食品照射に関する文献検索

照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

殺菌・腐敗抑制(水産ねり製品)


発表場所 : 食品照射、vol.23(2)、72−76.
著者名 : 伊藤 均、Naruemon Sangthong*、石垣 功
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所(〒370−12 群馬県高崎市綿貫町1233)、*タイ水産技術試験場
発行年月日 : 1988年
冷凍エビの放射線殺菌と貯蔵効果
○ 序
○ 実験方法
○ 実験結果及び考察
○ 文献



冷凍エビの放射線殺菌と貯蔵効果


冷凍エビの放射線殺菌と貯蔵効果
○ 序

 近年国内で消費されるエビは海外からの冷凍品が増加しており、しばしば食中毒事件やコレラ菌汚染などの問題が起っている。〔1〕−〔4〕 前報の結果では〔5〕,東南アジアや中国、アルゼンチンなどから輸入冷凍エビには汚染微生物が1g当り2×10・E(5)〜3×10・E(7)個検出され、大腸菌群も若干検出された。汚染微生物の多くは細菌類で占められ、その多くは低温性Moraxella,Arthrobacrer,Micrococcus,Acinetobacter,Flavobacterium,Corynebacterium,Pseudomonasなどがほぼ共通して分布していた。大腸菌群は土壌などに多く分布するEnterobacterやKbebsiellaで占められており、Salmonellaは常法では分離されなかった。

 本研究では凍結下及び解凍下で放射線を照射した場合の汚染微生物の殺菌効果、腸炎ビブリオの分布と殺菌線量、照射による食味変化とトリメチルアミン含量との関係、解凍後の貯蔵性についての検討を行った。

○ 実験方法

 輸入冷凍エビは前報〔5〕と同じ6試料の中で微生物汚染の著しい試料を用いた。腸炎ビブリオは各10gのエビ細断片を90mlの6%NaCl−コリスチンブロスに投入し、増菌培養後、常法に従って分離、同定した。ガンマ線照射は160kCiのCo−60板状線源を用い、照射はデュワー瓶中で凍結又は解凍状態で行い、デュワー瓶中の線量率はあらかじめFrickeの鉄線量計で測定しておいた。微生物検査及びトリメチルアミンの測定は常法に従って行った。

○ 実験結果及び考察

 東南アジア3ヶ国産の冷凍エビA,B,Cを−30℃のフリーザー中で1晩冷凍後、ドライアイスを加え照射したところ、Fig.1に示すように総細菌数の生残曲線は各試料ともほとんど差がなく、約5kGyまでは急激に生残菌数が減少し、それ以上では減少はゆるやかとなりred micrococci〔5〕や低温性Moraxellaが主に生残していた。大腸菌群の生残曲線は試料によって異なっていたが、4kGy以下で検出できなくなった。つぎに、試料Cを用いて−65,−20,0,15℃の各温度条件で照射して殺菌効果をしらべたところ、Fig.2に示すように総細菌数の殺菌効果は−20℃と−65℃で全く一致し、0℃と15℃で感受性が促進される傾向が認められた。しかし、1g当り10・E(1)個まで減菌するのに必要な線量は解凍下で約3kGy、凍結下で約4kGyであり、凍結による必要殺菌線量の差は著しくなかった。一方、解凍下で照射した場合には2.5kGyで照射臭生成が認められ、5kGyでは明確に検知された。ところが、−20℃〜−30℃の凍結下で照射した場合には、Table1に示すように10kGyまでの線量で照射臭の生成は無視できる程度であり、30kGyの照射で明確に照射臭を検知できるようになった。また魚介類の鮮度の化学的判定の指標として用いられるトリメチルアミン含量は凍結下では50kGyまで変化せず、解凍下では20kGy以上で若干増大する傾向が認められた(Table 2)。

 腸炎ビブリオの検査は試料A,Cについて行い、100g当り1〜2個検出された。分離した5株は全てVibrio parahaemolyticusと同定され、0.065M燐酸緩衝液中でのD10値は全株とも0.035kGyとなりPseudmonas fluorescensやP.aeruginosaと同じ値を示した。凍結下で照射した場合にはFig.3に示すようにD10値は0.38kGyとなり、必要殺菌線量は1.5〜2kGyとなった。一方、先に報告したように、冷凍エビ中でのSalmonella typhimuriumの場合の必要殺菌線量は3〜4kGyである〔5〕。したがって、冷凍エビ中の総細菌数を衛生レベルまで減菌し、病原菌を完全殺菌するのに必要な線量は3〜5kGyで十分と思われる。なお、コレラ菌はVibrioの仲間であり、V.parahaemolyticusや先に報告したV.costicola〔6〕の場合と同様に他の細菌類に比べ放射線感受性が高いものと思われ、3〜5kGy照射後に生残することはあり得ないと思われる。

 冷凍エビを3kGy及び5kGy照射後、5℃で貯蔵効果をしらべたところ、Fig.4に示すように総細菌数のレベル(衛生規準では1g当り10・E(5)個以下)では6日以上の貯蔵が可能となった。しかしエビの場合、自己消化酸素の働きが活発のためか照射の有無にかかわらず貯蔵中に黒変化が起こり食味も低下するため、食味としての受容限界は非照射品で3日以下であり、3〜5kGy照射品も6日が受容限界であり、照射により2倍程度の貯蔵期間延長が可能である。


Table 1
  Result of sensory test(off−odor)
  on irradiated shrimps at doses
  of 0 〜 50 kGy in frozen and
  defrosted condition

Dose(kGy)
  Frozen    Defrosted 
    0    
    2.5  
    5    
   10    
   20    
   30    
   50    
    −          −      
    −          +      
    ±          ++     
    ±          +++    
    +          +++    
    +          +++    
    ++         +++    

− no off−odor,± not clear, + detectable



Table 2
  Trimethylamine nitrogen content
  (mg %)in shrimps after irradiation
  at doses of 0 〜 50 kGy in frozen
  and defrosted condition

Dose(kGy)
  Frozen    Defrosted 
    0    
    5    
   10    
   20    
   30    
   50    
    3.4        3.8    
    4.0        3.6    
    3.4        4.2    
    4.0        4.3    
    3.9        4.8    
    4.1        4.8    



Fig.1 Inactivation curve of total aerobic bacteria and coliform in irradiated frozen shrimps



Fig.2 Inactivation curve of total aerobic bacteria and coliform in irradiated



Fig.3 Survial curve of V.parahaemolyticus in frozen shrimp



Fig.4 Total aerobic and lactic acid bacterial counts in defrosted whole shrimps during storage at 5℃


○ 文献

〔1〕森田勉:食品と微生物、2(1),49(1985).

〔2〕北村治志:食品と微生物、2(1),55(1985).

〔3〕奥積昌世:New Food Industry.27(10),

   23(1985).

〔4〕河端俊治:New Food Industry,27(12),

   7(1985).

〔5〕伊藤 均,P.ADUI,YATHAM.石垣 功:食品照射、

   22(2),19(1987).

〔6〕H.ITO and M.YUSOP ABU:Agric.

   Biol Chem,49,1047(1985)

(昭和63年8月31日受理)




関連する文献一覧に戻る

ホームに戻る