食品照射に関する文献検索

照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

病原菌の殺菌(肉・肉製品・家禽肉)


発表場所 : 食品照射 第32巻 p.26 (1997)
著者名 : Harsojo*、Diana Banati**、伊藤  均
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所、*インドネシア原子力庁、**ハンガリー園芸食品工業大学
発行年月日 : 1997年
鶏肉より分離したListeria monocytogenesの放射線感受性と低温貯蔵下での増殖
緒言
実験方法
実験結果および考察



鶏肉より分離したListeria monocytogenesの放射線感受性と低温貯蔵下での増殖


鶏肉より分離したListeria monocytogenesの放射線感受性と低温貯蔵下での増殖
緒言

 リステリア菌として知られるListeria monocytogenesは潜在的に病原性があり、本菌による食品汚染が問題にされることがある。リステリア菌は食肉等の低温流通下でも増殖するため、低温流通食品での食中毒の原因になる可能性がある。リステリア菌は乳幼児や妊婦、免疫力の低下した病人にとって特に危険であり、リステリア症により約30%が死亡するという報告もある1)

 先に報告したように、L.monocytogenesは輸入冷凍エビからも検出されており2)、鶏肉や他の肉製品にも広く分布している可能性がある。本研究では鶏肉よりL.monocytogenesを分離し、各分離株の放射線感受性を比較するとともに照射後、低温貯蔵下での増殖抑制効果について検討した。

実験方法

 鶏肉は先に報告した各地方より入手した10試料を用いた。L.monocytogenes 各株の分離はFDAの方法に従い4)、鶏肉25gを225ml増菌用ブロス中で30℃・7日間培養し、McBrideの選択寒天平板培地で分離した。分離株の同定は定法で行い、各分離株はそれぞれ0.067M燐酸緩衝液中でガンマ線感受性を比較した。また、鶏肉中での殺菌効果も検討した。

 低温下での貯蔵効果の試験は、鶏肉を10kGy照射してほぼ無菌状態にしてからL.monocytogenes分離株の定常期細胞を1g当たり約103個となるように接種し、0.5、1.0、1.5kGy照射後、非照射試料と共に10℃、7 ℃ 及び5℃ 貯蔵における菌数増加を平板寒天培地で測定した。

実験結果および考察

 L.monocytogenes は鶏肉10試料中、8試料から検出され、輸入冷凍エビに比べ汚染率が著しく高かった。代表的な分離株の分類学的性質はTable 1に示すように全株が血液寒天培地上で溶血帯を生じ、カラターゼ活性は微弱であった。また、寒天培地上・4℃ では多くの株が活発な生育が認められたが、一部の分離株は生育が遅かった。

 L.monocytogenesの生化学的性質は乳酸菌と類似しており、純粋分離が不十分な状態でガンマ線を照射すると著しく放射線に抵抗性を示す生存曲線が得られることがある。そこで純粋分離を繰り返して単一菌であることを確認してから放射線感受性を燐酸緩衝液中で調べたところ、Table 2に示すように好気的条件下でのD10値は0.14〜0.18kGyとなり、菌株による差は少なく冷凍エビ分離株との差も認められなかった。また、この値はサルモネラ菌ともほぼ同じであった3)。一方、鶏肉中で照射した場合のD10値は0.42kGyとなり燐酸緩衝液中、窒素ガス雰囲気下と同じ感受性を示した。従って、生鮮鶏肉中での必要殺菌線量はサルモネラ菌と同様に2〜3kGyで十分と思われる。

 次に、低温でも活発に生育する分離株G2-1株を用いて鶏肉中での照射による増殖抑制効果を調べたところ、Fig.1に示すよう1kGy照射でも10℃貯蔵下で4〜6日にわたり増殖抑制効果が明確に認められた。また、同株を7℃貯蔵下で調べたところ0.5kGyでも著しい増殖抑制効果が認められた。一方、低温では増殖が不活発なI2-2株の場合には、非照射区での増殖は10℃貯蔵ではG2-1株と同じであったが、照射による増殖抑制効果は10℃貯蔵でも0.5kGyで明確に認められた。

 出荷直後の鶏肉中のL.monocytogenesの汚染は最大でも1g当たり10個以下と思われる。従って、10℃以下での低温流通と1kGyの低線量照射を組み合わせれば、リステリア菌や病原大腸菌、サルモネラ菌等による食中毒被害は著しく低減可能と思われる。

文献

1)A.S.Kamat and M.P.Nair:J.Sci.Food Agric.,69,415(1995).

2)H.O.Rashid,H.Ito and I.Ishigaki:World J.Microbiol.Biotech.,8,494(1992).

3)Y.Prachastthisak,D.Banati and H.Ito:Food Sci.Technol.Int.,2(4),242(1996).

4)J.Lovett:Food Technol.,April,172(1988).


Table.1 Characteristics of typical isolates of Listeria monocytogenes
Isolate

Catalase

Beta
hemolysis
Nitrate
reduction
Urea
hydrolysis
Glucose
fermentation
Growth
at 4℃
11-1
11-2
14-1
G2-1
M2-1
+/-
+(week)
+/-
+/-
+(week)
++
+++
++
+++
++
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+++
+++
+++
+++
+++
++
+/-
++
++
+/-

*Gram-positive,short rods(0.5×0.5-0.7um),motile,oxidase negative.



Table 2.Radiation sensitivities of Listeria monocytogenes isolates underair-equilibrium and nitrogen-gas atmosphere in 0.067 M phosphate buffer.
Isolate

D10 value under
air-equilibrium
D10 value under
nitrogen-gas atmosphere
12-2
G2-1
SG-4
SR-1
0.18 kGy
0.16 kGy
0.17 kGy
0.14 kGy
0.42 kGy
0.42 kGy
0.42 kGy
0.30 kGy

# SG-4,SR-1 are isolated from imported frozen shrimps.



Fig.1 Growth of L.monocytogenes G2-1 in chicken meat at 10℃ after irradiation at 0, 0.5 and 1 kGy.





関係する論文一覧に戻る

ホームに戻る