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検知法(DETECTION METHOD):食品が適切に照射されたものか知るための検定方法

検知法


発表場所 : 放射線と産業, 119号, pp. 38-40
著者名 : 須永博美
著者所属機関名 :(財)放射線利用振興協会 (〒370-1207 群馬県高崎市綿貫町1233)
発行年月日 : 2008年 9月

1.はじめに

2.熱発光法による検知

3.照射食品検知に関する業務

4.おわりに

参考文献



熱発光法を用いた照射食品の検知に関する業務の開始

1.はじめに

 (財)放射線利用振興協会ではこのほど熱発光(Thermo Luminescence、TL)法を用いた照射食品検知に関する業務を開始した。
 照射食品とは発芽防止、殺虫、滅菌を目的としてガンマ線や電子線、X線を照射した食品をいい、最近の情報1-4)によれば、2006年現在世界的には57ヶ国で何らかの食品について照射食品 が認められている。対象となる食品は次の8項目に分類されており、各分類中の“any”(何でも)を許可している国も数多くあり、又個々の食品名を示している国もある。それらは1)球根及び根茎、塊茎、2)新鮮果実及び野菜、3)穀類及びその粉末製品、ナッツ、油糧種子、豆類、乾燥果実、4)魚介類及びその製品、5)生の家禽肉、畜肉及びその製品、6)乾燥野菜、香辛料、調味料、動物飼料、乾燥ハーブ及びハーブ茶、7)動物性乾燥食品、8)その他、蜂蜜、宇宙食、病院食、軍用食、液体状卵、濃縮剤等、となっている。
 中でも6)の乾燥野菜、香辛料、調味料、動物飼料、乾燥ハーブ及びハーブ茶の全て、又は一部については上記57ヶ国のうち、日本とウルグアイを除く全ての国で許可されており、世界共通で照射処理が許可されているとも言える食品である。
 日本では1972年に発芽防止を目的としたバレイショのみが許可になっており、1974年から北海道の士幌町農協でコバルト60ガンマ線による照射処理が実施されている現状にとどまっている。
 このように日本ではほとんど許可されていないが世界では多くの国で許可されている照射食品は輸入により国内に入り込む可能性が高い。香辛料については2000年12月に全日本スパイス協会より許可申請が行われているが、未だ許可されておらず現時点ではバレイショ以外の照射食品の流通は日本では違法である。 照射食品は、それが照射されているものであることを表示することが必要とされ、表示に基づき消費者は好みの処理法を用いた食品を選択することができる。照射食品であることは一般的には見た目や食味からは判別することはできないが、これを検知するための方法の確立は食の安全、安心を確保するためには基本的に必要と考えられる。この検知技術確立のための取り組みは我が国も含め国際研究プロジェクトとして長年にわたり進められてきた。そして現在、ヨーロッパでは標準法としてガスクロマトグラフによる方法、電子スピン共鳴(ESR)測定による方法、熱発光測定による方法など10種類の方法が確立され、またCodex標準分析法として9種類の方法が採択されている。
 放射線利用振興協会ではこのような情勢に鑑み、放射線の照射利用の進展に寄与する立場より、現在許可申請が行われている香辛料における検知に最も適し、また多くの対象物に適用できるTL法による検知技術を修得する取り組みを平成17年度より進めた。この取り組みは厚生労働省の医薬品食品衛生研究所において国としての技術確立を図るための計画が進められ、この計画に加わる機会が得られたことにより実施することができた5-7)。ここではこれまでのヨーロッパ標準法も参考にし、さらに改良を加えて技術を確立する取り組みが行われた。そして、この計画は実を結び、平成19年7月には厚生労働省からの通知法として、国内におけるTL法による検知技術手法が制定された。この経験を基に、当協会としてもこの技術修得が十分に達成されたとの認識に基づき、このほど業務としてTL法による検知に関するサービスを実施することになった。

2.熱発光法による検知

 TL法は食品中に微量ながら混入している鉱物を抽出し、その鉱物のTL測定結果に基づき放射線照射の有無を検知する方法である。
 試料が香辛料の場合の検知手順は、試料を純水に浸し、超音波洗浄処理後、比重液として用いるポリタングステン酸ナトリウムを加え、懸濁液を遠心分離器にかけ鉱物を抽出し、その抽出された鉱物を50℃程度で長時間のアニーリングした後TL測定(TL-1)を行う。次にこの試料をγ線により一定線量の標準照射を行い、再度前回と同様アニーリングを行った後TL(TL-2) 測定を行い、それぞれのTL発光スペクトルや発光量を比較することにより照射の有無を判別する。TL-2はこの鉱物が規定線量の放射線照射を受けた結果生じたものであり、これに基づきTL-1のスペクトルや発光量を評価することができる。この一連の工程を図-1に示す。この手順において鉱物の抽出作業は、含有量の極めて少ない物質の取り出しであり、また鉱物の抽出部に混入している有機物等の不純物を分離するのが難しいことなどがあり、熟練を要する。我々はこれまでにコショウ、シナモン、ターメリック、ミント、タラゴン、タイム、マジョラム、スターアニス、アニスシード、クミンシード、クローブス、ベイリーブス、フェンネルシードなどの種子、葉、樹皮、粉末など形状の異なる香辛料の試料について鉱物の抽出技術やTL測定試験の経験を重ねた。
 また、ガンマ線による、例えば1kGy の標準線量照射は、これが照射/非照射を判別する定規の役割を果たすことになり、線量の精度が高い照射が必要となる。当協会では適切に管理されている原子力機構高崎量子応用研究所の照射施設を利用した受託照射における豊かな経験を有し、高精度での照射を可能としている。また線量校正に関する英国物理学研究所(NPL)による線量校正も経験している。
 当協会では抽出作業のための遠心分離器、精密天秤、ドラフト、TL測定装置等本業務に必要な設備・測定器を備え、また上記の標準照射を行うための施設を直近に控え、一連の作業がすべて行える環境を整えた。図-2は検知実験室内の様子、図-3は実験室内設置されたTL測定装置の写真を示す。
 TL法ではこのように一連の作業が同一の区域内で行えるよう環境を整備することが重要と考えられる。これは、まず一連の作業を実施するための時間が短縮できることは言うまでもない。さらに、測定に供する鉱物試料は1mg〜数mgと極微量で、測定や標準線量照射のために他の機関等に輸送することになると、揺れや風による試料の散逸、または不純物の混入が生じる可能性が生じ、測定の信頼性について問題となり得る。

図-1 熱発光法による照射食品の検知の工程
熱発光法による照射食品の検知の工程


図-2 検知作業用実験室の内部
検知作業用実験室の内部


図-3 実験室内に設置されたTL測定器
実験室内に設置されたTL測定器

3.照射食品検知に関する業務

 (財)放射線利用振興協会では常時この照射食品検知サービスを受け付けている。本業務は受付後、試料をお預かりし、鉱物の抽出、アニーリング-1、TL-1測定、標準線量照射、アニーリング-2、TL-2 測定の一連の作業を行う。そして当協会として照射/非照射の判定を下すことはできないが、判定を行うためのデータを提示している。また、この内の鉱物の抽出やTL測定のみ、あるいは鉱物試料やTL装置校正用試料の標準線量照射のみという個別の作業についても実施することにしている。担当は高崎事業所の事業部が行っている。

4.おわりに

 食品照射は上記のように世界の多くの国で実施されるようになったが、これは食の安全・安心を確保することを主な目的として研究され、そして理解され、実施されるようになった技術と言えよう。
 食物を通じて有害薬剤が体内に侵入することを避けるため、あるいは貯蔵期間が長くとれること等を理由に照射食品を選ぶ人々は多いと思われる。
 このように人々が食品を選択するためにも処理法の表示は必要で、その基本技術としての検知の役割は大きいと思われる。食品照射がほとんど許可されていない我が国においては、この検知技術は当面違法食品の摘発のために活用されることになろうが、我が国としての食品の安全・安心の議論を通し、国民が好みの処理食品を選択する場合に活用することになることを期待したい。当協会として、放射線の有効利用を推し進める観点より本事業に取り組んでいる。

参考文献

  1. IAEA, “Food and Environmental Protection Newsletter, vol.9, No.1, January 2006”, Supplement, DATABASE ON APPROVALS FOR IRRADIATED FOODS (SORTED by Country/Class of Food), “http://www-naweb.iaea.org/nafa/fep/public/fep-nl-9-1.pdf”
  2. 等々力節子、“食品照射の現状”、第12回放射線プロセスシンポジウム講演要旨・ポスター発表要旨集、平成19年11月29日−30日、東京、(財)放射線利用振興協会・放射線プロセスシンポジウム実行委員会.
  3. 林 徹、“食品照射の現状”、RADIOISOTOPES, 56, 533 (2007).
  4. 久米民和、“食品照射−世界の状況と日本の取り組み”、放射線と産業、114号、51 (2007).
  5. 宮原 誠、厚生労働科学研究費補助金、食品の安全・安心確保推進研究事業「放射線照射食品の検知技術に関する研究」(平成17年度 総括・分担研究年度終了報告書).
  6. 同上(平成18年度 総括・分担研究年度終了報告書).
  7. 同上(平成19年度 総括・分担研究年度終了報告書).





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