1963年2月8日は食品保蔵の上から歴史上記録さるベき日であろうといわれる。それは世界ではじめて米国において缶に入れて 4.5Mrad の照射殺菌を行なったベーコンを自由に食用に供することが米国のFDA(食品薬品管理局)によって許可された日であるからである。
4.5Mrad という線量は、非塩漬肉に対する安全な殺菌線量で、塩漬肉の場合ならば、照射抵抗性の強いボツリヌス菌を接種してももっと低線量で充分であると考えられている。また 5.58Mrad の線量も健全性については問題がなく、栄養上から加熱肉となんら異なるものでないということである。
ベーコンについでポークソーセージの照射も有望であり、また凍結照射牛肉についても期待がかけられている。
包装の問題もCエナメル缶に入れ、真空下に密封し、照射すれば嗜好性、貯蔵性からも問題はないが、フレキシブル包装にかえることは今後の問題であろう。
肉の照射殺菌に要する費用は、現在ポンド当り1−6セントで、缶詰の場合の0.8−5セント、凍結2−3.5セント、凍結乾燥2−8セントに比較して缶詰と凍結乾燥の中間に位すると算出されている。しかし輸送費を考えると、生鮮、凍結、缶詰より安価であろうし、さらに将来は照射費用のコスト下げも期待されている。
ミシガン大学のKempe博士(IFT,1965)によると、バイラス、細菌の栄養細胞は温熱で不活性になるが、4.5Madの照射では不充分のことがあるかもしれないし、また加熱不足では変敗が生じても非毒性の変敗ですむが、照射不足ではボツリヌス中毒の心配もあるとして、加熱と照射との組み合わせがすすめられている。もちろん、このように問題はすべて解決した訳では決してない。オレゴン大学のSchultz博士(IFT,1965)は、照射食品の現状というIET大会シンポジウムの講演中、嗜好性と実行性との点からもっとも実現性の少ない照射食品の1つに牛乳をあげている。したがって紙面の都合もあり、ここでは肉、卵類の照射についてその現状と将来とを簡単に述べることにしたい。
普通に切ったベーコン片は、硫酸紙にまいてCエナメル缶に詰め、真空下に巻締め、γ線を4.5Mrad照射し、21°または38°に貯蔵する。官能テストはこのベーコンをオーブンでいためて、熱いうちに20名のテスト員によって行なわれたもので、その結果は表8−1に示してある。表中の9点法とは、好きも嫌いもしないという5点を境に、6点はやや好む、7点は適当に好む、8点は大変好む、9点は極端に好むというもので、6点以上は好ましいと考えられている。
表8−1から照射ベーコンは室温あるいは温度を上げた状態でも長期にわたって変敗を生じないで貯蔵できるばかりでなく、よく品質を保っていることがわかる。普通ベーコンはいたみやすい食品で、冷蔵しないときは1週間以内、冷蔵しても数週間以内で変敗するものであるから照射ベーコンが38°の高温で2カ年も保つことは大いに注目されてよいことである。
市販ベーコンに、2.5および4.5Mradを照射し、22°および38°Cに12カ月貯蔵した場合、その間のTBA値、遊離脂肪酸、非蛋白窒素の変化は、表8−2に示してある。なお対照試料は−29°Cに貯蔵し、12カ月間は食用に供し得たが、酸化的変敗の兆しは明らかであった。一方照射試料はどちらの温度に貯蔵したものも、酸敗も全く認められず、官能的に好ましいものであった。
照射によってTBA値、遊離脂肪酸は僅かに増加したが、貯蔵中一定の傾向は得られないにせよ、減少している。照射ベーコンとは逆に、非照射の対照では−29°Cに12カ月貯蔵後、10倍以上も増加を示した。
貯蔵中、遊離脂肪酸と非蛋白態窒素は増加したが、後者は6カ月貯蔵後は一定の傾向が得られていない。貯蔵中の遊離脂肪酸や非蛋白態窒素の増加は実験に用いた市販ベーコンの酸素不活性化が不完全であったためと考えられている。
貯蔵期間(月) |
21℃ 貯 蔵 |
38℃ 貯 蔵 |
実験開始時 1 4 9 16 25 |
7.2 7.1 7.0 7.0 6.9 6.8 |
7.0 7.0 7.0 7.0 6.6 6.2 |
* 4.5Mrad **9点法 Ered Heiligman,Food Technol.19,1138(1965) |
照射量 貯蔵温度 貯蔵期間 |
4.5Mrad |
4.5Mrad |
2.5Mrad |
対 照 |
|
22℃ |
38℃ |
22℃ |
−29℃ |
||
T B A 値 |
0 1 6 12 |
0.71 0.34 0.86 0.21 |
0.88 0.13 0.06 0.22 |
0.98 0.37 0.10 0.23 |
0.15 ── 0.16 1.74 |
遊 脂離 肪 酸 |
0 1 6 12 |
1.33 1.93 6.40 6.37 |
1.36 2.78 9.60 12.43 |
1.39 2.47 4.80 12.46 |
1.22 ── 0.60 0.88 |
非 蛋 窒白 素態 |
0 1 6 12 |
10.3 10.2 19.2 12.9 |
9.7 16.1 26.5 14.5 |
11.2 10.4 14.6 15.7 |
9.7 9.1 8.6 8.9 |
Warnecke ef al,Presented papers at the 10th European Congress of Meat Research Workers,Roskilde,Denmark,10−15 August,1964 |
供試ソーセージは、製造後2〜3日冷蔵したものを用い、セロフアン/ポリエチレンの袋に入れ、そのままあるいは空気を除いて密封し、照射した。
室温、空気の存在下に1〜5Mradを照射したソーセージは表8−3に示してあるように、生の場合その外観が影響をうけ、最低の1Mradの照射でも褪色がみられ、加熱ソーセージではこの褪色は最高の5Mradだけに見られた。また生の場合、最低線量の照射でも香辛料のフレーバーは消えるが、線量が増すと、油の変敗を生じ、いやな臭が出てくる。加熱を行なった場合のフレーバーは3〜5Mradの照射では相当程度悪影響をうけるが、1Mradではほとんど影響がない。またソーセージの組織は、肉について一般にいわれているように、照射によって軟かくなる。空気のない状態で試料を照射したときは、生の場合の臭は対照と同様であったが、褪色が若干認められた。
酸化的変化は、肉製品に特有である、いわゆる照射臭とある程度関係があるし、これまでも照射中の酸素の存在が著しく影響することが認められている。それにもかかわらず、ポークソーセージを照射する場合の空気の有無はフレーバーに有意の差を生じなかった。ただし続く貯蔵中には著しい差異が生じている。
次に、肉中照射臭の生成は照射中の温度を凍結点以下にたもつと軽減するといわれているが、ソーセージの場合、これを−78°および室温下に照射した場合、低温照射によって照射臭が軽減するどころか、かえって劣る結果さえ認められた。
ポークソーセージの場合、使用可能の最大線量は1Mradであり、このレベルで生のソーセージはその臭と外観がわずかに変化するだけであり、加熱を行なったものは外観には変化がなく、ただフレーバーがわずかに変化するだけである。それとて消費者の識別し得る程度を下廻るものである。
貯蔵温度を1°にして空気中に貯蔵すると、急速に褪色し、かつ油の変敗臭が生じる。フレーバー劣変の速さは大きく、ソーセージは4日後食用に供しがたくなる。同一条件で空気中に放置しても、非照射ソーセージは油の変敗の兆しは認められず、約14日後に酸っぱい、腐敗した臭とフレーバーを生じてはじめて変敗を示した。脂肪の自動酸化は過酸化物数の測定で行なったが、1°で30日経っても非照射ソーセージの過酸化物数は、ほとんど増加しなかったが、1Mradを照射したものは直線的に増加して17という数字を示した。
空気を除いた状態で貯蔵すると、1Mrad照射ソーセージは1°で少なくとも9週間は官能テストによる品質が不変であり、12週間後もテストパネルに及第した。したがってこの条件下で照射すると製品の使用期間を3〜4倍延長することになる。
ソーセージの製造(0−2°)、小売販売(10°C)の温度条件を考えて、ソーセージを1°に種々の日数貯蔵後、10°あるいは15°に移して異臭の生成から貯蔵有効日数を判定してみた。ソーセージは対照をのぞいて1Mradを照射し、空気のない状態で貯蔵した。その結果は表に示してある。10°あるいは15°に貯蔵した場合、1Mradの照射によって貯蔵日数は3倍半も延長される。また1°Cに14日貯蔵後、10°Cでは非照射ソーセージでは6日であるが、照射してものでは30日以上、同様に15°では非照射のものが4日であるのに、照射したものでは約20日間貯蔵できる。1°の貯蔵期間をさらにのばすと、非照射ソーセージは既に変敗しているが、1Mrad照射したものは、1°Cで8週間後のものでも10°Cで約4週間、15°Cでは約2週間腐らないことがわかる。このように、ポークソーセージは低線量の照射によってその貯蔵期間が延長できるという有望な見通しが得られている。
缶に密封したポークソーセージパテイは表8−5に示してあるように、2.5Mrad照射したものは21°Cで6カ月貯蔵後、好ましい結果が得られている。4.5Mrd照射したものは1週間および3カ月後の点は低いが、すベての試料は6カ月貯蔵するとその品質は向上した。
表8−6に示してあるように、2.5Mrd照射ソーセージリンクスは、照射後1週間、2カ月貯蔵後(21°C)も−29°Cに貯蔵した対照のそれらとかわりはなかった。また4.5Mradを照射したものは若干照射臭を有したが、これは2カ月の貯蔵で消失した。
照射後の温度の影響については、表8−6のように、1週間貯蔵後では4.5Mrad照射の場合、における照射が2°あるいは−23°の場合よりも好ましい結果が得られているが、2.5Mradの場合その効果は明らかでない。また4.5Mradの照射でも2カ月貯蔵後その効果は認められなくなり、2°あるいは−23°で照射したものがその期間で点数が1点も向上している。それはとにかく、照射ポークソーセージは殺菌線量の照射で保存ができるということである。
|
生 ソ ー セ ー ジ |
加 熱 ソ ー セ ー ジ |
||
照射量(Mrad) |
外 観 1) |
に お い 1) |
外 観 |
軟 か さ 2) |
空気中,18° C 1 2 3 5 真空中, 0° 0 0.5 1.0 1.5 2.0 |
8.0 6.6 6.7 5.9 5.7 8.1 7.0 7.1 7.2 6.9 |
7.7 6.7 6.8 4.5 4.2 7.8 7.4 7.7 7.0 7.4 |
7.0 7.1 7.0 6.3 6.0 ── ── ── ── ── |
0.7 0.9 1.2 2.6 3.1 0.1 0.4 0.5 0.9 1.0 |
1)9点法, 2)5点法, ただし0=硬くも軟かくもない. 5=非常に軟かい B.Coleby et al.,J.Sci Eood & Agric.,13.628(1962) |
貯 蔵 日 数 |
貯 蔵 日 数 (1Mrad,1℃) |
10° の と き |
15° の と き |
||
非 照 射 |
照 射 |
非 照 射 |
照 射 |
|
0 4 8 14 28 42 56 |
10.5 9.3 7.3 6.0 0* 0 0 |
37 ── ── 37 30 32 29 |
6.7 4.7 5.7 4.0 0 0 0 |
24 ── ── 18 17 15 12 |
3試料の平均値 * 1°で試料は変敗した B.Coleby et al.(1962) |
製品番号 |
照射量 Mrad |
貯 蔵 温 度 (21℃) |
|
3 カ 月 |
6 カ 月 |
||
1 |
0.0 2.5 4.5 |
6.1 6.3 4.8 |
6.7 7.0 5.2 |
2 |
0.0 2.5 4.5 |
7.2 5.7 5.3 |
7.3 7.0 6.5 |
* 9点法 |
照射量 Mrad |
2.5 |
4.5 |
対照(−29℃貯蔵) |
||||
貯蔵期間(21℃) |
1週間 |
2カ月 |
1週間 |
2カ月 |
1週間 |
2カ月 |
|
照射温度 ℃ |
2 |
7.3 |
7.0 |
5.4 |
6.6 |
─── |
─── |
−23 |
7.1 |
7.0 |
5.6 |
6.6 |
7.3 |
7.1 |
|
−40 |
7.6 |
7.2 |
6.4 |
6.7 |
─── |
─── |
牛肉を照射して好ましい結果を得るには今でも問題が多い。照射中の温度をコントロールしないで、牛肉4.5Mradを照射すると、その組織、色、フレーバーおよび外観に好ましくない変化が生じる。
好ましい牛肉は低温照射によって得られるし、蛋白分解酵素(カテプシン)の作用で生じる照射牛肉の貯蔵中の低下は中心温度77°Cまで加熱処理を行なうことによってこれを防止することができる。等級の低い牛肉を照射すると、等級の高いものより、とくに組織について、品質のすぐれたものが得られる。
バーベーキュソースや硫酸塩、亜硝酸塩を加えると、照放臭が弱まるという。
燻煙室および電気オーブンで牛肉をブランチし、続いて凍結状態で(−40°ないし−51°C)照射すると好ましい結果が得られる。したがって現在のところ、牛肉の照射時における2ないし−196°C内での最適温度、ブランチングの方法、pHの影響、燻煙の応用、添加物の使用および酵素不活性化を目的とする加熱処理後の照射方法に研究が集中されている。
牛肉の照射殺菌と関連して問題となるのはいやなフレーバ、照射臭の生成である。牛肉に5Mradの照射を行なった場合に生じる揮発性化合物は表8−7に示してあるように、メチオナールおよびn−アルカナールが照射直後肉の揮発成分の主なものであり、貯蔵すると微量になるが、メチオナール、炭化水素およびn−アルカナールは照射臭の重要成分である。たとえばn−ペンタノールのようなn−アルカノールは貯蔵牛肉の臭の濃縮物中に比較的多量に存在している。たとえばn−ヘキサン、1−ヘキセンのようなn−アルカン、n−アルケンは貯蔵照射牛肉や照射直後の牛肉の揮発性化合物であるが、これら化合物の含量は貯蔵肉でははるかに少ない。
ジメチルサルハイド、揮発性メルカプタン、メチオナールのような含硫化合物は照射臭と重要な関係がある。
肉には肉中に存在する酵素の作用によって、たとえば死後硬直、硬直融解のように、著しい死後変化が生じる。同じ線量の照射を与えても肉の各変化過程によって照射の影響が異なることは当然予想されるところである。家兎筋肉に屠殺直後から2日の間、2日から4日の間あるいは7日から9日の間に4Mradの照射を与えた場合、たとえばアクトミオシンのような筋肉蛋白質に及ぼす照射の影響は表8−8に示してあるように、その過程で異なり、屠殺直後の筋肉に照射した場合は、硬直が済んでからの筋肉にあてた場合よりもその影響が少ないように考えられる。
エチルアセテート エタノールa イソプロパノール(?)a n−ブタノールa イソブタノール 2−ブタノールa n−ペンタノールa イソペンタノール n−ヘキサノール n−ヘプタノールa n−オクタノール n−ノナノール(?) アセトインa ジアセチル(?) n−ブタナール |
n−ペンタナール(?) イソペンタナール(?)a n−ヘキサナールa n−ヘプタナール n−オクタナールa n−ノナナールa n−オクタナールa n−デカナール(?) n−ウンデカナール(?) ベンツアルデヒドa フエニルアセトアルデヒド メチオナール ジメチルサルハイド アセトン 2−ブタノンa |
ベンゼンa n−ノナン n−デカン 1−デセン n−ウンデカン 1−ウンデセン n−ドデカン 1−ドデセン n−トリデカン 1−トリデセン n−テトラデカン(?) |
未知カルボニル化合物 含硫化合物の非照射臭中にも存在するもの E.L.Wick,M.Koshika,and J.Mizutani,J.Food Sci.,30 433(1965) |
短時抽出アクトミオシン |
照 射 期 間* (日) |
相 対 粘 度 |
ATP−sensitivity % |
ATP アーゼ ** |
|||
対 照 |
照 射 |
対 照 |
照 射 |
対 照 |
照 射 |
|
0−2 2−4 7−9 |
1.41 1.69 1.75 |
1.45 1.50 1.39 |
──── 31.9 34.8 |
5.6 6.7 2.3 |
1.81 1.77 2.01 |
1.96 1.71 0.86 |
0−2 2−4 7−9 |
2.56 2.50 2.18 |
1.91 1.99 1.65 |
43.0 │ 23.5 46.6 │ 25.5 42.1 │ 21.7 |
3.12 │ 2.91 3.20 │ 2.70 2.47 │ 2.33 |
* 照射量約4Mrad **遊離燐(μg/min)で示す M.Fujimaki et al.,J.Food Sci.,26 178(1961) |
中心温度が71°Cとなるまでスチームあるいはオーブンで加熱した、ポークロインのような豚肉(塩漬は行なってない)に4.5Mradの照射を行なうと、21°Cで20カ月貯蔵しても6.4乃至6.7という評点が得られ、立派に食用に供されることが判った。同じような結果は25カ月貯蔵したポークチョップについても得られている。
[表8−8 筋肉への照射がアクトミオシンの理化学的性質に及ぼす影響]
照射豚肉について現在研究を行なっているのは肉組織の改良、酵素を不活性化するための最良のブランチングの方法、照射に先立って肉を包装する場合の包装方法についてである。
短時抽出アクトミオシン |
照 射 期 間* (日) |
相 対 粘 度 |
ATP−sensitivity % |
ATP アーゼ ** |
|||
対 照 |
照 射 |
対 照 |
照 射 |
対 照 |
照 射 |
|
0−2 2−4 7−9 |
1.41 1.69 1.75 |
1.45 1.50 1.39 |
──── 31.9 34.8 |
5.6 6.7 2.3 |
1.81 1.77 2.01 |
1.96 1.71 0.86 |
0−2 2−4 7−9 |
2.56 2.50 2.18 |
1.91 1.99 1.65 |
43.0 │ 23.5 46.6 │ 25.5 42.1 │ 21.7 |
3.12 │ 2.91 3.20 │ 2.70 2.47 │ 2.33 |
* 照射量約4Mrad **遊離燐(μg/min)で示す M.Fujimaki et al.,J.Food Sci.,26 178(1961) |
4.5Mradの照射を行なった市販ハムは貯蔵後よい品質のものが必ずしも得られていない。塩漬料、燻煙、加熱温度、照射線量が照射ハムの照射後の貯蔵性、化学変化および嗜好性に及ぼす影響が研究されている。ハムは塩漬製品であるからベーコンの場合と同様、殺菌のためには4.5Mradを必要としないかもしれない。事実、1および2Mradのレベルで照射したハムを18カ月貯蔵した結果、それらは非常に好ましいものであったし、嫌気性細菌は全く存在していなかった。また市販ハムのpHを縮合燐酸塩以外の化学薬品でたかめると、4.5Mradで照射しても照射臭が弱まったという。現在進行している多くの技術的研究は2.5Mradの照射を行なったハムについて行なわれている。
骨抜の胸肉、腿肉をスチームで内部温度80°C〜85°Cまでに加熱し、酵素を不活性化する。冷却後、肉を缶に詰め、水銀柱25インチの減圧下に密封し、対照としては−29°Cに、その他はCo−60で照射し(4.5Mrad)21°および38°Cの温度に貯蔵した。肉は油であげ、温かいうちに36人のパネルテスト員に供した。その結果は表8−9に示してある。照射により滅菌した鶏肉の品質は大変好ましいものであり、凍結非照射肉に劣らぬものであった。照射肉は21°Cの貯蔵では少なくとも21カ月、38°Cでは18カ月間すぐれた貯蔵性を有することがわかった。そしてこれらの結果は従来の結果(Gernon,Gernon & Seaton)を裏書するものである。
鶏肉を生肉のまま1Mradのγ線照射した場合は表8−10に示してあるように、非照射肉に比べて7〜10日間保存期間を延長させることができるし、照射と低温貯蔵とを併用すると、その期間はさらに延長できる。
各種の肉および肉製品の照射による嗜好テストの結果を表示すると表8−11のごとくになる。
|
貯 蔵 温 度 |
対 照(非照射) |
|
貯蔵期間(月) 実験開始時 3 6 9 12 15 18 21 |
21℃ 7.0 7.4 7.3 7.3 7.1 6.9 7.6 7.4 |
38℃ 7.4 7.1 7.0 7.0 7.6 6.8 7.3 6.4 |
−29℃ 7.2 7.2 7.4 7.4 7.1 7.4 7.3 6.7 |
Ered Heiligman,Food Technol.,19,1138(1965) |
貯蔵日数 (25℃) |
揮発性塩基窒素 (mg%) |
生 菌 数 |
||
対 照 区 |
照 射 区* |
対 照 区 |
照 射 区* |
|
1 5 7 11 13 |
9.4 53 376 1024 887 |
10.7 9.9 27.2 13.8 19.3 |
4,200 ─── 92,000 17.000 94.000 |
<3,000 <3.000 <3,000 7,000 ─── |
* 1Mrad 木崎卓平,神谷誠,明大農研報 18号 (1965) |
食 品 名 |
照射量 Mrad |
照 射 品 |
対 照 品 |
年 |
ベーコン ポーク ロースト グリル チキン シチュー フライ バービキュ ハム ポークソーセージ ビーフ バービキュ |
4.5 2.5 4.5 4.5 4.5 4.5 4.5 2.5 4.5 4.5 |
5.57 5.59 7.82 7.27 7.37 6.77 5.58 6.53 5.16 6.11 |
6.53 6.02 7.98 7.28 7.58 7.21 6.41 7.20 5.82 6.79 |
1963 1964 1958 1963 1958 1963 1963 1964 1964 1964 |
殻付鶏卵を照射により殺菌するためには1×10・E(5)γの照射線量を必要とするが、この線量で照射した卵は卵黄膜の強度が低下し、卵白の品質も低下する。〔1〕また同じく殻付卵を照射線量1〜300Kradで照射すると、オゾンのような異臭を生じ、かつ濃厚卵白が水様化し、この変化は照射線量の増加とともに著しくなるといわれる。〔2〕
殻付鶏卵をγ線照射すると、表8−12に示してあるように、照射線量10Mradで卵白は淡褐色となって硬く凝固し、卵黄は褪色して白色化し、かつ硬く凝固する。また0.1〜0.4Mradの照射では、卵白は著しく水様化し、卵黄はその表面が一部褪色して班点を生じ、卵黄リポ蛋白質の変性が生じるものと考えられている。〔3〕また卵黄のリペチン還元糖は照射によって減少するという。〔4〕凍結全卵を凍結したまま照射殺菌すると、照射線量0.5Mradのでサルモネラ属細菌は10・E(−7)〜10・(−8)と減少し、風味はいくらか低下するが、たとえば baking quality など品質的価値は損われない。〔5〕
このように、液卵を線照射することは風味など品質の低下を招くものと考えられている。もっとも Goldblith ら(Food Technol., 1964)によると、高温と照射エネルギーとの組み合わせによる効果は卵の場合にも期待できるものと考えられている。
野並(未発表)によると、新鮮卵白を醋酸でpH6.2および7.2とし、市販グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ混合物を加え、噴霧乾燥を行なって得られる乾燥卵白(水分含量約4.5%)にγ線を0.1〜1Mrad照射し、30°Cに21日間貯蔵したときの泡立性、溶解度などの品質、細菌数は表8−13,8−14に示してあるように、その品質は著しく低下することなく、殺菌の効果のあることが認められている。
γ線を照射した卵白の人工消化性(ペプシンおよびトリプシンによる)は黒川によると、卵白を加熱後、γ線照射を行なった場合、酵素分解性はペプシン、トリプシンいずれにしても照射前と同じであったが、γ射を照射した卵白を加熱してから酵素を作用させると、ペプシンによる分解性は加熱の影響を全くうけないが、トリプシンによる分解性は加熱により増加したという。〔6〕
試 料 |
供試卵数 |
卵白pH |
固形物含有量 (%) |
外観および臭気の変化 |
||
卵 白 |
卵 黄 |
卵 白 |
卵 黄 |
|||
1×10・E(7)rad照射卵 5×10・E(5)rad照射卵 1×10・E(5)rad照射卵 対 照 |
6 6 6 6 6 |
── 8.99 8.36 8.90 8.95 8.10 |
12.22 10.75 11.53 11.80 11.09 11.44 |
49.38 51.79 52.01 52.23 52.67 51.33 |
完全凝固,淡色 焦臭著しい 水様化著しい 焦臭 濃厚卵白消失 微かに焦臭 新鮮卵同様 |
完全凝固,白色化 焦臭著しい 一部透明化,卵黄膜は 卵黄より遊離,焦臭 同 上 新鮮卵同様 |
(野並慶宣ほか,農化第36巻,1962) |
試 料 区 分 |
照射線量(rad) |
泡立ち性(ml) |
pH |
風 味 |
色 調 |
新鮮乾燥卵白A 〃 A 〃 A 〃 B 〃 B 〃 B 貯蔵乾燥卵白A 〃 A 〃 A 〃 B 〃 B 〃 B |
無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) |
178 153 223 272 196 300 190 184 285 258 290 250 |
5.70 5.50 6.00 6.81 6.91 7.40 5.41 5.00 5.15 6.55 6.40 7.41 |
酸臭 酸臭,極微カラメル臭 カラメル臭 正常 極微カラメル臭 微カラメル臭 微酸臭 微カラメル臭 微カラメル臭 正常 正常 微カラメル臭 |
正 常 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 〃 |
試 料 区 分 |
照射線量(rad) |
総生菌数(1g試料中) |
大腸菌数(試料1g中) |
新鮮乾燥卵白A 〃 A 〃 A 〃 B 〃 B 〃 B 貯蔵乾燥卵白A 〃 A 〃 A 〃 B 〃 B 〃 B |
無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) 無 照 射 1×10・E(5) 1×10・E(6) |
100 5 3 20 10 3 58 5 3 8 3 3 |
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 |
(新潟大学野並慶宣,未発表) |
〔1〕 F.J.McArdle et al.,Poultry
Sci.,32,1070(1954)
〔2〕 R.W.Parspons,W.J.Stadelman,
ibid.,36,319(1957)
〔3〕 野並慶宣,竹内順子,農化,36,301(1962)
〔4〕 野並慶宣,農化,37,602(1963)
〔5〕 M.Ingram et al.,Low Temp.Res.
Station Record Memo No.365(1961)
〔6〕 黒川一夫,栄養と食糧,18,187(1965)