をみると、照射区では対照区に比較して変化が少ない傾向がみられた。また、組織切片からのK+,糖および遊離アミノ酸の漏出も照射区で多くなる傾向があった。照射による組織切片からのK+の漏出の増加はバレイショについて筆者は認めている。〔3〕
果実全体の呼吸量は、照射直後急激に増加し、その後減少したが、1.0KGy区では明らかに呼吸のClimactric rise を示した。組織切片の呼吸に対する呼吸阻害剤の添加の影響をみると、KCNによる阻害は対照区では貯蔵中(追熟中)に減少したが、照射区ではKCNの添加によって呼吸の増加がみられた。KCN+SHAMでは両区とも呼吸は強く阻害された。図1は照射後1日の結果を示している。植物における呼吸系は、現在図2のように示されている。〔4〕この実験における阻害剤の添加の影響から照射区においてはalternative oxidase の活性化が考えられる。DNPの添加の影響をみると、2.5kGy区で照射後1日でその影響がみられなかったのを除いて、貯蔵中全般的に両区とも呼吸の増加が認められた。このことは呼吸とリン酸化の共役は両区において貯蔵中を通して比較的に強いことを示している。
このような結果から、照射によってトマト果実の細胞内における呼吸基質などの物質移動が増大すること、および呼吸系の側経路(alternate pathway)の活性化が推察され、これらの変化が照射によるトマト果実の呼吸増加を誘起する原因の一部をなしているものと考えられる。
〔1〕Maxie,E.C.andAbdel−Kader,
A.Adv.Fd.Res.15.105.(1966)
〔2〕茶珍和雄・緒方邦安 食品照射11(1−2),13.(1976)
〔3〕茶珍和雄・食品照射15(1−2),15.(1980)
〔4〕Solomos,T.Ann.Rev.Plant
Physiol.28.279.(1977)
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