近年、わが国で消費されるエビ類の多くは海外からの輸入品が増加しており、冷凍エビの状態で年間26万トン以上輸入されている。これら冷凍エビ等の魚介類の輸入増加と共にコレラ菌や食中毒菌汚染も問題になってきている〔1〕。これまで報告してきたように、輸入冷凍エビ中の微生物汚染は1g当り2×10・E(5)〜3×10・E(7)個検出されており、腸炎ビブリオ菌も若干検出されている〔2〕。本研究では腸炎ビブリオ菌ばかりでなく、他の病原性ビブリオ菌、サルモネラ菌、リステリア菌汚染の可能性について検査すると共に凍結下での必要殺菌線量の検討を行った。
冷凍エビは東南アジア産など8種類を卸売り業者より入手し、比較として日本産のカニ1種を用いた。ビブリオ菌は1%NaClを含むコリスチンブロスで増菌後、FDAの方法に従って分離、同定を行った。リステリア菌の分離もFDAの方法に従った。また、他の細菌類の検査は常法に従って行った。ガンマ線照射は160kCiのCo−60線源を用い、デュワー瓶に凍結した試料を入れドライアイスと共に照射を行った。線量評価、生存率の評価は常法により行った。
本研究で用いた冷凍エビ中の総細菌数は1g当り2×10・E(4)〜4×10・E(6)個であり、前回とほぼ同じような菌数であった〔2〕。大腸菌群はEnterobacterで占められており1×10・E(2)〜7×10・E(3)個程度の汚染である。これらの汚染細菌数は日本産のカニと比較しても温じ程度の汚染であり、収穫後、直ちに凍結処理されたものと思われる。
病原性ビブリオ菌はTable1に示すように日本産のカニ、中国産の試料D.Hを除く東南アジア産の試料A.B.E.F.Gとメキシコ産試料Cより分離された。この内、V.parahaemolyticusとV.alginolyticusは各試料より多く分離され100g当り1〜8個含まれていた。V.fluvialisやV.vulnificus,コレラ菌と近縁にV.mimicusもわずかながら分離され、V.mimicusの場合の増殖速度は他のVibrio類と比べても著しく速かった。リステリア菌については4試料について検討し、2試料よりListeria monocytogenesが250g中1〜3個分離された。サルモネラ菌は前報と同様に検出できなかった。
次に、病原性ビブリオ菌の放射線微受性を1%NaCl+0.067M燐酸緩衝液で比較したところ、D10値は0.035〜0.075kGyとなり、V.mimicusとV.parahaemolyticusは0.035〜0.042のGyと他の菌種より感受性が高かった。一方、凍結状態ではFig.1に示すようにV.mimicusが最も放射線抵抗性となり、D10値は0.75kGyとなった。V.parahaemolyticusも比較的抵抗性が強く、燐酸緩衝液中とは逆の放射感受性を示した。これらの菌は実際の冷凍エビ中では100g中わずかしか検出されないため、完全殺菌には10・E(−4)個まで殺菌すれば十分と思われ、3kGyでV.mimicusやV.parahaemolyticusも殺菌可能である。
一方、L.monocytogenesの場合の放射線感受性はサルモネラ菌とほぼ同じであり、Fig.2に示すようにD10値は燐酸緩衝液中で0.25kGy、凍結下で0.70kGyとなり、必要殺菌線量は約3.5kGyとなった。しかし、リステリア菌の汚染菌数は著しく少ないため、実際には3kGyで冷凍エビ中の病原菌を全て殺菌可能と思われる。
Number of Vibrio isolated from 8 different samples of frozen Srimps. |
Sample |
No.of isolates/100g of sample V.para− V.mimicus V.algino− V.vulnificus V.fluvialis haemolyticus lyticus |
A B C D E F G H |
3 0 4 1 3 8 0 0 0 1 1 0 6 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 2 3 2 0 1 7 0 5 0 0 0 0 0 0 0 |
〔1〕伊藤 武:New Food Industry,33(5)1,
(1991).
〔2〕H.Ito.P.Adulyatham.N.Sangthong.
I.Ishigaki:Radiat.Phys.Chem.34,
1009(1989).
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