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照射効果(IRRADIATION EFFECT):食品に放射線を照射した場合の貯蔵、衛生化等の効果

菌数低減による衛生化(香辛料)


発表場所 : 食品照射 第29巻 p.1 (1994)
著者名 : 伊藤 均、Gao Meixu
著者所属機関名 : 日本原子力研究所高崎研究所
発行年月日 : 1994年
香辛料抽出物の微生物増殖抑制と照射の影響
緒言
実験方法
実験結果
考察



香辛料抽出物の微生物増殖抑制と照射の影響


香辛料抽出物の微生物増殖抑制と照射の影響
緒言

香辛料に抗菌活性があることは古くから知られている。ことに細菌に対する抗菌力はマスタード、シナモン、クローブ、ガーリック、ローズマリー、コショウなどに顕著で、グラム陰性菌より陽性菌に対し強く作用すると報告されている1)。一方、香辛料の多くは微生物汚染が著しく、耐熱性の有芽胞細菌が1g当たり105-108個も含まれていたり、Aspegillus flavusで汚染されている場合もある。伊藤らの研究では、香辛料類は7-10kGyの吸収線量で衛生規準以下に放射線殺菌され2)、香気成分も変化しないとが明らかされている3),4)。また、渡辺らは香辛料の抗菌性物質および抗酸化性物質は50kGy照射でも顕著な変化を受けないと報告している5)

本研究では黒コショウ、ローズマリー、赤トウガラシを用いてグラム陰性細菌、グラム陽性細菌、Aspergillus parasiticusに対する増殖抑制またはアフラトキシン産生に対する放射線照射の影響について検討した。

実験方法

1 香辛料抽出物

本研究で用いた粉末状の黒コショウ、ローズマリー、赤トウガラシは香辛料会社の好意により入手した。これらの試料はガンマ線を0、10、50kGyの吸収線量となるように照射後(160kCiのガンマ線源で10kGy/hの位置で照射)、各3gを50ml のエチルアルコール中に入れ、室温で24時間放置した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、最終溶液を3mlとし、蒸留水を加え全量を30ml(10 %抽出液)とした。

2 供試菌株

グラム陰性細菌はEscherichia coli B, K-12,およびS2(下水より分離)、Salmonella typhimurium YK-1、Pseudomonas aeruginosa S1(下水より分離)を用いた。グラム陽性細菌はBacillus subtilis IAM1069、B.pumilus E601、B.megaterium S31(香辛料より分離)、Lactobacillus arabinosus ATCC8014、Streptococus faecium A2l、Clostridium botulinum type A、62A(大阪府大より入手)を用いた。糸状菌はAspergillus parasiticus IFO30179を用いた。

3 培養条件および微生物生育阻止能

細菌類の増殖抑制効果は主にTryptone broth(Difco-tryptone 1%,Difco-yeast extract 0.5%,NaCl.5%)に各濃度の香辛料抽出液を加え、L字管中の10ml培養液で菌の増殖を行い、660nmにおける吸光度を1時間ごとに測定した。その他、Tryptone agar平板培地上での一般細菌類の生育阻止能、Thioglycollate agar高層寒天培地でのC1、botulinum気泡発生、S L broth6)でのA.parasiticusのアフラトキシン産生について調べた。鶏肉中での微生物増殖抑制効果については香辛料抽出液とB.subtilis 懸濁液を10kGyで放射線殺菌した鶏肉に加え混合し、30℃で貯蔵し平板培養法により生存菌数を測定した。

実験結果

1 香辛料抽出液の抗菌活性

Tryptone agar平板培地上で各種香辛料抽出液の抗菌活性を比較したところ、Table 1に示すように抽出原液(10%)でもグラム陰性細菌の増殖抑制はほとんど認められなかった。一方、グラム陽性細菌では抗菌活性が認められるものが多く、ことにB.subtilisではどの香辛料でも抗菌活性が顕著であった。また、本研究に用いた香辛料の抗菌活性は赤トウガラシで著しく強い傾向が平板培地上で認められた。そこで、E.coli S2株およびB.subtilisを用いてTryptone broth中での生育抑制効果を比較したところ、Fig.1およびFig.2に示すように赤トウガラシはE.coliに対しても生育抑制効果が明確に認められ、B.subtilisについてはローズマリー以上に強力な抑制効果をしめした。また、香辛料抽出液のB.subtilisに対する抗菌活性を示す限界濃度は黒コショウで1%、ローズマリーで0.5%、赤トウガラシ0.03%であった。Cl.botulinumの場合もTable2に示すようにB.subtilisと同様の傾向を示した。一方、鶏肉中に赤トウガラシ抽出液を0.05または0.1%を添加した場合にはB.subtilisの生育抑制効果は30℃でほとんど認められなかった(Table 3)。

2 照射による抗菌活性の変化

照射した各種香辛料の抗菌活性の変化を各抽出液の限界活性濃度においてB.subtilisを用いて比較したところ、黒コショウとローズマリーではFig.3およびFig.4に示すように照射によって抗菌活性が若干減少する傾向が認められた。一方、赤トウガラシでは逆にFig.5に示すように照射によって抗菌活性が若干増加する傾向が認められた。同じような照射による活性変化はTable 4に示すようにA.parasiticusによるアフラトキシン産生でも認められた。しかし、この場合には菌糸の生育抑制およびアフラトキシン産生の抑制は黒コショウと赤トウガラシとも0.5%で認められ、濃度による差はほんど認められなかった。

考察

本研究では渡辺らの報告5)とは異なり、菌の増殖能の変化を中心に抗菌活性の変化を調べたが、実用的には50kGyの高線量を照射しても抗菌活性は大きな変化を受けないことが明らかになった。しかし、黒コショウやローズマリーの場合には10kGyでも抗菌活性が若干低下しており、オイゲノールなどの抗菌性物質が若干分解されたことを示している。一方、赤トウガラシでは照射によって抗菌活性が増加する傾向が認められたが、この場合には照射によって抗菌活性物質の抽出性が向上するために抗菌活性が増加したものと考えられる。香辛料に含まれる精油成分には抗菌活性を有するものが多いとされているが、先に報告したように3,4)、ガスクロマトグラフィーで分析した結果では50kGyでも大きな変化は認められていない。今回、生物活性による分析法で若干の変化が認められたのは、抽出方法による差も考えられる。なお、香辛料の多くは熱帯地方で収穫されるものが多く、A.flavus群に属する糸状菌で汚染されていることがあるが2)、本研究でも明らかのように香辛料抽出液にはアフラトキシン産生抑制効果が認められ、先に報告したように実際の香辛料においても産生量は著しく少ない6,8,9)。また、照射によってもアフラトキシン産生抑制効果はほとんど変化しないことを示している。

引用文献

1)S.Ueda,H.Yamashita and Y.Kuwabara:食品工誌: 29, 389 (1982)

2) Muhamad L.J., H.Itoh, H.Watanabe and N.Tamura:Agric.Biol.Chem., 50, 347 (1986)

3)金子信忠,伊藤 均,石垣 功:食品工誌, 38, 1025 (1991)

4)金子信忠,伊藤 均,石垣 功:食品照射, 26(1,2), 51 (1991)

5)渡辺 宏,S.Bagiawachi,田村直幸:食品照射, 20 (1,2), 27 (1985)

6)H.Ito,H.Chen and J.Bunnak:J.Sci.Food Agric., 65, (1994), 印刷中

7)徳丸七恵:ニュー・フード・インダストリー, 30(2), 8 (1988)

8)伊藤 均,J.Bunnak,Z.M.Guzman,石垣 功:食品照射, 26 (1,2), 43 (1991)

9)伊藤 均:食品照射, 27(1,2), 27 (1992)


Table 1 Effect of spice extracts on the growth inhibition of bacteria enumerated by triptone agar plate.
Strain

red pepper
black pepper
rosemary
gram
negative
bacteria






E.coli B


±
E.coli K-12



E.coli S2



S.typhimurium



P.aeruginosa



gram
positive
bacteria






B.subtilis
+++
±
++
B.pumilus
++
±
+
B.megaterium
+


L.arabinosus
+
±
±
S.faecium
++
±
±



Table 2 Growth inhibition of Cl. botulinum type A by spice extracts at different concentrations.
Spice
without extract
0.01%
0.1%
1.0%
red pepper
+++
++
+
-
rosemary
+++
+++
++
-
black pepper
+++
+++
++
+



Table 3 Effect of red pepper extract on the growth of B.subtilis in chiken at 30 ℃
Storagr

days
concentration of extract
without extract
0.05%
0.1%
0
4.0x102
4.0x102
4.0x102
2
1.6x103
3.8x103
3.7x102
4
2.0x105
1.8x105
3.7x105
6
1.0x108
6.3x107
1.8x107
8
3.2x105
3.0x108
3.5x108



Table 4 Effect of spice extracts (0.5%) on aflatoxin production by A.parasiticus cultivated in SL broth at 30℃ for 10 days(ug/ml).
Spice
without extract
non-irrad.
10 kGy
50 kGy
black pepper
244
133
142
189
red pepper
244
188
143
130



Fig.1 Effect of spice extracts (1%) on the growth inhibition of E.coli S2 in nutrient broth at 30 ℃



Fig.2 Effect of spice extracts (1%) on the growth inhibition of B.subtilis IAM1069 in trypton broth at 30℃



Fig.3 Effect of irradiation on the growth inhibition of B.subtilis IAM1069 by black pepper extracts (1%). ●:with extract, ○:non irrad., ◆:10kGy, ◇:50kGy.



Fig.4 Effect of irradiation on the growth inhibition of B.subtilis IAM1069 by rosemary extracts (0.5%). ●:with extract, ○:non irrad., ◆:10kGy, ◇:50kGy.



Fig.5 Effect of irradiation on the growth inhibition of B.subtilis IAM1069 by red pepper extracts (0.03%). ●:with extract, ○:non irrad., ◆:10kGy, ◇:50kGy.





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