食品照射に関する文献検索

照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

病原菌の殺菌(肉・肉製品・家禽肉)


発表場所 : 食品照射、vol.7(2)、44−47.
著者名 : R.B.Maxcy & N.P.Tiwari
著者所属機関名 : アメリカ、ネブラスカ大学
発行年月日 : 1973年
公衆衛生保護のための食肉の照射
○ 序
○ 結果
1) 接種した主要な汚染菌の貯蔵中の変化
2) 挽肉中のミクロフローラとEnterobacteriaceae.
3) 挽肉中のBrucellaとその殺菌
4) 放射線殺菌の1要因としての脂肪含量
5) 照射した挽肉のフレーバー
○ 結論



公衆衛生保護のための食肉の照射


公衆衛生保護のための食肉の照射
○ 序

 挽肉は大部分が小売店で調製されるが、その中には売残りの肉を整理するために、いろいろな肉が入れられる。陳列棚で選り分けられるときに沢山の人と接触するため、残り物の肉はしばしば汚染されている。小売の段階では挽肉中の全菌数は普通1g当り10・E(7)かそれ以上のコロニー形成を示し、また新鮮な挽肉は普通、サルモネラ菌やその他の病原性細菌によって汚染されている。これらの病原菌は調理することによって殺菌されるものと考えられてきたが、肉の多くのものは適切に調理されてはいない。さらに問題なのは新鮮な挽肉は手やまな板や刃物などにつくために、店から家庭へ細菌をはこぶ役割をはたしている。このように新鮮な挽肉は品質管理および公衆衛生保護のために、最も取り上げられるベき食品の1つであり、いくつかの改善が必要とされている。

 Radurization(イオン化放射線での低線量処理)は牛乳の熱殺菌と同じ意味で、貯蔵性を延長するためと公衆衛生保護のための有力な方法である。品質や公衆衛生上の意味から細菌に放射線が有効であることはWolinらやErdmanらの研究によって明らかであり、カット肉の照射で良い結果が得られているし、赤味の挽肉でも有望のようである。

 現在、Radurizationは米国では許可された方法ではない。なぜなら、公衆衛生に対する安全性についての絶対的な証明が不足しているからである。しかしこの方法は公衆衛生上の理由から、将来は採り入れられるだろう。病原性菌による現状での汚染から生じる危険性は、たとえあるとしても照射による悪い効果から起る危険性よりもはるかに大きいかもしれない。

○ 結果
1) 接種した主要な汚染菌の貯蔵中の変化

 P.fluovescensを好冷的な汚染菌として取上げ、この菌が主要な汚染菌になるように充分な濃度で接種した。D10値はPCA培地(BBL,Difcoのplate counte agar)を用いた場合、低脂肪含量の挽肉(牛)(LFGB)で12krad,Nutrient broth(NB)で5kradであった。LFGB中では85kradの線量でg当り10・E(6)以上あった接種菌は10・E(1)以下まで減少するが、2℃で貯蔵中に増殖し、14日頃には検出できるほどの腐敗を生じた。高脂肪含量の挽肉(牛)(HFGB)では85krad照射すると、2℃21日後でもコロニー数は10以下であった。

 S.typhimuriumを病原菌として使用した。PCA培地を使って1D10値はLFGBで64krad、HFGBで53krad、NBでは21kradであった。LFGB中では136kradの照射で接種菌は減少し、2℃で21日間貯蔵すると菌数はさらに減少した。一方、非照射試料中ではサルモネラ以外のもともと存在していた汚染菌が7日から14日の間に腐敗を生じるまでに増殖した。豚肉の場合も本質的には牛肉と同じであった。

 S.aureusのD10値はLFGBとHFGBとNBでそれぞれ58,28,24kradであった。2℃での貯蔵中、非照射試料中のS.aureusは生育を示さず、逆に菌数は減少した。

 E.coliでのD10値はLFGB,HFGB,NBでそれぞれ43,42,21kradであった。この場合も菌数は136kradの照射により著しく減少し、貯蔵中にも減少した。

2) 挽肉中のミクロフローラとEnterobacteriaceae.

 販売店から調達した挽肉を102〜204kradの線量で照射し、15日間2℃で貯蔵すると、170と204kradの線量では腐敗には関係ないと考えられるまでに微生物汚染を減少した。約30株が貯蔵試験中に分離されたが、ミクロフローラは全く種々雑多であった。ミクロフローラの主要なものはBacillus SP.やグラム陽性で胞子を形成しない桿菌や小球菌やMoraxella−Acinetobacterであった。大腸菌は非照射と102krad照射の両試料にだけ検出された。さらにサルモネラ菌や大腸菌以外のEnterobacteriaceaeについて試験した。生まの牛肉と68krad照射された牛肉から207株の分離菌が得られ、その内94株はMoraxella−Acinetobacterであった。またその他にAerobacter(42),Shigella(36),Providencia(8),Klebsiella(4)などが分離された。この事は挽肉中のEnterovacteriaceaeによる危険性を示している。

3) 挽肉中のBrucellaとその殺菌

 小売店から入手した挽肉中のBrucellaを分離するため、Bacitracin−polymyxin Serumglucose agarと0.00014%のcrystal violetを含むtryptose agarを1次分離培地として使用した。4回の平均菌数はg当り68,000であった。無差別に選択された12菌株の内その37.5%が普通のBrucellaの性質を持っていたが、それらはurease negativeであり、Brucellaとしては異常な性質であった。これらの結果はBrucellaかあるいはそれに非常によく似た微生物が小売段階での挽肉中に共通して存在していることを示している。さらに、Brucellaの内、家畜と関連の深いB.abortusについて死滅曲線を求めると、そのD10値は約34kradであった。このようにBrucellaによる肉食品の汚染はRadurizationによって確実に減少できるだろう。

4) 放射線殺菌の1要因としての脂肪含量

 2つの極端な脂肪含量の挽肉を使用した。HFGBは40−44%の脂肪を含み、LFGBは3.5−5.6%であった。これらの試料を2℃で貯蔵すると7日から14日の間にLFGBでは全菌数が10・E(7)〜10・E(8)に達し、明らかに官能的な劣化を示したが、HFGBでは10・E(5)にとどまった。また接種試験において、どの菌株においてもLFGB中でのD10値はHFGB中より大きな値を示した。HFGB中での照射ではより高い感受性を示すだけでなく、照射後の環境も2℃での生育や生存にとって好ましくなかった。HFGB中でのこの大きな殺菌効果が照射中に起るのか、残存効果を生じるのかということを決めるためにE.coliを牛肉脂肪中に分散して照射した。比較としてE.coli接種前に脂肪を照射したものを使った。E.coli接種前に脂肪が照射されても微生物の殺菌効果は全くなかった。過酸化物の形成が照射後の微生物環境の中で細菌を致死させることが考えられるから、過酸化物価を照射直後と5℃7日貯蔵後に定量した。放射線で脂肪を照射すると過酸化物価は顕著に増加し、5℃7日間貯蔵後にはさらに増加した(表1)。また接種前に照射されたときには、増加した過酸化物生成とE.coliにおける殺菌効果とは全く対比しなかった。さらに多くの研究が過酸化物形成とその致死効果の重要性を理解するために必要である。


表1 牛肉脂肪中に接種したE.coliの照射による貯蔵中の変化と過酸化物価
             
             
             
             
 試  料        
               接 種 後 照 射 し た 脂 肪               
        菌 数 / g        
       過 酸 化 物 価       
  貯  蔵  前  
 5℃ 7日間貯蔵後 
  貯  蔵  前  
 5℃ 7日間貯蔵後 
非接種,非照射      
接種,非照射       
接種,照射(34krad)
接種,照射(68krad)
    <10    
8.4×10・E(6)
6.9×10・E(3)
2.0×10・E(1)
    <10    
6.8×10・E(6)
5.2×10・E(1)
    <10    
    0.39   
    0.53   
    1.81   
    2.80   
    0.59   
    0.97   
    8.50   
   10.15   
             
             
             
             
 試  料        
               接 種 前 照 射 し た 脂 肪               
        菌 数 / g        
       過 酸 化 物 価       
  貯  蔵  前  
 5℃ 7日間貯蔵後 
  貯  蔵  前  
 5℃ 7日間貯蔵後 
非接種,非照射      
接種,非照射       
接種,照射(34krad)
接種,照射(68krad)
    <10    
3.6×10・E(6)
2.4×10・E(6)
1.9×10・E(6)
    <10    
1.9×10・E(6)
1.9×10・E(6)
8.9×10・E(6)
    0.44   
    0.44   
    2.60   
    2.40   
    0.36   
    0.82   
   10.60   
   12.70   


5) 照射した挽肉のフレーバー

 挽肉はフライのハンバーガーパティとして調理し、フレーバーを判定した。6日から15日まで2℃で貯蔵した場合のフレーバーの変化を調べると、6日貯蔵までは照射しない試料の方が照射試料(34krad)より良かった。しかし8日貯蔵後では照射処理した試料の方が比較として処理した非照射の試料よりも高いスコアを与えた。102,136,170,204kradの4段階で照射した場合の結果も15日間貯蔵試験を通して同じような共通した傾向を示し、フレーバーも満足しうるものであった。

○ 結論

 充分注意を払って切り取ったり、挽かれた肉でもg当り20〜400の微生物を含んでおり、このもともと牛肉中に存在している好冷的な細菌が2℃での貯蔵で、7日から14日の間に腐敗を生じる。この2℃という温度は非凍結の商業的な条件として期待できるのと同じ低さである。したがってこの汚染は現在の技術や非凍結貯蔵では調節できない腐敗の可能性を示している。実際、商業的な中央加工分配機構やかなり長期の家庭貯蔵を考えて、14日から21日の貯蔵性を得るためには、保存のためにいくつかの手段を考える必要がある。

 68krad照射し、2℃で貯蔵すれば21日間はもともと存在する汚染菌からの腐敗を防ぐことができた。しかしP.fluorescensのように85krad照射しても完全には殺菌されず、貯蔵中に急激に増殖するから、2℃で生育しうる細菌はすべて殺菌されなければならない。線量が高くなれば汚染菌は除去できるが、線量は必要に応じて低減できる。たとえば、P.fluorescensのD10値は12kradであるから72krad照射すれば6桁まで殺菌しうる。しかしこれ程の汚染は相当悪い品質のものでなければ生じない。

 挽肉を照射すると、そのミクロフローラは2℃でゆっくり生育するようないろいろな細菌を含んでおり、これが食品の貯蔵性を限定してしまうが、公衆衛生上意味のある特殊な細菌がいる徴候は全くなかった。小売の時点で挽肉は一般にg当り10・E(6)かそれ以上の微生物を含んでおり、その内大腸菌が多く、サルモネラ菌もしばしば見出される。他のEnterobacteriaceaeも本研究から検出された。SalmonellaやShigellaは病原菌であることが解っているが、ProteusやProvidenciaやKlebsiellaなどの意味には疑問があるかもしれない。しかし分類上およびその重要性が明確になるまでは、Enterobactericeaeに属する細菌はすべて関係があるものとみるべきであり、(病原菌)+(指標菌)と考えるべきである。

 公衆衛生上重要なほとんどの微生物は放射線に対して感受性が高い。200krad照射すればサルモネラ菌の影響を少なくとも1000分の1に減少することができるだろう。このように食肉の照射による公衆衛生保護の可能性は2つの事柄の実行にかかっている。1つは言うまでもなく、病原菌そのものの殺菌であり、もう1つは貯蔵性を延長することによって現在の加工や分配機構を改善することである。もし新鮮な挽肉の貯蔵性が14〜21日になれば中央加工が可能であるし、この方が小売店内で加工するような分散した作業よりもずっとすぐれた設備や管理を与えるであろう。この中央加工方式では、くず肉の広範な利用をもたらし、豚肉か牛肉へ、家畜肉から牛肉へというような他の種類からの汚染を防止できるから、品質を保証するために有力である。




関係する論文一覧に戻る

ホームに戻る