香辛料の放射線殺菌に伴う成分変化については、これまで多くの研究が報告されてきているが、その大部分は風味や色調などの官能的品質の変化と精油成分の変化に関するものである。一方、香辛料は風味だけでなく、種々の特性を有しており、特に抗菌性と抗酸化性は食品保存の上でも重要な性質の一つである。しかし放射線殺菌に伴うこれらの性質の変化はまだ調べられていない。そこで本研究では、これら抗菌性や抗酸化性に対する照射の影響を検討した。
ポリエチレン袋に包装した粉末香辛料をCo−60γ線で照射した後、その5gに水、またはEtOHを45ml加え、水抽出の場合には100℃、15分、EtOH抽出の場合には室温で2hr、時々攪拌しながら抽出した。この熱水抽出液とEtOH抽出液を活性測定用の試料とした。抗菌活性はパルプディスク法で測定した。活性検定用に使用した細菌は、B.Subtilis(Bs),B.Pumilus(Bp),E.coli(Ec),S.aureus(Sa),Sal.typhimurium(St).P.fluorescens(Pf),M.lysodeikticus(Ml)の7株である。また抗酸化活性の測定には、AOM測定装置を用い、精製ラードに粉末またはEtoH抽出液を0.2%添加し、98.6℃,2.33ml/sec通気の条件でラードを酸化させ、そのPOVを滴定で求めた。
抗菌活性の知られている15種の香辛料について、そのEtOH抽出液の活性を測定した結果、Bsに対してはすべての香辛料が活性を示したが、Bpに対しては8種、Saでは4種、Ecに対してはCloveだけが活性を示し、Pf,St,Mlの3株に対して活性を示すものはなかった。MaceはBsとBpに対して最も高い活性を示し、SageはSaに対して高い活性を示した。一方、水抽出液では、Clove,Sage,Oregano,Rosemary,Thymeに活性がみられ、いずれもBsに対して活性であった。そこでこの5種類の香辛料とMaceについて、照射による活性変化を測定した結果がTable1である。Table1には香辛料中の主要な精油成分であるEugenolとIsoeugenolに対する照射効果も示してある。Tableから明らかなように、4Mradまで照射しても、香辛料中の抗菌活性は全く影響を受けず、照射によって活性が減少することも増大することもない。
抗酸化活性については、活性の高いことが知られているSage,Rosemaryと、比較的活性の高いClove,Mace,Thymeの5種の香辛料について検討した。Fig.1はAOM法でラードを酸化した時のPOVの経時変化を示している。SageやCloveでは粉末を添加した場合より、そのEtOH抽出液を添加した方が幾分抗酸化能が高い。POVが100meq/kgに達するまでの時間をAOM値として、香辛料の抗酸化活性をBHAと比較し、また照射によるAOM値の変化を示したものがTable2である。抗酸化能はSageが最も高く、そのEtOH抽出液の活性はほぼBHAと同じであった。3Mrad照射した後の活性をカッコ内に示した。結果からも明らかなように、活性の低いClove,Mace,Thymeでは粉末でもEtOH抽出液でも、照射の影響は全くみられない。一方活性の高いSageやRosemaryでは、AOM値が0.3〜1.7程変化した。Rosemaryでみられる0.3〜0.4の変化は有意な値とは考えにくい。粉末では10Mradまで照射すると幾分活性が低下する傾向を示すが、ほとんど変化がないと考えられる。またSageでは、10Mradまで照射すると、3Mradで変化がみられ、粉末の場合は活性が上昇するが、そのEtOH抽出液では逆に活性が低下した。この逆な現象は、活性物質のEtOH溶解性に関係するかもしれないが、現在不明である。しかしこれらの照射の影響もAOM値で比較すると、高く0.7〜1.7hr程度であり、実用的に問題となる変化とは考えられない。
香辛料の殺菌は0.7〜1.0Mradの照射で、目的とする大腸菌、糸状菌、および耐熱性菌を除去または減菌できることを先に報告した。〔1〕本試験結果から考えれば、この殺菌線量では、香辛料のもつ抗酸化性はほとんど照射の影響を受けないと結論することができる。
CHANGES IN MINIMUM INHIBITORY CONCENTATION(%) OF SPICES BY IRRADIATION |
1.Ethanol extract Spices |
Microorganisms |
||
Bacillus subtilis |
Staph aureus |
Bacillus pumilus |
|
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
|
Mace Sage Rosemary Oregano Clove Thyme Eugenol Isoeugenol |
0.2 0.2 0.2 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 2 2 2 10 10 10 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 |
5 5 5 0.5 0.5 0.5 1 1 1 ── ── ── 10 10 10 ── ── ── 1.25 1.25 1.25 0.6 0.6 0.6 |
0.2 0.2 0.2 0.5 0.5 0.5 1 1 1 5 5 5 10 10 10 10 10 10 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25 |
2.Water Spices extract |
Bacillus subtilis |
Escherichia coli |
Bacillus pumilus |
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
0Mrad 2Mrad 4Mrad |
|
Oregano Clove |
4 4 4 ── ── ── |
── ── ── 2.5 2.5 2.5 |
4 4 4 ── ── ── |
Spice |
Conc. (%) |
AOM(hours) |
Powder EtOH ex. Dose(Mrad) 0 3 0 3 |
||
Sage Rosemary Clove Mace Thyme BHA Control |
0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.02 ── |
27.7 28.4 31.7 30.0 19.5 19.2 11.1 11.5 7.2 7.2 8.2 8.2 6.5 6.5 6.5 6.5 5.9 5.9 5.1 5.1 32.1 3.5 |
〔1〕 Sri Bagiawati,渡辺 宏,田村直幸
:食品照射,20,23.(1985)
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