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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺菌・腐敗抑制(ウインナーソーセージ)


発表場所 : 食品照射研究運営会議(放射線照射によるウィンナーソーセージの殺菌に関する研究成果報告書・資料編)
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所
発行年月日 : 昭和60年12月
2. 放射線処理によるウインナーソーセージのミクロフローラと品質の変化
1. 目  的
2. 貯蔵効果とミクロフローラの変化
(1) 試験方法
(a) 照射
(b) 貯蔵効果
(c) 微生物の同定
(2) 試験結果
3. 照射後の品質変化
(1) 試験方法
(2) 試験結果
4. 考  察



2.放射線処理によるウインナーソーセージのミクロフローラと品質の変化


2. 放射線処理によるウインナーソーセージのミクロフローラと品質の変化
1. 目  的

 特定総合研究用に特別調製された保存料無添加のウィンナーソーセージの放射線照射によるミクロフローラの変化と貯蔵効果及びそれに伴う品質変化について検討した。

2. 貯蔵効果とミクロフローラの変化
(1) 試験方法
(a) 照射

 γ線源としては70kCiのコバルトー60板状線源を用いた。照射は線量率100、200、500krad/hrで行い、線量測定はフリッケ線量計によった。

(b) 貯蔵効果

 試料は窒素ガス中でセロポリ袋に密封し、各線量照射後10℃で12〜15日間貯蔵した。また比較のため酸素ガス透過度の少ない各種包装フィルムも用いた。袋詰試料はすべて細断し、この10gを無菌的に破砕したのち、滅菌水50mlを加えて、よく混合し、ガーゼでろ過した。このろ液とその適当な希釈液の0.2mlを表1に示した3種類の培地に塗布し、25〜35℃で3〜5日間培養した後のコロニー数を計測した。なお、乳酸菌の測定は、グルコース酵母エキス培地を用い、炭酸ガス雰囲気中で嫌気的に培養した。

 MYC培地は主に酵母と糸状菌の生育をみるために使ったが、PseudomonasやEnterobacteriaも検出された。


表1 ウインナ−ソ−セ−ジ変敗菌検出培地
(1) 5%食塩nutrient agar培地(Micrococcus,MA菌用)        
    Difco−nutrient agar 
    Nacl                
     水                  
 30g                    
 50g                    
 1L                     
(2) グルコース酵母エキス寒天培地(乳酸菌用)                         
    glucose   
    yeast ex  
    MgSO47H2O 
    KCl       
 20  g   
 10  g   
  0.2g   
  0.1g   
     K2HPO4     
     CaCO3      
     寒天末        
     水          
   1g  
   5g  
  20g  
   1L  
(3) MYC培地(酵母菌および糸状菌用)                            
    malt ex   
    yeast ex  
    glucose   
 10g     
  4g     
  4g     
     寒天末        
     クロラムフェニコール 
     水          
  20g  
  10mg 
   1L  


(c) 微生物の同定

 細菌の同定はBergey’s Manual of Determinative Bacteriology によって行った。

(2) 試験結果

 特定総合研究用に特別調製されたスモークウィンナーソーセージには図1に示すように乳酸菌や酵母菌のほかにMicrococcusやFlavobacterium,Moraxella−Acinetobacter,Corynebacterium,Pseudomon この中でMoraxella−Acinetobacter菌(以下MA菌と略す)は本実験における照射ウィンナーソーセージの主要なネト発生原因菌であり、これら保存料無添加ウィンナーソーセージに出現してくるネトは淡褐色のコロニー状でネバリも少ない。ネトの発生時期は保存料添加の市販品でも無添加ウィンナーソーセージでも非照射品ではそれほど差がなく、10℃貯蔵においては製造後2〜4日で発生しはじめる。ネトが発生する時期の菌数は1gあたり10・E(6)〜10・E(7)個である。一方、市販品の場合は乳酸菌を中心とする半透明のネトのためその発生の有無を見分けにくい。しかしウィンナーソーセージのネト発生は貯蔵温度により異なり2℃では3倍以上の期間ネト発生なしに貯蔵が可能である。

 ウィンナーソーセージを10℃で1週間程度保存してネトが発生した状態でガンマー線を各線量照射すると図2に示すように微生物の種類により放射線感受性は異なっていた。このうち、MicrococcusやSerratia,Brevibacterium,Pseudomonas,Flavobacteriumなどの細菌類は200krad以下の線量でほぼ殺菌されるが、StreptococcusやLactobacillusなどの乳酸菌やMA菌、酵母菌などは放射線に対し抵抗性が強い。

 ところが、セロポリ袋に窒素ガス包装した製造直後の保存料無添加のスモークウィンナーソーセージにガンマー線を300〜500krad照射して10℃で貯蔵した場合に発生してくるのは図3に示すようにMA菌と酵母菌であり、乳酸菌は15日以上貯蔵しないとその発生を検出することはできない。

 したがって窒素ガス置換した保存料無添加ウィンナーソーセージにガンマー線を300〜500krad照射して10℃で貯蔵すれば7日以上の期間ネト発生を抑制できるが、MA菌が混在する場合には照射後4日程度でネトが発生する製品も一部にみられる。しかし、照射ウィンナーソーセージ中に発生してくるMA菌や酵母は好気性であり、嫌気的条件を保って貯蔵すればネト抑制効果をさらに高めることができると思われる。一般にウィンナーソーセージの包装はセロポリフィルムで行われているが、このフィルムは高湿度下で酸素ガス透過度が著しく増大することが知られている。そこで高湿度下でもガス透過度への影響が少ないとされているダイアミドフィルム、Kセロハン、EG−Q(エバール樹脂フィルム)を選んで保存料無添加のスモークウィンナーソーセージを窒素ガス置換して、10℃・90%R.H.の高湿度下で照射後のネト発生状況と菌数増加を比較してみた。表2はネト発生状況を比較したものであるがセロポリ包装ウィンナーソーセージは500kradの線量で7日程度しかネト発生を抑制できなかった。ところが、酵素ガス透過度が著しく小さいKセロハンやえEGーQの場合には照射によるネト抑制効果はさらに高められ、300kradの線量で7〜9日目、500kradでは9日以上の期間にわたりネト発生は認められなかった。この場合、EGーQやKセロハンで包装した非照射ウィンナーソーセージのネトは半透明で市販品に似ていた。

 一方、セロポリとEG−Qに包装したウィンナーソーセージについて非照射と300krad照射品の貯蔵中の主要なミクロフローラをしらべたところ、セロポリ包装の場合は図4に示すように好気性のMicrococcusやMA菌、酵母菌などの増殖が乳酸菌と同じように活発に認められた。ところがEG−Qフィルムの場合には図5に示すように好気性のMA菌、Micrococcus,酵母菌の増殖抑制効果が明確に認められ、活発に増殖してくるのは乳酸菌やEnterobacteria類であった。300krad照射した場合、生残しているMA菌や酵母菌の増殖抑制効果が明らかに認められた。したがって、保存料無添加ウィンナーソーセージの場合には酸素ガス透過度の低いフィルムによる窒素ガス置換包装と300〜500kradのガンマー線処理とを組合せることによりさらに効果的に貯蔵期間を延長することが可能であろう。また、EG−QやKセロハンで包装したウィンナーソーセージは300kradの照射でセロポリ包装ウィンナーソーセージの500kradの照射と同程度かそれ以上の期間ネト抑制効果が認められたということは線量の低減化にも有効である。


表2
  各種包装フィルム中に貯蔵したウインナ−ソ−セ−ジ
    のネト発生の比較(10℃、湿度90%)

     
包装材料 
     
      
 線   量
(krad)
貯蔵した期間によるネト発生度
4日  
 7日 
 9日 
セロポリ 
     
     
    0 
  300 
  500 
++  
 −  
 −  
+++ 
 ++ 
  ± 
+++ 
+++ 
 ++ 
ダイアミド
フィルム 
     
    0 
  300 
  500 
++  
 −  
 −  
+++ 
 ++ 
  − 
+++ 
+++ 
  + 
Kセロハン
     
     
    0 
  300 
  500 
 +  
 −  
 −  
 ++ 
  + 
  − 
+++ 
  + 
  − 
EG−Q 
     
     
    0 
  300 
  500 
 ±  
 −  
 −  
  + 
  − 
  − 
 ++ 
  ± 
  − 

 * − なし、 ± ほとんどない、 + わずかに発生、 ++ 明らかに認められる、 +++ 著しい



図1 非照射ソーセージを10℃で貯蔵した場合に発生してきた微生物群



図2 放射線照射による変敗ソーセージ中のミクロフローラの変化



図3 照射ソーセージを10℃で貯蔵した場合に発生してきた微生物群



図4 セロポリ袋中に窒素ガス置換包装したウィンナーソーセージの微生物増殖パターン



図5 EG−Q袋中に窒素ガス置換包装したウィンナーソーセージの微生物増殖パターン


3. 照射後の品質変化
(1) 試験方法

 官能検査は当研究所の職員、男女を含め14〜18名をパネルとして選び、1回の検査に試料3点から5点を使用した。必要に応じて非照射試料を対照として使用し、ラテン方格によって試食順序を定め、11点法で採点した。検査結果は分散分析法により有意差の検定を行った。また一部の検査では3点比較法を用いた。照射方法は前法と同様に行った。

(2) 試験結果

 窒素ガス置換包装したウィンナーソーセージを照射した後、食味の相対的評価を11点法での採点により行った検査結果では600kradでは有意差が認められた。一方、65名のパネルを用いたし好性検査の結果では、非照射品を好ましいとした者28名、500kradの線量を好ましいとした者30名、両者に差を認めなかった者7名であった。したがって、500kradの線量はし好性を変えることはないが、非照射ウィンナーソーセージとの風味差を検出しうる限界線量であると思われる。

 表3に示すように照射ウィンナーソーセージの7日貯蔵後の風味に及ぼす包装フィルムの影響について調べた結果では3点比較法で行ったため500kradの照射ウィンナーソーセージで有意差が認められた。しかし7日貯蔵後には酵素透過度の高いセロポリ包装ウィンナーソーセージにおいては非照射品との間の有意差が認められなくなった。一方、酸素ガス透過度の低い包装フィルムを用いた場合には照射直後の有意差が7日後にも認められた。これは包装フィルムの保香性が原因して照射によって生じる微小な照射臭が飛散または酸化せずに残存しているためであると考えられる。一方、市販ウィンナーソーセージの色の変化については表4に示すように、空気封入では300kradで退色するが、窒素気流中で包装した場合では500kradで退色せず、窒素置換すれば1,000kradでも退色しなかった。照射臭も空気封入の方が著しかった。


表3
 3点比較法による貯蔵ウインナ−ソ−セ−ジの風味変化

       
 線   量 
       
         
 包 装 材 料 
         
  照射直後   
         
全判定数  正解数
10℃で7日間貯蔵
         
全判定数  正解数
       
       
       
500krad
       
       
       
セロポリ     
         
ダイアミドフィルム
         
Kセロハン    
         
EG−Q     
 10    7 
         
         
         
         
         
         
 10    3 
         
 10    8 
         
 21   14 
         
 21   15 
       
300krad
       
セロポリ     
         
ダイアミドフィルム
 10    6 
         
         
  6    4 
         
  6    4 



表4
官能検査法による市販ウインナ−ソ−セ−ジの照射による色の変化

   
   
   
 ガ ス 
     
 雰囲気 
          11点法による採点    (線量Mrad)      
  0  
 0.3   
 0.5   
 0.7   
 1.0   
   
表 面
   
 N2  
 O2  
 Air 
 5.9 
 6.0 
 5.9 
 5.2   
 4.2** 
 5.1   
 4.9*  
 3.4** 
 4.1** 
 4.8*  
 3.5** 
 4.1** 
 4.5** 
 2.5** 
 3.0** 
   
切断面
   
 N2  
 O2  
 Air 
 5.8 
 6.3 
 5.9 
 5.8   
 4.3** 
 5.2   
 5.3   
 3.5** 
 4.7** 
 5.2   
 3.5** 
 4.7** 
 5.3   
 3.1** 
 4.1** 

 *  有意差   95%
 ** 有意差   99%


4. 考  察

 ウィンナーソーセージは通常10℃以下の貯蔵温度で流通・市販されている。しかし、保存料添加の市販品でもネトによる損失は大きい。市販品のネト原因菌はLactobacillusやStreptococcusなどの乳酸菌類と酵母菌が中心である。ところが保存料無添加品にはそのほかにMA菌やMicrococcus,Flavobacterium,Bacillus cereus,Enterobacteria,Pseudomonasなどの菌が増殖してきて、肉眼的観察による変敗度は保存料添加品より著しい。特定総合研究用に調製された保存料無添加ウィンナーソーセージにガンマー線を300〜500krad照射した場合に主に生残するのはMA菌と酵母菌である。しかし、これらの菌の増殖はウィンナーソーセージを酸素ガス透過度の低い包装フィルムに窒素ガス置換包装すれば十分抑制できることが本研究で明かとなった。そしてEG−QやKセロハン包装のウィンナーソーセージは300krad照射でセロポリ包装品の500krad照射と同程度かそれ以上のネト抑制効果が認められた。

 ガンマー線照射したウィンナーソーセージの食味変化について高坂らは500krad照射した場合は注意して比較すれば識別できる程度の照射臭が検知されるが、し好性を根本的に変化させるほどでないと報告している。本研究では窒素ガス置換包装したウィンナーソーセージについて採点法による食味変化を調べたが、500krad照射品は非照射品と有意差が認められなかった。一方、照射時に酸素が存在すると300kradでも退色が認められ食味の低下も認められた。窒素ガス置換包装品の食味変化が3点比較法では500kradで5%の危険率で有意差が認められたが、これは検査方法の違いによるもので根本的な変化ではない。

 したがって、ウィンナーソーセージを長期貯蔵するためには酸素ガス透過度の低い包装フィルムで窒素ガス置換包装をして300〜500krad照射処理し10℃以下に保蔵することが適当と思われる。




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