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検知法(DETECTION METHOD):食品が適切に照射されたものか知るための検定方法

検知法


発表場所 : 食品照射 第29巻 第1,2号 p.31 (1994)
著者名 : 河村 葉子
著者所属機関名 : 厚生省国立衛星試験所
発行年月日 : 1994年
1. 照射食品の検知法に関する共同研究計画 −最終会議報告−
1. はじめに
2. 研究発表の概要
3. 最終会議の概要
4. おわりに



照射食品の検知法に関する共同研究計画 −最終会議報告−


1. 照射食品の検知法に関する共同研究計画 −最終会議報告−
1. はじめに

FAO/IAEAは1990年から5年計画で“照射食品の検知法に関する共同研究計画(Co-ordinated Research Programme on AnalyticaI Detection Methods for lrradiation Treatment of Foods:ADMIT)"を実施し、第1回会議は1990年ポーランドのワルシャワで、第2回会議は1992年ハンガリーのブタペストで開催された1-4)。そしてこの研究計画を締めくくる最終会議が、1994年6月20日から24日まで英国のベルファスト市で開催された。今回は初めての試みとして、会議前半の研究発表部分を“lntenationaI Meeting on ADMIT"として公開し、広く参加を呼びかけた。そのため、共同研究計画のメンバー以外からも多くの研究が発表され、参加者も多かった。また会議後半は、メンバーにより今回のプロジェクトの総括、各検知法の状況評価、今後に対する勧告の作成等が行われた。

2. 研究発表の概要

研究発表は、口頭発表が9セッションで45題およびポスター発表が10題行われた。

1)オープニング

McKeownから照射技術と照射に特徴的な作用メ力ニズム、EhlermannからGood lrradiation Practice(GIP)推進における検知法の寄与、Schreiberから欧州連合(European union:EU)における照射検知法の進展についての講演が行われた。

2)Electron spin resonance(ESR)法

ESR法はγ線照射により生成するラジ力ルのうち、ある種の食品の硬いマトリックス(骨、殻、種子等)中に生成し、長期間安定なラジカルをESRにより検出し照射の有無を検知する手法である。前回までに肉類(牛、豚、羊、鶏、かえるの脚)の骨による分析法はほぼ確立されている。今回は2つのinternational trialsの結果が報告された。Desrosiersらは、黒コショウ(3、5、7、10kGy照射)、ピスタチオの殻(1、3、5、7kGy)、パプリ力(2、5、7、10kGy)、卵殻(0.3、0.9、1.8kGy)を試料として12ヶ所で分析を行った。判定率はいずれも90%以上と高かった。コショウとパプリカでは照射誘導ビークが弱く、コショウではバックグラウンドビークの妨害もあり、3および5kGyでは判定が困難な場合もあった。またピスタチオの殻については3kGyでも判定可能で、卵殻については0.3kGyでも100%正しい判定をしており、さらに低線量も判定可能と考えられる。

Schreiberらは、Brown Shrimp、Norway Lobster(2、4または6kGy)とパプリカ(5または10kGy)を試料とし20ヶ所で分析を行った。Shrimpでは1/168、Lobsterでは3/168、パプリカでは1/168に判定の誤りがあったがその他はすべて正しく判定された。

その他にStachowiczは、乾燥イチジクやナツメヤシで0.6kGyから、イチゴの苗、オレンジやナシの種子で3kGyから、乾燥マッシュルーム、マカロニ、ゼラチンで7kGyから、Stewartらは、機械的に骨片をとったミンチとそれを用いたバーガ-で、骨片を抽出することにより判別が可能であると報告した。

3)Thermoluminescence(TL)法

TL法は、食品に付着しているケイ酸塩の鉱物質が、γ線照射により畜積したエネルギーを加熱により放出するとき、発光する現象をもとにしている。試料を加熱しその発光量を測定するが、食品全体を測定する方法、鉱物質を抽出して測定する方法、さらに再照射を行いその前後の発光量の比を求める方法が提案されている。また後者が最も信頼性が高いことが報告されている。

今回、Sandersonらは、1993‐1994年に測定した300余検体のTL比の結果および照射試料が保存中に光にさらされるとTL比が低くなること、またブレンドされた香辛料では判別困難な場合があること、またエビは毅や腸内に含まれる砂粒を除いて測定できること、またpulsed Photostimulated Luminescence(PSL)法がハーブ、香辛料、エビ等の照射判別のスクリーニング法として有用であることを報告した。

Schreiberらは、2種類のエビ(1または2kGy)を試料として23ヶ所でinternationaI trialsを行ったところ、TL比0.50を基準値とすると5検体に判定の誤りがあったが、139検体は正しく判定された。また0.15kGy以下の低線量で照射されるジャガイモの検知法として、2次照射線量を0.05kGyに下げることにより、良好な結果が得られた。しかしジャガイモの芽止め剤によりTL他が上昇するることが判明し、さらに検討が必要となった。この方法は1kGy以下で照射される果実についても有用と思われる。

また多くの演者から、再照射法による照射香辛料、ハーブ等への適用(約200種類)、保存期間(数年以上検出可能)、検出限界(1kGy程度)等について報告され、この方法の有用性の高いことが確認された。

4)その他の物理的方法

このセッションでは、Hayashi、Barabassyらによリ、インピーダンス法、粘度法、近赤外法について報告された。インピーダンス法はγ線照射による電導度の変化を指標とした方法で、照射ジャガイモのインピーダンスに対する電流、電極の種類、測定温度、ジャガイモの品種、側定部位等の影響が検討された。粘度測定法はγ線照射による多糖類の切断による粘度変化を指標とした方法で、照射コショウを用いたcollaboative studyが行われた。また近赤外による香辛料の検知の可能性について検討された。

5)生物学的および免疫化学的方法

微生物学的な方法は、γ線照射による細菌群の変化を指標としている。DEFT/APC法はdirect epifluorescnt filter technique(DEFT)とconventional aerobic plate count(APC)の比を指標とした方法で、Hammertonらは照射香辛料において5kGyから判別可能で有用なスクリーニング法であることを報告した。

また生物学的な方法として、著者らは発芽法を改良したhalf-embryo testについて、すでに発表している照射柑橘類のほかに照射リンゴとサクランボの検知にも適用し、いずれも0.15kGyから検知可能であることを報告した。

さらに免疫化学的な方法の一つとして、Kumeらは照射卵の卵白について、タンパクをSDSで分離した後、抗体と反応させ2kGyから検知出来ることを見い出した。

6)揮発性炭化水素(volatile hydrocarbons)法

本法は、脂肪の放射線分解物であるへプタデセン、へキサデカジエン等のアルカンおよびアルケン類について測定し、それらの比を指標として判別する方法である。Nawarから香辛料、魚、粉末卵等への適用とinterlaboratory testの結果が報告された。

またShreiberらは、カマンベールチーズ(0.5または1kGy照射)、マンゴー、パパイヤ(0.35、0.5または1kGy照射)を試料として21ヶ所でinterenational trialsを行ったところ、98%の検体が正しく判定されたことを報告した。

7)シクロブタノン(cyclobtananones)法

本法は脂肪の放射線分解物である2-dodecylcyclobutanone(DCB)や2-tetradecylcyclobutanone(TCB)を指標とした分析法で牛、豚、羊、鶏肉および液状全卵に適用できる。Stevensonらは鶏、豚および液状全卵(1または3kGy)を試料として12ヶ所でinternational trialsを行ったところ、1検体を除いてすべて正しく判定されたことを報告した。またHamiltonらは、ELISAを用いた測定法を紹介した。

8)その他の化学的力法

Robert、Delincee、Hitchcockらから放射線分解で生成する水素、一酸化炭素等を指標とした簡便な照射肉の分析法が報告された。

9)DNA法

DNA法はγ線照射により誘起されるDNA鎖の切断や構造変化を指標とした方法である。Delinceeは、Comet Assayにより冷凍鶏肉および豚肉(1、3または5kGy)を試料として9ヶ所でinternational trialsを行ったところ、90%以上が正しく判定されたが、加熱滅菌が行われた試料では判定出来なかった事を報告した。

3. 最終会議の概要

FAO/IAEA事務局より、ADMIT共同研究計画が進められたこの5年間で、食品照射の検知法に関する研究は大きく進展し、多くの成果をあげ、このプロジェクトは非常な成功であったという報告があった。

ESR法

骨付の新鮮または冷凍肉類(骨)は最終段階まで進み検知法としてほぼ確立した。機械的に骨を除いた肉(抽出した骨片)、卵(卵毅)、ピスタチオナッツ(毅)は検知可能である。魚類(骨または歯)は検知可能だが種類により検出限界が変化する可能性がある。エビ、力ニ、貝類(殻)は照射によりシグナルが誘導されるが種類や照射線量により相違がみられる。

TL法

ハーブおよび香辛料は、鉱物質を分離して1kGyで再照射し得られたTL比をパラメーターとする方法が、最も信頼性が高い。この方法は検知法としてほぼ確立され、数ヶ間で実用化が始められている。検出限界は1kGyである。

エビ類は腸内の鉱物質を測定に用いることにより検出可能である。

なお標準分析法はEuropean Committee for standardization(CEN)において準備中のものをADMITも推奨することとなった。

4. おわりに

10年前には、いくつかの照射食品の検知法が報告されていたものの確実に検知できる方法を確立することは困難であると考えられていた5)。ところが、1985年Heideら6)がTLによる照射香辛料の測定を、Doddら7)がESRによる照射肉の骨の測定を報告し、その後多くの研究者により可能性は次第に現実のものとなってきた。そしてこの5年間、世界各地の研究者の努力と協力により、照射食品の検知法はめざましい進歩をとげ、今や照射を行う可能性の高いいくつかの食品において、ほぼ確実に検知が可能となった。最終会議に参加し、同じ目的に向かって進んできた研究者たちと顔を合わせ、意見を交わすことができたのは、感慨深かった。そしてこの研究の一端を担うことができたことに感謝している。

文献

1)Joint FAO/IAEA Division of Nuclear Techniques in Food and Agriculture; Report of First Reaserch Co-ordination Meeting of Co-ordinated Research Programme on AnalyticaI Detection Methods for lrradiated Foods, IAEA (1990)

2)内山貞夫:照射食品の検知法に関する国際的動向, RADIOISOTOPES, 40, 302‐311(1991)

3)Joint FAO/IAEA Divsion of Nuclear Techniques in Food and Agriculture ; Report of Second Reaserch Co-ordination Meeting of Co-ordinated Research Programme on Analytical Detection Methods for lrradiated Foods., IAEA (1992)

4)林 徹:照射食品の検知技術の現状, 食品照射, 27, 1‐14 (1992)

5)林 徹:食品食品の検知法の最近の進歩, 原子力工業, 31, 32-36 (1985)

6)Heide L. and RogI W.:ldentification of lrradiated Dried Foodstuffs, Fresenium Z Anal. Chem., 320, 682‐683 (1985)

7)Dodd N.J.F., Swallow A.J. and Ley F.J.:Use of ESR to ldentify lrradiated Food, Radiat. Phys. Chem., 261, 451‐453(1985)




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