果実、そ菜類にγ線を照射すると、照射後一時的に呼吸が上昇することが認められている〔1,2,3〕。この呼吸の上昇は、放射線障害の現われであり、それには種々な因子が関与していると考えられる。本実験は電子伝達阻害剤であるKCNとAntimycinAおよびエネルギー転移系阻害剤であるOligomcinを用いて、果実、そ菜類の放射線障害に伴う呼吸の変化の一端を調べたものである。
実験1:ジャガイモ(男爵)、リンゴ(リチャード)、バナナ(キャベンディッシュ)、西洋ナシ(ラ・フランス)などにγ線を照射(ジャガイモには10Kradと100Krad、バナナには50Kradと100Krad、リンゴと西洋ナシには200Krad)し、これらの個体の呼吸が上昇している時期に、それぞれの組織切片(厚さ約1〜2mm)の酸素吸収量に対するKCN(終末濃度:1mM)の阻害効果を調べた。
リンゴと西洋ナシの組織切片の酸素吸収量は非照射区と照射区ともKCNでかなり阻害されることが認められた。非照射区のジャガイモの組織切片の酸素吸収は一時的にKCNで阻害されないで、むしろ促進されることが認められた。バナナでは非照射区の果皮、果肉の組織切片の酸素吸収ともKCNで促進され、照射区では照射後KCN効果が若干低下した。
実験2:組織切片の酸素吸収量に対するKCNの阻害効果から、ジャガイモにおいては、照射によってかなり強く呼吸鎖に転換があることが推定される。そこでとくに照射ジャガイモからミトコンドリアを抽出し、コハク酸酸化に対するKCN、AntimycinA、Oligomycinの阻害効果を調べたところ、第1図および第1表にみられるように、照射後一時的にこれらの阻害剤で阻害されない呼吸が発達し、この活性化された呼吸は貯蔵中にはほとんど消失することが認められた。
以上の結果から、γ線照射によってもたらされる果実やそ菜類の一時的な呼吸の上昇には、呼吸鎖の転換が部分的に関係している場合があるといえる。照射ジャガイモの場合では、抽出したミトコンドリアのコハク酸酸化に対するKCN、AntimycinA、Oligomycinの阻害効果から、ジャガイモの組織切片のagingで認められているシアン耐性呼吸〔4〕と類以しており、コハク酸を基質とした場合、通常の電子伝達系が、Succ−Fp−CoQ−Cyt.b−Cyt.c−Cyt−a、a3−O2であるのに対して、Cyt.b以前の側経路で行なわれるものと推定した。
Effects of some inhibitors on succinate oxidation by mitochondria isolated form irradiated and unirradiated potatoes during storage at room temperature |
Dose Days in Krad storage |
State 3 |
State 4 |
Mit+Succ |
Olig. |
KCN(Anti.A) |
Ex.1 Ex.2 |
Ex.1 Ex.2 |
Ex.1 Ex.2 |
Ex.1 Ex.2 |
||
0 0 3 30 0 2 10 3 30 300 2 100 3 30 |
100* 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 |
17.7 38.2 24.3 20.8 37.0 20.7 47.1 37.6 55.2 34.8 26.2 61.8 52.6 40.3 |
17.7 15.8 17.1 14.2 28.3 20.7 15.7 17.4 10.3 17.4 10.4 13.5 11.2 14.3 |
14.5 17.1 17.1 14.3 17.4 20.0 50.0 47.7 50.9 19.6 14.7 57.3 55.2 27.3 |
0a 0a 0a 0a 0b (0) 0a 27.9a 41.4a 2.1b (2.1) 3.9ab (2.0) 41.4a 15.6b (11.3) |
*% of O2 uptake in state 3 of cycle 2. Succinate(Succ):10mM. ADP:150 μM. Oligomycin(Olig):2 μg/ml. KCN:2,5 mM;b,100 μM. Antimycin(Anti.A):0.1 μM. |
〔1〕 Romani, R.J.: Radiation
Botany, 4, 299 (1964).
〔2〕 Romani, R.J.: Radiation
Botany, 6, 89 (1966).
〔3〕 緒方邦安・茶珍和雄、食品工誌、16、167(1969)
〔4〕 旭正、化学と生物、13、714(1975)
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