かまぼこはわが国特有のタンパク含量の高い水産加工食品である。その放射線殺菌の実用化を考える場合、殺菌効果とともに栄養成分の低下を考慮しなければならない。放射線照射がねり製品に対して菌学的見地から有効であることは、すでにいくつかの報告1-7)がなされている。成分変化については、含気包装をした揚げかまぼこのアミノ酸舎量と脂肪酸含量について報告8〜11)されている程度てある。貯蔵期間が長い場合は包装状態も重要な問題となる。
本報告では異なる包装状態、すなわち含気包装以外に 、脱気包装および窒素置換包装を行った揚げかまぼこの照射および貯蔵によるアミノ酸含量の変化について検討を行った。
試料:揚げかまぼこはスケトウダラ冷凍すり身(SA:C級、1:1)を主原料とし、大豆油で2段揚げ( 120±5℃で1.5分、引継き170±5℃で1.5分)した一般なものである その原料組成はTable 1に示した。
包装状態:K-セロファン袋を用い、揚げかまぼこを 1 個ずつ包装した。包装状態は含気はそのまま、脱気は4mmHg の減圧下で、窒素置換は窒素充填と脱気を5〜6度くり返し、それぞれ封袋した。
照射条件: コバルト60ガンマ線照射装置を用い3kGyの照射を行った。
貯蔵条件: 高温の30℃と低温の10℃の2条件の貯蔵を行った。
エキスの調製: 揚げかまぼこを磨砕し3倍量の80%エタノールで75℃、30分攪拌抽出後遠心分離した。この抽出操作を3回くり返し、上澄を合わせた後減圧濃縮しエキスとした。
アミノ酸の定量:イオン交換樹脂は日立No.2168を用い、日立KLA‐5型のアミノ酸自動分析計で2時間15分の短時間分析を行った。
その他、総菌数、粗タンパク量、水分含量、pHおよび酸度の測定を行った。
照射前後
照射前および直後の揚げかまぼこのアミノ酸量を分析した結果はTable 2に示した。この結果は3種の包装状態の0日として共通である。
照射による揚げかまぼこの18種アミノ酸の損失は 1.5%と僅かであり、実験誤差を考慮すると、3kGy 照射による損失は既報と同様にほぼない事が判った。照射によりメチオニンの酸化生成物であるメチオニンスルホキシドおよびスルホンが微量生成した。また、揚げかまぼこの外観や切片ならびに総菌数、pHの変化はほぼ認められなかった。
30℃貯蔵
各包装状態における照射および非照射の揚げかまぼこを30℃で貯蔵し 、そのアミノ酸含量の変化を7日毎に分析した結果はFig.1に、アミノ酸含量を合計した結果(全アミノ酸量)はFig.2にそれぞれ示した通りである。この結果から判る様に、7日毎にいずれのアミノ酸も漸減傾向を示し、包装状態ならびに照射、非照射による差も余り認められるかった。総菌数の変化は、合気包装では非照区で3日目に、照射区では4日目に106に達し、脱気および窒素置換包装の非照射区では3日目に、照射区では含気の場合よりやや遅れるが6日目頃にそれぞれ105に達した。その後も増加を示し、いずれも7日目頃に異臭の発生が認められ、腐敗が明らかであった。また、pHの変化はいずれの試料も経日的に漸減傾向を示し、揚げかまぼこエキス中のアミノ酸量はFig.2に示した通り、逆に漸増額向を示し、包装状態および照射や非照射による大差は認められなかった。以上の事から、30℃貯蔵では、包装状態によるより高温により微生物の増殖が進行し、揚げかまぼこタンパクが分解、さらに腐敗が生じていることが判った。
1O℃貯蔵
包装状態の異る照射および非照射揚げかまぼこをIO℃貯蔵し、18種アミノ酸を分析し合計(全アミノ酸量)した結果およびエキス中のアミノ酸量はFig.2に示した。
全アミノ酸量の減少は、いずれの包装状態も30℃区より遅延して生じ、照射区はいずれも非照射区よりその変化が小であった。照射区の中では、窒素置換と脱気包装試料が変化が最も小さく、その差は僅小で、含気包装試料がやや早い変化を示した。エキス中のアミノ酸量の増加ならびに総菌数の増加もほぼ同様の傾向であった。
終りに、本研究の遂行に終始ご指導を戴いた白井和雄教授に深謝致します。
γ線照射装置の使用の便をはかって戴いた農林水産省東海区水産研究所の篠山茂行および戸澤晴己の両技官に対し感謝致します。
本研究の費用の一部は昭和58年度日本大学農獣医学部教育研究助成金(個人研究)によるものです。
文献
1)篠山茂行:東海水研報,No.70, 57 (1972).
2)篠山茂行:東海水研報,No.75, 39 (1973).
3)篠山茂行:東海水研報,No.113, 13 (1984).
4)伊藤 均・飯塚 廣:日食工誌, 25, 14(1978).
5)伊藤藤 均・Siaglan,E.G.:日食工誌,26,342(1979).
6)篠山茂行:東海水研報,No.87, 25 (1976).
7)篠山茂行・柴 真・山本常治:東海水研報, No.82, 97 (1975).
8)奥 忠武:日食工誌, 30, 145 (1983).
9)奥 忠武:日食工誌, 30, 350 (1983).
10)奥 忠武:日食工誌, 30,681(1983).
11)奥 忠武:日食工誌, 31,174 (1984).
12)Hugri,T.E.and Moore,S.:J. Biol. Chem., 247, 2828 (1972).
13)Schrum,E.,Moore,S. and Bigwood,E.: Biochem. J., 57, 33 (1954).
(昭和59年5月31日受理)
Ingredients |
|
Frozen ground Alaska pollack SA class C class Salt Potato starch Glucose Sugar Water |
50.0 g 50.0 3.4 8.0 1.0 3.3 12.0 |
Amino acid |
Unirradiated |
Irradiated (3 kGy) |
||
Mean value |
Experimental error*(%) |
Mean value |
Experimental error(%) |
|
Lys Leu Ile Thr Val Phe Tyr Met (Cys)2 Trp Glu Asp Arg Ala Gly Pro Ser His Total NH3 |
1111.3 113.7 565.0 462.7 459.8 418.4 354.7 317.6 131.4 101.3 1631.3 1348.8 714.7 630.0 441.9 398.9 384.9 327.8 10714.2 14.7 |
2.6 3.8 4.5 2.8 4.5 3.0 2.7 3.2 5.3 4.5 2.4 2.6 1.8 2.0 1.5 4.5 3.8 3.6 3.3 3.5 |
1089.1 911.0 554.2 457.1 452.9 405.6 347.3 304.9 126.3 99.3 1626.4 1342.0 689.7 623.7 440.6 386.9 379.9 320.6 10557.5 18.7 |
2.8 3.6 4.3 2.8 4.1 2.7 3.0 2.9 5.0 4.1 1.8 2.5 1.9 1.7 1.4 4.0 3.5 3.2 3.1 3.7 |
MetSO ** MetSO2*** |
0 0 |
- - |
d**** d |
- - |
* Experimental error(%)=(difference/mean value)x100 **Methionine sulfoxide ***Methionine sulfone ****Detected |
|