わが国の特産品である温州みかんについては、放射線照射により貯蔵中のかび発生を防止し、保存期間の延長を図ることが期待されており、果肉の品質を劣化させない方法として、電子線による150kradの表面照射が設定されている。
当協会では昭和46〜48年度にわたり、食品照射委員会の組織の下に、温州みかんに150kradの電子線表面照射を行った場合の殺菌効果、貯蔵中のかび発生防止効果、果皮中の諸成分の変化ならびに電子線照射に際してのみかん表面の線量均一性について広く試験研究を行った。
予備実験用として、愛媛県産夏みかんと大阪府和泉市産早生温州みかん(いずれも市販品)。
本実験用として、大阪府和泉市春木川産温州みかんの貯蔵用品種「杉山」を使用した。
予備実験として、表1に示した各種プラスチックフィルムでみかんを包装し、水蒸気・ガス透過性について検討し、その結果から本実験では、ポリブタジエン、ポリエチレン、酢酸繊維素、塩化ビニール、ビニロン等を用いた。
本実験では、試料採取後4℃で20日間貯蔵し、試験区に従い処理し、照射した。試験区は、密封包装区(ヒート・シールした)、折曲げ包装区(袋の口を約1cm折曲げセロテープでとめた)および無包装区とし、それぞれ照射し、非照射区ももうけた。
照射は、大阪府立放射線中央研究所のコッククロフト・ワルトン型電子線表面処理装置(三菱電気製)により、0.5MeV、450μAで行った。線量は、みかんの片面100および150kradとし、それぞれの試料は上下反転して両面を照射した。吸収線量の算出法は梅田ら(食品照射、Vol.4、No.1、91(1969))と同様。また、ガラス線量計(小原光学ガラス製)とラドカラー(日東電気工業製)を用い、線量分布の均一性、試料毎の線量の再現性を確認した。
照射後の試料は、4℃、相対湿度80〜90%の恒温室に貯蔵した。
照射後1ヶ月毎に、(1)かびの発生、(2)重量減少、(3)表皮および果軸の色、(4)組織の変化を調査した。
種 類 |
厚さ(μ) |
水蒸気 透過性 |
ガス ** 透過性 |
|
*低密度ポリエチレン *酢酸繊維素 *ビニロン *塩化ビニール 塩化ビニール(ストレッチ用) ポリスチレン ナイロン−12 ナイロン−6 ポリカーボネート *1、2−ポリブタジエン セロファン |
20 18 30 15 20 30 25 18 40 50 − |
小 大 大 中 中 大 大 大 中 中 大 |
大 小 小 大 大 大 小 小 中 大 大 |
やや破れやすい 破れやすい 破れやすい ヒート・シール不能 |
* 本実験に供試したもの ** ガスは主としてCO2 |
電子線表面処理後1ヶ月毎に、かびの発生が認められたもの(+)またその疑いのあるもの(±)の個数を表2に示した。貯蔵2ヶ月後までは、顕著なかびの発生はなかった。3ヶ月後では水蒸気透過性の小さいフィルム(表1)で包装した区では、かびの発生が多数みられるようになった。4ヶ月後には、腐敗著しく、これらの処理区は実用的にみかんの貯蔵には不適と考えられる。一方、無包装、酢酸繊維素、ビニロン区では、貯蔵4ヶ月でかびの発生した個数は全個数に対して、非照射区で約10%程度、電子線照射区では5%程度である、電子線照射によるみかんのかび発生防止の効果がみられる(表3)。
まとめ表4に、貯蔵4ヶ月後、発生したかびの種類、多少、腐敗等の概況について示した。また、貯蔵4ヶ月後の状態を調査した。
種 類 |
厚さ(μ) |
水蒸気 透過性 |
ガス ** 透過性 |
|
*低密度ポリエチレン *酢酸繊維素 *ビニロン *塩化ビニール 塩化ビニール(ストレッチ用) ポリスチレン ナイロン−12 ナイロン−6 ポリカーボネート *1、2−ポリブタジエン セロファン |
20 18 30 15 20 30 25 18 40 50 − |
小 大 大 中 中 大 大 大 中 中 大 |
大 小 小 大 大 大 小 小 中 大 大 |
やや破れやすい 破れやすい 破れやすい ヒート・シール不能 |
* 本実験に供試したもの ** ガスは主としてCO2 |
処 理 |
共 試 全個数 (個) |
照射後かびの発生した個数* (個) |
|||||||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 |
2ヶ月後 |
3ヶ月後 |
4ヶ月後 |
|||||
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 0 |
2 0 0 |
0 0 0 |
4 0 0 |
1 0 1 |
0 0 1 |
13 3 3 |
1 1 2 |
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 |
0 |
42 28 |
2 0 |
60 60 |
0 0 |
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
1 0 0 |
1 0 0 |
0 0 0 |
2 0 2 |
59 31 59 |
4 0 2 |
120 60 120 |
0 0 0 |
|
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
1 0 |
0 0 |
1 0 |
1 0 |
34 38 |
4 0 |
60 60 |
0 0 |
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
1 0 |
0 1 |
0 0 |
0 1 |
1 0 |
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
2 1 |
0 1 |
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 0 |
0 0 |
1 0 |
0 0 |
11 9 |
0 0 |
15 15 |
0 0 |
* (+)=判然としたもの、(±)=疑いのあるもの |
処 理 |
供 試 全個数 (個) |
か び 発生率 * (%) |
重 量 減少率 ** (%) |
表 面 褐変率 * (%) |
果 軸 黒変率 * (%) |
軟化率 * (%) |
油 胞 陥没率 * (%) |
||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
|||||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
10.8 5.0 2.5 |
21.7 20.4 19.4 |
8.3 45.0 27.5 |
39.2 63.3 63.3 |
12.5 20.0 7.5 |
0.8 20.0 10.8 |
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
10.0 1.7 |
24.6 21.0 |
16.7 11.7 |
45.0 71.7 |
10.0 3.3 |
1.7 1.7 |
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
13.3 6.7 |
25.0 30.0 |
13.3 53.3 |
73.3 80.0 |
6.7 13.3 |
6.7 0.0 |
* 供試全個数に対する、調査項目について判然とみとめられた個数(+)の率(%) ** 貯蔵開始時の重量に対する減少率(%) (註) これらの変化は、照射による影響の他に収穫時のみかんの熟度など供試前の条件が、 かなり大きな影響を与えているかも知れない。 |
処 理 |
か び 発 生 の 概 況 ( 貯 蔵 4 ヶ 月 後 ) |
||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
|
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
発生少 同 上 同 上 |
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
発黴状況殆ど認めず。黄色コロニーあり。みかんは腐敗。 同 上。白色菌糸みとむ。 |
折曲げ |
0 100 150 |
全面に発黴。大半は青かび。一部白色菌糸。短菌糸−青緑色。長菌糸−灰緑色。 同 上。白色菌糸かびの割合が多くなっている。 同 上。青かび、白色菌糸多い。 |
|
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
全面に発黴。大半は青かび。短菌糸−青緑色。長菌糸−灰緑色。 青かび(2種)多い。白色菌糸あり。無照射に比べ発黴阻止状況やや良。 |
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
発生少 同 上 |
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
発生少 同 上 |
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
発生多い。青かび(2種)、白色菌糸。 発生多い。青かび、白色菌糸。 |
備考: 発生かびの種類 ○青かび3種 長菌糸−灰緑色 短菌糸−青緑色 〃 −白 色 ○白かび1種 不完全菌とおもわれる。 菌糸は長い。 |
貯蔵期間中のみかんの重量減少を、貯蔵開始時の重量に対する減少率(%)で表5に示した。重量減少率の小さい場合は、貯蔵3ヶ月でかびの発生、腐敗が著しかった。照射、非照射区の比較では、両者の重量減少に大差はなかったが、照射区の方がやや少なかった。4ヶ月の貯蔵で、重量減少は20〜30%であった。
貯蔵中の重量減少は、包装の有無にかかわらず、照射区の方が非照射区に比べてやや少なかった。
処 理 |
供 試 全個数 (個) |
貯蔵開始時の重量に対する減少率(%) |
|||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 |
2ヶ月後 |
3ヶ月後 |
4ヶ月後 * |
|
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
6.0 6.5 6.2 |
10.5 10.5 10.5 |
17.0 15.6 15.0 |
21.7 20.4 19.4 |
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0.8 1.0 |
1.3 1.6 |
1.7 2.0 |
− − |
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
0.9 1.1 1.2 |
1.6 1.8 1.8 |
2.3 2.7 2.6 |
− − − |
|
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
1.2 1.0 |
1.7 1.7 |
2.5 2.5 |
− − |
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
7.6 6.6 |
12.9 10.9 |
18.8 16.0 |
24.6 21.0 |
ビニロン ** |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
7.3 9.5 |
13.9 17.4 |
19.1 23.1 |
25.0 30.0 |
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0.8 1.1 |
2.7 2.5 |
8.7 6.4 |
− − |
* 記入数値以外は、腐敗のため測定せず。 ** 予備実験でも、無包装区より減少が大きかった。 |
結果を表6に示した。表皮褐変の発現経過は、かび発生の経過と、貯蔵3ヶ月後でその発現が著しくなった。果軸黒変の方は、比較的早い時期から発現がみられ、また、貯蔵4ヶ月後までかび発生、腐敗の少なかった試験区(過湿でない区)ほど、果軸黒変個数の割合が多かった。 照射区の方が非照射区に比べて、表皮褐変、果実黒変とも発現の割合が多かった。このことは、電子線表面処理の影響と考えられる。
(1) |
処 理 |
共 試 全個数 (個) |
表 皮 褐 変 個 数 * (個) |
|||||||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 |
2ヶ月後 |
3ヶ月後 |
4ヶ月後 * |
|||||
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 3 |
0 0 0 |
0 0 2 |
0 0 7 |
3 3 10 |
1 0 13 |
10 27 33 |
2 3 19 |
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 2 |
42 59 |
2 0 |
− − |
|
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 0 |
0 0 0 |
0 0 12 |
1 0 9 |
92 42 98 |
7 1 2 |
− − − |
||
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 2 |
43 53 |
1 1 |
− − |
|
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 1 |
0 2 |
9 3 |
1 2 |
10 7 |
2 10 |
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 3 |
0 0 |
0 5 |
0 0 |
1 8 |
1 2 |
2 8 |
0 2 |
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
11 11 |
1 1 |
− − |
|
処 理 |
共 試 全個数 (個) |
果 軸 黒 変 個 数 * (個) |
|||||||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 |
2ヶ月後 |
3ヶ月後 |
4ヶ月後 ** |
|||||
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
1 1 0 |
11 43 0 |
3 8 20 |
26 51 98 |
24 53 109 |
8 6 8 |
47 38 76 |
5 22 43 |
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 8 |
0 0 |
0 10 |
0 0 |
0 9 |
− − |
|
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 2 |
6 15 14 |
0 0 5 |
7 22 29 |
0 0 4 |
5 1 33 |
− − − |
||
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 7 |
0 0 |
2 29 |
0 5 |
0 7 |
− − |
|
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 24 |
1 30 |
0 27 |
17 32 |
18 53 |
8 6 |
27 43 |
13 15 |
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 3 |
3 10 |
4 11 |
2 4 |
12 13 |
0 2 |
11 12 |
3 3 |
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 1 |
4 14 |
0 1 |
1 8 |
2 3 |
2 |
− − |
* (+) 判然としたもの、(±)疑いのあるもの ** 記入数値以外は腐敗のため調査せず。 |
軟化および油胞陥没について調査の結果を表7に、貯蔵4ヶ月後の果皮の顕微鏡観察を行った。
軟化について、貯蔵2ヶ月後までは、包装の有無、包装法にかかわらず、非照射区の方が照射区に比べて軟化の程度が多い傾向がみられた。しかし、貯蔵3ヶ月後はポリブタジエン、ポリエチレン、塩化ビニール区で、かび発生腐敗の傾向と同じく軟化の程度が急激に進行し、一方、無包装、酢酸繊維素、ビニロン区では軟化の程度はむしろ減少した。また、非照射区に比べて照射区の方が軟化の程度が低い傾向は、貯蔵4ヶ月後までは持続した。
(1) |
処 理 |
共 試 全個数 (個) |
軟 化 し た 個 数 * (個) |
|||||||||||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 |
2ヶ月後 |
3ヶ月後 |
4ヶ月後 ** |
|||||||||
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
(+) |
(±) |
||||||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
42 0 9 |
33 0 9 |
19 0 0 |
31 1 0 |
28 0 0 |
12 0 0 |
15 12 9 |
21 9 6 |
||||
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
3 0 |
6 0 |
1 0 |
0 0 |
42 59 |
2 0 |
− − |
|||||
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
13 0 0 |
36 3 0 |
0 0 2 |
10 0 6 |
92 59 98 |
7 1 2 |
− − − |
||||||
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
7 0 |
0 0 |
10 0 |
57 58 |
0 1 |
− − |
|||||
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
2 0 |
19 0 |
0 0 |
1 0 |
6 1 |
2 0 |
6 2 |
1 1 |
||||
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
3 9 |
5 4 |
0 0 |
0 2 |
0 0 |
0 0 |
1 2 |
0 2 |
||||
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
2 0 |
1 2 |
2 0 |
1 0 |
12 14 |
0 1 |
− − |
|||||
処 理 |
共 試 全個数 (個) |
油胞陥没のある個数*(個) |
|||||||||||||
包装材 |
包装法 |
線 量 (krad) |
1ヶ月後 (+) |
2ヶ月後 (+) |
3ヶ月後 (+) |
4ヶ月後** (+) |
|||||||||
な し (無包装) |
− |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 0 |
0 0 0 |
0 0 0 |
1 12 13 |
||||||||
ポ リ ブタジエン |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 36 |
− − |
||||||||
折曲げ |
0 100 150 |
120 60 120 |
0 0 0 |
0 0 5 |
0 0 45 |
− − − |
|||||||||
ポ リ エチレン |
折曲げ |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
− − |
||||||||
酢 酸 繊維素 |
密 封 |
0 150 |
60 60 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
1 1 |
||||||||
ビニロン |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
1 0 |
||||||||
塩 化 ビニール |
折曲げ |
0 150 |
15 15 |
0 0 |
0 0 |
0 0 |
− − |
* (+) 判然としたもの、(±)疑いのあるもの ** 記入数値以外は腐敗のため調査せず。 |
堺市上別所奥山産の早生種温州みかん「宮川早生」、および普通温州晩熟系(以下晩生種と略称)「大岩」を供試した。収穫は早生種が11月9日、晩生種が11月21日で、8割以上着色果を選んだ。現地でM級果(90〜110g)を選別して、収穫コンテナー(27×59×9cm)に1段に詰めて、直ちに大放研の外気温貯蔵室(10℃±2℃)に収容した。照射までの期間ここで予措を行った。(予措温度試験の一部試料を除く)。晩生種では、予措期間中の目減りが6.9%で、強度の予措となった。(大放研以外の試料に共通)このほか、大放研では収穫直後照射試験のため研究所産の普通温州中塾系の「杉山」を用いた。
大放研での試験試料(2ー1項の試験)はすべて当研究所のコッククロフト・ワルトン型加速器(CW)で行ったが、大放研以外の試料(2−2,2−3、2−4項)は、大量照射の可能な日新ハイボルテージ(株)の変圧器型加速器(EPS)により照射した。照射期日は、早生種が11月28日、晩生種が12月7日(EPSでは6日)に、それぞれの照射を行った。電子線エネルギーは300keVであったが、比較のため一部500keV電子線も使用した。電子線照射の線量は、次式によって算出した。
D = E/R × I/v・1
ただし、D=吸収線量(krad)、
I=加速管電流(μA)、
V=コンベア速度(cm/sec)、
l=ビーム・スキャン幅(cm)、
E=加速電圧(kV)、
R=水での電子線最大飛程(mm)。
ここで、NBSの数値を参考にしてE/Rの値は、300、500、1000kVそれぞれ360、290、200(kV/mm)として計算した。(20μTiのスキャン窓や、約10cmの空気層での吸収などについては補正していない。)
みかんの照射方法は、パットまたは収穫コンテナー上に2cm以上の間隔でみかんを並べ、片面それぞれ150kradずつ照射されるよう、みかんの上下を反転して照射を行った。
コバルトガラス線量計を用いて照射容器ごとに吸収線量を測定した結果、150krad照射の場合、大放研CWで、平均135(min.111〜max.162)kradであり、日新EPSでは、平均124(min.95〜max.150)kradであった。
照射前の貯蔵温度は10゜±2℃(外気温)を基準とし、20℃および5℃を比較した。照射後の試料は5℃を基準として10、15、20℃に貯蔵して比較した。5℃の低温室は、RHが80〜90%であるが、空気の移動が激しく、果実が萎凋するので、コンテナーを10段積み重ねた周囲および上面を片面ダンボール紙で囲い、みかんに風が直接あたらないように考慮した。なお、貯蔵温度20と15℃は恒温室であり、10℃は外気温貯蔵室である。貯蔵中の調査は、早生種では数日間隔で30日間、晩生種では約15日間隔で112日間行った。調査項目は褐変の発現に重点を置き、そのほか腐敗、かび発生果、軟化、ヘタ枯など1果ごとに追跡調査した。
本報告では、照射後30日目の褐変の程度とその発生割合、および貯蔵最終日の健全果、腐敗およびカビ発生果の割合と貯蔵中の重量減少の割合を示した。
結果は表8および9に示した。早生種では、予措温度が高いほど、照射による褐変の程度が強く、その発現率も高かった。しかし、晩生種では、予措温度を20℃に7日間保って急激な目減りを起こさせたのち、10℃で予措した区では、照射による褐変の程度が弱く、しかも発現の割合が最も少なくて、ゆっくり褐変した。この区は、貯蔵初期に果皮の萎凋が目立ったが、後期になると外観的には回復した。10℃区は5℃区に比べて、照射による強い褐変が多く現われたが、5℃の方が褐変発現の割合は多い。これらの試料を長期間貯蔵すると予措温度20℃区は健全果の割合は高いが目減りが22%以上となった。長期貯蔵の効果を合わせ考えると5℃予措、5℃貯蔵区が最も良好である。貯蔵後の腐敗とカビ発生果は照射区で明らかに少なかった。
(収穫:11/9、予措:11/10〜11/28、照射:11/28,貯蔵11/28〜) |
調査日(照射後日数) |
30 日 目 |
30 日 目 **** |
|
||||||||||
予措温度 (℃) |
電子線 照射の 線 量 (krad) |
貯蔵温度 (℃) |
表 皮 褐 変 の 程 度 ** |
褐変発現 時 期 (日) *** |
健全果 (%) |
腐 敗 カビ果 (%) |
目 減 (%) |
腐敗+ 目減り (%) |
供 試 果 数 (コ) |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
|||||||||
20゜ 〃 10゜* 〃 5゜ 〃 |
0 150 0 150 0 150 |
5 5 5 5 5 5 |
0 27 0 7 0 0 |
0 40 0 13 0 0 |
0 33 0 53 0 87 |
7 0 7 27 0 13 |
93 0 93 0 100 0 |
( − ) (11〜15) ( − ) (15〜20) ── ( − ) (11〜15〜30) ── |
87 0 93 27 93 13 |
7 0 0 0 7 0 |
4.9 1.3 1.3 0.6 1.2 0.6 |
12.2 1.3 1.3 0.6 9.4 0.6 |
15 15 15 15 15 15 |
* 外気温貯蔵室: 10℃±2℃ ** 褐変の程度: (+++)=果の1/3〜1/2以上褐変、(++)=薄く広い褐変または2〜3cm2の濃い褐変、 (+)=明らかな小褐変、(±)=褐変の疑わしいもの、 (−)=褐変の認められないもの。数値は供試果中それぞれの褐変の発現率(%) *** 褐変発現日の下にアンダーラインをしたのは、顕著な発現をした日を示す。 **** 目減および腐敗+目減の%は収穫直後の重量に対する減少率を示す。早生種で目減りが小さいのは、貯蔵中パットの上面を少しすき間を あけてポリエチレンフィルムで覆ったためである。 |
(収穫:11/21、予措*:11/22〜12/7、照射:12/7,貯蔵12/7〜) |
調査日(照射後日数) |
30 日 目 |
112 日 目 |
|
||||||||||
予措温度 (℃) |
電子線 照射の 線 量 線 量 (krad) |
貯蔵温度 (℃) |
褐変発現 表 皮 褐 変 の 程 度 時 期 |
健全果** (%) |
腐 敗 カビ果 |
目 減 |
腐敗+ 目減り |
供 試 果 数 |
|||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
(日) |
◎ ○ |
(%) |
(%) |
(%) |
(コ) |
|||
*** 20゜ 〃 10゜ 〃 5゜ 〃 |
0 150 0 150 0 150 |
5 5 5 5 5 5 |
0 0 0 0 0 0 |
0 0 0 15 0 5 |
0 7 0 53 0 83 |
0 1 0 19 0 8 |
100 92 100 12 100 4 |
( − ) (33〜) ( − ) (11〜) ( − ) (11〜) |
18 35 18 27 11 60 7 14 64 15 11 35 |
38 6 21 5 10 4 |
25.4 22.8 20.0 19.2 14.8 15.3 |
53.0 27.4 37.1 23.3 22.6 18.2 |
84 〃 84 〃 84 〃 |
* 予措期間中の目減りは、20℃区=14・9%、10℃区=8.2%、 5℃区4.0%であった。 ** 健全果は、良好なもの◎、少々の浮皮、ヘタ枯、褐変はあるが商品価値のあるもの○で示した。 *** 20℃予措区は、初め7日間を20℃に保ち、この間の目減りは12.8%となったので、その後は10℃に保った。 |
結果は表10および11に示した。早生種では、照射後の貯蔵温度が高いものほど早く褐変が現れる傾向がみられ、照射後、15日目頃が最高で以後次第に退色する。しかし、強く褐変したものは、貯蔵回数の経過と共に褐変がひどくなり表皮から腐敗していく。なお褐変の状態も二、三の違った型が認められた。晩生種では20℃貯蔵が他の貯蔵温度より褐変の発生が少なかった。これは予措温度20℃の晩生種の場合と共通した原因によるものかも知れない。貯蔵温度10℃と5℃を比較すると、晩生種では5℃の方が褐変が少なく、貯蔵後の健全果も多かった。以上の結果、晩生種では照射前後の温度が20℃の場合に褐変が少なくなるが、貯蔵効果を考慮すると、予措、貯蔵とも低温に保つほど有効と考えられる。
(収穫:11/9、予措:11/10〜11/28、照射:11/28、貯蔵:11/28〜) |
調査日(照射後日数) |
30 日 目 |
30 日 目 |
|
||||||||||
予措温度 (℃) |
電子線 照射の 線 量 (krad) |
貯蔵温度 (℃) |
褐変発現 表 皮 褐 変 の 程 度 ** 時 期 |
健全果 |
腐 敗 カビ果 |
目 減 |
腐敗+ 目減り |
供 試 果 数 |
|||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
(日) |
(%) |
(%) |
(%) |
(%) |
(コ) |
|||
10 〃 10 〃 10 〃 10 〃 |
0 150 0 150 0 150 0 150 |
20 〃 15 〃 10 〃 5 〃 |
0 0 0 0 0 0 0 0 |
0 0 0 43 0 7 0 20 |
25 75 14 43 7 26 0 73 |
0 25 0 14 0 53 0 7 |
75 0 86 0 93 13 100 0 |
( 6〜 ) ( 2〜6〜30) ── ( 30 ) ( 3〜9 ) ( 4 ) ( 6〜9 ) ( − ) (15〜 ) |
75 25 86 14 93 67 100 7 |
25 0 0 0 0 0 0 0 |
18.3 18.6 14.3 14.9 6.6 7.3 1.2 0.7 |
19.5 18.4 14.3 14.9 6.6 7.3 1.2 0.7 |
15 15 15 15 15 15 15 15 |
(収穫:11/21、予措:11/22〜12/7、照射:12/7、貯蔵12/7〜) |
調査日(照射後日数) |
30 日 目 |
112 日 目 |
|
||||||||||
予措温度 (℃) |
電子線 照射の 線 量 (krad) |
貯蔵温度 (℃) |
褐変発現 表 皮 褐 変 の 程 度 時 期 |
健全果 (%) |
腐 敗 カビ果 |
目 減 |
腐敗+ 目減り |
供 試 果 数 |
|||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
(日) |
◎ ○ |
(%) |
(%) |
(%) |
(コ) |
|||
10゜ 〃 10゜ 〃 10゜ 〃 |
0 150 0 150 0 150 |
20゜ 〃 ** 10゜ 〃 5゜ 〃 |
0 0 0 2 0 0 |
0 0 0 8 0 15 |
0 19 0 75 0 53 |
0 40 0 10 0 19 |
100 40 90 5 100 12 |
( − ) (14〜) ( − ) (14〜) ( − ) (14〜) |
0 0 0 0 0 6 4 12 11 60 7 14 |
29 29 5 5 21 5 |
22.3* 23.9* 26.3 26.9 20.0 19.2 |
27.8* 25.6* 23.5 29.2 37.1 23.3 |
42 〃 84 〃 84 〃 |
* 20℃貯蔵試験は、照射後47日目で打ち切り、最終調査した。 ** 10℃外気温貯蔵は、1月30日以後5℃に移して貯蔵した。 |
結果は表12および13に示した。いずれも包装したものの方が、無包装より照射による褐変がやや多くなる傾向が見られた。また晩生種で腐敗カビ果の率が、照射区でも見られたのは、貯蔵中に包装袋内に結露がみられたことから、過湿によるものと考えられる。
(収穫:11/9、予措:11/10〜11/28、10℃、照射:11/29、10℃) |
調 査 日 (照射後日数) |
30 日 目 |
30 日 目 |
|
|||||||||
包装処理区別 |
電子線 照射の 線 量 (krad) |
表 皮 褐 変 の 程 度 |
褐変発現 時 期 (日) |
健全果 (%) |
腐 敗 カビ果 (%) |
目 減 (%) |
腐敗+ 目減り (%) |
供 試 果 数 (コ) |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
||||||||
(無 包 装) * (酢酸せんい素 密封包装) |
0 150 0 150 |
0 0 0 0 |
0 7 0 13 |
7 26 0 27 |
0 53 0 33 |
93 13 100 27 |
( 4 ) ( 6〜 9 ) ─── ( − ) ( 6〜 9 ) ─── |
93 67 100 60 |
0 0 0 0 |
6.6 7.3 6.4 7.2 |
6.6 7.3 6.4 7.2 |
15 15 15 15 |
* 包装用袋はあらかじめCo−60γ線2.5Mrad照射したものを使用した。 |
(収穫:11/21、予措:11/22〜12/7、10℃、照射:12/7、10℃) |
調査日(照射後日数) |
30 日 目 |
112 日 目 |
|
|||||||||
包装処理区別 |
電子線 照射の 線 量 (krad) |
表 皮 褐 変 の 程 度 |
褐変発現 時 期 (日) |
健全果 (%) |
腐 敗 カビ果 |
目 減 |
腐敗+ 目減り |
供 試 果 数 |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
◎ ○ |
(%) |
(%) |
(%) |
(コ) |
|||
(無 包 装) * (酢酸せんい素 密封包装) * (防湿セロファン 130、開封包装) * (防湿セロファン 400、開封包装) |
0 150 0 150 0 150 0 150 |
0 0 0 0 0 0 0 0 |
0 15 0 0 0 0 0 0 |
0 53 0 90 0 81 0 90 |
0 19 0 10 0 19 0 7 |
100 12 100 0 100 0 100 2 |
( − ) (14〜) ( − ) (14〜) ( − ) (14〜) ( − ) (14〜) |
11 60 7 14 43 24 2 22 26 48 2 10 43 17 5 21 |
21 5 24 32 21 19 24 40 |
20.0 19.2 18.5 17.4 17.2 13.2 14.5 16.5 |
37.1 23.3 34.2 45.6 15.4 31.1 35.0 50.2 |
84 〃 42 〃 42 〃 42 〃 |
* 透湿度(JIS Z0208K による。単位はg/u/24h): 酢酸せんい素=540、防湿セロファン130=130、防湿セロファン400=400 開封包装とは、包装した袋のすみを2カ所きったもの。 |
表14に示すように強い褐変が多量に現われた。みかんの生理活性が高いときに照射すると褐変が強く出るものと思われる。
以上の結果から照射による褐変防止には、照射時のみかんの生理的活性を低くすることが重要で、よく熟成した果実をなるべく低温で長く予措したのち照射を行うのが良いと思われる。照射後の貯蔵温度も低い方がよい。
ただし晩生種では、照射前後に短時間20℃以上の高温に保つことが有効かも知れない。
包装や加速電圧(300keVと500keV)による褐変の防止効果は認められなかったが、加速器の違いによる照射効果の相違はなお検討する必要がある。
【追加資料】
(1)照射加速器の種類と褐変との関係についての試験結果を
表15に参考のため示した。CW照射では褐変がやや少
なく、貯蔵中に進行しなかったのに対し、EPS照射の
試料は、48日目の調査で褐変が著しく進行し、最終調
査では健全果が全くなかった。吸収線量は、前述の通り
EPSの方がむしろ少ない傾向であるが、EPS照射の
試料は、照射直前に堺から京都まで約5時間(交通渋滞
、試料はホロで包み直射日を受けた)輸送したことによ
り、みかんに何らかの生理的変化を生じたことが考えら
れる。このほか、両加速器の間に褐変に影響する未知の
条件があるかも知れない。
(2) 照射電子線の加速電圧と褐変との関係
結果は、表16に示した。前回の試験で500keV
、150krad照射した試料ではほとんど褐変が現れ
なかったが、さらにこの点の追試と加速電圧を変えた場
合の効果とを比較するため行った。この結果、本年の試
料では300keVでも500keVでも両者の間に褐
変発生について有意差は認めない。昨年の試料は品種が
「杉山」で収穫が12月4日、5℃の予措期間が20日
間で、12月27日照射という点から考えると、本年の
試料より熟成しており、照射時の生理的活性がおちてい
たことが考えられる。
(電子線照射の線量は150krad、加速電圧300keV) |
調 査 日 (照射後日数) |
30 日 目 |
|
60 日 目 |
|||||||||
供 試 品 種 |
収 穫 月/日 |
照 射 月/日 |
照射ま での日 数 ** |
照射後 貯蔵温 度 (℃) |
表 皮 褐 変 の 程 度 |
褐変発現 時 期 (日) |
供 試 果 数 (コ) |
備 考 |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
||||||||
* 晩 生 種 | 大 岩 |
11/21 11/21 11/21 |
11/24 11/28 11/28 |
3 7 7 |
5 10 20 |
0 0 0 |
0 27 7 |
24 53 26 |
66 7 47 |
10 13 20 |
(15〜45) ( 6〜 7) (2〜3〜7) ─── |
42 15 15 |
緑色残存(26%) 緑色残存(47%) 表皮委凋 |
中 性 晩 種 | 杉 山 |
12/7 12/7 12/4 12/1 |
非照射 12/7 12/7 12/7 |
− 0 3 7 |
10 〃 〃 〃 |
0 0 7 7 |
0 100 93 93 |
0 0 0 0 |
13 0 0 0 |
87 0 0 0 |
(15〜30) ( 〜 5) ( 〜 5) ( 〜 5) |
15 15 15 15 |
|
* 標準処理との比較は表2−1−(4)参照、「大岩」で照射後10゜、20℃貯蔵は4日間で、以後5℃に貯蔵 ** 収穫から照射までは、すべて外気温(10℃±2℃)に保存。 |
大放研:コッククロフト・ワルトン型加速器(CW) 日新ハイボルテージ(株):変圧器型加速器(EPS) 供試みかん:11/21収穫「大岩」、予措温度:10℃、照射:12/6〜7、電子線照射の線量:150krad、 加速電圧:300keV、照射後貯蔵温度:5℃ |
調 査 日 (照射後日数) |
30〜31 日 目 |
112〜113 日 目 |
|
|||||||||
加速器の種別 (電流、速度、ビーム巾 μA cm/sec cm) |
照射線量 (krad) |
表 皮 褐 変 の 程 度 |
褐変発現 時 期 (日) |
健全果 (%) ◎ ○ |
腐 敗 カビ果 (%) |
目 減 (%) |
腐敗+ 目減り (%) |
供 試 果 数 (コ) |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
||||||||
C.W. (51.3、3.62、 34 μA cm/sec cm) E.P.S. (500、6.67、 180 μA cm/sec cm) |
0 150 0 * 150 |
0 0 0 0 |
0 15 0 0 |
0 53 0 100 |
0 19 0 0 |
100 12 100 0 |
( − ) (14〜) ( − ) (14〜) |
11 60 7 14 27 42 0 0 |
21 5 20 ** 69 |
20.0 19.2 19.2 19.3 |
37.1 23.3 35.4 77.0 |
84 〃 84 〃 |
* EPS 150krad照射区の48日目の調査では、褐変の程度が強くなり、+++=7%、++=33%、+=60%となった。 (注:これは大放研以外での供試試料の照射条件) ** 69%腐敗のうち約40%は照射による褐変の進行したものと思われた。 |
300keV と 500keV の比較 (供試みかん:11/21収穫「大岩」、予措温度:10℃、照射:12/7、照射後貯蔵温度:5℃) |
調 査 日 (照射後日数) |
30 日 目 |
112 日 目 |
|
|||||||||
加速電圧 (keV) |
電子線照射 の線量 (krad) |
表 皮 褐 変 の 程 度 |
褐変発現 時 期 (日) |
健全果 (%) ◎ ○ |
腐 敗 カビ果 (%) |
目 減 (%) |
腐敗+ 目減り (%) |
供 試 果 数 (コ) |
||||
+++ |
++ |
+ |
± |
− |
||||||||
− 300 * 500 * |
0 150 150 |
0 0 0 |
0 15 0 |
0 53 62 |
0 19 17 |
100 12 20 |
( − ) (14〜) (14〜) |
11 60 7 14 0 26 |
21 5 8 |
20.0 19.2 20.3 |
37.1 23.3 25.6 |
84 〃 〃 |
* 150krad照射で300keVの場合、コンベヤ速度3.62cm/sec、ビーム巾34cm,加速管電流51.3μAとし、 500keVの場合は、コンベヤ速度、ビーム巾は同じで、加速管電流を63.6μAとした。 |
電子線照射による表皮の褐変はみかんの熟度、および生理活性と関係が深いことが予想されたので、収穫の時期を違えた試料で、収穫してから照射までの期間も半ヶ月と1ヶ月のものについて比較した。試料の数は各区100個(ただし完全着色果の対象区は140個)ずつ供試した。
表17と表18の比較よりわかるとおり、褐変の程度は、貯蔵中に減少していった。
また、7、8分着色果は、完全着色果より明らかに褐変が多くあらわれた。7、8分着色果は、収穫から照射までの期間を1ヶ月としても褐変発生率には減少がみられないが、完全着色果では収穫後1ヶ月目に照射したものの方が半ヶ月のものよりも明らかに褐変発生が少なかった。
電子線照射によるみかん表皮の褐変は照射1ヶ月後が最高になり、その後少しずつ消えていく。したがって、表17には照射1ヶ月後、表18には2〜3ヶ月後(3月2日調査)の褐変の状況を示した。表中、褐変のみられないもの、および褐変の疑いのあるものは、−とし、わずかでも明らかに褐変のみられたものは、+、かなり強く褐変したものは、++、強くまたは広い範囲に褐変したものを、+++としてあらわした。
(個数 %) |
試 料 の 種 類 |
7、8 分 着 色 果 |
完 全 着 色 果 |
|
処 理 |
半か月後 1か月後 非照射 照 射 照 射 |
半か月後 1か月後 非照射 照 射 照 射 |
|
褐 変 の 程 度 |
− + ++ +++ |
100 36 32 0 31 27 0 27 28 0 6 13 |
100 65 86 0 26 9 0 8 4 0 1 1 |
褐変合計 WSD±26.4(0.05) 64 68 − 35 14 |
(個数 %) |
試 料 の 種 類 |
7、8 分 着 色 果 |
完 全 着 色 果 |
|
処 理 |
半か月後 1か月後 非照射 照 射 照 射 ** *** |
半か月後 1か月後 非照射 照 射 照 射 *** **** |
|
褐 変 の 程 度 |
− + ++ +++ |
100 53 46 0 23 26 0 20 19 0 4 9 |
100 81 91 0 9 4 0 8 4 0 2 1 |
褐変合計 WSD±32.0(0.05) 47 54 − 19 9 |
* 最終調査では、生理的変色果で褐変の判別が不可能であった。 ** 照射後3か月 *** 〃 2か月半 **** 〃 2か月 |
みかんに附着し変敗の主原因となるみどりかび(Penicillium digitatum)3株、あおかび(Penicillium italicum)2株、はいいろかび(Botrytis cinerea)、くろぐされ菌、酵母菌各1株の合計10菌株を用いた。これら菌株は、農林水産省園芸試験場興津支場より分与を受けた保存菌株、前項1で貯蔵試験に用いた大阪府和泉市産みかんから分離した菌株および東京における市販みかんから分離した菌株に分かたれ、それぞれOkitsu株、Osaka株およびTokyo株として区別した。
みどりかび、あおかびおよびPen.expansumは、ポテト・シュークローズ斜面寒天上に、また、はいいろかびは、分生芽胞の着生を良好にするため殺菌したみかん果皮上に室温で培養し、生じた分生芽胞をりん酸緩衝液(pH6.8)にけん濁した。くろぐされ菌および酵母にポテト・シュークローズ斜面寒天上に室温培養したのち細胞けん濁液とした。これらけん濁液に線量率4000rad/min、温度20℃、気相空気でCo−60γ線照射を行い、適当に稀釈してポテト・シュークローズ平板寒天上に散布し、室温(約25℃)で2〜3日間の培養を行い、コロニー・カウントを行って生存率を測定した。各段階の線量に対する生存率曲線を作製し、それらの直接部分のD10線量、シグモイド型生存率曲線の肩の線量に相当する誘導期線量ならびに線量150kradにおける不活性化係数(150kradから誘導期線量を減じ、D10線量で除した数値)を算出して放射線感受性を比較した。
各菌株について得られたCo−60γ線に対する生存率曲線は、図1〜4に示す通りである。
糸状菌8株についてγ線感受性を比較すると表19のように、あおかびおよびPen.expansum芽胞のD10線量は、20krad台であり、感受性が大きい。みどりかび芽胞がこれに次ぎ、D10線量29.5〜43.5kradであるが、はいいろかびの放射線抵抗は、最も大きく、D10線量が50〜70kradと大きいばかりでなく、誘導期線量も62〜124kradなので、150kradの照射線量では不活性化係数0.4〜1.8と、当初の生菌数が1/100に減少しない。ことに、表にみられるように、多くの場合、新たに分離した菌株の抵抗性は、D10線量として10〜20krad程度保存菌株よりも大きい。
以上の結果を総括すると、温州みかんに附着する微生物のうち、あおかび、みどりかびの芽胞および酵母細胞は、150kradの表面処理線量により、原生菌数が10・E(3)〜10・E(6)以下と著しく減少し、相当な殺菌効果が予想できるが、はいいろかび芽胞およびくろぐされ菌細胞では原生菌数が半減、あるいは10・E(2)まで減少する程度であろう。温州みかん変敗菌として最も一般的な菌は、あおかび、および、みどりかびなので、電子線による表面処理は、相当な効果を期待できるが、実際にみかん果皮に附着した状態での放射線感受性が、本実験結果と異なる可能性もあり、また芽胞が極めて濃密に附着している可能性もあるので、150kradの線量による完全殺菌はやや困難であるように思われる。
菌 株 |
誘導期線量 (krad) |
D10線量 (krad) |
150kradにおける 不活性化係数 |
Penicillium digitatum.Okitsu (みどりかび) 〃 〃 .Osaka 〃 〃 .Tokyo Penicillium italicum .Okitsu (あおかび) 〃 〃 .Osaka Botytis cinerea .Okitsu (はいいろかび) 〃 〃 .Tokyo Penicillium expansum .Tokyo |
22.5 14.0 24.0 12.0 16.5 62.0 124.0 20.0 |
31.0 43.5 29.5 22.5 23.5 50.0 70.0 21.0 |
4.1 3.1 4.3 6.1 5.7 1.8 0.4 6.1 |
晩生種「大岩」の完全着色果に4℃、1ヶ月の予措を行ったものを試験に供した。
あおかび(Pen.italicum)、みどりかび(Pen.digitatum)、および、はいいろかび(Botryis cinerea)は、いずれも園芸試験場興津支場より分与された標準菌株を用い、これらの芽胞を次のように接種した。
先端約2mmが、突出するように5本の虫ピンを植えた直径約10mmのゴム栓で、みかんの肩の部分に4回刺し傷をつけ、その周囲をマークした。予め大量培養し、集積した糸状菌芽胞を0.1Mりん酸緩衝液に懸濁し、約1×10・E(5)個/mlの濃度とした。直径15mm程度の脱脂綿をガーゼで包み殺菌したタンポンを、芽胞けん濁液に浸し、マークした刺突部に2回づつ芽胞を塗布して接種した。接種の終わった試料は、ただちに収穫コンテナーにならべ、大阪府放射線中央研究所において、電子線照射を行った。水分の蒸散を防ぎつつ、空気の流通をはかるため、収穫コンテナー内にアセチルセルローズフィルム(フジタック、厚さ200μ)でケースをつくり、各菌株、照射、非照射別に30〜32個づつの試料をならべて密封した。照射後ただちに理化学研究所に輸送し、照射終了後12時間で4℃および室温(20〜22℃)の貯蔵を開始し、糸状菌の生育状況を経日的に観察した。
全貯蔵試験を通じ、糸状菌によらない腐敗果はなく、また接種部以外からのかび発生は1個しかなくて、他はすべて接種した芽胞が生育した事は疑いなかった。かびの生育にともない、表皮組織の軟化や陥没が生じ、ついで菌そうが発生し、その後は、菌そう拡大と芽胞着生が進行する。この試験では、肉眼的に数mmの直径のある白色菌そうの発生を以てかびの発生としたが、試験終了時には、更に生育が進んでいて、それ以後の新たなかび発生は全くみられない。
あおかびの結果を図5、みどりかびを図6に示す。両菌株とも極めて類似した結果を与え、非照射対照では、10〜14日でかびの発生が明確になり、20日目の発生率は80%以上に達する。また4℃貯蔵では大分発生がおそくなるが、それでも59日目には、65%前後の高率になる。電子線照射を行った場合、室温貯蔵ではかび発生がおくれる上に発生率も低いが、最終的にはあおかびで62.5%、みどりかびで41.9%となり、非照射対照の半数以上の発生率となる。これに対し、4℃貯蔵では、かび発生が大幅におくれるのみでなく、日数を経ても発生は極度におさえられ、57日目の最終結果でも発生率は12.9%、15.6%にすぎず、対照の65%前後に対し、かび発生防止効果は著しく大きい。同様な傾向は図7に示すはいいろかびでもみられる。
はいいろかびは、一体に生育がおそく常温でも4℃でも、約1ヶ月後から生育が認められるようになるが、70日後に常温の対照は74.2%の、また照射試料は45.2%の発生率を示してそれほど照射効果は大きくない。しかも、4℃貯蔵では70日後、対照が43.3%の発生率を示すのに対し、照射試料は3.2%の発生しかなく、極めて照射効果が大きい。
最終的にかび発生果の出現率を比較すると、表20のようになる。非照射対照での出現率を100とし、照射処理によりどの程度減少したかの比率を求めて、これをかび発生防止率とすると、室温貯蔵の場合28.2〜50.0%の防止率であるが、4℃貯蔵の場合75.8〜92.9%であり、低温貯蔵でのかび発生防止効果は、著しいものがある。昨年度の試験研究で各菌株芽胞のγ線抵抗性を測定したところでは、線量150kradにおける Inactivation factor は、あおかび6.1、みどりかび4.1、はいいろかび1.8であり、放射線抵抗性からいえば、照射効果はあおかびで著しく大きく、はいいろかびでは極めて小さいはずである。しかし、貯蔵試験では、全く逆であって、照射効果は、はいいろかびで最大であり、あおかびが最小である。また各菌株を通じ、低温貯蔵での照射効果は、常温貯蔵の場合よりも明らかに大きい。
このような結果を与える理由は、接種された芽胞の発芽生長速度と、刺突より生じたみかん表皮の損傷のキュアリングによるものと考えられる。すなわち、常温では表皮損傷が、キュアリングする前に残存する芽胞が発芽生育し始め、このため照射により相当に芽胞が死滅してもなお充分な照射効果を期待できない。一方、低温貯蔵は表皮損傷のキュアリングのために適当な条件であるばかりでなく、図5〜7にも明かなように、芽胞の生育は著しくおそい。したがって照射後の残存生菌数は常温貯蔵と同一であっても、菌が生育、浸害することが困難となる。はいいろかびは、特に生育のおそい菌株であるため、非照射対照区でも、かび発生率が低くなるほどであり、照射による生菌数減少がかび発生の有無にクリティカルな影響を与えているものと考えられる。
結論として、あおかび、みどりかび、及びはいいろかびに関するかぎり、常温および4℃貯蔵とも、150kradの電子線表面処理はかび発生防止効果がある。常温貯蔵では、防止効果は大きいとはいえず、かび発生を最大約半数に減少させる程度と考えられるが、4℃貯蔵では防止効果が著しく、対照のかび発生率を75%以上減少させるものと考えられる。
各種糸状菌芽胞を接種したみかんに対する電子線照射のかび発生防止効果 |
菌 株 |
貯 蔵 温 度 (℃) |
貯蔵期間 (日) |
かび発生果の出現率(%) |
かび発生防止率 (%) |
|
非照射対照 |
照射試料 |
||||
あおかび (Pen.italicum) みどりかび (Pen.digitatum) はいいろかび (Botrytis cinerea) |
室温(20−22) 低温(4) 室温(20−22) 低温(4) 室温(20−22) 低温(4) |
20 57 20 57 70 70 |
87.1[31]* 67.8[31] 83.9[31] 64.5[31] 74.2[31] 45.2[31] |
62.5[32]* 12.9[31] 41.9[31] 15.6[32] 43.3[30] 3.2[31] |
28.2 81.1 50.0 75.8 41.6 92.9 |
* [ ]内は各試験区の試料数を示す。 |
試験材料とした晩生種温州みかんは、収穫直後、日新ハイボルテージ(株)において、健全果に電子線を両面より、線量150krad照射した。本試験には、照射直後および照射後1ヶ月間、大阪府立放射線中央研究所の貯蔵室(4℃、湿度80〜90%)にて貯蔵したものを用い、それぞれ非対照の対照区と比較した。
精油の調製は、山西ら、および門田、中村が行った低温処理法を用いた。温州みかんを剥皮し、外果皮を細切して細口びんに入れ、1.5倍量(重量比)のエーテルを加え、20℃室温にて1回約7日、計3回抽出した。抽出後、エーテル層を採り、スナイダーカラムを用いてエーテルを除去した後、20〜30mmHg、40℃にて減圧水蒸気蒸留を行った。蒸留液に食塩を飽和してエーテル層を採り、エーテルを除去して精油を得た(図8)。
得られた精油を、Kirchner,Miller の方法を引用した門田、中村の方法に従い、炭化水素化合物と含酸素化合物とに分割した。
100℃で24時間活性化した100〜200メッシュのシリカゲルをn−ヘキサンに懸濁し、直径2cm,高さ20cmのカラムを作成した。次に精油10mlをカラム上部より注入し、n−ヘキサンで溶出した。溶出液を5gずつフラクションコレクターで分割採取し、それぞれのフラクションをシリカゲルの薄層プレートにスポットした。これに0.05%フルオレッセイン溶液を、噴霧して臭素蒸気にさらし、ピンクの地に黄色のスポットを生じたフラクションを合併した。シリカゲルカラムに吸着した含酸素化合物は酢酸エチルで溶出した。それぞれの溶媒を無水芒硝で脱水した後、減圧蒸留により除去し、残留物を少量のエーテルで抽出して、これをガスクロマトグラフィーの試料とした(図9)。
本試験に用いたガスクロマトグラフは、水素炎イオン化検出器を備えた島津GC−4BPTF型で、カラムは60〜80メッシュのSimalite担体PFG−6000の固定相液体を25%含む充填剤を3×3000mmのステンレススチール管につめたものを用いた。なお、キャリヤーガスは窒素を用いた。
照射直後(採取直後照射区)のものについては、外観、香り、共に非照射(採取直後対照区)のものと変わりなかった。照射後、1ヶ月間貯蔵(貯蔵照射区)したものについては外果皮表面が一部褐変し、著しいものは果皮全体におよんでいた。
外果皮の香りについても、貯蔵照射区のみ変化があった。これは個体差が著しく、いわゆる温州みかんの臭いとは別に、欧米のオレンジに近いような臭いのするものもあり、また僅かに腐敗臭のするものあった。貯蔵対照区では、上述のような現象はみられず、外観上、照射しない方が優っていた。
果肉についても、貯蔵照射区ではみかん缶詰が水素膨張したときのような膨張缶臭のするものがほとんどで、この点も照射しない方が優れていた。
エーテル抽出した粗精油を減圧水蒸気蒸留し、得られた精油の収率を表21に示す。収率は、貯蔵照射区が極めて低い値であった。
|
全 果 (Kg) |
外果皮 (Kg) |
精 油 (g) |
収 率 (%) |
||
外果皮に対して |
全果に対して |
|||||
採 取 直 後 |
対 照 区 |
19.25 |
4.62 |
14.90 |
0.32 |
0.08 |
照 射 区 |
19.00 |
4.52 |
21.70 |
0.48 |
0.11 |
|
照射後 1カ月間貯蔵 |
対 照 区 |
17.40 |
4.69 |
13.33 |
0.28 |
0.08 |
照 射 区 |
17.05 |
4.67 |
1.80 |
0.04 |
0.01 |
シリカゲルカラムにより分割した炭化水素化合物および含酸素化合物について、ガスクロマトグラフィにより、精油成分の変化を調べた。
採取直後の炭化水素化合物についてのガスクロマトグラムは、図10のようなピークパターンを示した。照射区、非照射対照区を比較すると特に変化はみられなかった。図10において対照区の方が、全体にピークが小さいが、これはガスクロマトグラフィの試料とする際、少量のエーテルで抽出した為、精油の濃度の差によって生じたものである。
採取直後の含酸素化合物については、図12に示したように、ピークNo.21より前半に多少の変化があった。即ち、対照区と比較して、6、7、11、14、17のピークが大きく、19と20のピークは大きさが逆転していた。
照射後1ヶ月間、低温貯蔵した場合の炭化水素化合物についてのガスクロマトグラムは図11のようなピークパターンを示した。この場合、前半に多少の変化があり、また、ピークNo.22より前半のピークが全体に対照区と比べて照射区の方が小さくなっていた。
貯蔵後の含酸素化合物については、図13に示すようなガスクロマトグラムを得た。この場合も、対照区と比べてピークNo.18から、前半のピークが小さくなった。特にピークNo.2、8、9、11、12、13等のピークの減少が目立った。
温州みかんに電子線を照射した場合、250kradまでは外観、食味に悪影響を与えないという梅田、川嶋らの報告がある。また、さらに梅田、川嶋らは、油胞陥没から褐変までの現象は収穫から照射処理までの経過時間が短いほど発生しやすい、と報告している。熟度7〜8分の温州みかんを用いた本試験の場合は、150kradではあったが、褐変が著しく、食味もやや劣った。また油胞陥没の著しかった貯蔵照射区については、精油の収率が極めて低かった。温州みかんの照射による表皮褐変の発生条件とくに熟度との関係については今後さらに検討を要する。
官能検査において、対照区では採取直後と貯蔵後との間に変化を認めず、貯蔵照射区で異臭を感じたことから、この異臭を感じる何らかの成分は貯蔵照射区のガスクロマトグラムのピークパターン中にあると考えられる。
試験結果を要約すると次のようになる。
(1) 外観、食味等、官能による比較は貯蔵照射区に著しい劣化
がみられた。即ち、外果皮が褐変し、油胞の陥没した果実が
多く、食味もやや異臭のするものがあった。
(2) 精油の収率は貯蔵照射区が極めて低い値であった。
(3) ガスクロマトグラフィによる精油成分の比較は、各区に多
少の変化を認め、特に貯蔵照射区では炭化水素化合物、含酸
素化合物共に顕著な変化がみられた。官能検査で貯蔵照射区
に異臭を感じたのは、このピークの差異によるものと考えら
れる。
供試材料(温州みかん、品種:大岩)は、12月5日に収穫した。収穫後約1ヶ月間は、大阪府立放射線中央研究所の低温室(4℃)で予措を行った。その後、同研究所の電子線照射装置で150kradの電子線を照射し、貯蔵は上記低温室(4℃)で行った。
照射によって障害を受けやすい果皮(フラペド)の有機酸を、収穫直後の非照射試料、照射直後ならびに照射後1ヶ月の試料について測定した。有機酸としては、呼吸に関係するTCAcycleの有機酸、褐変現象と関係すると考えられるアスコルビン酸、脂肪酸(過酸化物価を含めて)を測定した。TCAcycleに関する有機酸は常法により、イオン交換樹脂を用いて分離し、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィにより分離定量した。アスコルビン酸は、RQa法により測定した。脂質は、クロロホルム:メタノール(1:1)溶液で抽出し、5%メタノール性KOHでケン化後、ジアゾメタンでメチルエステル化を行い、ガスクロマトグラフィで分析した。本試験では、脂肪酸の組成の変動を検討した。脂質の過酸化物価は、クロロホルム:メタノール(1:1)溶液で抽出した脂質について測定した。すなわち、脂質抽出液1ml、CHCl3 10ml、氷酢酸15ml,KI 1gを混合し、3分間加熱した後冷却し、75mlの水を加えて、デンプンを指示薬として、0.001Nチオ硫酸ソーダで滴定して求めた。
表22にTCAcycleに関する有機酸の変化を示した。リンゴ酸、クエン酸の他、数種の有機酸が認められたが、含有量が少ないが、分離が十分でなかったので、それらはA,Bのグループとして中和に要した0.01NNaOH量で示した。これらの有機酸については、非照射区、照射区とも貯蔵中ほぼ同様な変化を示した。すなわち、貯蔵中には、Aに属する有機酸とクエン酸は増加し、リンゴ酸は減少した。アスコルビン酸においても照射の影響はほとんど認められなかったが、貯蔵中には非照射区、照射区とも減少した(表23)。果皮中に含有される脂質含量は700〜1600mg/100g新鮮重で、貯蔵中に減少する傾向にあったが、この傾向は照射の有無とは関係がないようであった。構成する脂肪酸組成を調べたところ(表24)、リノール酸(c18:2)が最も多く、リノレン酸(c18:3)、パルミトオレイン酸(c16:1)、オレイン酸(c18:1)、パルミチン酸(c16:0)の順であった。収穫直後の非照射試料と照射後1ヶ月の照射試料で、c18:2、c18:3が多いようであるが、遊離脂肪酸含量やその組成など詳しく調べなくては断定することはできない。果皮の脂肪抽出液の過酸化物価は、収穫直後40.7であったものが、貯蔵中に減少し、予措1ヶ月後には検出できなかった。そして、この時期では照射によって過酸化物価がとくに大きくなることもなかった。
成 分 |
収穫直後 |
照射直後 (収穫後1か月) |
照射後1か月 (収穫後2か月) |
||
0 krad |
0 krad |
150 krad |
0 krad |
150 krad |
|
A B リンゴ酸 クエン酸 |
3.6* 10.0* 35.2** 11.6** |
3.5 10.3 38.8 10.2 |
1.7 10.0 33.8 12.2 |
6.9 7.6 28.9 15.4 |
5.8 10.5 25.7 14.9 |
* 0.01N NaOH ml ** mg/100g 新鮮重 |
線 量 krad |
成 分 |
収穫直後 |
照 射 直 後 |
照射後1か月 |
(収穫後1か月) |
(収穫後2か月) |
|||
0 〃 150 〃 |
ASA DHA ASA DHA |
109.3* 14.1 |
121.4 26.8 118.0 23.2 |
89.4 13.3 79.9 10.5 |
ASA: 還元型アスコルビン酸 DHA: 酸化型アスコルビン酸 *mg/100g新鮮重 |
Cn |
収穫直後 |
照射直後 (収穫後1か月) |
照射後1か月 (収穫後2か月) |
||
0 krad |
0 krad |
150 krad |
0 krad |
150 krad |
|
14:0 16:0 16:1 18:0 18:1 18:2 18:3 |
4.0* 3.4 16.7 10.0 11.4 34.7 19.2 |
1.8 10.6 15.6 tr 11.7 27.3 15.4 |
3.5 9.9 13.6 tr 10.7 25.5 14.7 |
1.5 3.6 11.8 2.3 5.0 22.6 10.4 |
2.2 1.0 17.8 2.3 10.5 34.5 17.9 |
* 比率%、但し、少量の脂肪酸については省略 tr : こん跡 |
試験に供試した晩生種温州みかん試料の大部分は150krad電子線照射直後には表面色に変化が認められなかった。しかし、150krad電子線照射後5週間貯蔵した試料においては、多くのものに褐変が認められ、褐変の生じなかった試料は全個数63個のうち13個(21%)であった。
以下の試験においては、150krad照射した後、5週間貯蔵の試料のうち、褐変の生じていないものを選別して使用した。
なお参考として、褐変試料より褐変部位を切り取って分析を行い、非褐変部位の試料と比較検討した。
果皮を剥皮し、アルペドの除去を行わないで細断し、精秤後図14に示す操作によってカロチノイドの抽出および精製を行った。即ち試料果皮の磨砕物よりアセトンで抽出し、その抽出物をケン化し、不ケン化フラクションを集めステロイド除去を行って、カロチノイドのエーテル溶液を得た。
果皮の全カロチノイド量は、β−カロチンの λ max 451nmでの
1%
吸光係数 E (エーテル中)が2500であることにも
1cm
とづき、前述のカロチノイドエーテル定容溶液の451nmでの ΩDを求め、β−カロチン換算値を算出し、果皮の乾燥物100g当たりのmg数(mg%)で表示した。
前述のカロチノイド溶液をTLCに供し、カロチノイドの有する官能基の種類と数によって、9つのカロチノイドグループに分離した。
前述のTLCをそのまま光電濃度計に供して、全カロチノイドに対する各カロチノイドグループの占める割合を%で示した。
各カロチノイドグループの定性はTLCにおける標品のRf値との比較、吸収スペクトル、エポキサイトの定性実験などによって行った。
全カロチノイド量の測定の結果は表25に示した。照射直後の試料の全カロチノイド量は、対照の試料に比べて17.4%の増加を示した。また、未照射の試料の全カロチノイド量は5週間の貯蔵中に約8%の増加を示したが、一方照射試料においては、全カロチノイド量の増減は、認められなかった。
このような現象は柿、しそ葉およびほうれん草葉に用いた研究において報告されており、その理由として、カロチノイド生合成系の賦活、または、カロチノイドの放射線化学反応による吸光係数のより高いものへの変換を推論している。この温州みかん果皮における現象も後述のカロチノイドパターンが変化しないことから次のように推論される。
150krad照射したものは、カロチノイド生合成が、一時的に賦活され、そのカロチノイド含有量は、急速に増加するが、やがて放射線障害が表れてその後の生合成は抑えられる。これに対して未照射の果皮は、その生合成は正常であるので、続く5℃という低温貯蔵中にもカロチノイドが生合成されるものと推論される。
貯 蔵 期 間 (週) |
0 |
5 |
||
線 量(krad) |
0 |
150 |
0 |
150 |
全カロチノイド量(mg%) |
48.9 |
57.4 |
52.1 |
57.6 |
果皮のカロチノイドをTLCに供した結果は、図15のように10本のバンドに分離した。Rf値の高いものからF−1〜F−10と記号を付す。これらのバンドをかき取り、エーテルで抽出し、その抽出液について種々の定性実験を行い、その定性の結果とそれに基づくカロチノイドグループの同定を表26に示した。なお、表26のうち、吸収極大とクエン酸テストに関しての吸収スペクトルは、図16のその1〜4に示した。
カロチノイドパターンは、表27に示すように、分析したいずれの試料においても同一のパターンを示した。その特徴は、Hydrocarbon と mono−ol の和(H+M1+M2+MM) と di−ol(D+DM1+DD1+DM2+DD2+P)が半々に存在していることである。このことは、温州みかん果皮におけるカロチノイドには、普遍性があるという報告と一致する。
このように照射および貯蔵試料において同じパターンを示すことは、その表皮の色調が同じであることを意味するものと考えられる。
|
吸 収 増 大 (ヘキサン中) |
塩 酸 テスト (呈色) |
クエン酸 テスト (シフト) |
エポキサイド 数と定性 |
定 性 |
略 号 |
F−1 |
371、(881)402、427 ─── 450、475 |
|
0 |
0 |
hydrocarbon |
H |
F−2 |
(427)、453、479 ─── |
|
0 |
0 |
mono−o1 |
M1 |
F−3 |
(428)、453、479 ─── |
|
0 |
0 |
mono−o1 |
M2 |
F−4 |
(403)、429、450 ─── 474 |
緑 色 |
21nm |
1ヶ5、6型 |
mono−o1,mono−epoxide |
MM |
F−5 |
(422)、449、475 ─── |
|
0 |
0 |
di−o1 |
D |
F−6 |
(402)、429、449 ─── 472 |
緑 色 |
19nm |
1ヶ5、6型 |
di−o1,mono−epoxide |
DM1 |
F−7 |
(420)、445、469 ─── |
青 色 |
38nm |
2ケ5、6型 |
di−o1,di−epoxide |
DD1 |
F−8 |
(396)、421、445 ─── 469 |
淡青緑色 |
17nm |
1ヶ5、6型 |
di−o1,mono−epoxide |
DM2 |
F−9 |
(395)、421、440 ─── 469 |
青 色 |
36nm |
2ケ5、6型 |
di−o1,di−epoxide |
DD2 |
F−10 |
(400)、422、449 ─── 469 |
淡緑色 |
25nm |
1ヶ5、6型 |
puly−o1 |
P |
貯 蔵 期 間 (週) |
0 |
5 |
|||
照 射 量 (krad) |
0 |
150 |
0 |
150 |
|
総 カ ロ チ ノ イ ド 量 (乾物) |
48.9mg% |
57.4mg% |
52.1mg% |
57.6mg% |
|
構 成 カ ロ チ ノ イ ド グ ル | プ |
H :hydrocarbon M1:mono−o1 M2:mono−o1 MM:mono−o1,mono−epoxide D :di−o1 DM1:di−o1,mono−epoxide DD1:di−o1,di−epoxide DM2:di−o1,mono−epoxide DD2:di−o1,di−epoxide p :pal−o1 |
5.4% 14.1 22.9 9.2 4.3 7.0 9.6 5.7 15.7 8.1 |
5.5% 15.3 22.9 9.5 3.7 6.8 9.1 5.8 15.0 6.4 |
6.5% 13.6 21.8 9.1 3.9 6.8 8.9 6.7 15.0 7.7 |
6.6% 13.5 22.3 9.6 4.7 6.6 8.9 7.0 14.8 6.0 |
前に述べた実験の際に、150kradの電子線照射後3週間貯蔵した試料において、多くの褐変が生じた。その褐変の部位について、カロチノイドの量およびパターンを調べた結果は表28に示す通りである。
褐変部の全カロチノイド量は非褐変部に比較して、約20%減少しており、カロチノイドが分解されることを示している。
カロチノイドパターンは、非褐変部に比べて大きく異なっている。その特徴は、Hydrocarbon,mono−ol が減少していることである。非褐変部において、Hydrocarbon と mono−ol の和は約50%を占めているのに対して、褐変部は約38%であり、酸化された型のカロチノイド(D+DM1+DD1+DM2+DD2+P)の占める割合が増加している
この結果から、褐変反応はカロチノイドの酸化を伴い、カロチノイドの分解をも引き起こすものと考えられる。
|
非褐変部 |
褐変部 |
|
総 カ ロ チ ノ イ ド 量 (乾物) |
57.6mg% |
45.2mg% |
|
構 成 カ ロ チ ノ イ ド グ ル | プ |
H :hydrocarbon M1:mono−o1 M2:mono−o1 MM:mono−o1,mono−epoxide D :di−o1 DM1:di−o1,mono−epoxide DD1:di−o1,di−epoxide DM2:di−o1,mono−epoxide DD2:di−o1,di−epoxide p :poly−o1 |
6.6% 13.5 22.3 9.6 4.7 6.6 8.9 7.0 14.8 6.0 |
3.3% 8.6 18.1 7.7 5.8 10.8 13.5 9.9 16.9 5.4 |
温州みかんに電子線を150krad照射した場合の果皮の色の変化をカロチノイド色素について調べた結果を要約すると次のようである。
1) カロチノイド含有量は、照射によって一時的にその含有量が
増加する。しかし、続く貯蔵中に照射試料においては、全カロ
チノイド量の増加は認められないが、未照射試料においては、
全カロチノイド量が増加する。したがって照射直後に生じた全
カロチノイド量の差は約5週間の貯蔵後には、ほぼ認められな
くなる。なおこの間の表面色の変化は、肉眼的には認め難い。
2) カロチノイドパターンは、全カロチノイド量の変化に関係な
く、照射および貯蔵試料のすべてにおいて全く同一のパターン
を示した。
試料として用いた晩生種温州みかんは、11月21日に収穫した後、照射まで予措を行った(4℃2週間)。照射は、12月6日に日新ハイボルテージ(株)の電子線照射装置を用いて行った。電子線照射の線量は150kradで、照射後の貯蔵は20℃および5℃下で行った。 ポリフェノールオキシダーゼ活性の測定は、果皮のフラベド部分のアセトンパウダーから、pH6.0の燐酸塩緩衝液(1/15M)で抽出した粗酵素液につきカテコール(終末濃度、5×10・E(−3)M)を基質として、ワールブルク検圧計を用いて30℃下で行った。
フェニールアラニン・アンモニアリアーゼの活性の測定は、上記と同様アセトンパウダーから、pH8.8のホウ酸塩緩衝液で抽出した粗酵素液についてRiovらの方法を適用して行った。すなわち、L−フェニールアラニンを基質とし、生成されるケイ皮酸の量を測定した。反応液のpH8.8(ホウ酸塩緩衝液)、反応温度40℃、ケイ皮酸の測定は、反応液を適当に希釈し、波長290mμにおける吸光度を測定することによった。
ポリフェノール物質の測定は、果皮のフラベド部分の熱アルコール抽出液について、全フェノールの定量には、Folin Denis試薬を、オルト・ジフェノールの定量には Arnow 試薬を用いて行った。
全フェノールおよびオルト・ジフェノールの照射による変化は、表27(1)に示すように、照射後、20℃または5℃に貯蔵した場合においても、一時的に1割〜2割増大することが認められた。
貯 蔵 期 間 (週) |
0 |
5 |
|||
照 射 量 (krad) |
0 |
150 |
0 |
150 |
|
総 カ ロ チ ノ イ ド 量 (乾物) |
48.9mg% |
57.4mg% |
52.1mg% |
57.6mg% |
|
構 成 カ ロ チ ノ イ ド グ ル | プ |
H :hydrocarbon M1:mono−o1 M2:mono−o1 MM:mono−o1,mono−epoxide D :di−o1 DM1:di−o1,mono−epoxide DD1:di−o1,di−epoxide DM2:di−o1,mono−epoxide DD2:di−o1,di−epoxide p :pal−o1 |
5.4% 14.1 22.9 9.2 4.3 7.0 9.6 5.7 15.7 8.1 |
5.5% 15.3 22.9 9.5 3.7 6.8 9.1 5.8 15.0 6.4 |
6.5% 13.6 21.8 9.1 3.9 6.8 8.9 6.7 15.0 7.7 |
6.6% 13.5 22.3 9.6 4.7 6.6 8.9 7.0 14.8 6.0 |
表28にみられるように、温州みかんのフラベドのフェニールアラニン・アンモニアリアーゼの活性は、照射直後急増することが認められる。
20℃下で貯蔵すると、この増大した活性は急激に低下し、3日後では未照射区と同程度になった。5℃に貯蔵すると、照射によって増大した活性は、持続するようで、1ヶ月後でも未照射区の活性より照射区の活性の方が高いことが認められた。
|
非褐変部 |
褐変部 |
|
総 カ ロ チ ノ イ ド 量 (乾物) |
57.6mg% |
45.2mg% |
|
構 成 カ ロ チ ノ イ ド グ ル | プ |
H :hydrocarbon M1:mono−o1 M2:mono−o1 MM:mono−o1,mono−epoxide D :di−o1 DM1:di−o1,mono−epoxide DD1:di−o1,di−epoxide DM2:di−o1,mono−epoxide DD2:di−o1,di−epoxide p :poly−o1 |
6.6% 13.5 22.3 9.6 4.7 6.6 8.9 7.0 14.8 6.0 |
3.3% 8.6 18.1 7.7 5.8 10.8 13.5 9.9 16.9 5.4 |
成 分 |
区 |
照射直後(18時間後) |
1 日 |
3 日 |
5 日 |
7 日 |
1カ月 |
|
全フェノール |
150 krad |
5℃ 20℃ |
98.2 |
95.1* 102 |
90.9 |
120.8 |
122.4 100.4 |
106.8 |
オルト・ジ フェノール |
150 krad |
5℃ 20℃ |
100 |
108.9 113.6 |
104.4 |
110.9 |
100 89.8 |
87.8 |
* 未照射区に対する比較 |
|
20 ℃ |
5 ℃ |
||
照 射 直 後 (18時間後) |
3 日 |
7 日 |
1カ月 |
|
0 krad |
45.0* (100) |
13.5 (100) |
108.0 (100) |
22.5 (100) |
150 krad |
202.5 (450) |
13.5 (100) |
189.0 (175) |
63.0 (280) |
* mμ mol.ケイ皮酸/0.1gアセトンパウダー/h ( )は比数 |
本酵素の活性は、使用した温州みかんの果皮のフラベド部分にはほとんど認められなかった。
本実験に用いた照射みかんの果皮は、20℃下では、照射後3日頃から、5℃下では、照射後1週間頃から褐変した。フラベド部分のポリフェノール物質や、フェニールアラニン・アンモニアリアーゼの活性の照射による増加は、このような褐変発生を惹起する一原因と考えられる。しかし、一般にポリフェノール物質の酸化に関与するポリフェノールオキシダーゼの活性がアルベド部分で非常に弱かったことは、みかん果皮のポリフェノール物質の酸化が他の酵素−ベルオキシダーゼなどの関与によるかもしれないことを示している。
みかんにブルーセロファン(福井化学製、淡青、幅8mm短冊状、厚み25ミクロン)を張り付け、電子線エネルギー300keVの変圧器型電子線照射装置(日新ハイボルテージ(株)製)を用いて、150kradの線量を照射した。使用したブルーセロファンの放射線による色変化は、分光光度計(島津制作所製、島津スペクトロニク88)により測定した。
みかんの配置に対する線量の均一性を測定するため、ブルーセロファンを張り付けたみかんを図17に示す如く置き、みかんの配置上の距離Dを0、2cm、4cm、孤立状態(D=∞)と変化させて、みかんの配置による表面線量の均一性の変化を測定した。照射方法としては、みかんを発ぽうポリエチレンの上に置き、まず頭部より電子線を照射し、照射後みかんを反転させ、次いで下部より同線量の照射を行うこととした。
ブルーセロファンを使用した側面方向の線量均一性についての測定結果を表31に示す。表面線量均一性は、みかんの間隔(D=2cm、4cm、及び∞)にはほとんど差異がなく、搬送方向についても最大±10%程度で、特に搬送方向による影響があるとは認められなかった。 上部および下部より照射したみかんの上−下部方向の線量均一性の結果を表32に示す。みかんの配置上の間隔によりかなり側面の線量が異なっている。これは300keVエネルギー電子線の散乱(特に電子線放出窓で生ずる)が、影響しているものと推測される。みかんの間隔Dが大きくなれば、接近しているみかんによる影響が小さくなり、側面の線量が相対的に増大するものと思われる。逆にみかんの間隔Dが小さくなれば、散乱ビームの寄与は減少し、側面の照射線量は低下するものと思われる。D=2以上において、線量比±10%以下が得られた。 300keVのブルーセロファンの結果は、孤立状態では側面方向の色変化が大きいが、これは散乱ビームが大きいためであって、150krad照射の場合、頭部および下部は150krad程度の色変化がみられるが、側面方向は100krad程度の色変化である。
寒天を用いたみかんの模型の場合には、側面部の色変化はほとんどないにも拘らず、ブルーセロファンにおいては、側面部の照射線量が上下部より大きくなっているものがある。これは極く表面での照射線量と100〜200μ深さでの照射線量とに差があるものと思われる。特に750keVにおいて顕著に現れ、前回の500keVの実験に関しても同様の現象がみられた。これは、100〜200μ深さにおいては、電子線エネルギーの差異による電子線放出窓、および空気中での電子線の散乱の差異が、影響しているものと推測される。
ブルーセロファンによる上−下部方向の線量比分布を表33に示す。上下方向から照射を行う場合は、極く表面での線量均一性を問題にするならば、300〜750keVのエネルギーの電子線について、みかんの間隔を適当に選ぶことにより、±10%の上下方向の線量均一性が得られるが、100〜200μ深さでの線量均一性を求めるならば、300〜500keVのエネルギーの電子線については、上下方向からの照射で可能だが、750keVのエネルギーの電子線については、4方向照射、回転状態で照射等、別の照射法を採用する必要があると思われる。また、試料の間隔により、かなり側面部の照射線量が異なっている。これは、300keVについては、電子線放出窓、および空気中での電子線の散乱が影響していると推測される。即ち、試料の間隔Dが大きくなれば、近接している試料の影響は小さくなり、側面部の照射線量が相対的に増大するものと思われる。逆に試料の間隔Dが小さくなれば散乱ビームの寄与は減少し、側面部の照射線量が低下するものと思われる。750keVにおいては、750keVのエネルギーの電子線の放出窓および空気中での散乱は、300keVの電子線のそれに比して小さいので、電子線の透過力と後方散乱がより影響しているものと推測される。即ち、試料の間隔D=0付近では、後方散乱の影響はほとんどなく、試料の間隔Dが大きくなれば、後方散乱の影響が大きくなり、側面部の照射線量は相対的に増大するものと思われる。300keVと、750keVのエネルギーの電子線の各物質中での後方散乱の一例を図21に示す。
線量比 分 布 |
照 射 電 子 線 エ ネ ル ギ ー |
|
300 keV |
750 keV |
|
±10%以内 ±20%以内 ±30%以内 ±40%以内 |
D=4cm,6cm D=∞ D=2cm D=0 |
D=0 ─── D=2cm,4cm,6cm,∞ ─── |
寒天を基材とし、これに放射線照射により発色する色素を混合させたものでみかんの模型を制作し、電子線エネルギー300keV、および750keVの変圧器型電子線照射装置(日新ハイボルテージ社製)を用いて照射を行った。
色素は、単色発色性の2,3−5 triphenyltetrazolium chloride(TTR) および Ditetrazolium chloride(TTB) を用いた。本実験では、予備実験をもとにして、TTB−0.04%、寒天濃度3%のもの(TTB−400)と、TTR−0.04%、寒天濃度3%のもの(TTR−400)を用いた。
照射線量は、750keVにおいては、試料搬送装置の都合上、0.3Mradとした。300keVについては、色変化の測定上、0.5Mradとした。
更に、みかん等大模型(アクリル製)にブルーセロファン(福井化学製、淡青、幅2cm短冊状、厚み25μ)を張りつけ、電子線を照射して、照射線量の均一性を測定した。試料の配置、搬送方法は、みかんの場合と同一である(図17)。
寒天を用いた模型は、表面および切断面の写真をとって、発色状況を検するとともに、発色厚みの測定を行った。上−下部方向の発色厚みの測定の結果を表34〜36に示す。750keVの照射においては、側面部の色変化はほとんどなかった。また、みかん模型の配置上の距離Dを変化させても、側面部の発色状況および発色厚みには、変化はみられなかった。300keVの照射においては、試料間隔D=0の場合は側面の色変化はみられなかったが、試料間隔D=2以上で、0.5Mradの照射に対して0.3〜0.5Mrad程度の色変化がみられた。また、300keVと750keVのエネルギーの電子線の深さ方向の線量分布を図18に示す。
計算式上による電子線の放出窓による散乱は、近似的に次式で表される。
ここで、Esは散乱の特性エネルギー、pは入射電子の運動量、vは入射電子の速度、zは散乱物質の原子番号を表しており、この式によれば、750keVのエネルギーの電子線の放出窓は300keVの電子線の散乱に比して、46%となっているので、この現象は理論的にも理解できる。
ブルーセロファンを使用した上−下部方向の線量均一性の結果を図19および20に示す。
150kradの線量の電子線表面照射による温州みかん貯蔵中のかび発生防止を目的として、その照射効果に関する試験研究を行い、以下の結果を得た。
温州みかん品種「杉山」を各種フィルムで包装し、コッククロフト・ワルトン型電子線照射装置により、上下反転させて片面150kradの表面照射を行った。試料は、照射前4℃、20日間予措を行い、照射後は4℃、相対湿度80〜90%で貯蔵して、1ヶ月ごとにかびの発生、重量減少、表皮および果軸の色、組織の状態を検査した。
その結果、水蒸気透過性の少ないポリブタジエン、ポリエチレン、塩化ビニルなどは、非照射試料でもかび発生、腐敗が早く包装材料として不適当であった。酢酸セルロース密封包装およびビニロン折曲げ包装は適当であった。酢酸セルローズ密封包装で4ヶ月後のかび発生率は非照射区で10〜13%、照射区で1.7〜6.7%であり、明らかにかび発生防止効果がみられる。また、重量減少、軟化率とも照射区では小さい。しかし、表面褐変、果軸黒変とも照射区ではその出現率が増加する。表皮の褐変化発生は、貯蔵3ヶ月後から著しくなり、表面照射に特異的ともいえる現象である。
みかんの表面照射に際して、貯蔵中に発生する表皮褐変化を回避するため、試料みかんとして早生種、および晩生種の7.8分着色果ならびに、完全着色果を用い、照射前の予措温度、期間、貯蔵温度、包装方法の各条件を変え、照射時の電子線エネルギーを300および500keVとして、貯蔵中の褐変発生を検討した。
包装は、酢酸セルローズまたは、防湿セロファンを用いる限り問題ではなく、電子線エネルギーの相違は褐変発生にほとんど関係ない。早生種および7.8分着色果での褐変発生は、完全着色果より時期が早くまた数も多い。収穫直後よりも予措期間の長いほど褐変の出現率は低く、またかびの発生も少ない。結局、みかんの生理活性の強いものほど褐変が強く現れるものと考えられ、従って、完熟した試料に低温で1ヶ月程度の予措を行い、照射後は、低温貯蔵することにより、相当に褐変化が回避できることが明らかになった。
園芸試験場興津支場より分与を受けた標準菌株および新たにみかんから分離した菌株の10菌株について放射線感受性を検討した。菌株は、みどりかび(Penicillium digitatum)3株、あおかび(Pen.italicum)2株、はいいろかび(Botrytis cinerea)2株ならびにくろぐされ菌、Pen.expansum,Candida 属酵母各1株であった。これらの芽胞または細胞をりん酸緩衝液にけん濁し、Co−60γ線照射を行い生存率を測定し、D10線量および150kradにおける不活性化線量を算出した。
みかんで最も発生することの多いみどりかび芽胞のD10線量は、29.5〜43.5krad、150kradにおける不活性化係数は、3.1〜4.3で死減率は相当大きい。あおかび、Pen.expansumおよびCandidaはさらに感受性が高い。はいいろかびのD10線量は50〜70krad,くろぐされ菌は80kradで抵抗性があるが、みかんでの附着数は少ないものと思われる。
晩生種の完全着色果に4℃、1ヶ月の予措を行ったのち、肩部に針で刺し傷をつけ、みどりかび、あおかび、および、はいいろかびの芽胞けん濁液を塗布して接種した(芽胞数約1×10・E(3)個/試料)。上下反転して片面150kradの電子線表面照射を行い、照射、非照射試料とも各区30〜32個づつ酢酸セルローズ・フィルムで密封し、4℃および室温(20〜22℃)で貯蔵してかびの発生状況を観察した。室温貯蔵では非照射区での発生率がみどりかび83.9%、あおかび87.1%(ともに20日後)、はいいろかび74.2%(70日後)なのに対し、照射区ではそれぞれ41.9%、62.5%および43.3%であって、かび発生防止率は50%程度である。しかし、5℃貯蔵での防止効果は顕著であって、70日後のかび発生率が上記の順で64.5%、67.8%、45.2%であるのに対し、照射区ではそれぞれ15.6%、12.9%、3.2%と激減する。すなわち、かび発生防止率は、76%、81%、93%の高率に達した。
前項同様の予措、照射、貯蔵を行った試料みかんの果皮の精油をエーテル抽出、減圧水蒸気蒸溜で調整し、炭化水素化合物と含酵素化合物に分割して、ガスクロマトグラフィーにより分析した。
照射直後の試料では照射、非照射間に差異は認められない。しかし、1ヶ月貯蔵後の照射試料では含酵素化合物のクロマトグラム・パターンに相当な変化があり、これは果皮の褐変化に関係していて、官能的に異臭と感じる結果と対応する。
前項同様の試料について、果皮中のTCAサイクルに関与する有機酸、アスコルビン酸、脂質の脂肪酸組成、過酸化物価などを定量、測定した。
非照射区、照射区とも貯蔵中にクエン酸は増加し、リンゴ酸、アスコルビン酸、脂質含量、過酸化物価は減少するが、照射の有無とは関係がない。脂質の脂肪酸組成の収穫後の時間的経過により変動するが、照射の影響は認められない。
前項同様の試料の果皮からカロチノイドを抽出して全量を定量し、さらに薄層クロマトグラフィーによって9個のカロチノイド・グループに分離して、その構成比率(カロチノイド・パターン)を測定した。
照射前48.9mg%であったカロチノイド量は、照射後57.4mg%と17.4%の増加を示す。
貯蔵中非照射試料では、漸増するが、照射試料では全く増加しないので1ヶ月後には同じとなる。カロチノイド・パターンには照射の影響が全くみられない。照射によりカロチノイド生合成が一時的に賦活されるが、その後は生合成が抑制されるものと推論される。
前項同様の試料の果皮のフラベド部分について、全フェノール物質およびオルト・ジフェノールの定量を行い、またフラベド部分のアセトンパウダーについて酵素活性を測定した。
全フェノール物質およびオルト・ジフェノール量は、照射後の貯蔵初期に一時的に10〜20%増加する。また、フェニールアラニン・アンモニアリアーゼ活性は、照射後約4倍となり、20℃で貯蔵すると、この活性は急激に低下し、3日後には非照射区と同程度になる。しかし、5℃貯蔵では、1ヶ月後もなお非照射試料の約2倍の活性を示す。
みかんにブルーセロファンを張りつけ、電子線エネルギー300keVの変圧器型電子線照射装置により、上下反転して片面150kradの線量を照射し、ブルーセロファンの色変化を測定した。試料は、配置上の距離(D)を0、2cm、4cm、∞(孤立状態)と変化させ、側面方向ならびに上下方向の線量分布を検討した。
側面方向の線量均一性は、みかんの間隔(D=0,2cm、4cm、∞)をかえてもほとんど差異がなく、搬送方向についても最大±10%程度で特に影響があるとは認められない。上下方向の均一性は、みかんの配置上の間隔により、上部、下部と側部の線量が異なっている。これは、電子線の散乱が影響しているものと思われ、D=0では、散乱ビームの寄与は減少して側面の線量は低下し、Dが大きくなれば散乱ビームを受けて相対的に側面の線量が大きくなる。みかんの間隔2cm以上では、線量比±10%以下が得られた。
寒天を基材とし、これに放射線照射により発色する色素を混合したものでみかんの模型を製作し、アクリル製模型にブルーセロファンを張ったものとともに試料とした。これらの試料に300keV(線量0.5Mrad)および750keV(線量0.3Mrad)の電子線照射を行い、前項同様試料配置を変えて、線量均一性を測定した。
寒天模型の上下方向の発色厚みの測定の結果は750keVの照射においては側面部の色変化はほとんどなく、発色厚みは均一であった。試料配置上の距離Dを変化させても発色厚みに変化は見られない。300keVの照射では、D=2cmで0.5Mradの照射に対して0.3〜0.5Mrad程度の色変化がみられた。ブルーセロファンによる測定の場合、とくに750keVの照射の場合、上下部に比し側面部の線量が大きくなっていることがある。これは、試料の極く表面での吸収線量と100〜200μ深さでの吸収線量とに差があるものと思われる。エネルギーの差異による電子線放出窓、および空気中での電子線の散乱の相違が影響しているものと思われる。
上下方向から照射する場合、極く表面での線量均一性を問題にするならば、300〜750keVのエネルギーの電子線について、試料の間隔を適当に(D=2cm以上)とることにより、±10%の均一性が得られるが、100〜200μ深さでの均一性を求めるならば、500keV以下の電子線については可能であるが、750keV以上の電子線については、4方向照射、回転照射など別な照射方法が必要となろう。
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