香辛料の放射線殺菌は多くの国で実用化になりはじめているが〔1〕、わが国では後藤らの研究報告〔2〕がある程度である。香辛料は加工食品の微生物汚染源としてしばしば問題となっている。香辛料中の汚染微生物は前報〔3〕で述べたごとく、耐熱性細菌類だけでなく、大腸菌群や糸状菌類も多く検出された。ことに糸状菌類は原料段階での貯蔵・輸送中に発生し、品質劣化の原因となっている。
そこで、今回は香辛料中の主要汚染菌の種類とガンマ線殺菌効果を明らかにすると共に、ポリエチレン袋で貯蔵中の糸状菌発生と必要殺菌線量について検討を行った結果を報告する。
供試した輸入香辛料26種の中より微生物汚染が著しい品目5〜8種を選び微生物分布及び主要汚染菌の種類をしらべた。殺菌線量の検討には100kCi,コバルト−60ガンマ線源を用いた。貯蔵試験はポリエチレン包装した香辛料(10〜15g)を30〜35℃,80〜95%R.H.の条件で糸状菌の発生数よりしらべた。水分活性の測定はコンウェイの方法で行った。
原料段階で未粉砕の各種香辛料中の総細菌数はTable1に示すごとく1g当り2.8×10・E(3)〜4.8×10・E(7)個検出され、粉末状香辛料では4.9×10・E(3)〜5.3×10・E(7)個検出された。微生物汚染が著しいのは黒コショーやターメリックで、ローズマリー、バジル、白コショウも試料によっては微生物汚染が著しかった。総細菌数を構成する主要菌はBacillus subtilisとB.pumilusであり、B.megateriumやB.licheniformis,Micrococcus,Pseudomonas radioraなども検出された。
多くの香辛料からは大腸菌群も検出され、白コショウの中には1g当り10・E(6)個も検出されたものもあった。しかし、香辛料中の大腸菌群はKlebsiellaやEnterobacter,Citrobacterで構成されており、EscherichiaやSalmonellaは検出されなかった。
糸状菌類は75〜6.5×10・E(4)個検出され、主要菌はAspergillus restrictus 群やA.flavus群、A.fumigatus群、Penicilliumで構成された。この場合、A.flavus群の多くはA.flavus varcolumnarisで占められており、11株の内2株はアフラトキシンB1などの生産が認められた。
香辛料の代表的な殺菌曲線は図1に示すごとくなり、有芽胞細菌や大腸菌群などの細菌類は0.8〜1.5Mradでほぼ殺菌された。一方、糸状菌類は0.4〜0.5Mradで検出限界以下に殺菌された。
黒コショーやターメリックなどをポリエチレン袋中に包装して、35℃、93%R.H.の条件下で貯蔵すると1ケ月で糸状菌類が急速に増殖してきて、1g当り10・E(6)個以上に達した。この場合、ポリエチレン袋は真空包装したような状態になり、香辛料類は変色した。この現象は黒コショウ、白コショウ、ターメリック、ローズマリーなどで特に著しく認められ、糸状菌発生は30〜35℃、85%R.H.以上の貯蔵条件下で顕著に認められた。香辛料中に発生してくる糸状菌類はA.restrictus群やA.glaucus群などの好浸透圧性糸状菌類であり、A.flavus群は貯蔵中の消失する傾向が認められた。香辛料中の水分活性は貯蔵前の0.55〜0.79程度であるが、1ケ月も貯蔵すると0.79〜0.85に増加した。粉末状香辛料の場合は、Fig.2に示すごとく0.4Mradで糸状菌の発生が2ケ月以上抑制され、Fig.3に示すように水分活性の増加も抑制された。一方、黒コショウの粉砕前のものは0.4Mradでも糸状菌発生が著しく、水分活性の貯蔵中の増加も照射した方が著しかった。粉末状と粒状で菌発生抑制効果が異なる原因は明らかでないが、粒状では照射により外殻が劣化し吸湿性が増加するのに対し、粉末状では生残糸状菌の発生がゆるやかなため糸状菌の吸湿速度も遅れることで説明できるものと思われる。
Types of spices |
Counts/g sample |
|||
TPC |
Coli. |
FYC |
OSM |
|
P.Black pepper A P.Black pepper B W.Black pepper A W.Black pepper B P.White pepper A P.White pepper B W.White pepper A W.White pepper B P.Turmeric A P.Turmeric B W.Turmeric B P.Rosemary A P.Rosemary B W.Rosemary B P.Basil A |
5.3×10・E(7) 3.8×10・E(7) 2.0×10・E(7) 4.8×10・E(7) 9.2×10・E(4) nd 9.3×10・E(4) 9.8×10・E(5) 3.6×10・E(7) 3.1×10・E(6) 6.7×10・E(5) 4.9×10・E(3) 2.2×10・E(6) 2.8×10・E(3) 9.0×10・E(6) |
1.5×10・E(4) 9.9×10・E(3) nd 8.9×10・E(3) 1.7×10・E(2) nd nd 2.0×10・E(6) 5.7×10・E(2) 75 nd nd 5.8×10・E(2) nd 9.0×10・E(2) |
5.5×10・E(3) 3.0×10・E(3) nd 3.4×10・E(3) 3.1×10・E(3) nd 2.5×10・E(2) 1.7×10・E(4) 8.1×10・E(3) nd nd 2.1×10・E(3) 1.5×10・E(2) nd 6.5×10・E(2) |
6.5×10・E(4) 7.1×10・E(3) nd 2.7×10・E(4) 6.3×10・E(3) nd 2.6×10・E(3) 2.9×10・E(4) 2.6×10・E(3) nd nd 5.6×10・E(3) 75 nd 2.8×10・E(2) |
*TPC:Total aerobic count Coli.:Coliforms FYC:Fungi count OSM:osmophilic molds count P and W:denotes powder and whole samples respectively **nd:non−detectable ***A,B:samples with different capital letters were obtained at different time |
〔1〕 H.M.Gottschalk
:Food Irradiation Information,
47,570(1982)
〔2〕 後藤 亮・山崎邦郎・岡 充:食品照射,6,35(1971)
〔3〕 S.Bagiawati,渡辺 宏・田村直幸
:食品照射研究協議大会研究発表講演要旨(第19回)P.4,
1983
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