放射線による香辛料の殺菌は、風味の変化を起さずに香辛料中の耐熱性菌や大腸菌を殺菌できるという点で、加熱殺菌やガス殺菌よりも優れているため、香辛料の消費の多い欧米で精力的に研究されてきた。その結果、現在ではオランダを始めとして数ケ国で香辛料の照射が許可されるに至っている。一方、日本では10年以上前に、後藤ら〔1〕が香辛料の放射線殺菌の研究を行っているが、その後あまり研究されていない。しかし近年、食生活の洋風化に伴い、香辛料の輸入が増大し、その微生物汚染が指摘されるに至って香辛料の殺菌処理の必要性も増大している。そこで著者らは、主要な香辛料26種についてその微生物汚染の状況を調査するとともに、各香辛料に対する放射線殺菌効果を検討した。
試料は香辛料会社から直接入手した26種の粉末状香辛料である。試料は5gずつポリエチレン袋に密封し、Co−60γ線で照射した後、滅菌水95mlを加えてストマッカーで均質化し、その一定量を微生物検査に使用した。総菌数の計測には、グルコース0.5%、酵母エキス0.5%、K2HPO4 0.2%を添加したNutrientagarを用い、30℃、3日培養後のコロニーを計測し、大腸菌群の検出にはMac Conkey agarを用いて、37℃、24hr後のコロニーを計測した。糸状菌の検査にはMYG−CM agar〔2〕を、また好浸透圧性糸状菌の検査には15%食塩を含むmalt extract agarを用いて、30℃,3〜5日培養した。水分含量は赤外線ランプで105℃に加熱し、重量変化のなくなった時点での重量変化から求めた。また水分活性は柴田化学製のコンウェイユニットを用いた水分活性測定器を使って測定した。
26種の香辛料の内、NutmegとSageから微生物が検出されず、すでに何らかの処理がなされていたと考えられるが、他の24種では1g当りの総菌数が7×10・E(2)〜4×10・E(7),80℃,15分の加熱処理後の菌数から求めた有胞子細菌数が1×10・E(2)〜3×10・E(7)であった。最も汚染の著しいものはBlack pepperとTurmericであり、両者とも10・E(7)以上の有胞子細菌が検出された(Table 1)。本調査結果は後藤らの結果と一致しており、10年以上経った現在でも、Black pepperとTurmericの微生物汚染が高いことを示している。総菌数と有胞子細菌数を比較すると、CorianderとCuminを除く大部分の香辛料で、総菌数のほとんどが有胞子細菌によって構成されていることが明らかである。今回試験した香辛料の50%は10・E(4)の汚染であり、Black pepperとTurmericを除けば大部分の香辛料の汚染菌数は10・E(6)以下である。
大腸菌群は8種の香辛料から検出され、1g当り2×10・E(2)〜4×10・E(4)であった。総菌数が多く検出されたBlack pepperで大腸菌群数も多いが、全般に大腸菌群による汚染は少いといえる。
一般糸状菌は18種の香辛料から検出され、1g当りの菌数は1×10・E(2)〜4×10・E(4)であった。また香辛料のように水分含量および水分活性の低い食品中でも生育できる好浸透圧性糸状菌は11種の香辛料から検出され、1g当りの菌数は1×10・E(2)〜2×10・E(5)であった。特にBlack pepperとTurmericで10・E(5)以上検出されており、この2種の香辛料は有胞子細菌だけでなく、糸状菌汚染の点からも注目する必要がある。
比較的微生物汚染の高い16種の香辛料を用いて、放射線殺菌効果を調べ、本実験での検出限界以下(16/g)に菌数を減少させるのに必要な線量を求め、その結果をTable2に示した。有胞子細菌は10kGy照射すれば、検出限界以下までに減菌でき、この線量では大腸菌群は勿論、好浸透圧糸状菌を含めたすべての糸状菌を殺菌することができる。我国の食品衛生法の基準では香辛料中の耐熱性菌は1g当た10・E(3)以下でなければならないが、最も汚染の著しかったBlack pepperとTurmericの場合では、7kGyの照射で10・E(3)/gまで減菌でき、他の香辛料でも6kGy以下で減菌を達成することができた。最も風味の変化を起しやすいCardamonやOnion powderでも、8kGyまでは照射による風味の変化が起らないから〔3〕7kGyでの放射線殺菌は充分実用に供しうるものである。
Spice |
Microorganisms(counts/g) |
Moisture content (%) |
||||
TAB |
SFB |
Coli |
FN |
OSM |
||
1 Allspice 2 Anise seed 3 Bay leaves 4 Basil 5 Caraway 6 Cardamon 7 Cinnamon 8 Clove 9 Coriander 10 Cumin 11 Dill seed 12 Fennel 13 Garlic powder 14 Ginger 15 Mace 16 Marjoram 17 Nutmeg 18 Onion powder 19 Oregano 20 Paprika 21 Black pepper 22 White pepper 23 Rosemary 24 Sage 25 Thyme 26 Turmeric |
3×10・E(5) 1×10・E(5) 5×10・E(4) 2×10・E(6) 5×10・E(3) 5×10・E(5) 3×10・E(4) 1×10・E(3) 1×10・E(5) 3×10・E(4) 6×10・E(4) 5×10・E(4) 7×10・E(5) 5×10・E(3) 7×10・E(2) 1×10・E(6) nd 7×10・E(4) 2×10・E(4) 4×10・E(3) 4×10・E(7) 9×10・E(4) 1×10・E(4) nd 5×10・E(4) 3×10・E(7) |
2×10・E(5) 1×10・E(4) 3×10・E(4) 2×10・E(6) 1×10・E(3) 3×10・E(5) 2×10・E(4) 1×10・E(2) nd nd 2×10・E(4) 4×10・E(4) 4×10・E(5) 3×10・E(3) 2×10・E(2) 5×10・E(5) nd 5×10・E(4) 2×10・E(4) 2×10・E(3) 3×10・E(7) 4×10・E(4) 4×10・E(3) nd 2×10・E(4) 2×10・E(7) |
nd 3×10・E(2) 2×10・E(2) 2×10・E(3) nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd 4×10・E(4) 2×10・E(3) 2×10・E(2) nd 6×10・E(2) 6×10・E(2) |
nd 4×10・E(2) 2×10・E(4) 6×10・E(2) nd 1×10・E(4) 4×10・E(2) nd nd nd 1×10・E(2) 3×10・E(2) 1×10・E(2) nd 3×10・E(2) 3×10・E(3) nd 8×10・E(2) 6×10・E(3) 5×10・E(2) 1×10・E(4) 2×10・E(4) 3×10・E(3) nd 1×10・E(3) 4×10・E(4) |
nd 5×10・E(2) 1×10・E(5) 2×10・E(3) 1×10・E(2) nd nd nd nd nd nd nd nd nd nd 1×10・E(3) nd nd 2×10・E(3) nd 2×10・E(5) 2×10・E(4) 7×10・E(3) nd 7×10・E(3) 2×10・E(5) |
9.5(0.57)* 9.6(0.58) 7.5(0.43) 8.5(0.52) 11.7(0.47) 9.2(0.53) 8.5(0.53) 18.5(0.63) 8.2(0.70) 9.4(0.60) 13.0(0.63) 9.9(0.58) 5.0(0.38) 10.0(0.58) 9.0(0.49) 8.2(0.58) 8.3(0.63) 4.5(0.41) 8.3(0.46) 9.0(0.43) 12.8(0.70) 12.5(0.68) 7.9(0.57) 8.2(0.60) 8.0(0.49) 12.0(0.64) |
*Figures in parenthesis show water activity. TAB:Total aerobic bacteria SFB:Spore−forming bacteria Coli:Coliforms FN:Fungi OSM:Osmophilic molds |
MINIMUM REQUIRED DOSES TO ELIMINATE MICROORGANISMS IN SPICES |
Spice |
Minimum required dose(kGy) |
TAB SFB Coli FN OSM |
|
1 Allspice 2 Anise seed 3 Basil 4 Bay leaves 5 Cardamon 6 Dill seed 7 Fennel 8 Garlic powder 9 Marjoram 10 Onion powder 11 Oregano 12 Black pepper 13 White pepper 14 Rosemary 15 Thyme 16 Turmeric |
8 6 ── ── ── 9 5 1 2 2 10 8 2 2 1 7 6 0.5 6 2 10 7 ── ── ── 8 4 ── ── ── 8 4 ── 4 ── 12 10 ── ── ── 12 10 ── 2 1 10 8 ── 2 ── 8 5 ── 2 2 10 9 4 4 4 6 4 2 3 2 5 4 0.5 2 2 6 6 1 3 2 15 10 1 6 6 |
〔1〕 後藤 亮・山崎邦郎・岡 充
:食品照射,6(1),35(1971)
〔2〕 伊藤 均・久米民和・武久正昭・飯塚 廣
:農化,55,(11),1081(1981)
〔3〕 J.Farkas:IFFIT Report
No20(1981)
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