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検知法(DETECTION METHOD):食品が適切に照射されたものか知るための検定方法

検知法


発表場所 : 食品照射研究運営会議(放射線照射による小麦の殺虫に関する研究成果報告書[資料編])
著者所属機関名 : 厚生省国立予防衛生研究所
発行年月日 : 昭和58年12月
小麦の判別法に関する研究
緒  言
1. 実験の方法
(1) 試料小麦
(2) 照射線源及び線量
(3) 試料の貯蔵
(4) 照射鑑別の方法
a) 発芽率
b) 発芽伸長
c) 根端の細胞分裂の観察
イ. 酢酸カーミン染色による押しつぶし法
ロ. ハイデンハイン氏ヘマトキシリン染色によるパラフィン切片法
2. 実験の結果及び考察
(1) 発芽率
(2) 発芽伸長
(3) 根端の細胞分裂
a) 蒔種後2日目
b) 蒔種後7日目
○ 文書



小麦の判別法に関する研究


小麦の判別法に関する研究
緒  言

 食品衛生上の見地から、照射小麦の検知法の開発が要請された。定められた低線量照射条件の下で処理された小麦を、簡便迅速に判別することは、国の内外を問わず昭和46年現在の科学水準をもってしてはかなり困難であった。しかしながら種々検討し、限定された条件下で興味ある結果を得たので報告する。

1. 実験の方法
(1) 試料小麦

 a)農林61号−昭和46年春収穫

        −昭和46年12月2日照射

 b)マニトバ −収穫時期不明

        −昭和46年6月28日照射

(2) 照射線源及び線量

 日本原子力研究所、高崎研究所のγ線(Co−60)照射装置を用いて、20、50、200krad照射群にわけて照射した。対照群として非照射群を設け実験に供した。

(3) 試料の貯蔵

 照射試料は、原研高崎から予研に送付され、研究室において20℃恒温器内(湿度管理なし)に貯蔵された。

(4) 照射鑑別の方法
a) 発芽率

 供試種子は、予め2%次亜塩素酸ナトリウム中に室温で1時間浸漬して表面消毒をほどこした。

 消毒種子50粒づつを、予め濾紙を敷き殺菌したうえで、滅菌水を浸したペトリ皿に蒔種した。30℃恒温器中に保持し、毎日発芽した粒を分別し、3日間にわたって観察を続け、累計の発芽率で比較検討した。

b) 発芽伸長

 上記の発芽率測定を同様に処理した供試種子10粒〜20粒づつを各々ペトリ皿に蒔種して発芽させた。5日間にわたって芽と根の長さを測定し、いずれも1粒当たりの平均値であらわした。なお、小麦の根は、各種子毎に発根した全根の合計で示した。

c) 根端の細胞分裂の観察

 上記の発芽試験と同様に処理して発根させ、2日目の伸長根先端から5mmを切断したもの、及び別の粒について7日目の伸長根先端から5mmを切断したものを試料とした。

イ. 酢酸カーミン染色による押しつぶし法

 試料をエタノール:酢酸(3:1)で固定し、1規定塩酸を用いて60℃10分間処理したのち、酢酸カーミンで染色し、スライドガラス上で押しつぶした。

ロ. ハイデンハイン氏ヘマトキシリン染色によるパラフィン切片法

 試料をナワシン液(1%クロム酸:氷酢酸:ホルマリン10:1:5)で固定し、パラフィン包埋したのち、5〜7μmの厚さの切片をつくり、ハイデンハイン氏ヘマトキシリンで染色した。

 上記2方法を併用して調製した標本を検鏡し、細胞分裂後期のブリッジ(染色体橋)の有無を観察した。また、パラフィン切片を用いて、根端の中心柱がまっすぐ縦にはいった縦断面を選び、根冠を除いた長さ350μmの間にある部位の細胞について、異常の有無を定量的に観察した。

2. 実験の結果及び考察
(1) 発芽率

 実用線量と想定し選択された20〜200krad照射が、農林61号およびマニトバ種の小麦の発芽率に及ぼす影響について表5−1に示す。

 この実験結果に関する限り、小麦種子の発芽率は照射線量の高低にほとんど影響を受けなかったといえる。貯蔵期間や発芽温度などによって、発芽率はより大きく影響されるようである。

 さきの米穀種子の場合と同様に、発芽率は照射線量による影響よりは、照射時期(収穫ののち照射するまでの時間)、小麦の品種およびそれに伴う品質、貯蔵期間などの影響をより強く受けるものと思われる。


表5−1 小麦種子の発芽に及ぼす照射の影響(蒔種3日目)
       
 品  種  
       
   線         量   
 0
20
50
200 krad
 農林61号 
       
 マニトバ  
10
  
42
30
  
 4
46
  
10
 46 発芽率 
        
  − (%) 


(2) 発芽伸長

 図5−1及び図5−2に、農林61号及びマニトバ種の小麦種子の発芽以後、芽及び根の発育(伸長)におよぼすγ線照射の影響を示した。品種によって多少結果は異なるとはいえ、全般的に蒔種3日目を過ぎると照射量が増加するにつれて芽や根の伸長度は阻害されるように見える。その傾向は根においてとくに顕著な傾向を示し、50〜200kradでは、3日以後の伸長はほとんど認められない。


図5−1 農林61号種小麦の幼芽及び幼根の発育に及ぼすγ線照射の影響



図5−2 マニトバ種小麦の幼芽及び幼根に及ぼすγ線照射の影響


(3) 根端の細胞分裂
a) 蒔種後2日目

 照射線量別に根端の細胞分裂の状態を観察すると、非照射群では細胞分裂の各期が明瞭に認められ、後期においてもブリッジの存在はほとんど認められなかった。20krad照射群は、分裂後期において多くの細胞に数本のブリッジがみられたが、前、中および後期には対照の非照射群との間に差異は認められなかった。50krad照射群の分裂後期においては、20krad照射群よりも多くのブリッジがみられ、小核を有するものも多くみられた。分裂中期細胞で、染色体の配列不揃いも見られたが、対照群との間に差異を認めることは困難であった。なお、200kradでは、分裂細胞数は少なく、とくに中期以降の分裂を検出することは困難であった。

 農林61号の根端350μm部位における細胞分裂異常の出現率を表5−2に示す。すなわち、非照射群では、染色体異常は、ほとんど認められなかった。しかし、いずれの照射群にも染色体異常が多く観察された。50krad及び200krad照射群では、細胞肥大が見られ、、一定部位に含まれる細胞数は減少し、細胞分裂数が抑制されたかに見えたが、各期の割合には著しい変化は認められなかった。


表5−2 農林61号における蒔種後2日目の根端細胞の染色体に及ぼす蒔種前γ線照射の影響
照射量 
    
krad
供試
  
粒数
細胞総数
    
    
     細    胞    分    裂    数      
後期における異常細胞(c)
前期(a) 
中期(b) 
後期(a)
終期(a)
全数 (a)
   数   
  %  
  0 
    
10
  
2961
    
 910  
(80.1)
 67   
(5.9) 
 69  
(6.1)
 96  
(8.5)
1136  
(38.4)
   2   
       
 2.9 
     
 20 
    
10
  
2860
    
 707  
(79.3)
 68   
(7.6) 
 45  
(5.0)
 72  
(8.1)
 892  
(31.2)
  38   
       
84.4 
     
 50 
    
10
  
1414
    
 201  
(73.1)
 27   
(9.7) 
 24  
(8.6)
 27  
(9.7)
 279  
(19.7)
  22   
       
91.7 
     
200 
    
10
  
1765
    
 137  
(74.0)
 19   
(10.2)
 15  
(8.1)
 15  
(8.1)
 186  
(10.5)
  13   
       
86.7 
     

 (a):各分裂期細胞分裂数/全細胞分裂数
 (b):全細胞分裂数/細胞総数
 (c):ブリッジ及び小核を認めた細胞の数


b) 蒔種後7日目

 非照射及び20krad照射群においては、根端の細胞分裂の状態は、上記2日目と同様な傾向を示した。50krad及び200krad照射群においては、根の中心部の変化は2日目と大差ないが、外側部では死滅細胞群が増加し、その傾向は200krad照射群において著しかった。

 以上の実験結果は、米穀照射の場合と同様に、短期間常温貯蔵のものにあっては、その品種の如何にかかわらず発芽期の根端における分裂後期細胞に出現するブリッジの一つの指標として照射の有無を鑑別し得る可能性を示した。しかしながら、現実の流通においては、小麦の収穫期、収穫後の人工乾燥の条件、貯蔵期間、貯蔵条件、薬剤処理条件、等々、細胞分裂に大きく影響する条件も多種多様である。従って、低線量実用照射が原則の未知試料を確実に判定するためには、なおこの方法も検討を要すると考えられるが、示唆に富む実験結果といえよう。




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