サクラ干しとよばれる製品は、みりん干し又は末広干しと類似の水産加工食品であって、カタクチイワシ、サンマ、キス、サヨリなどを原料とし、糖濃度の高い調味液に浸漬後乾燥した製品である。元来、さくら干しは水分含量が少なく糖含量の高い乾燥品なので微生物の繁殖を防ぎ貯蔵性を有する製品である。しかし、最近は食感の柔かい生乾品が好まれてきており、この生産の拡大が期待されているが、腐敗しやすく貯蔵性に乏しいのが欠点とされている。
このようなさくら干しの貯蔵中の悪変は、主として細菌に原因するから、悪変を阻止するには放射線による冷殺菌を検討する価値があると考える。
そこで、本研究はカタクチイワシを原料としたさくら干しについて、まず、製品の貯蔵性におよぼす乾燥度の影響及びガンマ線照射の効果について検討したので、ここに報告する。
魚箱にバラ詰めの凍結貯蔵(−20℃)してあるカタクチイワシ(全長11〜12cm)を用いた。
流水解凍したカタクチイワシの頭及び内蔵を除去して腹開きにして、水洗したのち中骨を除き、これを網の上に並べ、浸漬タンクに入れる。これに調味液(清水4l、砂糖2.56Kg、食塩0.3Kg及びグルタミン酸ナトリウム0.1Kg)を注入し、18時間浸漬処理を行なう。この際の調味液量と魚体重量との比率は2:1とし、浸漬時の液温を3〜5℃とした。
浸漬終了後、これを5区に分け、2,4,8,12及び14時間の乾燥を行なう。乾燥方法は、魚体を1尾ずつ網上に並らべ、35℃の温風送風乾燥機によった。乾燥終了後、4〜6尾(2×2尾又は2×3尾)を1組としてサランフィルムで包み、更にポリエチレン袋に詰めて試験品とする。包装は含気包装とした。
袋詰めの各試料を1夜冷蔵庫(1〜2℃)に保管したのち、コバルト60を線源とするガンマ線照射を行なう。照射線量は140,210,300Kradとし、照射時の室温を1℃とした。この線量率は4.2万rad/hである。
照射処理及び非照射の試料をそれぞれ2区に分け、30±1℃に保存した。
保存中のそれぞれの試験区の品質は、非照射の1〜2℃に保存のものを対照とし、風味、固さ、色調、光沢、微生物発生についての官能検査によって判定した。
それぞれ所定の乾燥を行った直後の試料の水分量はTable 1に示すとおりである。これによると、従来のさくら干しの水分量(35〜42%)と比較すると、2,4及び8時間乾燥区は水分量が多く、12及び14時間乾燥区では少ない。
Time of dry treatments (Hours) |
Moisture (%) |
2 4 8 12 14 |
78.6 74.2 51.3 35.1 20.4 |
官能検査の結査から判断されるそれぞれの試験区の貯蔵可能日数をTable 2に示した。これによると、2時間乾燥区はいずれも5日であって非照射区と照射区との間に差異がない。4時間乾燥区では非照射区の5日に対し、210及び300Krad照射区は8日である。次に、8時間乾燥区については、非照射区の14日に対して、140,210及び300Krad照射区はそれぞれ22,23及び24日を示している。いっぽう、12時間乾燥区の貯蔵可能日数は非照射区の20日に対して、照射区は更に2〜4日延長している。また、14時間乾燥区では非照射区、照射区いずれも12時間乾燥区より若干の延長がみられる。これらの実験条件のうちでは、14時間乾燥の300Krad 照射区が最も長い貯蔵性を有しているが、その貯蔵可能日数はおおよそ30日間である。
貯蔵中の品質変化は、2,4時間乾燥区は非照射区、照射区いずれもカビの発生が顕著であって短期間のうちに全面に着生して食用不可となる。8時間以上の乾燥区はカビの発生も認められるが、油焼け及び異臭を発生して貯蔵限界に達する。
この実験での照射に伴なう照射臭の発生や異味などの副反応は、210Krad までは全く感知しないが、300Krad ではわずかに照射臭を感知する場合もあるので、さくら干しに対する許容線量は300Krad 付近と考えられる。この線量はかまぼこ類の適正線量と同等〔1〕〜〔4〕のようである。
以上の結果から、乾燥処理時間が8時間までのものが食感上の点からみて生乾品のさくら干しに相当するが、30±1℃の高温貯蔵において2時間及び4時間乾燥のものは照射効果はほとんど認められないのに対し、8時間乾燥したものは、これに300Krad の照射処理を施すことによっておおよそ24時間の貯蔵が可能であって、非照射に対して貯蔵期間を約1.7倍延長させることができる。なお、照射線量が140,210及び300Krad の間では線量の増加につれて貯蔵可能日数も増大しているが、顕著な増大は示していない。また、貯蔵中の試験品には乾燥処理時間の如何にかかわらずカビが認められているが、この試験品は包装後照射しているので、照射後の二次汚染ではない。したがって、照射前に存在しているカビに対しては、300Krad の線量ではこれを殺滅又は発育を抑制することはできない。
Organoleptic tests of irradiated SAKURABOSHI stored at 30±1℃. |
Treatments |
Shelf life (Days) |
Remark |
||
Dry time (Hours) |
Irradiation doses (Krad) |
Mould |
Odour |
|
2 |
0 140 210 300 |
5 5 5 5 |
+++ +++ +++ +++ |
Putrid 〃 〃 〃 |
4 |
0 140 210 300 |
5 5 8 8 |
+++ +++ +++ +++ |
Putrid 〃 〃 〃 |
8 |
0 140 210 300 |
14 22 23 24 |
+ + + + |
Acidified 〃 〃 〃 |
12 |
0 140 210 300 |
20 22 24 24 |
+ + + + |
Acidified 〃 〃 〃 |
14 |
0 140 210 300 |
22 24 27 30 |
+ + + + |
Acidified 〃 〃 〃 |
官能検査の結果をTable3に示してある。2,4及び8時間乾燥区の貯蔵可能日数は非照射区でそれぞれ18〜20,24〜25及び27〜31日である。12及び14時間乾燥区については、この実験は31日目までで中止したが、両乾燥区ともこの期間中に品質に変化はなく正常に保持されている。いっぽう、照射区についてはどの乾燥区においても非照射と比較して貯蔵性に差異がなく、照射線量での差異もない。
貯蔵中の品質変化は、非照射、照射の両区とも乾燥時間の如何にかかわらずカビの発生はなく、軟化現象を呈して貯蔵限界に達する。
この結果から、5±1℃の低温貯蔵においては2時間乾燥の非照射でも20日間程度の貯蔵性を有し、それぞれの貯蔵性は乾燥時間の延長とともに増加するが、これに照射を施しても300Kradまでの線量においては何等貯蔵日数の延長は得られなかった。
Organoleptic tests of irradiated SAKURABOSHI stored at 5±1℃. |
Treatments |
Shelf life (Days) |
Remark |
|||
Dry time (Hours) |
Irradiation doses (Krad) |
Mould |
Odour |
Texture |
|
2 |
0 140 210 300 |
18〜20 20 20 20 |
− − − − |
Putrid 〃 〃 〃 |
Soft 〃 〃 〃 |
4 |
0 140 210 300 |
24〜25 24〜25 24〜25 24〜25 |
− − − − |
Putrid 〃 〃 〃 |
Soft 〃 〃 〃 |
8 |
0 140 210 300 |
27〜31 27〜31 27〜31 27〜31 |
− − − − |
Acidified 〃 〃 〃 |
|
12 |
0 140 210 300 |
31< 31< 31< 31< |
− − − − |
|
|
14 |
0 140 210 300 |
31< 31< 31< 31< |
− − − − |
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〔1〕篠山茂行、天野慶之:東海区水研報、63,116(1970)
〔2〕篠山茂之、:東海区水研報、70,57〜64(1972)
〔3〕篠山茂之、柴 眞、山本常治:東海区水研報、82,97〜104
(1975)
〔4〕篠山茂之:東海区水研報、87,25〜31(1976)
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