食品照射に関する文献検索

照射効果（ＩＲＲＡＤＩＡＴＩＯＮ　ＥＦＦＥＣＴ）：食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺菌・腐敗抑制（肉・肉製品・卵）

発表場所 : 食品照射、ｖｏｌ．５（１）、８５−９３．
著者名 : 山崎　邦郎、平野　正男、岡　充
著者所属機関名 : 都立アイソトープ研究所
発行年月日 : １９７０年
作成箇所 : 山崎邦郎，平野正男，岡充（都ア研）

スライスハムの放射線貯蔵に関する微生物学的研究（１）

スライスハムの放射線貯蔵に関する微生物学的研究（１）

目的

　袋詰の肉加工品は、その加熱処理の温度や時間の上から保存期間は限られたものであり、また、袋詰のスライスハムなどには、かなりの細菌が見出され、食品衛生上にも若干の問題があると報告されている。肉および、その加工肉に対して放射線を照射することによって、その冷蔵期間を延長出来ることが知られており、〔１〜６〕我が国でも、高坂ら〔７〕によって、ウイナ・ソーセージのネト防止に有望であるとの報告も既にある。そこで、本報では、袋詰のスライスハムの放射線照射による保存期間の延長について実験を行なった。

方法

　市販ポリ袋詰、冷蔵保証期間２週間のスライスハムの同一バッチの製品を材料とし、都立のアイソトープ総合研究所の５Ｋｃｉのコバルト照射装置で、０．５Ｍｒａｄ照射した。官能識別テスト用に、０．２Ｍｒａｄ、０．５Ｍｒａｄ、１．０Ｍｒａｄ照射した。均一な照射線量を得るために照射中試料を回転させた。照射後の貯蔵温度は２℃、２３℃および３０℃とし、２℃貯蔵においては４週間、２３℃においては３週間、３０℃においては２週間の貯蔵を行ない、生菌数、大腸菌群および嫌気性菌数を測定した。照射および未照射のスライスハムを１０ｇｒ採り、嫌気培養稀釈水２０ｍｌを加えて、炭酸ガスを噴射させた後、ブレンダーで均質乳状化し、ガーゼでロカして原液とした。これを適当に稀釈して、生菌数、大腸菌群は衛生検査指針に従い測定し、嫌気性菌数は炭酸ガス噴射下ロールチューブ法によりＶＬ変法培地に発育するコロニーを計数した。生菌数、嫌気性菌数ともに、それぞれ菌数測定の際、得られた独立コロニーより、コロニーの形状、色沢などを目印として釣菌し、グラム染色、ガス産出、カタラーゼ活性および種々の性状検査を行なった。（表１）

Ｔａｂｌｅ　１ Ｍａｔｅｒｉａｌｓ　ａｎｄ　Ｍｅｔｈｏｄｓ

　　　　　Ｐａｃｋｅｄ　Ｓｌｉｃｅｄ　Ｈａｍ　Ｏｂｔａｉｎｅｄ　ｆｒｏｍ　Ｃｏｍｍｅｒｃｉａｌ　Ｓｏｕｒｃｅ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　┌──────────────┴──────────────┐
　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　　　　　Ｕｎｉｒｒａｄｉａｔｉｏｎ────────┐　　　　　　　　　Ｉｒｒａｄｉａｔｉｏｎ
　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　│
　　　　　　　　　　　　　├────────────┼──────────────┘
　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　│
　　　　　　　　Ｍｉｃｒｏｂｉｏｌｏｇｉｃａｌ　　　└──────────────┐
　　　　　　　　　　　　　Ｔｅｓｔｓ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｓｅｎｓｏｒｙ
　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｔｅｓｔｓ
　　　　　　　　　　Ｓａｍｐｌｉｎｇ，１０　ｇｒ．

　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　Ｈｏｍｏｇｅｎｉｚａｔｉｏｎ

　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　│

┌─────────┐　　│　　　　　　┌───────┐　　　　　　　　　　　　　┌─────────┐
│Ｃｏｌｉ　Ｆｏｒｍ│　　│　　　　　　│Ａｅｒｏｂｅｓ│　　　　　　　　　　　　　│Ａｎａｅｒｏｂｅｓ│
└─────────┘　　│　　　　　　└───────┘　　　　　　　　　　　　　└─────────┘
　　　　　　┌──────┴──────────┬──────────────────────┐
　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　ＭＰＮ　Ｔｅｓｔｓ　ｉｎ　　　　　Ｔｏｔａｌ　Ｐｌａｔｅ　　　　　　　　　　　　Ｔｏｔａｌ　Ｃｏｕｎｔｓ　ｂｙ

　ＬＢ　Ｃｕｌｔｕｒｉｎｇ　　　　　　　Ｃｏｕｎｔｓ　　　　　　　　　　　　　　　Ｒｏｌｅ　Ｔｕｂｅ　Ｍｅｔｈｏｄ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　ｕｎｄｅｒ　ＣＯ２　Ｆｌｕｓｈ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｉｓｏｌａｔｉｏｎ　　　　　　　　　　　　　　　　Ｉｓｏｌａｔｉｏｎ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｃｕｌｔｕｒａｌ　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｃｕｌｔｕｒａｌ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｃｈａｒａｃｔｅｒｉｓｔｉｃｓ　　　　　　　　　　Ｃｈａｒａｃｔｅｒｉｓｔｉｃｓ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｏｎ　Ａｇａｒ　Ｓｔｒｏｋｅ　　　　　　　　　　　ａｎｄ　Ａｅｒｏｂｉｃ　Ｇｒｏｗｔｈ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│

　　　　　　　┌────────────────┤　　　　　　　　　　　　　　　┌──────┴──┬───────────┐
　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　　　　　│　　　　　　　　　│　　　　　　　　　　　│
　　Ｂｉｏｃｈｅｍｉｃａｌ　　　　　Ｇｒａｍ　Ｓｔａｉｎｉｎｇ　　　　Ｂｉｏｃｈｅｍｉｃａｌ　　Ｇｒａｍ　　　　　　　Ｃａｔａｌａｓｅ

　　Ｔｅｓｔｓ　　　　　　　　　　　ａｎｄ　Ｍｉｃｒｏｓｃｏｐｉｃ　　Ｔｅｓｔｓ　　　　　　　　Ｓｔａｉｎｉｎｇ，

　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｏｂｓｅｒｖａｔｉｏｎ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｍｉｃｒｏｓｃｏｐｉｃ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｏｂｓｅｒｖａｔｉｏｎ

結果と考察

　照射直後の識別テストによれば、０．２Ｍｒａｄの照射でも、肉色の退色が著しかったが、橙光色下の識別テストでは、１．０Ｍｒａｄの照射でも、味、匂い、組織等については、照射しないものとの間に区別は認められなかった。次に各温度における貯蔵期間中の生菌数の増加を調べた（図１）。０．５Ｍｒａｄ照射直後、生菌数は一万分の一に、嫌気性菌数も千分の一に低下した。照射後２℃の貯蔵では４週間でも照射直後の菌数レベルを維持した。２３℃および３０℃の貯蔵では、それぞれ照射後２週間および１週間で生菌数、嫌気性菌数ともに増加した。菌数の面からのみ云えば、０．５Ｍｒａｄの照射でも３０℃の貯蔵では、あまり貯蔵期間延長の意味がなく、２３℃では約１週間の貯蔵期間の延長が期待され、２℃のような低温の貯蔵では少なくとも１ケ月の貯蔵期間が保証されるものと考えられる。

　また、大腸菌群はどの試験区にも認められなかった。

　生菌数測定の際に得られた独立コロニーより、コロニーの形状、色沢などを目印として６８菌株釣菌し、グラム染色、鏡検および平板・斜面培養の観察から、５種類の球菌、４種類の非芽胞形成桿菌および４種類の好気性有芽胞菌を分離した（表２）。各々について、生化学的性状として、６種類に炭水化物（ブドウ糖、ショ糖、ガラクトース、キシロース、グリセリンおよびマンニット）からの酸産出、インドールの産生、硝酸還元、澱粉、ゼラチンの分解、嫌気下でのブドウ糖および硝酸培地での発育等を調べた（表３．４．）。また、好気性有芽胞菌については、さらに、クエン酸利用、アセチルメチルカルビノール産出などを調べ、Ｂ．ｐｕｍｉｌｕｓ．　Ｂ．ｓｕｂｔｉｌｉｓ．　Ｂ．ｃｅｒｅｕｓ．　Ｂ．ｍｅｇａｌｅｒｉｕｍと同定した（表５）。

　照射しないスライスハムではグラム陽性非芽胞形成桿菌が優勢であるが、照射すると球菌が優勢となる。また、照射して低温に貯蔵した場合、好気性有芽胞菌が優勢となるが菌数のレベルとしては、きわめて少ない（表６）。

　ロールチューブ法によって分離した嫌気性菌についても、グラム染色をして菌型を記載し、グラム＋、−を確かめると同時に、血清平板に好気培養して、菌が偏性嫌気性か、通性嫌気性菌であるか、ならびに、カタラーゼ活性を調べ、６種類の球菌と５種類の桿菌を分離した（表７）。その生化学的性状（表８．９．）を調べ、球菌ではＰｅｐｔｏｓｔｒｅｐｔｏｃｏｃｃｕｓ．ｍｉｃｒｏｓ．Ｓｔｒｅｐｔｏｃｏｃｃｕｓ　ｍａｇｎｕｓ　桿菌ではＬａｃｔｏｂａｃｉｌｌｕｓ．Ｃｏｒｙｎｅｂａｃｔｅｒｉｕｍと同定した。嫌気性菌でも、照射後、各温度において球菌が検出され、桿菌は比較的少ない（表１０）。嫌気性有芽胞菌は、この材料から検出されなかった。

文献

１．Ｉｎｇｒａｍ，　Ｍ．　ａｎｄ　Ｔｈｏｒｎｌｅｙ，　Ｍ．Ｊ．

　　：　Ｉｎｔｅｒｎ．　Ｊ．　Ａｐｐｌ．　Ｒａｄｉａｔｉｏｎ

　　Ｉｓｏｔｏｐｅ　６：　１２２（１９５９）

２．Ｃｏｌｅｂｙ，　Ｂ．：　Ｉｎｔｅｒｎ．　Ｊ．　Ａｐｐｌ．

　　Ｒａｄｉａｔｉｏｎ　Ｉｓｏｔｏｐｅ　６　：１１５（１９５９）

３．Ｄｒａｋｅ，　Ｓ．Ｄ．，　Ｊ．Ｂ．　Ｅｖａｎｓ，　ａｎｄ

　　Ｃ．Ｆ．　Ｎｉｖｅｎ，Ｊｒ．：Ｆｏｏｄ　Ｒｅｓ．２５（２）

　　２７０（１９６０）

４．Ｈｅｉｌｉｇｍａｎ，Ｆ．：　Ｆｏｏｄ　Ｔｅｃｈ．，１９

　　１１３８（１９６５）

５．Ｍｅｒｃｕｒｉ，　Ａ．Ｊ．，　Ａ．Ｗ．　Ｋｏｔｕｌａ　ａｎｄ

　　Ｄ．Ｈ．　Ｓａｎｄｅｒｓ　：　Ｆｏｏｄ　Ｔｅｃｈ．，２１

　　１５０９（１９６７）

６．Ｍａｃｌｅｏｄ，　Ｃ．Ｍ．，　Ｆ．Ａ．　Ｆａｒｍｅｒ　ａｎｄ

　　Ｈ．Ｒ．　Ｎｅｉｌｓｏｎ　：　Ｆｏｏｄ　Ｔｅｃｈ．，２３

　　９６４（１９６９）

７．高坂和久，塚田武，矢野幸男，檀原宏　：　日本食品工業学会誌

　　１５　５０７（１９６８）