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検知法(DETECTION METHOD):食品が適切に照射されたものか知るための検定方法

検知法


発表場所 : 食品照射, 37巻, pp. 17-23
著者名 : 田辺寛子、後藤典子
著者所属機関名 : 東京都立産業技術研究所 (〒 158-0081 東京都世田谷区深沢 2-11-1)
発行年月日 : 2002 年
1. はじめに

2. 実験方法

 2.1 試料および照射方法
 2.2 ESR 測定法
 2.3 RCB 測定法
  2.3.1 一般試薬および標準物質
  2.3.2 装置
  2.3.3 測定方法
   2.3.3.1 脂肪の抽出および脂肪含量の測定
   2.3.3.2 フロリジルカラムクロマトグラフィ
   2.3.3.3 GC/MS 測定条件および検量線

3. 結果及び考察

4. まとめ

文献



ESR 法およびアルキルシクロブタノン法による照射魚類の検知についての一考察
−ニジマスを例として−


1. はじめに

 照射魚類の検知に関しては、骨を含む魚に対して ESR 法1) が 1996 年 European Committee for Standardization の標準法 (CEN 標準法) に規定されている。CEN 法では、照射によって骨の成分であるヒドロキシアパタイト中にできるラジカル (g = 2.002、1.998 の非対称シグナル) を検出するもので、概して約 0.5kGy 以上の骨付肉・魚に適用できるとしている。一方、検出限界と安定性はヒドロキシアパタイトの無機質化と結晶性に影響され、0.5kGy 以下の試料や、鶏などの大型動物に比べて結晶化度の低い魚の骨では非照射のシグナル (g = 2.005) が干渉する場合もあると報告されている。

 また魚肉中の脂肪の放射線分解生成物による検知として炭化水素 (HC) 法と 2-アルキルシクロブタノン (RCB) 法が研究されてきた。脂肪からの放射線分解生成物のうち、トリグリセリド中のアシル基−酸素結合が開裂すると、元の脂肪酸と同じ炭素原子数の RCB が生成する。これを GC/MS で検出する方法が CEN 標準法2) である。この RCB は、脂肪の放射線分解によって同様にできる一部の炭化水素とは異なって、未照射食品から検出されたという報告はなく、放射線特異分解物であるといわれている2)

 CEN 標準法で研究所間試験が行われた食品は 0.5kGy 以上照射 6 ヶ月後の鶏肉、1kGy 以上照射豚肉・液卵であった。この標準法ではパルミチン酸とステアリン酸から生成する 2-dodecylcyclobutanone (DCB) と 2-tetradecylcyclobutanone (TCB) を検出することとなっている。CEN の照射判定条件は、少なくとも一つの RCB が同定されること、この同定の判定基準に m/z98/m/z112 比を使用すると同時に最小感度の RCB の濃度が S/N 比 3 以上で検出されることである。しかし、筆者らが照射鶏肉で試みた結果、特に低線量の試料では RCB の生成量が少ないので、GC/MS(SIM) による分析では、標準法に示すような判断基準が得られにくい傾向にあった3)

 これらの事実を踏まえて、照射ニジマス (サケ科) を例にして、ESR 法および RCB 法による検知法を組み合わせて適用した時の問題点を検討し、効率的・実際的な照射魚類の検知について考察した。

2. 実験方法
2.1 試料および照射方法

 市販群馬産養殖ニジマスおよび東京都水産試験場試験用養殖ニジマスを用い、当研究所の 60Co 線源 (185TBq) を用いて、室温でγ線照射を行った。照射後は試験に供するまで冷凍保存した。

2.2 ESR 測定法

 照射 14 日後、試料から耳石を 1 対取り出し、背骨、肋骨、前鰓蓋骨、腹鰭下骨に分けた。骨は付着した魚肉を取り除き水で洗った。背骨は脊椎で切り離し、軟骨を取り除き、ESR 管に入る大きさに刻んだ。前鰓蓋骨、腹鰭下骨も同様に刻み、肋骨は 2 〜 3mm に切った。これらの骨は、真空乾燥させ、その約 100mg を X- バンド用試料管に入れ、日本電子製電子スピン共鳴装置 RE-2X 型により ESR 測定した。

 ESR 測定条件は中心磁場 : 335mT、掃引幅 : 7.5mT、モジュレーション幅 : 0.32mT、タイムコンスタント : 0.03s、掃引時間 : 4min、マイクロ波出力 : 1mW とした。ラジカル量は g = 2.002 のシグナルの高さを ESR の Mn マーカーのシグナルの高さで割り、かつ試料量 (mg) で割った相対 ESR 強度で表した。

2.3 RCB 測定法
2.3.1 一般試薬および標準物質
2.3.2 装置
2.3.3 測定方法
2.3.3.1 脂肪の抽出および脂肪含量の測定

 照射 6 日後に、ニジマスの魚肉約 15g を粗くきざみ、無水硫酸ナトリウム約 15g とよく混合し、抽出用セルロース円筒ろ紙に入れた。これをソックスレー抽出器にセットし、約 140ml の n-ヘキサンで約 6 時間還流させ油脂分を抽出した。この n-ヘキサン抽出液を 100ml にメスアップし、無水硫酸ナトリウム 15g を加え、撹拌後一晩放置した。重量既知の蒸発皿に、抽出した n-ヘキサン溶液を一定量入れ、蒸発させ秤量し、200mg の脂肪に相当する n-ヘキサン抽出溶液の体積を計算した。

2.3.3.2 フロリジルカラムクロマトグラフィ

 不活性化処理をしたフロリジルをつめたクロマト管に、脂肪 200mg 相当の濃縮した n-ヘキサン抽出溶液を加えた。n-ヘキサン 150ml を約 2ml/min の流速で流し、次に 1% diethyl ether を添加した n-ヘキサン混合物を同様に流下させた。120ml までの溶出分を分析対象とし、ロータリーエバポレータを用い、40℃ 25kPa で約 2ml までに濃縮した。次にこの約 2ml 濃縮物を窒素気流中室温で 0.2ml までさらに濃縮し、これに 0.5μg/ml の 2-cyclohexylcyclohexanone/n-ヘキサン内部標準溶液を 0.2ml 加え、GC/MS 測定試料とした。この方法は CEN 標準法とは異なるが、GC を使用して標準物質の回収率等を検討し、CEN 法と同等であることが確認されている4)

2.3.3.3 GC/MS 測定条件および検量線

 GC 用カラム : J&W 製キャピラリーカラム DB5 (内径 0.2mm、膜厚 0.33μm、長さ約 25m)、注入口温度 : 250℃、オーブン温度 : 55℃ で 2 分保持し、155℃ まで 12℃/min、270℃ まで 5℃/min で昇温。イオン源温度 : 280℃。キャリアガス : ヘリウム (1ml/min)、試料注入量 : 1.0μl、スプリットレス。イオン化法 : EI。イオン化電圧 : 70eV。検出器 : MSD。取り込みモード : SCAN、SIM。

 上記の条件で試料を測定し、GC/MS のクロマトグラムを標準物質の保持時間、分子イオンピーク、フラグメントイオンと比較し、それぞれの RCB を同定した。m/z67、m/z81、m/z95、m/z98、m/z112 のフラグメントイオンを用いて SIM 測定を行い、m/z98 のイオンピーク強度を用いて定量した。

 検量線は 0.5μg/ml の 2-cyclohexylcyclohexanone/n-ヘキサン溶液 0.2ml と 0.25、0.5、1.0、2.0μg/ml の RCB の標準溶液 0.2ml を混合して作成し、定量した。

3. 結果及び考察

 図 1 に 0.56 〜 5.7kGy 照射したニジマスの肋骨の ESR スペクトルを示す。鶏の骨と同様、g = 2.002 付近に主シグナルを示したが、低線量照射では,非照射シグナルがかなり大きく観察された。図で示していないが、特に背骨では低線量でヒドロキシアパタイトのシグナルが非照射シグナルと重なって観察された。

 図 2 に養殖ニジマスの肋骨,背骨,前鰓蓋骨の相対 ESR 強度と線量の関係を示す。どの骨も 0.56 〜 5.7kGy の範囲で線量と直線関係にあったが、相対 ESR 強度は、背骨より肋骨の方が大きい値を示した。これは骨密度が肋骨の方が大きく、背骨では骨髄が完全にとりきれていないためと考えられる。図 3 に、ニジマスから取り出した耳石、肋骨,背骨の相対 ESR 強度と線量の関係を示す。1 匹のニジマスから取り出した耳石は 1 個約 5mg で ESR 管に 1 組 2 個をいれて測定したが、骨密度が他の部分の骨より大きい硬組織の耳石の相対 ESR 強度は肋骨の約 20 倍を示した。

 ニジマスは骨の柔らかい魚といわれている。同じニジマスでも市販品のほうが試験用ニジマスより ESR 強度は小さかった。これは市販品のほうが体長が小さく年齢が若いためと思われる。

 硬骨魚のブリで相対 ESR 強度を線量依存性の傾きから比較したところ、背骨、肋骨とも同じ部位ではニジマスと比較して 1.5 倍大きい相対 ESR 強度を示した。またニジマスと同様に肋骨の方が相対 ESR 強度は大きかった。

 Raffi ら5) はサケとブラウンマスで、舌、あご、小骨、尾、うろこ、背骨の各部位での未照射と 10kGy 照射したものの ESR 強度を比較している。サケではうろこと骨が、ブラウンマスではあごと骨が強い相対強度を示したと報告している。しかしニジマスのうろこでは、5kGy の照射で非照射シグナルに肩が出る程度、3kGy 照射では未照射と同じ形のスペクトルと、明確な照射スペクトルは観察されなかった。

 以上の結果からニジマスの ESR 測定では、肋骨のように採取しやすく硬い骨の部分で測定することが、検出限界を低くさせ、より精度良い照射の判別が可能となることが明らかになった。

 養殖魚の含有脂肪の種類及びその割合は飼料に依存するところが大きいが、日本食品脂溶性成分表6) によるとニジマスではオレイン酸 22.3%、パルミチン酸 18.0%、ドコサヘキサエン酸 15.5%、リノール酸 9.9%、パルミトレイン酸 5.6%、ステアリン酸 4.1%、ミリスチン酸 3.4% と、獣鳥肉などに比べて脂肪酸の種類が多い。そのため照射によって生成する HC および RCB もそれぞれの脂肪酸に対応して種類が多いと考えられる。

 図 4 に 11.1kGy 照射試料の GCMS-SIM 測定における、上から m/z67、m/z81、m/z95、m/z98、m/z112 のフラグメントイオンのクロマトグラムを示す。縦軸の強度のスケールを各クロマトグラムの右上に示したが,このスケールを考慮して各イオンの強度を比較すると、m/z98 での DCB 及び TCB イオン強度は m/z112 のイオン強度より数倍大きく、他のフラグメントイオンに比べてもかなり大きいことがわかる。

 CEN の照射済みの判定条件のひとつは、少なくとも一つの RCB が同定されることとされている。この同定の判定基準は m/z98/m/z112 比が DCB で 4.0 〜 4.5 の範囲、TCB で 3.8 〜 4.2 の範囲にあることである。この比は同時に分析される標準物質中に見出される比に影響される。今回試料としたニジマスの測定では標準物質の m/z98/m/z112 の比は CEN のそれと異なり、DCB では 4.8 〜 5.2、TCB では 5.2 〜 5.8 を示した。また、11.1kGy 照射の場合のみ標準物質の比の範囲にあり、低線量になると、濃度が低くなり、精度が悪くなった。また TCB は DCB に比べて GC の保持時間が長く、感度も低くなっている。さらに今回の測定では TCB の m/z98 のイオンは大きなピークのすそにのっており、定量に大きな誤差を生じたと考えられる。

 Stewart ら7) は照射サケから RCB を SIM 分析する際、m/z98 と m/z112 のイオンの保持時間とイオン比を標準物質のものと対比しているが、これがどの程度の誤差範囲で一致していればよいかには論及していない。m/z98/m/z112 比がこの CEN の同定の判定基準を満たすには、かなり精度良く精製しないと達成できない。ニジマスの脂肪含有量は日本食品脂溶性成分表6) からは 8.2g/100g で部位によっては少なく、200mg の油脂に相当するヘキサン抽出物の量が多くなり、その分目的物以外の不純物が多く、フロリジルカラムによる精製も効率が悪くなると考えられる。魚類の RCB の分析に関してはまだ精製等の前処理や、GC/MS の分離条件等の検討が必要である。

 図 5 に標準物質の保持時間からピークを同定して、m/z98 のイオン濃度から定量した RCB の生成量と線量との関係を示す。未照射試料では DCB も TCB も検出されず、1.1kGy 照射の TCB の生成は少なかったが、1.1 〜 11.1kGy の範囲で線量依存性を示した。また DCB と TCB の生成量の比は、日本食品脂溶性成分表6) によるニジマスでのパルミチン酸 18.0% とステアリン酸 4.1% の存在比 4.4 に近い値となった。 図 6 に同一ニジマスからの肋骨の相対 ESR 強度と RCB の生成量の関係を示す。図から明らかなように ESR 強度と RCB の生成量とは依存性を示している。従って、ESR 測定と RCB 分析を併用することにより、精製方法に由来する RCB 分析における誤差を考慮に入れても、実際的には精度の高い照射の検知が可能と考える。


図 1 照射ニジマスの肋骨の ESR スペクトル
(未照射、および 0.56 〜 5.7kGy 照射)
照射ニジマスの肋骨の ESR スペクトル. (未照射、および 0.56 〜 5.7kGy 照射)


図 2 照射ニジマスの相対 ESR 強度と線量
(肋骨、背骨、前鰓蓋骨) (0.56 〜 5.7kGy 照射)
照射ニジマスの相対 ESR 強度と線量. (肋骨、背骨、前鰓蓋骨) (0.56 〜 5.7kGy 照射)


図 3 照射ニジマスの相対 ESR 強度と線量
(耳石、肋骨、背骨) (0.56 〜 5.7kGy 照射)
照射ニジマスの相対 ESR 強度と線量. (耳石、肋骨、背骨) (0.56 〜 5.7kGy 照射)


図 4 照射ニジマスからの m/z67、m/z81、m/z95、m/z98、m/z112 のイオンのクロマトグラム.
(11.1kGy 照射) (GC/MS/SIM)
照射ニジマスからの m/z67、m/z81、m/z95、m/z98、m/z112 のイオンのクロマトグラム. (11.1kGy 照射) (GC/MS/SIM)


図 5 照射ニジマスからの RCB の生成量と線量 (GC/MS/SIM).
(未照射、および 1.1 〜 11.1kGy 照射)
照射ニジマスからの RCB の生成量と線量 (GC/MS/SIM). (未照射、および 1.1 〜 11.1kGy 照射)


図 6 照射ニジマスからの肋骨の相対 ESR 強度と RCB の生成量.
(未照射、および 1.1 〜 11.1kGy 照射)
照射ニジマスからの肋骨の相対 ESR 強度と RCB の生成量. (未照射、および 1.1 〜 11.1kGy 照射)

4. まとめ

 魚類の骨による ESR 法では検知可能だが、骨密度に影響され、検出限界が変化する可能性がある。このため照射の判定には、採取する骨の部位に注意し、より硬い骨の ESR 測定法が感度がよく検知できる。照射魚類の検知に関しては、RCB 法は放射線特異分解物でもあり、非常に有効であるが、生成量が少なく、前処理が煩雑で精度良い検出には技術がいる。かつ標準物質が高価である。

 従って、試料の形態によってはさらにこれらを併用することにより、より確実な検知が可能である。

文献

1) European Committee for Standardization : Foodstuffs−Detection of irradiated food containing bone. method by ESR spectroscopy, EN1786 (1996).
2) European Committee for Standardization : Foodstuffs−Detection of irradiated food containing fat−Gas chromatographic /mass spectrometric analysis of 2-alkylcyclobutanones, EN1785 (1996).
3) 田辺寛子, 後藤典子, 宮原誠 : 2-アルキルシクロブタノン法による照射鶏肉の検知, 食品照射, 36, 26-32 (2001).
4) Tanabe, H., Goto, M. and Miyahara, M. : Detection method of irradiated chicken by GC analysis of 2-alkylcyclobutanones and hydrocarbons using Soxhlet extraction and Florisil chromatography, Radioisotopes, 51, 109-119 (2002).
5) Raffi, J., Evans, J. C., Agnel, J-P., Rowlands, C. C. and Lesgards, G. : ESR analysis of irradiated flogs' legs and fishes; Appl. Radiat. Isot., 40, 1215-1218 (1989).
6) 科学技術庁資源調査会編 : 日本食品脂溶性成分表, 大蔵省印刷局, 78-79 (1998).
7) Stewart, E. M., Moore, S., Graham, W. D., McRoberts, W. D. and Hamilton, J. T. G. : 2-Alkylcyclobutanones as markers for the detection of irradiated mango, papaya, Camembert cheese and salmon meat; J. Sci. Food Agric., 80, 121-130 (2000).
(2002 年 7 月 8 日受理)




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